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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

470 村人との交流した話

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 見慣れぬ三人に村人達は警戒をする様子もあったが、人見知りしない馴れ馴れしいレラが見かけた村の子供に話し掛け、そこから警戒が解けて、多くの村人達と話したり、子供と遊んだりした事を、楽しそうに話す。

 その中で気になると同時に、面白そうな話が出た。
 それは村人達の収入源の一つが、草木染めだという事だった。
 染める為の素材自体を村で作ってるのか、街から仕入れているのか、染め上げた物を何処で売っているのかは、今のところ不明。
 レオラが独自のルートで、どこかの街に流してる可能性はある。
 ただ、庇護してるとはいえ、そこまでするだろうかと、カズは少し疑問に思う。

 アレナリアとレラから、村人達との話を聞いた結果、カズはレオラに思うところがあった。
 レオラに頼ってばかりでは、村人達が村の外に出ず、悪い影響になってしまってるのではないか……? 
 だが、まだ自分達は村に来たばかり。
 なので、その早計な考えを、ここで口にすることはしなかった。
 
「あ、そうだ。なぁレラ」

「なにぃ?」

「少し前に、一度戻って来たか?」

「来てないよ。なんで?」

「寝てる時に、がさごそ音がして、声が聞こえたような気がしたもんだからさ」

「なんであちしだと思ったのさ」

「扉が開く音はしなかったから、レラが窓から入って来て、食べ物でも探してるのかと思った」

「してないよ。アレナリアとビワと一緒だったもん。カズ寝惚けてたんじゃないの?」

「音は聞こえたんだけどなぁ……小動物でも入り込んだのかな?」

「森の中だからあり得るんじゃないの。小さな生き物なら、塀の上にあったトゲの間をすり抜けられるでしょうし」

「あちし達のごはん食べられちゃった?」

「いや、出来たのは全部アイテムボックスにしまったから、食べられてはない」

「よかった。あちしの分が少なくなっちゃうかと思った」

「自分だけかよ」

「で、他には何を作ったの? 甘い匂いしてたよね?」

「それこそ気のせいだろ(流れで言わせるつもりだったろうが、そう簡単にはいかないぞ。まだシュー皮も作ってないんだから、中身だけ食べられてたまるか。でも、ゆるい方ならいいかな。失敗したのだし)」

 未だにカズが甘い物を作ったか、食べたのではとレラは怪しんでたので、食後にプリンを出して誤魔化した。

「わかってるじゃん。カズ」

「完全にプリンをよこせと、催促してるようにしか聞こえなかった」

「そんなことないよ。本当に甘い匂いがしたんだけどなあ。まあ、プリンが食べれるならいいや」

「明日にはレラの同族に会えるんだから、しっかり挨拶して、失礼のないようにしろよ(最初からこうやって、プリンを与えとけばよかった)」

 ビワはポトフでお腹が一杯だと、プリンは遠慮した。
 カズが大きい桶にお湯を溜め、ビワが使った木製の食器をそこに運んでると、レラが代わりにビワのプリンを食べる言い出し、流石に食い過ぎだとカズが却下した。
 すると置きっぱなしになってるプリンに、アレナリアが三人の動きに気を付けながら、そっと手を伸ばした。
 レラが自分のプリンを夢中で食べ、カズとビワが食器を洗ってる間に、アレナリアが二個目のプリンを口に運ぶ。

「あれ……? あッ! アレナリアが」

 突然レラが声を上げる。
 何事かと、カズとビワが振り返ると、そこには手に持った容器を傾けて、底に残ったプリンを食べているアレナリアの姿があった。

「急になんだよレラ」

「アレナリアがプリン食べてる」

「? そんなのは見ればわかる」

「そうじゃなくて、ビワが食べなかった分を食べてるの!」

「アレナリア二個目か?」

「残すともったいないでしょ。レラは食べ過ぎでダメって言われたから、代わりに私が」

「ズルい! ズルい! あちしも、もう……ヒック」

「しゃっくりしてるじゃないか」

「大丈…ヒック…夫だもん。ヒック」

「自分でも満腹なのわかってるだろ」

「だってアレナリアだけ…ヒック」

「黙って二個目を食べたアレナリアには、罰として残った食器を洗って片付けてもらう。いいな」

「仕方ないわね。それくらいなら別に」

「それだ…ヒック…け?」

「ガザニアさんの相手をしてもらってるからな。レラにはフルーツミルクを出してやるから、それ飲んでしゃっくり止めるようにしろよ」

「うん…ヒック」

「俺はビワとちょっと風に当たって来る。行こうかビワ」

「はい」

 少々食べ過ぎたと言うビワと二人で家屋を出て、外で夜風に当たりながら小川沿いを散歩する。
 村に外灯はなく、月明かりと窓から漏れる家屋内の明かりだけが、村の中を照らす。
 月明かりと家屋中からの明かりで、少しながら足元は見える
《暗視》スキルを使えるカズには十分だが、オーバーコートを脱いでるビワにとっては薄暗い小道。
 二人はそこをゆっくり歩き、少しの間、小川のせせらぎに耳をすませる。

 アレナリアとレラには昼間の様子を聞いたが、ビワにはあまり聞いてなかったので、無言でいるよりはと、カズがビワに話を聞く。
 内容的にはアレナリアとレラが話した事と大差なかった。
 一緒に居たんだから当然と言えば当然のこと。
 だた、ビワが子供達を見ていて感じた事があり、それをカズに話した。

「甘い物を?」

「砂糖は高価で買えず、食事に使う甘味はハチミツらしいんです。なので、子供のおやつに回す分はあまり……。レオラ様が来た時は、飴やクッキーなどのお菓子を持って来て、子供達に配ってるようなんですが」

「もしかして、ガザニアさんと来たことで、俺達がレオラの使いだと思われてたとか?」

「大人の方はわかってるんですけど、子供達の中にはそう思ってるらしく『お菓子ないの?』と、私に。最初はただねだって来たのかと思ったんですが、大人の方が話してくれて」

「ビワは子供達に、何かあげたいと?」

「……はい」

「う~ん……明日ガザニアさんに聞いてからかな」

「駄目なんですか?」

「駄目ではないけど、それに慣れてしまうのは、良いとは思えないな。レオラの使いや知り合いというだけで、恵んで貰えるのが当然だと認識してしまうからね。子供達にそうじゃないと教えておかなければ、後々大変な事になるだろうね」

「大変ですか?」

「ああ。悪い方…極端に言えば、一番近くのシックス・タウンに行けば、自分達より裕福なんだから、恵んでくれると思い込んでしまうかも知れない。そこで拒絶されたら、怒りに任せて略奪なんて事になる可能性だってある(レオラはそこんとこは、どう考えてるんだろうか?)」

「そんな事が……」

「最悪の場合だけどね。そんな事は無いと思うけど。何が切っ掛けでそうなるか、わからないから。歴史を見れば、そういった事が何度もあったと思うよ(こっちの世界はどうかわからないけど)」

「では、何もあげない方が……?」

「そうじゃないよ。なんでもかんでも、無償で与えなければ、例えばお駄賃的な」

「お駄賃?」

「仕事を手伝ったら貰える、ちょっとした給金みたいなもんかな。大抵は親が子供にあげたりするんだけどね。働いたらそれに応じた物が貰えるって、小さい頃から覚えたりするんだよ。村人達にとって、俺達の認識が客人として伝わってるんだとしたら、無償であげるとかは、しない方がいいかも」

「そう…ですか。カズさんにしては、厳しい意見ですね」

 ビワは耳と尻尾を垂らして、しょんぼりとする。

「……そのなんだ。俺かこう言っても、ビワとしては子供達に、何かしてあげたいと」

 ピクっと垂れた耳が動き、カズをじっと見る。

「……はい」

「そうだなぁ……じゃあ」

 カズはハチミツを使ったクッキーを作り、それを村人が気に入れば、作り方を教えてやってはどうかと、ビワに相談というかたちで話す。
 小麦粉は手に入りやすく、ハチミツは村にあるのだから、これなら手軽に出来て、それなりに日持ちがするだろうと。
 そこで明日、村長に話をして、それ次第で結構するか決めようと話した。
 ビワにもそれで納得してくれた。

 三十分程夜風に当たりながら話をして、ビワのお腹も落ち着いたところで、借りた家屋に戻った。
 翌日、村長に話を聞きに行く事と、ガザニアに話を聞く内容をアレナリアに伝え、この日は就寝した。
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