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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

475 ラプフが村に住む理由

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 ハチミツ入りクッキーの匂いに釣られて来るものと思っていたレラは、村に引き込んでいる小川の上流で、ラプフと一緒に木苺を食べながら、お互いの事を話していた。

 ラプフの出身はフギ国最南端の森。
 その森の奥にある渓谷近くだと言う。
 四年くらい前に、他の土地で暮らす同族を探して交流をする為に、選ばれた六人で村を出たのだと。
 ラプフは十八歳と六人の中では一番若く、他の仲間より大きな羽を持ち、誰よりも速く長く飛ぶ事が出来た。
 更に好奇心が強く、物怖じしない事が選ばれた理由らしい。
 生まれ育った村で出てから一年は、フギ国内を同族が隠れ住みそうな場所を探し回ったのだと。
 しかし同族を見つける事が出来ず、二人ずつ三組に分かれて探す事になり、ラプフともう一人は大きな湖を迂回し、大峡谷を越える船にこっそりと潜り込んで、帝国の地にやって来た。
 そして今までと同じ様に、二人で同族が住みそうな場所を回っては、人に見つからないよう街に潜入しては情報を集め、同族が奴隷商に捕まってないか? 同族が何処かで目撃されてないか? と、一年以上探し回り、そして帝都に同族が居るという情報を得た。

 情報収集で街に入れば、当然見つかる可能性は高い。
 そして長旅の疲れから油断をし、目的の帝都寸前で種族売買をしてる男に捕まり、二人は魔力乱す檻に閉じ込められたと、ラプフは言葉重く話した。
 捕まってから二日後、自分達はどうなってしまうのかと二人で震え、生まれ育った村が、家族が恋しくなっていた。
 そんな所にレオラが守護騎士を連れて、裏で種族売買をしていた奴隷商に突入して、捕まっていた全ての者が解放した。
 それがラプフとレオラとの、初めて出会い。
 高値で取引される妖精族フェアリーを、ただ解放するのは危険だとして、レオラが保護すると連れて帰り、半年程一緒に暮らした。
 その後、レオラが一人でトカ国に向かう時に、ラプフに村人達の様子を見るように頼まれ、住むようになったのだと。
 ラプフと共に保護されていたもう一人は、帝都に居る他の同族フェアリーと交流していると言う。
 それが元々の旅に出た目的なのだから。
 村にラプフ一人で来たのは、それが理由であり、レオラもそれは承知していた。

 レラも王都でフローラと出会い、その後カズと出会ってから一緒に暮らし、アレナリアとビワと共に旅に出た事を、ザックリとラプフに聞かせた。
 旅の目的でもある、自分の故郷を探してる事も。

「レラの方が遠くから来てたのね。砂漠や湖を越えて帝国まで」

「そだよ。あちし一人じゃ、王都を出るなんて無理だった。カズとアレナリアが居たし、あちしと同じで弱々よわよわのビワも一緒にだったからね~」

「そうそう、聞かれる前に言っておくわ。残念だけど、レラの探してる故郷場所は、わたしにはわからないの。ごめんなさい」

「そっか。別にいいよ。あちし自身も覚えてないんだもん。見つかったらいいなぁ的な感じで、あちしは考えてるから」

「やけに軽いわね。家族に会いたいとか、寂しくなったりしないの?」

「あんまり覚えてないからね。今は知らない所を、あっちこっち見れて楽しいよ。カズはなんだかんだ怒るけど、守ってくれるし、ビワはごはん作ってくれて、あちしがいたずらした後とか、かばってくれる事多いからね。アレナリアは……姉妹みたいな感じ」

「ぷッ……アハハは。聞くとやっぱり面白いパーティーね」

「でしょ。四人で居ると楽しいよ」

「もうお昼をだいぶ過ぎちゃったわね。村に戻ろりましょうか。木苺だけじゃ足りないでしょ」

「あッ!」

「へッ! どうしたの急に?」

「カズとビワがクッキー作ってるんだっけ。早く戻らないと、あちし達の分が五枚とか十枚だけになっちゃう」

「五枚でも十分だと思うのだけど」

「いいから早く行くよラプちゃん」

「わかっ……ラプちゃん? 変わってない?」

「細かいことはいいから行くよ!」

「ちょ、ちょっとォ~……」

 ラプフの手を引っ張り、レラは急いで村に向かい飛んで行く。


 村長か村人達に話を回してくれてた事で、昼食後に各仕事場から代表者が一人ずつ集会所に試食用のクッキーを取りに来た。
 そのお陰で予想より早く、村人全員に配る事が出来た。
 見張り小屋に居る村人の分は、交代の者が持って行ってくれた。
 クッキーを試食した数人の村人が、作りを教えて欲しいと来たので、簡単に説明だけをして、翌日から教える事になったになった。
 試食用のクッキーを配り終えたところで、レラがラプフと共に集会所に入って来た。

「クッキー出来たっしょ! あちしの分は?」

 匂いに釣られて来る事はなかったが、やって来たレラの一言目が、予想通りの言葉だった。

「ちゃん残してあるから、そう慌てないで。ラプフさんもどうぞ」

「よっしゃ!」

「ありがとう」

 ラプフと一緒なのだから、そこは『あちしの分は?』って言うとこだろう。
 カズはそう言おうと思ったが、やっと同族に会えたのだからと、今回は大目に見た。
 割れたりしたのも含め、残ったクッキーをむしゃむしゃ食べるレラ。

「クッキーは後にして、先にお昼ごはんしたら? 食べてないんでしょ」

「ラプちゃんと木苺食べてたから、クッキーだけでいいよ。あ、のど乾いたからフルーツミルク出してよカズ」

「……まあ、いいだろ。ラプフさんもどうです?」

「せっかくだから頂きます」

「好きなフルーツを言ってくれれば、あれば出しますよ」

「そうですねぇ……」

「あちしイチゴね。ラプちゃんもそれでいいっしょ。木苺食べてたから、飲みたくなっちゃった」

「え、ええ……じゃあ同じで(無難でいいか)」

 カズは【アイテムボックス】から、作り置きしてあったフルーツミルク(イチゴ)の入った容器を出し、小さなコップに注いで二人の前に置いた。
 何も無い空間から物を取り出したカズを見て、ラプフはギョッとし、思った事がボソッと口から出た。

「だから探しても無かったんだ」

「ラプちゃん何か探してんの? あちしが手伝ってあげようか」

「え、大丈夫。なんでもないから気にしないで。それよりクッキー美味しいね」

「ラプフさんはどちらが好みですか?」

「あちしはねぇ」

「ビワはラプフさんに聞いてるの。レラはどうせ、食えればどっちでもいいんだろ」

「そんなこ……うッ!」

 しっかり噛まずに飲み込もうとしたクッキーをのどに詰まらせると、レラは自分の胸を叩きながら急いでフルーツミルク(イチゴ)の入ったコップ要求する。
 その様子を見たビワが、慌ててコップをレラの口に運んだ。
 口の端からフルーツミルク(イチゴ)を垂らすほど大量に口入れ、詰まったクッキーと共にゴクりと飲み込んで胃に流し込む。

「ぷふあァ。危なかった」

「これはあまったクッキーだから、慌てずにゆっくり食べて」

「そうなんだ。わかった。ありがとビワ」

「レラっていつもこうなの?」

「こんな感じ……ですよね。カズさん」

「日常」

 カズの収納空間アイテムボックスを見たラプフは、どうしても気になっていた事があり、レラに聞こうとして、そっと耳打ちをする。
 するとレラが急に立ち上り、カズの正面に移動し「昨日は甘い何を作ってたの。あちしに内緒とは、どういう事だァ!」と、言い出した。

「急に何を!?」

「ハチミツともクッキーとも違う甘い匂いがしたって、ラプちゃんが」

「ちょ、ちょっと! 言わないでって……た、たまたまですよ。昨日、皆さんが宿泊する家の側を通った時に」

 何故かラプフは動揺した様子を見せる。
 慌てるその声に最近聞き覚えがあった気がしたカズは、村に来てからの事を思い返す。

「なんで黙ってんの。昨日作ったの? やっぱり特製プリンなんでしょ! たまには食べたい!」

 カズの服を引っ張りながら、レラは特製プリンを寄越せとねだる。
 村に来てからの事を思い返そうとしているカズが、自分を無視してると思ったレラは、口元に付いたクッキーのカスとフルーツミルク(イチゴ)を、カズの服で拭き取る。

「だあァ、やかましいし、俺の服で口拭くな。プリンなんて作ってないって、昨日も言っ……あ! 昨日の俺が寝てる時に来たのって……」

 カズはレラから視線を、もう一人のフェアリーへと移す。
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