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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

477 村を後にして、今度こそ帝都へ向けて

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 それから五日、カズ達は村に滞在した。
 その間アレナリアはガザニアと共に行動をし、ビワはクッキー作りを教えた後、女性達からの要望で裁縫を教えることに。
 その発端は、子供達もクッキー作りをやりたいという事になり、ならばとビワが子供達のエプロンを作った事で、それを見た一人の女性がビワに頼み、裁縫教室が開かれるようになった。
 午前中はクッキー作りをして、昼食を挟んで午後から集会所は裁縫教室になる。

 午前中のクッキー作りはカズも手伝い、午後は村を回っては、壊れた家屋の修理や、畑仕事の手伝いを買って出ていた。
 村長の話を聞いたカズは、レオラの元側近で共に冒険者をしていた、ジャンジとシロナがしていた事と同じ様にしていた。
 レオラの客人として来ているとは言え、村長の愚痴思い出話を聞いてしまっているので、借りている家屋でぼけ~っとしていると、後ろめたく感じてしまいそうな気がしたので、だったら何かしら動いていようとした結果。
 それをガザニアに見せる事が、レオラの考えなのではと、カズは考えての行動だった。

 レラがカズ達の所に戻って来るのは、食事の時かクッキー匂いを嗅ぎ付けてだけ。
 あとはラプフと一緒に過ごしていた。
 来る度に「新しいお菓子まだ~?」と、レラが催促してきた。
 それを隣で聞いていたラプフも、食べてみたいという顔を、隠しきれてなかった。
 なので午前中のクッキー作りが終わった昼食の時間に、カズはシュー皮作りに取り掛かっていた。
 シュークリームの皮作りを教える事は大丈夫なのだが、カスタードクリームは材料を村で手に入れるのが難しい事から、教えるかどうか決めかねていた。
 村人が外との交流を、もっと持てればと良いと考えて、教えるのも有りかと思った

 だがそこはレオラの考えもあるだろうと、一部のクッキー作りに積極的だった村人数人に教えるだけに留めた。

 カスタードクリームは兎も角、シュー皮は中身を変えれば使いようがある。
 手本として村の近くで取れる木苺と、ハチミツを使ったジャムをビワとカズの二人で作り、一口サイズのシュー皮に入れたミニシューを作り振る舞った。
 木苺はレラとラプフがせっせと何往復もし、かき集めてくれたが、当然の見返りだと、カスタードクリーム入りシューと、木苺ジャムのミニシューを多く要求してきた。(主にレラが)
 分かっていた事だが、カズもビワも村人達とやる事があり、収穫に行く時間が取れなかったので、二人の要求(九割がレラ)に応えた。

 クッキー作りを村人に教えるようになった日から、時折ガザニアがカズやビワの様子を見ては、アレナリアに質問をしている様子がちょくちょく見て取れた。
 夕方借りている家屋にアレナリアが戻り、夕食後その事を尋ね聞くのが、村に滞在する間の日課になっていた。
 ガザニアの質問は、毎日似たような事ばかり。

「なぜ見ず知らずの者達に、そこまで出来る?」

「これでワタシの印象を良くして、報酬が増えると思ってやっているのか?」

「村からの謝礼を期待しているのか?」

「もう妖精族フェアリーと会って、用は済んだのに、なぜまだ村に居る?」

「お前達の目的はなんだ?」

 アレナリアの話を聞き、ド直球の質問を平気で言う事から、ガザニアがどういう思いで、カズとビワのやっている事を見ているのか、確かめる必要はなく分かった。
 ガザニアの思考はこう『〝ユウヒの片腕〟(主にカズ)は、レオラ様に取り入るに決まっている。この村に居る間に、本性を露にしてやる。カズだけは絶対にレオラ様の元に案内するものか!』それがカズの考え。
 それを聞いたアレナリアは、少し違っていた。

「そんな生易しくないわね。私がいくらカズの良いとこを話しても、聞く耳持たないのよ。もしガザニア彼女と二人になりそうになったら、持っていた剣で斬られないように気をつけて」

 何を話したか知らないが、余計嫌われた原因は、アレナリアのそれだとカズはこの時知った。
 この話を聞いた翌日から、ガザニアの視線が、今まで以上カズに突き刺さるようになった。


 《 村を訪れてから七日後 》


 朝食を済ませた一行は、ガザニアの案内で帝都中心部にある、レオラの住む屋敷に向けて村を出発。
 皆それぞれ前日の内に、交流した村人達と別れを済ませていた。
 この時にカズは、レオラとコンル宛の手紙をラプフから預かっていた。
 親しくなった二十数人が、わざわざ村を出るまで見送りに来てくれた。
 村長やラプフの他には、一緒に遊んだ子供達。
 半数以上は、ビワにクッキー作りと裁縫を習った女性達だった。

 その様子を見ていたガザニアは『たった数日で、なぜそこまで親しくなれる? いや、そんな事はどうでもいい。問題はレオラ様の元に〝ユウヒの片腕〟を、最悪カズ軟弱者を連れていかないこと』それが心の内だった。
 村に滞在してる間に、帝都に連れて行けない正当な理由を見つける事が出来なかった。
 レオラが住む帝都の中心部に着くまでの間に、なんとか〝ユウヒの片腕〟(主にカズ)を、途中で置き去りにする方法を、ガザニアは最優先で考えていた。
 そして二日前に出発日をこの日に選び〝ユウヒの片腕〟全員から承諾を得て決定した。
 何かしらしてくると雰囲気から気付いていたカズは、ガザニアの相手を今まで通りアレナリアに任せ、極力近付かず喋らないようにして村を後にした。

 森を抜ける手前までは、この日見張りをする村人三人が先導してくれた。
 内一人が馬の手綱を持ち、引っ張って来た。
 どうやらガザニアが村に来る時に、乗って来た馬らしい。
 森を出てからは案内役のガザニアが馬に乗り先頭になり、すぐ横をアレナリア付いて歩き、少し離れてカズとビワが付いて行く。
 ガザニアはビワやレラのことなんて気にする様子もなく、森を出てからは早足でシックス・タウンに向かって移動する。
 アレナリアが注意するも「これ以上遅いと、今日中にシックス・タウンへ着く事は出来ない。休憩も短い時間で二度だけだ」と、ガザニアは言う。
 速度を上げる事はあっても、落とす事はしない。
 馬に乗るガザニアの速度に合わせる事が出来ないビワに、カズは〈身体強化〉を掛ける。
 そんな横柄なガザニアの態度に、流石のカズも苛立ちを覚える。
 だがこの中で一番大変なビワが、気を使いカズをなだめようとしたので、もう少し我慢する事にした。
 ちなみにレラは、勝手にどこかに行かれては面倒だと、肩掛け鞄の中に入ってもらい、カズが肩から下げている。
 朝が早かった事から、森を出た辺りで寝てしまい、暫く起きる様子はないので、静かで良い。

 昼を過ぎ、シックス・タウンの外壁がハッキリ見えるようになった辺りで、一度目の休憩を取る。
 カズが昼食を用意するも、ガザニアは馬を降りると、一人で簡易軽食木の実と食べ、手持ちの水だけを飲み、十分程の休憩を終えると「もう行くぞ」と言い、馬に乗って歩かせる。

「アレナリア頼むよ」

「ハァ……ゆっくりお昼も食べれないのね」

「悪いな。今頼れるのは、アレナリアだけなんだ」

「! ま、まあ、わかってた事だから、仕方ないわね(ガザニアの相手をしてると、カズが私を大きく評価してくれ良いわね)」

 やれやれと、手に持ったパンを口に放り込み、リンゴのフルーツミルクハチミツ入りで流し込む。

「ラプフさんから預かった手紙を渡しておく。ガザニアに知られないように、レオラに渡してくれ」

「わかったわ!」

 カズから手紙を受け取ると、アレナリアはガザニアの後を小走りで追っ掛けた。
 ガザニアの相手は面倒だという表情を浮かべるも、アレナリアの内心では『なんて素晴らし日! レオラの所でカズ達合流するまで、ガザニアにはこのままでいてもらえば、カズから私への評価は更に上がるわ!』と、正反対の考えだった。
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