人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

文字の大きさ
上 下
492 / 800
五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

475 ラプフが村に住む理由

しおりを挟む
 ハチミツ入りクッキーの匂いに釣られて来るものと思っていたレラは、村に引き込んでいる小川の上流で、ラプフと一緒に木苺を食べながら、お互いの事を話していた。

 ラプフの出身はフギ国最南端の森。
 その森の奥にある渓谷近くだと言う。
 四年くらい前に、他の土地で暮らす同族を探して交流をする為に、選ばれた六人で村を出たのだと。
 ラプフは十八歳と六人の中では一番若く、他の仲間より大きな羽を持ち、誰よりも速く長く飛ぶ事が出来た。
 更に好奇心が強く、物怖じしない事が選ばれた理由らしい。
 生まれ育った村で出てから一年は、フギ国内を同族が隠れ住みそうな場所を探し回ったのだと。
 しかし同族を見つける事が出来ず、二人ずつ三組に分かれて探す事になり、ラプフともう一人は大きな湖を迂回し、大峡谷を越える船にこっそりと潜り込んで、帝国の地にやって来た。
 そして今までと同じ様に、二人で同族が住みそうな場所を回っては、人に見つからないよう街に潜入しては情報を集め、同族が奴隷商に捕まってないか? 同族が何処かで目撃されてないか? と、一年以上探し回り、そして帝都に同族が居るという情報を得た。

 情報収集で街に入れば、当然見つかる可能性は高い。
 そして長旅の疲れから油断をし、目的の帝都寸前で種族売買をしてる男に捕まり、二人は魔力乱す檻に閉じ込められたと、ラプフは言葉重く話した。
 捕まってから二日後、自分達はどうなってしまうのかと二人で震え、生まれ育った村が、家族が恋しくなっていた。
 そんな所にレオラが守護騎士を連れて、裏で種族売買をしていた奴隷商に突入して、捕まっていた全ての者が解放した。
 それがラプフとレオラとの、初めて出会い。
 高値で取引される妖精族フェアリーを、ただ解放するのは危険だとして、レオラが保護すると連れて帰り、半年程一緒に暮らした。
 その後、レオラが一人でトカ国に向かう時に、ラプフに村人達の様子を見るように頼まれ、住むようになったのだと。
 ラプフと共に保護されていたもう一人は、帝都に居る他の同族フェアリーと交流していると言う。
 それが元々の旅に出た目的なのだから。
 村にラプフ一人で来たのは、それが理由であり、レオラもそれは承知していた。

 レラも王都でフローラと出会い、その後カズと出会ってから一緒に暮らし、アレナリアとビワと共に旅に出た事を、ザックリとラプフに聞かせた。
 旅の目的でもある、自分の故郷を探してる事も。

「レラの方が遠くから来てたのね。砂漠や湖を越えて帝国まで」

「そだよ。あちし一人じゃ、王都を出るなんて無理だった。カズとアレナリアが居たし、あちしと同じで弱々よわよわのビワも一緒にだったからね~」

「そうそう、聞かれる前に言っておくわ。残念だけど、レラの探してる故郷場所は、わたしにはわからないの。ごめんなさい」

「そっか。別にいいよ。あちし自身も覚えてないんだもん。見つかったらいいなぁ的な感じで、あちしは考えてるから」

「やけに軽いわね。家族に会いたいとか、寂しくなったりしないの?」

「あんまり覚えてないからね。今は知らない所を、あっちこっち見れて楽しいよ。カズはなんだかんだ怒るけど、守ってくれるし、ビワはごはん作ってくれて、あちしがいたずらした後とか、かばってくれる事多いからね。アレナリアは……姉妹みたいな感じ」

「ぷッ……アハハは。聞くとやっぱり面白いパーティーね」

「でしょ。四人で居ると楽しいよ」

「もうお昼をだいぶ過ぎちゃったわね。村に戻ろりましょうか。木苺だけじゃ足りないでしょ」

「あッ!」

「へッ! どうしたの急に?」

「カズとビワがクッキー作ってるんだっけ。早く戻らないと、あちし達の分が五枚とか十枚だけになっちゃう」

「五枚でも十分だと思うのだけど」

「いいから早く行くよラプちゃん」

「わかっ……ラプちゃん? 変わってない?」

「細かいことはいいから行くよ!」

「ちょ、ちょっとォ~……」

 ラプフの手を引っ張り、レラは急いで村に向かい飛んで行く。


 村長か村人達に話を回してくれてた事で、昼食後に各仕事場から代表者が一人ずつ集会所に試食用のクッキーを取りに来た。
 そのお陰で予想より早く、村人全員に配る事が出来た。
 見張り小屋に居る村人の分は、交代の者が持って行ってくれた。
 クッキーを試食した数人の村人が、作りを教えて欲しいと来たので、簡単に説明だけをして、翌日から教える事になったになった。
 試食用のクッキーを配り終えたところで、レラがラプフと共に集会所に入って来た。

「クッキー出来たっしょ! あちしの分は?」

 匂いに釣られて来る事はなかったが、やって来たレラの一言目が、予想通りの言葉だった。

「ちゃん残してあるから、そう慌てないで。ラプフさんもどうぞ」

「よっしゃ!」

「ありがとう」

 ラプフと一緒なのだから、そこは『あちしの分は?』って言うとこだろう。
 カズはそう言おうと思ったが、やっと同族に会えたのだからと、今回は大目に見た。
 割れたりしたのも含め、残ったクッキーをむしゃむしゃ食べるレラ。

「クッキーは後にして、先にお昼ごはんしたら? 食べてないんでしょ」

「ラプちゃんと木苺食べてたから、クッキーだけでいいよ。あ、のど乾いたからフルーツミルク出してよカズ」

「……まあ、いいだろ。ラプフさんもどうです?」

「せっかくだから頂きます」

「好きなフルーツを言ってくれれば、あれば出しますよ」

「そうですねぇ……」

「あちしイチゴね。ラプちゃんもそれでいいっしょ。木苺食べてたから、飲みたくなっちゃった」

「え、ええ……じゃあ同じで(無難でいいか)」

 カズは【アイテムボックス】から、作り置きしてあったフルーツミルク(イチゴ)の入った容器を出し、小さなコップに注いで二人の前に置いた。
 何も無い空間から物を取り出したカズを見て、ラプフはギョッとし、思った事がボソッと口から出た。

「だから探しても無かったんだ」

「ラプちゃん何か探してんの? あちしが手伝ってあげようか」

「え、大丈夫。なんでもないから気にしないで。それよりクッキー美味しいね」

「ラプフさんはどちらが好みですか?」

「あちしはねぇ」

「ビワはラプフさんに聞いてるの。レラはどうせ、食えればどっちでもいいんだろ」

「そんなこ……うッ!」

 しっかり噛まずに飲み込もうとしたクッキーをのどに詰まらせると、レラは自分の胸を叩きながら急いでフルーツミルク(イチゴ)の入ったコップ要求する。
 その様子を見たビワが、慌ててコップをレラの口に運んだ。
 口の端からフルーツミルク(イチゴ)を垂らすほど大量に口入れ、詰まったクッキーと共にゴクりと飲み込んで胃に流し込む。

「ぷふあァ。危なかった」

「これはあまったクッキーだから、慌てずにゆっくり食べて」

「そうなんだ。わかった。ありがとビワ」

「レラっていつもこうなの?」

「こんな感じ……ですよね。カズさん」

「日常」

 カズの収納空間アイテムボックスを見たラプフは、どうしても気になっていた事があり、レラに聞こうとして、そっと耳打ちをする。
 するとレラが急に立ち上り、カズの正面に移動し「昨日は甘い何を作ってたの。あちしに内緒とは、どういう事だァ!」と、言い出した。

「急に何を!?」

「ハチミツともクッキーとも違う甘い匂いがしたって、ラプちゃんが」

「ちょ、ちょっと! 言わないでって……た、たまたまですよ。昨日、皆さんが宿泊する家の側を通った時に」

 何故かラプフは動揺した様子を見せる。
 慌てるその声に最近聞き覚えがあった気がしたカズは、村に来てからの事を思い返す。

「なんで黙ってんの。昨日作ったの? やっぱり特製プリンなんでしょ! たまには食べたい!」

 カズの服を引っ張りながら、レラは特製プリンを寄越せとねだる。
 村に来てからの事を思い返そうとしているカズが、自分を無視してると思ったレラは、口元に付いたクッキーのカスとフルーツミルク(イチゴ)を、カズの服で拭き取る。

「だあァ、やかましいし、俺の服で口拭くな。プリンなんて作ってないって、昨日も言っ……あ! 昨日の俺が寝てる時に来たのって……」

 カズはレラから視線を、もう一人のフェアリーへと移す。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

前世では伝説の魔法使いと呼ばれていた子爵令嬢です。今度こそのんびり恋に生きようと思っていたら、魔王が復活して世界が混沌に包まれてしまいました

柚木ゆず
ファンタジー
 ――次の人生では恋をしたい!!――  前世でわたしは10歳から100歳になるまでずっと魔法の研究と開発に夢中になっていて、他のことは一切なにもしなかった。  100歳になってようやくソレに気付いて、ちょっと後悔をし始めて――。『他の人はどんな人生を過ごしてきたのかしら?』と思い妹に会いに行って話を聞いているうちに、わたしも『恋』をしたくなったの。  だから転生魔法を作ってクリスチアーヌという子爵令嬢に生まれ変わって第2の人生を始め、やがて好きな人ができて、なんとその人と婚約をできるようになったのでした。  ――妹は婚約と結婚をしてから更に人生が薔薇色になったって言っていた。薔薇色の日々って、どんなものなのかしら――。  婚約を交わしたわたしはワクワクしていた、のだけれど……。そんな時突然『魔王』が復活して、この世が混沌に包まれてしまったのでした……。 ((魔王なんかがいたら、落ち着いて過ごせないじゃないのよ! 邪魔をする者は、誰であろうと許さない。大好きな人と薔薇色の日々を過ごすために、これからアンタを討ちにいくわ……!!))

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

処理中です...