人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

473 二種類のクッキー と 特殊な石窯

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 昼までに村人全員分の試作品を作ろうと考えたところで、肝心な物が無いことにビワが気付いた。

「カズさん。クッキーを焼くためのオーブンは?」

「オーブン……」

 借りている家屋内を見るまでもなく、そういった物は無い。
 あるのは前日夕食を作る時に使ったかまどだけ。

「……やらかした。材料があって、作り方がわかっただけじゃ意味無い」

「どうします? 村長さんに言って、村の人達を集めてもらうの一旦止めますか?」

「オーブンの代わりになる物を探すか、作らないとならないから、そうした方がいいか」

 クッキーの作り方を教えるのを、先伸ばしにしてもらおうと、カズが靴を履いたところで、村長の使いの村人がやって来た。

「村長からの伝言で、石窯は集会所にあるので、クッキー作りはそこを使ってもらって構わないと」

「助かります」

「集会所は村長の家の隣です」

「わかりました。ありがとうございます」

 村人は用件を伝えると、すぐに立ち去って行った。

「だってさビワ」

「これでクッキー作れますね」

「そうだね。とりあえず集会所に行こうか。石窯がどんな物か見ないと。火を入れて温めておかないとならないだろうし、先に掃除をする必要があるだろうからね」

「でしたら、私がここでクッキーの生地を作ります。カズさんは石窯の方をお願いします」

「その方が早いか。わかった。材料は多く置いてくから頼むね」

「はい。任せてください」

 カズは【アイテムボックス】から必要な道具と材料を出して、やる気満々のビワにクッキーの生地作りを任せ、自分は借りている家屋を出て、さっきまで居た村長宅の前まで戻った。
 村長宅からは、怒っているかのようなガザニアの声が聞こえてきたが、アレナリアに相手を任せているので気にせず、隣だと言っていた集会所に移動する。

 家屋には集会所と書かれていたので、すぐに分かった。
 やはり家屋の作りは同じ様で、換気の為に窓と出入口の引き戸は開けられていた。
 家屋内には誰も居なかったが、村長から使って良いと言われているので、カズは遠慮せず中に入った。
 入ってすぐの土間に、二口のかまどと、四角い石窯があった。
 石と粘土で作られているようだったが、使っている石が赤いまだら模様になっているのが気になり、カズは石窯を使用する前に《鑑定》した。
 すると火属性の魔素マナを含んだ魔鉱石を使っており、熱伝導率が良く、長時間熱を保ち、レンガ作りの物より優れていた。
 通常のように薪を焼べて使うことも出来るが、魔力での使用も可能らしい。

「へぇ。ハイブリッドじゃん。どっからこの魔鉱石持ってきたんだろう? せっかくだから、魔力で使ってみよう」

 あまり使ってないのか、殆んど汚れてはいなかったので、一応中を軽く拭いてから使用する。
 勝手が分からないので、少しずつ魔力を流して、石窯の内部が熱くなるのを待つ。
 今まで見てきた小さめの石窯でも、使用出来るのに早くても三十分は掛かるものだが、このハイブリッドの石窯は、ものの十分で使用出来るまで温度が上がった。
 流石にまだ早過ぎると、石窯への魔力供給を止め、ビワに《念話》を繋げた。

「『そっちはどう? ビワ』」

「わッ! カズさん?」

 手を止めて周りを見るが、カズの姿はない。

「あれ? ああ、そうか『今、念話で話し掛けてるんだよ。使い方覚えてる?』」

「念話……確か話すカズさん相手のことを考えて、心の中で…『…聞こえてます』」

「『繋がってよかった』(たまには使って、繋がるか確認しないとな)」

「『どうしたんですか? クッキーの生地は、まだ出来てませんよ』」

「『だよね。実は石窯がちょっと特殊でね、もう焼けるまで温度が上がったんだ』」

「『もうですか! 早くありません?』」

「『俺もそう思う。一応、進み具合を聞きたかったんだけど、まだまだだよね』」

「『まだまだです』」

「『わかった。そっちに戻って、俺も生地作りするよ』」

「『でも、せっかく石窯が温まったのに』」

「『それは大丈夫。とりあえずそっちに戻るね』」

「『わかりました』」

 《念話》を切ったカズは集会所を出て、ビワがクッキーの生地作りをしている、借りている家屋に戻って行く。
 少し前まで村長宅から聞こえていたガザニアの怒り声は、全く聞こえず静かになっていた。
 逆に不気味に思ったカズは、隣の集会所に居るのを気付かれないよう、物音を立てず村長宅を横切る。

 急ぎビワの元に戻ったカズは〈クリーン〉を使い、全身を清潔にしてから、クッキーの生地作りに取り掛かった。
 好みの甘さを選んでもらう為に、生地に使用しているハチミツの量を変えて二種類作る。
 邪魔をしてくるアレナリアとレラ二人が居ないと作業がはかどり、ビワと一緒に無言でせっせと作業する事で、いつもに比べて早くクッキー生地が出来上がる。

 石窯の大きさを考えて、クッキーの型は小さく、子供の一口サイズくらいの物にした。
 大きくすると短時間では数が作れず、今日中に村人全員へ行き渡らないだろうと。
 出来上がったクッキー生地をカズの【アイテムボックス】に入れ、ビワと共に集会所に行く。

 集会所に到着してすぐ、カズは石窯に魔力を流し焼く準備をして、ビワは型抜きに掛かる。
 二種類のクッキーを一人一個ずつとし、石窯の準備が出来たところで、一回目の焼きに取り掛かる。
 一回目で焼ける数は約三十個。
 村人が八十人程居るので、多めに作るとして各百個ずつで二百個。
 七回は焼かないとならない。
 などと、考えながら一回目を焼いている内に、二人で残りの型抜き進める。
 薪を使用せず石窯を温めているのを不思議がってるビワに、カズは鑑定で知り得た事を説明した。

「便利ですね」

「これと同じ鉱石で作った石窯が、もし帝都で売ってるなら欲しいよね」

「私でも使えますか?」

「大丈夫だと思うよ。それほど難しくないから。って言ってる間に、匂ってきたね」

「小さくしたので、焼き上がりが早いですね」

 十分程で一回目のクッキーが焼き上がった。
 ハチミツを使用した量が違う生地を同時に入れたのにも関わらず、ちょうどよく焼けていた。(これも使われてる魔鉱石の影響だろうか?)
 カズとビワは、少し冷ました二種類のクッキーを一個ずつ味見する。

「こんなもんかな? どうビワ?」

「ハチミツの少ない方は、サクッとした食感と、ほんのりした甘さで、食べやすくて良いと思います。ハチミツの多い方は、冷めてもしっとりして甘く、子供が好きそうです」

「街で買ったクッキーより甘さ控えめで、俺はハチミツの少ない方が好きかな。ハチミツの多い方は、贅沢品な感じがするね。街で手軽に買えるっていうより、お金持ちのお茶菓子として出てきそうな」

「ならハチミツの少ない方の、クッキー生地の作り方を教えた方が?」

「いや。これは俺達二人の感想だから、村の人達に試食してもらって、それで決めてもらう方がいいでしょ。もっとハチミツが少ない方がいいと言うかも知れないし、逆にもっと甘い方が好みかも知れないからね」

「アレナリアさんとレラの感想は、聞かなくて大丈夫ですかねえ?」

「あの二人に食べさすと、これじゃ小さいとか少ないとか言って、村の人達に作った分まで食べそうだから後回し。味見させるなら、先に村の人達に行き渡った後にしたいね」

「それは……そうかも知れませんね」

 ビワも容易に想像でき、カズの意見に同意した。
 アレナリアはガザニアの相手をしているので来ないとして、レラの場合は甘い匂いを嗅ぎ付け、ラプフを引っ張ってでも無理矢理来そうだと思った。
 ならば嗅ぎ付けて来る前に、終わらせようと、次々と焼いて【アイテムボックス】に入れてしまおうと考える。

 とりあえず二回目は、ビワに石窯の使い方を教えながら、焼きに取り掛かった。
 魔力の流して全体に魔力が行き渡ると、石窯の内部が温まり、魔力を流すのを止めて大丈夫だと教えた。
 クッキー生地を乗せた金属板を石窯の中に入れ、あとは焼けるまで待つ。
 二回目も失敗せずにでき、続けて三回目、四回目と焼きに掛かる。
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