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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

466 レオラの守護騎士を名乗る者

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 見せたその顔は色白で目鼻立ちが整っており、豪華なドレスを着て笑顔を浮かべれば、レオラよりも皇女らしく見えそうだ。
 ただし今の顔は鋭い目付きをして、怒りを表している。

「レオラ様の守護騎士ガザニア・テレス。本来ならば、レオラ様の側を離れずに護衛を……してるはずだったのに」

 名乗り終わると同時に、カズを睨み付ける。

「俺達はレオラから次の仕事だと聞いて、ここまで来た」

「しかも曖昧な説明だけでね。それなのに、いきなり現れたと思ったらカズに掴み掛かって。私達が何をしたって言うのよ!」

「キサ…お前らの要望をレオラ様が叶えられ、ワタシをここに使わせたのだ。そのせいで、レオラ様のお側を離れる羽目に……やっと戻られたと言うのに」

 ガサニア・テレスはレオラを主従関係以上に慕っているようだった。
 カズ達のパーティー〝ユウヒの片腕〟を招き入れる為に、護衛ガザニアを連れずにレオラ一人で行動した事が気に入らなかったのだと、カズとアレナリアは考えた。
 それから導きだした結果、ガサニア・テレスの怒りは、ただの八つ当たりだと。

「俺達の要望?」

「その後ろに隠れたのは、フェアリーなのだろ。この先にある村にも、一人だけフェアリーが居る」

「フェアリーに渡りを付けてくれたのか」

「だったら、それとなく伝えてくれればいいのに。仕事だって聞いたから」

「わかったら、お優しいレオラ様に感謝しろ」

「はいはい、そうですね」

 適当な返事で返すアレナリア。

「それで村はどこですか? ここは違うんでしょ?」

「ここは村に近づく者を見張る為の小屋だ」

「見張りにしては、やけに多いようですが?」

「部外者のお前達が来ると知った村人が、危険人物でないかを確認するのに来てるんだ。ワタシが対応するからと、姿を現さないよう指示してある」

「だから何の反応もなかったのか」

「対応するなら、すぐに出てきなさいよ」

「少ししてから出るつもりだったが、お前達がレオラ様のことを話し出したから、様子を伺ってたんだ。そうしたらお優しいレオラ様を呼び捨てにして……思い出すと腹が立つ」

 ガザニアは自然と、腰に携える剣に手が伸びる。

「待った待った。俺達がレオラ…様から言われた仕事はしたんだ。これを確認すれば信じるだろ」

 ガザニアに金と赤のメダルを渡して、本物だと確認させる。

「ちゃんと返してよね」

「レオラ様の騎士であるワタシが、盗みなどするか」

 じっくりと彫られた獅子を確認し、羨ましそうに渡したくなさそうにして、メダルをカズに返した。
 この時には、アレナリアは杖から魔力を引き、警戒体制を解いている。

「村には貴女が案内してくれるの? それとも村人が?」

「村に戻る数人と、ワタシが案内する」

 レオラから渡されたメダルを見て少し機嫌が良くなったのか、ガザニアの話し方が柔らかくなったように思えた。

「聞くが、こんな場所で三人揃って、コートなんて着てるんだ? 軟弱者の趣味か?」

「別にいいでしょ(カズに付与してもらってる、大事なコートなんだから)」

「あのう、軟弱者じゃなくてカズなんだけど」

「お前達はそこで待ってろ。村に戻る者達を呼んで来る」

「あ……(無視か。いいさ、怒らない。今までだって、男嫌いの人とかにも会ったんだ。この場だけ耐えれば)」

 久し振りに初対面の女性から煙たがられ、カズは少し嫌な気持ちになった。
 慣れているつもりだったが、やっぱり胸にぐさりと来るものがある。

「カズさん…大丈夫ですか?」

 表情を変えないようにしていたカズを気遣い、ビワが優しく声を掛けた。

「ん? ああ、大丈夫。気にしないようにする。俺の言葉は聞いてくれなくても、アレナリアやビワの言葉なら、ガザニアさんも聞いてくれるでしょ。だからその時は頼むよ」

「わかりました。でもそれでいいんですか?」

「こっちが歩み寄っても、彼女が拒むんじゃ、どうしようもないよ。無理に話し掛けても、余計嫌悪になるだろうからね。昔はよくあった……その時に比べれば(昔の事を思い出すのも少なくなった。その方がいいのかも……なあ)」

 最後は遠くを見つめながら、ボソッと呟くカズを見て、ビワは何故か悲しく感じた。

「カズさんはガザニアさんの思っているような人じゃないって、私が説得します」

「へ? 急にどうしたの? 別にいいから。ビワにまで剣を向けるとは思わないけど、俺が我慢すればいいだけだから」

「任せて。私もガザニアに、カズの素晴らしさを伝えるから」

 ビワの意見に、アレナリアは共感した。

「余計面倒な事になりそうだから、やめといてくれ。当たりが強くなるのが目に見える」

「私はカズの為に」

「それはわかったが、気持ちだけでいい。ビワもね。ここでの用事が済めば、ガザニア彼女とは会わなくなるだろうから、それまではアレナリアに任せるよ」

「わかったわ。ガザニアに言いたいことがあったら、私つてで話すわ」

「頼む。ビワはレラを頼むね」

「はい」

 更に森の奥に行く事を不安がっていたレラは、現在ビワに渡した肩掛け鞄の中に入っている。
 ガザニアとの交渉手段話し合いの方法を決めると、一行はガザニアが呼んで来た八人の村人と共に、森の更に奥へと入って行く。
 一行が気になったのは、案内してくれている村人達も、全身を外套マントで隠していること。
 外套マントとはいうものの、見た目はボロいシーツそのもの。
 いきなり聞くのも失礼だと、代表してアレナリアが小走りでガザニアの隣に移動し、少し会話をしてから尋ねることにした。

「ちょっといいかしら?」

「なんだ?」

「気になってたんだけど、貴女はレオラの側近でしょ。だったらなんで私達の案内役を? 他の人に任せるとかしなかったの?」

「ここの村人は、レオラ様とワタシ以外には、前側近の二人しか入ることを許されてない。レオラ様に頼まれなければ、一人でなど来ない」

「だったらレオラと一緒に来ればよかったのに」

「レオラ様には、第六皇女としての仕事があるんだ。そうそう出歩く事など出来ない」

「なら今現在レオラの護衛は? 国の兵士が?」

「ワタシ以外にも、レオラ様に仕える騎士は居る。本当なら、ワタシがお側に居たかったのに」

 またもやポロッと本音が漏れるガザニア。

「でもレオラ以外には、貴女しか村に入れないんでしょ」

「ええ」

「つまり、レオラから信頼されて、任せられたって事よね」

「ま、まあそうなるわね。ワタシはレオラ様に信頼されている」

 口元を緩ませて、ガザニアは嬉しそうに答えた。
 機嫌の良さそうな、今ならと、アレナリアは小声で村人達の格好について尋ねた。
 すると嬉しそうにしていたガザニアの顔がスッと消え、真面目な表情へと変わった。

「それについては、村に入る前に話すように、レオラ様からも言われている」

「レオラから?」

「こちらから話を切り出す手間が省けた。ちょっどいいから、この場で見てもらおう。皆の者、良いか?」

 ガザニアの言葉を聞いた村人達は、足を止めて頷く。

「この先の村を秘匿にしている理由を見せる。知ってしまったら後戻りは出来ない。今ならまだ引き返しても構わないわよ」

「この先にレラの同族が居るなら行くわ。それが私達の目的の一つでもあるの」

「本当にいいんだな」

 アレナリアはカズとビワに顔を向けると、二人はコクりと頷き承諾する。
 それを見たガザニアは、村人達に姿を見せるよう合図した。
 一人、二人と被っていたボロい外套マントを外した。
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