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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

484 レオラとカーディナリス

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 サイネリアの状態が通常に戻ったところで、アレナリアはグラトニィ・ターマイトという未確認だったモンスター討伐の元情報が、帝国の冒険者ギルド本部だと、レオラとサイネリアのやり取りを聞きいて知った。

「独自の情報網じゃなかったの?」

「ギルドで手に負えなかったり、貴族などの権力者が絡んでる案件を、アタシなりに処理してるだけだ。もちろん全部ギルドが関わってるわけじゃないぞ。今回、お前達にさせた討伐の仕事は、たまたまギルドで話していた案件だっただけだ」

「さすがはSSランクの冒険者様ね。グラトニィ・ターマイトが容易く討伐出来ると思って、雑な説目で仕事を回すなんて」

 レオラの軽い感じの話し方を聞き、アレナリアは苛立ちを感じ、思っていた嫌みも声に出てしまった。

「討伐の報告は聞いたが、まだ詳しくは知らないんだ。それも聞こうと思って、アレナリアと二人で来るはずだったんだが……」

 横でお茶を飲むカーディナリスに、チラリと目を向けるレオラ。

「この老骨は邪魔ですか? わかりました。姫様がそう言うのであれば、一人寂しくお屋敷に戻ると致します。せっかくこうして出掛けられたと言うのに……途中で馬車にはねられたりしても、それはこの老骨が悪いだけ」

 しょんぼりと項垂うなだれ、立ち上がって部屋から出て行こうとするカーディナリス。

「待て待て! アタシは何も言ってないだろ。別にばあが居ても邪魔ではない。そうだろ、アレナリア」

「私としては居てもらっても、なんら支障はないわ」

「ほらアレナリアもこう言ってる。ただギルドだと、ばあは話についてこれなくて退屈だろ」

「姫様が冒険者ギルドこちらで、どのように過ごしているか聞けるだけでも、来たかいがあります。ですが、お邪魔のようですし……」

「邪魔ではない。退屈でなければ、居てくれて構わないぞ」

「そうですか。ではお話が終わるまで、静かに待たせてもらいます」

「ああ、そうしてくれ」

 ばあカーディナリスに気を使う羽目になり、レオラ第六皇女も形無し。
 それもそのはず、レオラからしたら、カーディナリスは祖母のそうな存在。

「えーっと、話が脱線しましたが、聞く限りではこちらのアレナリアさんが、そのグラトニィ・ターマイトというモンスターを討伐して、その素材をお持ちでよろしいのでしょうか?」

「私は持ってないわ。回収した素材は全てカズが、討伐したのもカズが一人でしたこと。だからこの話は、カズが帝都に着いてからになるわ」

「そのカズ…さんは、パーティーメンバーですか?」

「ええ、そう」

「わかりました。では、アレナリアさんは、どのような実績が?」

「私はそうね……大峡谷で襲ってきたワイバーンを、倒したくらいかしら」

「単独でワイバーンを倒されたんですか? それでも十分参考になります。ワイバーンの魔石とかを、お持ちでは?」

「単独じゃないわ。〝春の芽吹き〟っていうパーティーと一緒に討伐したの。回収した素材は、そのパーティーにあげちゃって無いわ」

「あ、そうなんですか。それだと、今回登録するには、ちょっと難しいですね」

「そうか。なら登録は仲間が到着してからだ。今日は顔見せだけだな」

 結局、帝都ギルド本部での登録は、カズ達が帝都に着いてからとなった。
 元々パーティー全員が集まって居らず、パーティーの代表者であるカズが不在の時点で、登録が出来ないのではと、アレナリアは思っていたが、言ったところで変わらないのだろうと黙っていた。

「ギルドに来たいと言っていたが、何か聞きたい事はあるか? 何でもサイネに聞いてみろ」

「何でもと言われても、わたしにも話せない事はあるんですよ。それこそレオラ様の方が……」

「まあ確かにそうだが、そこで言い淀むなことはないだろ。まるでアタシが、ギルドの情報を知り尽くしてるようじゃないか」

「そこまでは言ってません。でもなら、わたしが知り得ない情報を、聞くのが怖いくらい知っていると思ってます」

「知ってると言っても、面倒な貴族の派閥や政治の事だ。アタシには、まったくもってあわない」

「姫様。そちら方面の話は、口外ならさぬように」

 余計な事は言わないようにと、カーディナリスがレオラを注意する。

「わかっている。だから息抜きが必要なんじゃないか」

 流石に政治や貴族の話を、世間話程度で口にるすることはない。
 話題に上げたとしても、それはありふれた噂話で、帝都中に広がってるようなこと。
 それでも第六皇女のレオラが話せば、真実と思ってしまう者も居るかも知れないので、簡単には口に出せない。
 なのでレオラは外で話すにしても、あやふやな発言で終わらせるようにしている。
 
「とりあえず、サイネリアギルド職員に紹介してくれたから、今日はもういいわ。そろそろ次に行きたいのだけど」

「どこか行きたい場所でも思い付いたか?」

「カズ達が来る前に、住む所を見ておきたいわ。用意してくれるって話だったと思うんだけど」

「ならもう見ただろ」

「?」

「なんだ忘れたのか? アタシの屋敷に住めば良いと、言ってあったろ」

「……え!?」

「部屋なら余ってる」

「ごめんなさい。ちょっと無理」

「なぜだ? 部屋代はかからないし、食事も出るんだぞ。ばあにも話してある」

「はい。姫様から聞いております。大切なお客様をもてなすように、と」

「守護騎士と言うくらだから、彼女らもあそこに住んでるんでしょ。落ち着かないわ」

「せっかく暇潰しの相手が出来ると思ったのだが」

「御務めをサボる口実になさるつもりだったのでしたら、ばあは反対です」

「そ、そんなつもりは無いぞ」

 カーディナリスは目を細くして、レオラを正面から見据える。
 レオラは左の蟀谷こめかみ辺りを、指でぼりぼりと掻いて苦笑いを浮かべる。
 カーディナリスはレオラに向けていた視線をアレナリアに移し、真面目な顔で話し出す。

「姫様が今以上に御公務をサボられるようですと、ばあも本気にならざるを得ません。ですので申し訳ありませんが、御屋敷の方にアレナリアさま達をお泊めすることは出来ません」

「おい、ばあ。何を勝手に言っているんだ! これはアタシから提案した事だ。それをこっちの都合で断るの、皇女としての面目が立たないだろ」

「御都合の良い時だけ、皇女それを言うのですね」

「ばあとて同じだろ。老骨と老骨と言ってくるではないか」

 若干部屋の中が、険悪な雰囲気になる。
 その様子を見ていたサイネリアは、二人を落ち着かせようとしたが、屋敷内の事情ではと口を出せないと、二人が落ち着くのを黙って待った。

「でしたらアレナリアさん達には、姫様が以前住んでられた家を使ってもらってはどうでしょう? 現在は殆ど使用していませんし、ここから馬車ですと二十分程、列車で一駅分も離れていません」

「確かにあそこなら、四人が住むには十分か。しかしここ二年は行ってないから、掃除なんてまったく出来てないぞ」

「そこは掃除をしてもらう事になります。無償で使ってもらう代わりに、家の掃除と管理をしてもらえれば、建物が傷まずにすみましょう」

「それは一理あるか。ばあが提案してきたが、アレナリアはどうだ?」

「皇族と一緒に暮らすより、そっちの方がいいわ。でも返事は、カズ達が来てからでいいかしら? 一応、確認しないと」

「アタシは構わないぞ。ばあもそれでも文句ないだろ」

「姫様がよろければ」

「なら場所を案内がてら、久しぶりに行って見るか」

「夕食前には戻りますので、長居はしませんよ」

「わかっている。サイネ、馬車を頼む」

「裏手に用意します。御者がいる馬車でよろしいですか?」

「ああ、それでいい。一時間程で戻る」

 三人は冒険者ギルド本部から、サイネリアが用意した馬車に乗り、レオラが以前暮らしていた家に向かう。
 アレナリアは馬車内で、ガザニアの事についてレオラと話そうと思った。
 だが、カーディナリスが一緒だったので話題を控えた。
 それを察したレオラ言う「ガザニアのことだろ。ばあにも聞いてもらおう。馬車の中なら、おあつらえ向き」だと。
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