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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

468 滞在する村の家屋

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 村長は片手を立てて軽く前後に動かして、謝るカズを「まあまあ」と宥めた。

「小さいですが、家を一軒空けましたので、村に滞在中はそこを使ってください。場所はレオラ様が村に来た時に使われる家の三軒隣です。レオラ様が使われる家は、今はガザニア様が使われてます」

「わかりました。ありがとうございます」

「村に住むフェアリーのラプフには、皆さんが来たことを伝えます。会えるのは明日になるかと思いますが」

「わかりました。よろしくお願いします」

 カズが村長にお礼を言って会釈し、アレナリアとビワも続いて軽く頭を下げた。

「昼食はまだお済みではないですよね?」

「ええ」

「では用意しましょう。昼を過ぎているので、大したものは用意出来ませんが」

「いえ、そのお気持ちだけで。食料は持参してるので、自分達で出来ます。家を貸してもらうだけで十分です(そうか、もう昼過ぎなのか)」

「しかし、レオラ様のお客様をもてなさないというのは」

「村長、構わない。本人がいいと言ってる」

「そ、そうですか。では、家までの案内を呼びます」

「ガザニアが泊まってる家の近くなんでしょ。なら、ガザニアに案内してもらうわ。いいでしょ?」

「……ああ。どうせ近くを通る」

 少々面倒臭いと思うガザニアだったが、ここで村長に悪い印象を与えて、何かの切っ掛けでレオラの耳にでも入ったらと頭を過り、それくらいならと了承した。

「よろしいのですか? ガザニア様」

「構わない。村長への目通りも終わったら、戻って休もうと思っていた」

 ガザニアと一行は村長宅を出て、村に滞在する間泊まる家屋へと向かった。
 すれ違う村人達は一行を見て、怯えたり警戒する様子はあまりなく、気軽に挨拶をしてきたりする者もいた。
 ガザニアと共に居た事で、レオラの関係者だと安心したのだろう。
 カズの肩に乗りながら、村人達を物珍しそうに見るレラを注意しつつ、ガザニアの案内で村の南側にある家屋へと着いた。

 レオラが滞在時に宿泊する家屋は、村長宅よりも少し大きく、一行が借りる事になったのは、他の村人達が暮らす家屋とほぼ同じ大きさ。
 村長が空けたと言っていたので、元々住んでいた村人が来客用にと、他の家屋に移ったのだろう。
 入ってすぐは四畳程の土間になっており、石と土で作られた二口のかまどがあった。
 あとは八畳程の板の間が一部屋と、ちょっとした戸棚や押し入れがあるだけの、質素な作りの家屋。
 昔ながらの日本家屋っぽくて、カズ的には結構落ち着けそうな空間だった。
 これが茅葺き屋根だったら、板の間の中央に囲炉裏があってもおかしくなさそうだ。

「とりあえずワタシの案内はここまでだ。村を見て回るのは構わないが、村人を差別したり、危害を加えるような行動をしたら、すぐ追い出すから覚えておくことだ」

 村での行動を注意するガザニアの視線は、完全にカズに向けられていた。

「わかってます(こういう時だけ、俺に言うのね。やっぱり嫌われてるんだ)」

 ガザニア会ってからまだ二時間も経ってないというのに、カズは憂鬱ゆううつになりそうだと感じた。

「ねぇねぇ、村の中を見て来ていい?」

「いいけど、レラ一人だと不安」

「では私が一緒に行きます」

「大丈夫ビワ? レラが変な事しようとしたら止められる?」

「だ…大丈夫。迷惑掛けるような事しないわよね? 約束してレラ」

「村の人達に対してキモいとか言ったら、カズに捨てられるわよ」

「そんなことしないもん。捨てないよねカズ……?」

「レラしだい……と、言った方がいいか?」

「え……」

「冗談だ」

 アレナリアとビワに注意され、カズには怖い冗談を言われ、レラは頬を膨らませた。

「そこじゃなく膨らませるんじゃなくて、軽く何か食って腹を膨らませてから行って来るといい」

「そうね。じゃあ私はタマゴサンドね。食べたら、私も一緒に行って来るわ。やっぱり心配だから」

「そうか。なら頼むよ。俺は少し休憩したら、夕食の支度をしとく」

 作り溜めしてあるタマゴサンドを四人分と、三人分のフルーツミルクを【アイテムボックス】から出し、ちょっと遅めの昼食を取った。
 
「食べ終わったし、行きましょうか」

「行こ行こ」

 レラはお腹を満たしたことで、機嫌を取り戻した。

「はしゃぎ過ぎるなよ。レラ」

「は~い」

 フワッと浮かび、ゆっくりと飛んでレラが先頭で家屋を出て、アレナリアとビワが後を付いて行き村の見物に向かった。
 カズは家屋のかまどに【アイテムボックス】から深い鍋を出し、切った食材を入れて、弱火でコトコト煮込んでポトフを作り出す。
 アレナリアとレラが留守の間、気晴らしついでに、カスタードクリームを作ることにして、卵と牛乳と砂糖と小麦粉と、大小二つのボウルを用意した。
 本当はビワは残って手伝ってほしかったが、そうするとアレナリアとレラに、プリンとかを作ってると思われる可能性があったので、三人で行くのを止めなかった。

「さて、作るか(全部終わって片付けるまで、戻って来なければいいんだけど、甘い匂いを嗅ぎ付けたレラが早く戻って来そうなんだよな。まあ、その時はその時か)」

 三人が戻って来る前になんとか終わらせようと、カズはカスタードクリーム作りに取り掛かる。
 とは言うものの、作り方をしっかり覚えてなかったので、長く使ってなかったスマホを【アイテムボックス】から取り出して、料理の作り方が乗ってるアプリを起動させ調べる。

「おお、スゲー久しぶり振りの感覚だ(アイテムボックスに入れてあったから劣化もしてない。おっと、とりあえず新しいデザートの作りかを)」

 バッテリー消費を節約するのに、カスタードクリームの作り方と、シュークリームの皮の作り方を書き写して、最後にスマホのバッテリー残量を確認……? してから【アイテムボックス】にしまった。
 そして書き写した作り方を見ながら、カズは作業を始める。

 ボウルに用意した材料を入れて、泡立て器でまぜまぜ。
 次に少しずつ熱を加えながら、焦がさないよう更にまぜまぜして、時折ポトフの様子を見ながらカスタードクリームを作る。
 
 一回目は試しに小さいボウルで少量作ったのだが上手くいかず、ゆるいカスタードクリームが出来てしまった。
 一応〈コールド〉でボウルを冷やして、少しでも固まればと置いておき、気を付けながら二回目のカスタードクリーム作りに取り掛かる。
 一回目の作業をしている内に、以前作ったのを段々と思いだし、二回目は大きいボウルで目的の量を作り、なんとかそれなりの物が出来たので良しとした。
 こちらも〈コールド〉でボウルを冷やしす。


 残った卵白はメレンゲにして、ふんわりパンケーキを作る時に使おう。
 あとはシュー生地を作りたいが、これ以上やってると夕食時間になるから、それは今度にしよう。
 戻って来たアレナリアとレラに見つかったら、味見だとか言って全部食べられちゃうからな。


 借りた家屋には甘い匂いか漂い、それを消すのにハーブ入りソーセージを焼いて、こうばしい香りで甘い匂いを消す。(だがやはり少しだけ、まだ甘い匂いはする)
 ポトフと焼いたソーセージを【アイテムボックス】に入れて、三人が戻って来るまで横になって、一回目のゆるいカスタードクリームをどう使おうかと考える。
 冷やしているカスタードクリームはアイテムボックスに入れてしまうと、それ以上冷えなくなってしまうので、作ったカスタードクリームは、もう少し出したままにする。
 三人が戻って来たら、すぐにアイテムボックスに入れられるよう、カズのすぐ横に置いてある。
 二十分程横になってると、うとうとしてきたので、寝てしまう前にカスタードクリームを【アイテムボックス】に入れ、窓を広く開けて換気した。
 そしてまた横になり、ちょっとのつもりで目を閉じていたら、眠気がさしてカズは寝てしまった。



「──さっきあそこに──全部食べちゃった? そんなわけ──……?」
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