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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

465 木の上に作られた小屋

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 カズの視線の先には、枝葉に隠れた人工物らしき物が見え、レラを頭部から肩に移して、それが見える位置に移動する。
 家と言うよりは小屋がそこにはあった。
 数にして六軒、隠すようにして作られていた。

「こんな所にあったのか」

 カズの様子を見たアレナリアとビワが近くに駆け寄り、木の上に作られた小屋を見る。

「見当たらないはずね」

「静かですけど、誰も居ないんでしょうか?」

「いえ、居るわ。私達を警戒して、気付かれないよう静かにしてるのよ。先行して来てる人が居るなら、それを伝えれば出て来るんじゃない?」

「出て来る様子がなかったら、大声でレオラの名前を言えば。てか、上の方が虫少ないっしょ。早く上がろう」

 カズの肩に乗り落ち着いたと思いきや、森から出ないのなら、地面から距離を取りたいと言うレラ。
 ここか目的の村で、友好的なのかも分からないのに。

「最初からレオラ様の名前を出すより、先にパーティー名を名乗った方がいいんじゃないですか?」

「確かにそうね。村が木の上に作られてるなんて、ギンナンから聞いてないもの。それどころか、行けばわかるだから」

 未だにギンナンの雑な説明を思い出し、腹を立てるアレナリア。

「言ったろ。その怒りはレオラに持って行くように、今は押さえとけ」

 カズも思い出してイラッとはしたが、とりあえずアレナリアを落ち着かせた。
 木の上にある小屋のすぐ下で話してるにも関わらず、やはり中に居る者達の反応はない。
 意を決してカズが上を向き、敵意は無いという事と、パーティー名〝ユウヒの片腕〟だと名乗り、先行して来ている者が居ないか聞いた。

「反応はないわね」

「ここではないんでしょうか?」

「違うんだったら、もうやめて森を出ようよ。こんな所で夜になるなんて嫌だからね」

「マップスキルで見た時に、他に集落はなかったの?」

「ここが見つかったから、これより奥は調べてないんだ。反応が無かったから、少なくとも周囲500メートルには、それらしき場所は無い。もう少し奥を調べてみるか?」

「出来る?」

「詳しくはわからないが、人が多く集まってるかどうかくらには」

「なら探って。それで人が集まってる所が無ければ、森を出て帝都に向かいましょう。レオラにはもう関わらないと決めて」

「そうなんですか?」

「仕事を手伝えって言ってからこっち、伝言も曖昧でハッキリしない。私達を試したいのはわかるけど、最初の仕事を終わらせたんだから、次の仕事をさせる前に、一度自分の所に来させるべきでしょ」

「カズさんもそう、なんですか?」

「今回の仕事で判断するつもりだったが、……今の時点ではアレナリアの意見の同じかな。結局、ここが目的の村でもなさそうだし、先行して来てるとかいう人も不明。まあ、利用されたとしても、大して実害があった訳でもないから、気持ちを切り替えて行くさ」

 有益な情報が入る可能性は大きかったが、この様な扱いなら、レオラとの関わりを切ろうかという思いが、カズも強くなっていた。

「男みたいなレオラの事なんて、もうどうでもいいよ。残念だけど、この感じじゃあ、ごちそうは無理そうだし……」

 楽しみにしていた豪華絢爛な料理を、悔しそうな顔をしてレラは諦める。

「ほら、森出るよ」

 蛞蝓ナメクジが居る地面に降りるのを嫌がるレラは、飛んでカズの髪を引っ張って行こうとする。

「まだ森の奥をマップで調べてないから。ってか、そんなに強く引っ張るな。ハゲる」

「だったら早く無い村を調べてよ。暗くなっちゃう」

「わかったわかった(無いと決めつけてるのか)」

 この場所以外に集落らしき人の集まっている反応を探そうと、カズは【マップ】を操作して表示範囲を広げようとする。

「次にレオラを見かけたら、仕事の報酬をたんまりと請求してやる」

「レオラとは関わらないんじゃなかったのか?」

「ええ。でも報酬はキッチリ貰わないと。出さなかったら、あれこれと噂を流してやるわ。ふふふふッ」

「笑顔が怖いぞアレナ…」

「黙って聞いてれば、キサマらー!」

 急に荒々しく大声を上げながら、外套マントとフードで全身を隠した人物が一軒の小屋から飛び降り、怒りをあらわにしながらカズに近づく。
 声かして女性だと思われる。
 驚いたレラは、サッとカズの後ろに隠れ、アレナリアはビワの前に立ち、杖を構えて魔力を込める。
 急に現れた人物は、外套マントの隙間からスッと右手を出して、カズの胸ぐらを掴む。
 憤怒しているが、不思議と敵意は少ない。

「あんた誰ッ!? カズから手を放しなさい!」

 突如現れた人物に、アレナリアは魔力を込めた杖を向けて牽制する。

「こうも簡単に捕まるだけではなく、女に庇われるとは情けない。レオラ様は、なぜこのような軟弱者を」

「レオラ!? あんたが先行して来て…」

「だったらなんだ! ワタシに気圧された軟弱者め」

「レオラからの指示なら、パーティー名を言った時点で出て来てくれ」

「貴様……ワタシの前で二度もレオラ様を呼び捨てにするとは、ここで殺されたいか? いや、こんな不作法者など殺してしまおう」

 左手で外套マントの右半分を背中に回し、そのまま右腰に携えた剣に手を伸ばす。

「冗談が過ぎるんじゃないの……かッ!」

 胸ぐらを掴んでいる人物とやり取りをしている間に、カズは《分析》を使用してステータスを確認し、それに合わせて《威圧2》を使う。
 五段階ある威圧スキルの下から二番目、レベル30から40くらいのモンスターなら、ひるませる事が出来る程度はある。
 カズから威圧を受けると、その人物は胸ぐらから手を放して、5メートル程後方に飛び退いた。

「レオラ様の忠実な剣であり、身命をして仕えるワタシに歯向かうとは、覚悟は出来てるだろうなッ!」

「あなたの言ってる事むちゃくちゃじゃない! 急に現れて殺すなんて言われたら、抵抗するのは当然よ!」

 理不尽な発言にアレナリアも怒りだして、声を荒らげる。

「わかってるから黙ってろ。お前達はこのカズ軟弱者の卑劣な口車で騙されているんだ。今、カズコイツの息の根を止めて解放してやる!」

「おい、少しは話を…」

「軟弱者の言葉など聞かんッ!」

 突如現れた人物は、腰に携えた剣に手を掛ける。
 そして、先程までなかった殺気をむき出しにする。

「勘弁してくれ(達の悪い冒険者に絡まれる事がなくなったのに、帝国に入ってからは、守護者やら皇族に目を付けられる事になったと思ったら、これか)」

「いい加減にしなさい! レオラに会ったら、あなたのした事を一部始終話すわよ」

「なにッ! この軟弱者をパーティーから追い出してやろうと言うのに。パーティーの実力者はエルフのお前だろ? この軟弱者は口だけで、足を引っ張ってるんだろ?」

「何それ? どっからの情報よ?」

「足を引っ張ってるのは私で、カズさんじゃありません」

「そ、そうだそうだ」

 ビクビクしながらも急に現れた人物に、間違いだと言うビワに続き、カズの後ろからそれに同意するレラ。

「いいこと、私達はあんたが仕える男勝りの姫様に、公の場でなければレオラと呼び捨てにして良いと言われてるの。それにレオラから必要な時は使えと、彫刻が入ったメダルを渡されてるの。カズ、見せてやって」

 カズは懐に手を入れて内ポケットから出すようにして、レオラから渡された金色と赤色をしたメダルを【アイテムボックス】から出して現れた人物に向けた。(もし隣に持ち主が居て横並びでもなっていたら『控えろう。こちらに─』と台詞が出て来そうだった)

「確認する。貸せ」

「ダメよカズ。そのまま持ち逃げするかも知れないわ。手に取って確認したければ、顔を見せて名乗ったらどう?」

 数秒の沈黙すると、腰に携えた剣のつかから手を放して、その人物はフードを外して顔を見せた。
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