人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

文字の大きさ
上 下
491 / 807
五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

474 試食のクッキー と 以前来ていた二人の話

しおりを挟む
 村人達が午前中の仕事を終えて、昼食の休憩に入ると、一部の村人が匂いに釣られて集会所に集まって来た。
 大人達が遠巻きに中を覗いていると、前日アレナリアやレラと遊んでいた子供達が、一緒に居たビワの姿を見つけて集会所に入って来る。
 その中にはビワにお菓子をねだって来た、小さな男の子も居た。
 集会所を入ってすぐの所で足を止めて、カズとビワがしている事を見る子供達に、二人は目を向けた。

「あ…あの子は……」

「昨日ビワが言ってた?」

「はい」

「あとは俺が。ビワは出来たクッキーを配って来てよ。子供には多くあげてもいいからさ」

「どちらが好みか、聞いた方が良いですよね?」

「聞きづらかったら、それとなくでいいよ。あとは表情を見て判断すれば」

「表情…ですか……」

「凝視とかはしなくてもいいから。どうですか? とか、口に合いますか? とか聞きながら、それとなく口にした時の表情を見れば」

「や…やってみます」

「あ! そうそう。ハチミツの少ない方か
ら食べてもらって。それからハチミツを多く入れた方ね」

「あれですね。わかってます」

 ビワはそれぞれ別の容器入ってる二種類のクッキーを手に、緊張しながら子供達の所に向かう。
 そしてカズの言ったように、先にハチミツの少ないサクッとしたクッキーを、次にハチミツの多いしっとりしたクッキーを渡した。
 子供達が喜んで食べてるのを見ていた大人達の所にビワは移動し、同じ順番で試食のクッキーを渡した。
 食べてもらう順番を決めたのは、先に甘味の強いクッキーを食べてしまうと、すぐ次に食べた甘味の弱いクッキーは、食感だけで甘味がないと感じてしまう事があるからだ。

 子供達はハチミツ控えめのサクッと食感のクッキーが好評で、大人達にはハチミツ多目のしっとりクッキーが好評だった。
 大人達は仕事で疲れているから、身体が糖分を欲しがってるだろうも思える。
 ただ試食してもらった村人は、まだ少人数のため、どちらが良いとは言い切れない。

 試食をしてもらった村人達が、昼食を取りに自宅へと戻るのと入れ替わるように、村長も染め物の手伝いを終えて、クッキー作りの様子を見に来た。

「どうやら石窯は使えたようですね」

「お陰さまで助かりました。クッキーを作ると言っておきながら、肝心の焼く為のオーブンのことを忘れてしまって」

「村の者達の為にしてくれると言うんです。喜んで協力します」

「村長さんも味見してみてください」

 ビワが村長に試作品のクッキーを渡した。

「わたしはこちらの方ですね。小麦の味を感じて、素朴なところが好みです」

 村長が選んだのは、ハチミツが少なく、サクッとした食感のクッキー。

「失礼ながら、最近レオラ様が持って来てくださるお菓子は、砂糖やバターをふんだんに使われた物が多く、子供達は喜んでいますが、わたし達大人には、ちょっと……」

「あぁ……(貴族御用達の高級菓子で、とにかく味が濃くて甘ったるいんだろうな)」

 レオラが自分で買ったとは考えにくく、側近に言って買って来させた可能性の方が高いと、カズは考えていた。

「ところで村長、石窯について聞きたいんですが」

「申し訳ないのですが、村にはそれ以上大きな石窯は無いんです」

「いえ、クッキーを焼くだけなので、これで十分です。聞きたいのは、石窯に使われてる鉱石になんですが」

「それは以前にレオラ様、ジャンジ様、シロナ様が来られた時に持ってこられた物です」

「ジャンジ様とシロナ様とは?」

「御存知ありませんか? レオラ様の元側近で、レオラ様と一緒に冒険者となった方々なんですが。今はどこかの街で、お店をやられてると聞いてます」

 レオラの元側近で冒険者となり、今は店をやっていると聞いたカズは、帝都に入ったすぐの街で、レオラと共に行った料理屋が頭に浮かんだ。

「ああ! あの二人ですか(そんな名前だったのか。レオラからは聞かされなかったな)」

「御存知でしたか」

「ええ。一度だけ会いました」

 二人の名前を出した村長は、懐かしそうにして、その頃の事を話し出した。
 ジャンジとシロナが村に来なくなってから既に二年が過ぎ、その一年程前からガザニアがレオラと共に来るようになったのだと。
 ジャンジとシロナは店を持ってからも、二ヶ月から三ヶ月に一度は食材や菓子を多く持っては村を訪れてくれた。
 それも二年程前からパッタリ来なくなり、村長がレオラに尋ねると「自分の元から離れた二人を、いつまでも来させる訳にはいかない。それに二人にも仕事あり、生活があるんだ」と、言われたらしい。
 皇族であるレオラの名の下で保護されている村に、今はただの冒険者と料理屋の店主であるジャンジとシロナが、好き勝手に来て良い場所ではないのは分かっていた。
 しかしレオラに頼めば、年に一度くらいはジャンジとシロナを来させる事は可能だろうが、それだと新たに来たガザニアの立場がないと村長は考え、口には出さなかったのだと。
 ジャンジとシロナは子供とよく遊んでくれ、村の仕事を手伝い、壊れた家屋を一緒になって直してくれたり、食事を一緒に作り大勢で食べたりもしたと、村長は思い出を話した。

 次にレオラと共に新しく来たガザニアは、大人子供関係なく無愛想で、レオラが子供と触れ合っていても、それを近くで見ているだけで、自分からは話し掛けたりする事はなかったのだと。
 どうしてこのような方を連れて来たのか? 当時村長がレオラに聞きたかった、もう一つの事だと。
 カズが返答しようとするも「と、色々言いましたが、聞けなかった理由は自で分かっています。レオラ様が連れて来ている方に不満を言っては……言えるわけがありません」と、村長は話を続けた。

 今回もガザニアが村長の元に訪れ、最初の言葉が「レオラ様の指示で来ただけだ。用事が済めばすぐに村を出る」だと。
 その後は「村に来る〝ユウヒの片腕〟については、レオラ様からの手紙を読んで対応すること。一応ワタシも、昼間は北の見張り小屋に行く。その際に村人を数人連れて行く。その者達には、全身を隠せるマントを持たせるように」と、一方的な指示だったと。
 一人で話していてた村長は疲れた表情を浮かべ、一つ重い溜め息をついた。

「レオラ様のお客人とはいえ、正直どんな方が来るのかと不安でした」

「なんか急に来て、すいません(俺は何を聞かされてるんだ? ただ、石窯の鉱石を聞きたかったんだけど……)」

「とんでもない。皆さんのする事を見てると、ジャンジ様とシロナ様が来ていた頃を思い出します」

「そ、そうですか(話の後半が村長の愚痴なのは、俺の気のせいじゃないよな?)」

「しかしアレナリアさんという方はスゴいですね」

「アレナリアがですか?」

「今朝の事です。わたしなんかに、ガザニア様が謝罪するなんて。今思い返すだけで、冷や汗が出てきます」

「あれはアレナリアの方が正しいと、俺は思ってますよ。ガザニアさんもそうだと思ったから、村長に謝ったんでしょう」

「そうかも知れませんが、それを言えるなんて、わたしにはとても」

 村長はここでまた一つ、先程よりも深い溜め息をつき、数分の沈黙が流れた。

「……あ! そういえば、石窯に使われてる鉱石の事でしたね。すっかり他の事を話してしまいました」

「いえいえ。それで気が楽になれば(どう切り出そうかと思ったけど、思い出してくれたか)」

 胸に溜まっていたのを吐き出した事で、村長の表情は少し明るくなったように思えた。

「石窯に使われてる鉱石は、レオラ様とジャンジ様とシロナ様が、最後に三人で村に来られた時に持ってこられた物です。なのでわたしに出所は……」

「そうですか」

「無駄な話を聞いてもらったのに、申し訳ないです」

「気にしないでください(とは言うが、半分は愚痴を聞かされたんだよな)」

 正直、溜め息をつきたいのは、自分の方だとカズは思っていた。
 が、無愛想なガザニアの相手を、たまにとはいえ二年以上してきた事を考えると、ちょっと同情してしまう。

 ほぼ愚痴を聞いてから約二十分、一人の中年女性が村長の声を聞き付けて、集会所に入って来た。

「ここに居た。お昼持ってくから、早く戻ってくださいよ。村長が居ないと、ガザニア様に出せないでしょ」

「これはすまない。すぐに行く。お二人もどうですか?」

「まだ二、三回焼く分がありますので。それと俺達は、用意してありますので大丈夫です。もしよければ、アレナリアにお願いします。レラが戻ってればレラの分も」

「わかりました。という事だから、わたしを入れて三人分を頼む。ラプフが戻って来てたら、その時はまた」

「とりあえず三人ね。すぐ用意するから、村長も戻ってちょうだい」

「わかりました」

 中年女性は集会所を出て、昼食を出す準備をしに村長宅に向かう。
 ビワがアレナリアとガザニアの試食分クッキーを村長に渡すと、村長は軽く会釈をして、中年女性を追い集会所を出た。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

処理中です...