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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

467 特殊な者が住む村

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 一人の女性には、額から二本の紐のような触角が生え。
 一人の男性の目は、蜂の巣ような複眼になっていた。
 他の六人にも、何処かしらむしの特徴があった。 
 村人達の素顔を見たアレナリアとビワは、息を呑み驚きの表情を隠せなかった。
 カズは冷静を保っていたが、内心では驚いていた。

「これが秘匿にしてる理由。昔から半人半蟲ムシケラと罵倒されて、ジャンク半獣人以上に差別されていたらしい。村人の殆どはこの者らのように、身体の一部に蟲の特徴が現れている」

「先祖返りね」

 すぐに落ち着きを取り戻したアレナリアは、村人達が何故そのような特徴を持って生まれたのか、レオラとの話を思い出して結び付けた。

「その通り。よく知っていたわね」

「半獣人が先祖返りだと、レオラが話していたのを思い出したの(わね。やっぱりさっきのは、聞き違いじゃなかったのね。女性らしい話し方が出来るなら、そうすればいいのに)」

「さすがレオラ様だ。お前達を来させるのを見越して、お話ししていたとは」

 アレナリアは偶然だと思うと、頭に浮かんでいたが、レオラを侮辱してると思われて険悪になり、その対象がカズに向けられてはと、ここでは何も言わなかった。
 カズ的には最初に聞いたのは、バイアステッチの冒険者ギルドマスターであり、帝国の守護者の一人ミゼットなんだが、やはり不機嫌になると思い黙っていることにした。

「そうだ。村の者達が一つ気にしていた事がある」

「何かしら?」

「ムシを嫌がっている話をしていたでしょ」

「あー……レラね」

「それを聞いていたので、あの場では村人らに素顔を見せないようにした」

「ムシと言っても、小さいのが多くに集まってるのと、あとはヒルが苦手ね。以前森の中で、大量のヒルに襲われた事があったの。だから村の人達を見ても、大丈夫だと思うわ。最初は驚くと思うけど、そこは許して」

 村人達はお互いの顔を見合い、驚かれるのはいつもの事だと理解し、頷いて答えた。
 そして村に向かい歩み出し、ガザニアと一行は、村人達の後を付いて行く。


 見張り小屋から鬱蒼うっそうとしてきた森の中を歩くこと小一時間、樹木が途切れた少し先に、丸太で作られた塀が現れた。
 薄暗い森の中からの遠目で一見すると、樹木が密集しているのかと見間違えそうになる。
 塀の高さは3メール程と、それほど高くはなく、侵入は難しくなさそうに思えた。
 しかし近くまで寄ると、その上には太く長いトゲが多い植物の、枝や蔦を束ねた物が1メール以上積んであり、やすやすと乗り越えられないように、防壁をなしていた。
 すると先を歩く村人達が、塀を見上げて立ち止まった。

「何をしてるの?」

「……」

 塀の前で立ち止まった村人達を不思議に思い、アレナリアがガザニアに理由を聞くも、人差し指をつぐんだ口の前に立てて、黙るように指示される。
 ほんの一分程で、村人の二人が塀沿いを右へと歩き出し、他の村人はそれに続いて行く。

「向こうか」

「何をしてたの?」

「村の中に居る村人と話していたのよ」

「何も聞こえなかったわよ?」

「我々にはね」

 村人に置いてかれないように、ガザニアとアレナリアが付いて行き、その後をカズとビワが追う。 
 少し進むと塀の一部が内側に動き、村への入口が現れた。
 村人達が中に入り、続いてガザニアとアレナリア、最後にカズとビワが村に足を踏み入れた。

「ガザニア様。わたくし達はこれで失礼します」

「ご苦労。ワタシらは村長の所に行く」

 監視小屋から一緒に来た村人達は、それぞれ自分の家に戻り、一行はガザニアの案内で村長の所に向かった。
 様々な特徴をした村人とすれ違い、畑の間の細道を抜けて、村の中央に建てられた少し大きな家に入る。
 ガザニアはアレナリアとビワを村長に紹介し、一応カズも雑に紹介した。
 男のカズがレオラを呼び捨てにしたのを、まだ怒っているようだった。

「レオラ様からの手紙で〝ユウヒの片腕〟の方々を、村に居るフェアリーに会わせてほしいと伺っております。そちらもフェアリーと一緒に行動されると書いてあったのですが……?」

 誰かの後ろに隠れてるのではと、村長は身体を左右に動かして三人の後を見ようとする。
 慌ててビワが肩掛け鞄の上ぶたを開き中を見る。
 レラにしては珍しく、少しうなされてるようで、しかめっ面をしていた。
 ビワは肩掛け鞄を覗き込み、レラに声を掛けて起こす。
 呼び掛けで目を覚ましたレラが見たのは、肩掛け鞄に、今にも顔を突っ込みそうになってるビワの顔面。

「ッわ! なんだビワか。驚かさないでよ」

「村に着いたわよ。今、村長さんのお宅に来てるの。出て来てご挨拶して」

「そうなんだ。わくゎ……ふぁ~」

 目を覚ましたレラが、あくびをしながら肩掛け鞄から出る。

「こんちは。小人族のレラで~す」

「小人族?」

 村長が小首をかしげ、自分が間違えたのかという顔をする。

「レオラからの手紙で、レラがフェアリーなのは伝わってるから、姿は元のままよ」

「なんだ早く言ってよ」

「いつもは魔法で姿を小人族に見せてるの」

「そういう事でしたか。確かに小人族なら妖精族より数が多く、帝国内でも見かける事はありますからな」

「客人ではあるが、ただの冒険者だ。村長が改まる事はない」

 レオラ直筆の手紙を受け、更にはガザニアが案内役として来る程の客人なら、失礼があってはならないとする村長の態度だった。
 しかしガザニアの言葉を聞き、違っていたのかと、また小首をかしげた。
 北の監視小屋にいつもの倍以上の村人を待機させ、ガザニア自らが監視小屋で来訪者を待ち、丁重に迎える程の客人ではなかったのかと。

 レオラから〝ユウヒの片腕〟の事を聞かされ、多忙なレオラ自分の代わりに、ガザニアが先行者としてこの村に来る事になった。
 レオラの側近がわざわざ来る程の来訪者だと、村長だけではなく村人達もそう思っていた。
 なので監視小屋から出て来た八人の村人は、ガザニアの言うことを聞き、客人に失礼だとは思っていたが、全身を外套マントで隠していたのだった。
 ガザニアと村人達の間で〝ユウヒの片腕〟(主にカズ)に対しての認識が大きく違っていた。

「村長のおっちゃんのデコから出てるの……つくし?」

「これは触角ですぞ。と言いましても、本来の触角に比べて、一割感じられればいいくらいなんですがね」

「触角? むしじゃないんだから。変なおっちゃんだなぁ」

「失礼よレラ。すみません村長さん。寝ていたレラは、ガザニアさんの説明を聞いてないんです」

「そうですか。それでは、フェアリーさん」

「レラでいいよ」

「では、レラさん。この村は昆虫族の特徴を持った者達が暮らす村なんですよ」

「こん……う、うじゃうじゃしてる?」

「ご自分の目で確かめて見ては?」

 村長は窓の方に顔を向け、レラは恐る恐るその窓からこそっと外を覗き見る。
 畑で作業をする村人や、近くを通る村人を確認し、レラはビワの所に戻り、膝の上にちょこんと座る。

「どうでしたかな?」

「村長のおっちゃんみたいな触角がある人も居たし、変わった目をした人とかが居た」

「レラさんはそれを見て、どう思ったかね?」

「う~ん……複眼あの目でじっと見られたら、ちょっと変な感じするかも。でも慣れれば平気」

「気持ち悪かったりは?」

「最初はなんでも違和感があるっしょ。アレナリアと会った時は、エルフ同じだから、フローラみたいに優しいのかと思ったのに。一緒に居るようになったら、ぜ~んぜんだもん」

「フローラ様と比べないでほしいわ。それに私だってフェアリーと聞いて、可愛らしい存在かと思ったわよ。でも、だもん」

「これって何よ!」

「レラこそなんなのよ!」

「こんな所でケンカするな! すいません村長さん」

 お決まりのごとく、レラの余計な一言に対してアレナリアが言い返し、そして喧嘩が始まりカズに怒られる。

「喧嘩するほど仲がいいとは、よく言ったものです。毎日か楽しそうだ」

「限度と場所をわきまえてほしいんですがね。本当にすいません」

 以外と腰の低いカズを見て、二人のことで苦労してるんだなと、村長はうっすら苦笑いを浮かべた。
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