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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って
464 ケンカな日常 と レラの修練
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小高い丘の上から戻って来たカズに、ビワが迎えて声を掛ける。
「カズさんどうでした?」
「三十人程が集まってる場所はわかった。ところで、二人は何してんの?」
二人は別々にそっぽを向いている。
「それが……」
ビワの話では、カズの分の昼食を残しとくか、食べしまうかで揉めたのだと。
二つをあるから分けて食べてしまおうとレラが言い、アレナリアはカズが戻って来るまで、食べずに待ってようと。
「この二人は、飽きもせずに毎度毎度……ハァ」
少し目を離した間に喧嘩をした二人を見て、カズは肩を落とし溜め息をつく。
「個別に分けて渡さなかった俺が悪かったか」
「カズさんは何も……私が二人を宥める事が出来たら」
「ビワこそ気にする必要ないよ。で、肝心な物は?」
フルーツミルクが入っていたコップはあるが、残っているはずのサンドイッチが何処にも無い。
「レラが一つ食べたら、アレナリアさんがズルいって……」
「ビワは何個食べたの?」
「二つです」
「で、二人は?」
ビワは親指を曲げた手をカズに見せた。
「三つずつ食べて、残りの一つをどうするか。でならまだわかるが……ビワには聞いてきた?」
「私は二つで十分だったので」
「なるほど。一応、二人で話し合ったのはわかった。が、ビワには聞かなかったんだな。よし、喧嘩してるなら二人は夕食抜き」
「な!」
「ちょまッ!」
それは酷すぎると、そっぽを向いてた二人が振り返りカズに駆け寄り弁解する。
二人が反省したと見て、夕食抜きはなしにした。
二人が落ち着きを取り戻すのを待ち、周辺の地形と、目的地だと思われる場所を、カズは説明した。
「今から行って暗くなる前に村に入れる?」
「難しいな。森の中がどうなってるかもわからない。村に続く道でも見つければいいんたが、そもそもこっちに来る道があるかどうかも不明だし」
「なら森に入るのは明日ってこと?」
「そうした方がいいだろ。森の手前までゆっくり行っても、二時間も掛からないが」
話し合った結果、小高い丘を越えた森の手前で一晩明かして、翌日小さな村だと思われる場所に向かう事になった。
「なら丘の上で、のんびりしましょう」
「いや。丘を越えたら、二人には仲直りついでに、やってもらう事がある」
「「え!」」
何をやらされるのだろうと、アレナリアとレラは不安になり、同時に声を上げた。
「とりあえず丘を越えて、今日野宿する所まで行くよ」
「はい」
「二人、返事は?」
「うい~」
「……は~い」
元気の無い返事をし、足取りが重くなるアレナリアとレラの背中を押して、小高い丘を越えて行く。
カズが言ったように、二時間もせず丘を越えて、森の手前まで移動して来た。
「じゃあ、これな」
カズは【アイテムボックス】から、小さな一振りの短剣をレラに渡した。
それはバイアステッチを離れる時に、鍛冶屋のヤトコから受け取ったレラ専用の武器。
「これって?」
「忘れたか? ヤトコさんに作ってもらった、レラの短剣」
「これがあちしの!」
「アレナリアにレラに、短剣の使い方を教えてやること」
「私、剣はあんまり」
「短剣ならアレナリアだって、少しは使えるだろ」
「え、ええ」
「それに慣れてきたら、風属性の魔法と組み合わせて使えるようにも教えてほしい。レラは刃物自体を使う事が殆どなかった。だからとりあえず最初は、基本の素振りとかを教えてやればいい。それくらいの事なら教えられるだろ」
「わかったわ」
「アレナリアは優しく教えてやって、レラはしっかり言うことを聞いて、使い方を身体で覚えること。ケンカしたら……わかってるよな」
「……はい」
「あちし専用の短剣だぁ」
「聞いてるのかレラ?」
「え? あ、うん。了解」
この後、日が暮れるまでの約三時間、喧嘩になりそうになるとカズの視線を感じ、その都度何度か休憩を挟みつつ、レラの修練を終える。
修練終了後は、レラ専用の短剣はカズが預かり【アイテムボックス】にしまった。
レラは自分のだから持ってたいと言ったが、慣れるまでは危ないからと、アレナリアとビワにも諭されて、渋々言う事を聞いた。
昼食の事でカズに怒られたので、夕食はアレナリアもレラも静かに食べていた。
修練の御褒美として、夕食後にプリンを出して、カズは二人を労う。
飴と鞭は必要。
翌日から目の前の森に入るのを考え、レラはトレントの森を思い出し、虫の群れに遭遇しない事を願った。
寝る前に騒いで、馬車ではなく外で寝ろと言われたくなかった二人は、大人しく就寝した。
カズは見張りもあるので、いつものごとく一人焚き火をしながら外で寝た。
◇◆◇◆◇
朝食を終えて、日が少し高くなるのを待ってから森に入った。
樹木の枝葉は高い所だけにあり、下の方にはあまり無く、意外と先の方まで見る事が出来る。
しかし日中も森の中は薄暗く、地面に差す陽は少ない。
なので草は生えても短く、移動の支障になる程でもなかった。
雨もあまり降らなかったらしく、足下がぬかるんでる様子もない。
思っていたよりも歩きやすかったが、レラが虫を見かけるようになると、一人騒ぎ始めた。
「うひャ! カ、カズぅ~」
「そんなに引っ付くと、歩きづらい」
「だってぇ」
森に入ってから小さな虫を見るようになり、いつ何処からうじゃうじゃと出て来るか、レラは気が気でならなかった。
「数匹程度なら平気だろ」
「そうだけどぉ……」
「しょうがないなぁ」
カズは最近使わなくなった肩掛け鞄を【アイテムボックス】から出し、その中に入るようレラに合図する。
レラはズボッと肩掛け鞄に飛び込んだ。
「あぁ~この感じ、この揺れ……良いね! カズ、お菓子と飲み物ちょ~だい」
カズはすぐに調子に乗るレラを、ちょっと懲らしめる事にした。
「おんやぁ……? あの木の下に小さいのが集まってるなあ。ちょっと休憩するのに、この鞄を置いてくかな」
「イヤぁー! ごめんなさい。お菓子も飲み物もいらないから、そんな所に置かないでよォー!」
肩掛け鞄の被せ蓋をガバッと開けてカズにしがみつき泣きべそをかく。
「調子に乗るからそうなるのよ。ほらそこ、カズが言った所を見てみなさい」
「うじゃうじゃなんて見たくない。やだァー!」
レラはカズの腕に顔を強く押し付け、目を開けるのを拒む。
「ちょっと薬が効き過ぎたか」
「大丈夫。虫じゃないわよレラ」
「へ?」
ビワの言葉を聞き、レラはゆっくりと目を開ける。
そこで見たのは、森に住む動物が集めたと思われる、大量の木の実があった。
どれもまだ新しく、近くに巣穴でもあり、隠れてるのだと思われる。
「虫じゃないじゃん!」
「俺は虫なんて言ってないぞ。ただ小さいのが集まってる。としか」
「ムカっ! バカバカ、カズのバァーカ!」
「言い過ぎよレラ」
「いつもの元気が出たなら自分で歩けるだろ」
「フンっだ」
不貞腐りながらも文句を言わずに、レラは森をずんずん進んで行く。
そして森に入ってから二時間が経過した。
「ねぇカズ。村はまだ?」
「そろそろ見えはずなんだが」
「見えるの、木ばっかじゃん」
一時間程前から歩き出したレラは、疲れて苛立っていた。
「少し休憩しましょうか?」
「そうね。珍しくレラが文句も言わずに歩いたんだし」
「休憩休憩。どこに座ろっかな?」
周囲を見渡し、レラは座れそうな場所を探す。
すると、また木の下に木の実が集まってる場所があった。
今度のは中身が殆ど無く、食べかすばかりで、かなりの日数が経っているようだった。
「なんだ、中身は入ってないのか。新しければ、おやつに拾って行こうかと思ったのに。えいッ……イヤぁぁぁぁ!」
突如叫び出したレラが、蒼い顔をしてカズの身体を駈け上がって後頭部にしがみつく。
「うじゃ、うじゃじゃじャー」
木の実の食べかすをレラが蹴飛ばすと、その下から多くの蛞蝓が、粘液を出してうねっていた。
「キモいキモい。もう嫌だ歩かない!」
「あとちょっとだから」
「やだ! 森から出る!」
「ハァー……」
溜め息をついたカズは、ふと視線を上に向けた。
「カズさんどうでした?」
「三十人程が集まってる場所はわかった。ところで、二人は何してんの?」
二人は別々にそっぽを向いている。
「それが……」
ビワの話では、カズの分の昼食を残しとくか、食べしまうかで揉めたのだと。
二つをあるから分けて食べてしまおうとレラが言い、アレナリアはカズが戻って来るまで、食べずに待ってようと。
「この二人は、飽きもせずに毎度毎度……ハァ」
少し目を離した間に喧嘩をした二人を見て、カズは肩を落とし溜め息をつく。
「個別に分けて渡さなかった俺が悪かったか」
「カズさんは何も……私が二人を宥める事が出来たら」
「ビワこそ気にする必要ないよ。で、肝心な物は?」
フルーツミルクが入っていたコップはあるが、残っているはずのサンドイッチが何処にも無い。
「レラが一つ食べたら、アレナリアさんがズルいって……」
「ビワは何個食べたの?」
「二つです」
「で、二人は?」
ビワは親指を曲げた手をカズに見せた。
「三つずつ食べて、残りの一つをどうするか。でならまだわかるが……ビワには聞いてきた?」
「私は二つで十分だったので」
「なるほど。一応、二人で話し合ったのはわかった。が、ビワには聞かなかったんだな。よし、喧嘩してるなら二人は夕食抜き」
「な!」
「ちょまッ!」
それは酷すぎると、そっぽを向いてた二人が振り返りカズに駆け寄り弁解する。
二人が反省したと見て、夕食抜きはなしにした。
二人が落ち着きを取り戻すのを待ち、周辺の地形と、目的地だと思われる場所を、カズは説明した。
「今から行って暗くなる前に村に入れる?」
「難しいな。森の中がどうなってるかもわからない。村に続く道でも見つければいいんたが、そもそもこっちに来る道があるかどうかも不明だし」
「なら森に入るのは明日ってこと?」
「そうした方がいいだろ。森の手前までゆっくり行っても、二時間も掛からないが」
話し合った結果、小高い丘を越えた森の手前で一晩明かして、翌日小さな村だと思われる場所に向かう事になった。
「なら丘の上で、のんびりしましょう」
「いや。丘を越えたら、二人には仲直りついでに、やってもらう事がある」
「「え!」」
何をやらされるのだろうと、アレナリアとレラは不安になり、同時に声を上げた。
「とりあえず丘を越えて、今日野宿する所まで行くよ」
「はい」
「二人、返事は?」
「うい~」
「……は~い」
元気の無い返事をし、足取りが重くなるアレナリアとレラの背中を押して、小高い丘を越えて行く。
カズが言ったように、二時間もせず丘を越えて、森の手前まで移動して来た。
「じゃあ、これな」
カズは【アイテムボックス】から、小さな一振りの短剣をレラに渡した。
それはバイアステッチを離れる時に、鍛冶屋のヤトコから受け取ったレラ専用の武器。
「これって?」
「忘れたか? ヤトコさんに作ってもらった、レラの短剣」
「これがあちしの!」
「アレナリアにレラに、短剣の使い方を教えてやること」
「私、剣はあんまり」
「短剣ならアレナリアだって、少しは使えるだろ」
「え、ええ」
「それに慣れてきたら、風属性の魔法と組み合わせて使えるようにも教えてほしい。レラは刃物自体を使う事が殆どなかった。だからとりあえず最初は、基本の素振りとかを教えてやればいい。それくらいの事なら教えられるだろ」
「わかったわ」
「アレナリアは優しく教えてやって、レラはしっかり言うことを聞いて、使い方を身体で覚えること。ケンカしたら……わかってるよな」
「……はい」
「あちし専用の短剣だぁ」
「聞いてるのかレラ?」
「え? あ、うん。了解」
この後、日が暮れるまでの約三時間、喧嘩になりそうになるとカズの視線を感じ、その都度何度か休憩を挟みつつ、レラの修練を終える。
修練終了後は、レラ専用の短剣はカズが預かり【アイテムボックス】にしまった。
レラは自分のだから持ってたいと言ったが、慣れるまでは危ないからと、アレナリアとビワにも諭されて、渋々言う事を聞いた。
昼食の事でカズに怒られたので、夕食はアレナリアもレラも静かに食べていた。
修練の御褒美として、夕食後にプリンを出して、カズは二人を労う。
飴と鞭は必要。
翌日から目の前の森に入るのを考え、レラはトレントの森を思い出し、虫の群れに遭遇しない事を願った。
寝る前に騒いで、馬車ではなく外で寝ろと言われたくなかった二人は、大人しく就寝した。
カズは見張りもあるので、いつものごとく一人焚き火をしながら外で寝た。
◇◆◇◆◇
朝食を終えて、日が少し高くなるのを待ってから森に入った。
樹木の枝葉は高い所だけにあり、下の方にはあまり無く、意外と先の方まで見る事が出来る。
しかし日中も森の中は薄暗く、地面に差す陽は少ない。
なので草は生えても短く、移動の支障になる程でもなかった。
雨もあまり降らなかったらしく、足下がぬかるんでる様子もない。
思っていたよりも歩きやすかったが、レラが虫を見かけるようになると、一人騒ぎ始めた。
「うひャ! カ、カズぅ~」
「そんなに引っ付くと、歩きづらい」
「だってぇ」
森に入ってから小さな虫を見るようになり、いつ何処からうじゃうじゃと出て来るか、レラは気が気でならなかった。
「数匹程度なら平気だろ」
「そうだけどぉ……」
「しょうがないなぁ」
カズは最近使わなくなった肩掛け鞄を【アイテムボックス】から出し、その中に入るようレラに合図する。
レラはズボッと肩掛け鞄に飛び込んだ。
「あぁ~この感じ、この揺れ……良いね! カズ、お菓子と飲み物ちょ~だい」
カズはすぐに調子に乗るレラを、ちょっと懲らしめる事にした。
「おんやぁ……? あの木の下に小さいのが集まってるなあ。ちょっと休憩するのに、この鞄を置いてくかな」
「イヤぁー! ごめんなさい。お菓子も飲み物もいらないから、そんな所に置かないでよォー!」
肩掛け鞄の被せ蓋をガバッと開けてカズにしがみつき泣きべそをかく。
「調子に乗るからそうなるのよ。ほらそこ、カズが言った所を見てみなさい」
「うじゃうじゃなんて見たくない。やだァー!」
レラはカズの腕に顔を強く押し付け、目を開けるのを拒む。
「ちょっと薬が効き過ぎたか」
「大丈夫。虫じゃないわよレラ」
「へ?」
ビワの言葉を聞き、レラはゆっくりと目を開ける。
そこで見たのは、森に住む動物が集めたと思われる、大量の木の実があった。
どれもまだ新しく、近くに巣穴でもあり、隠れてるのだと思われる。
「虫じゃないじゃん!」
「俺は虫なんて言ってないぞ。ただ小さいのが集まってる。としか」
「ムカっ! バカバカ、カズのバァーカ!」
「言い過ぎよレラ」
「いつもの元気が出たなら自分で歩けるだろ」
「フンっだ」
不貞腐りながらも文句を言わずに、レラは森をずんずん進んで行く。
そして森に入ってから二時間が経過した。
「ねぇカズ。村はまだ?」
「そろそろ見えはずなんだが」
「見えるの、木ばっかじゃん」
一時間程前から歩き出したレラは、疲れて苛立っていた。
「少し休憩しましょうか?」
「そうね。珍しくレラが文句も言わずに歩いたんだし」
「休憩休憩。どこに座ろっかな?」
周囲を見渡し、レラは座れそうな場所を探す。
すると、また木の下に木の実が集まってる場所があった。
今度のは中身が殆ど無く、食べかすばかりで、かなりの日数が経っているようだった。
「なんだ、中身は入ってないのか。新しければ、おやつに拾って行こうかと思ったのに。えいッ……イヤぁぁぁぁ!」
突如叫び出したレラが、蒼い顔をしてカズの身体を駈け上がって後頭部にしがみつく。
「うじゃ、うじゃじゃじャー」
木の実の食べかすをレラが蹴飛ばすと、その下から多くの蛞蝓が、粘液を出してうねっていた。
「キモいキモい。もう嫌だ歩かない!」
「あとちょっとだから」
「やだ! 森から出る!」
「ハァー……」
溜め息をついたカズは、ふと視線を上に向けた。
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