上 下
481 / 784
五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

464 ケンカな日常 と レラの修練

しおりを挟む
 小高い丘の上から戻って来たカズに、ビワが迎えて声を掛ける。

「カズさんどうでした?」

「三十人程が集まってる場所はわかった。ところで、二人は何してんの?」

 二人は別々にそっぽを向いている。

「それが……」

 ビワの話では、カズの分の昼食を残しとくか、食べしまうかで揉めたのだと。
 二つをあるから分けて食べてしまおうとレラが言い、アレナリアはカズが戻って来るまで、食べずに待ってようと。

「この二人は、飽きもせずに毎度毎度……ハァ」

 少し目を離した間に喧嘩をした二人を見て、カズは肩を落とし溜め息をつく。

「個別に分けて渡さなかった俺が悪かったか」

「カズさんは何も……私が二人を宥める事が出来たら」

「ビワこそ気にする必要ないよ。で、肝心な物は?」

 フルーツミルクが入っていたコップはあるが、残っているはずのサンドイッチが何処にも無い。

「レラが一つ食べたら、アレナリアさんがズルいって……」

「ビワは何個食べたの?」

「二つです」

「で、二人は?」

 ビワは親指を曲げた手をカズに見せた。

「三つずつ食べて、残りの一つをどうするか。でならまだわかるが……ビワには聞いてきた?」

「私は二つで十分だったので」

「なるほど。一応、二人で話し合ったのはわかった。が、ビワには聞かなかったんだな。よし、喧嘩してるなら二人は夕食抜き」

「な!」

「ちょまッ!」

 それは酷すぎると、そっぽを向いてた二人が振り返りカズに駆け寄り弁解する。
 二人が反省したと見て、夕食抜きはなしにした。
 二人が落ち着きを取り戻すのを待ち、周辺の地形と、目的地だと思われる場所を、カズは説明した。

「今から行って暗くなる前に村に入れる?」

「難しいな。森の中がどうなってるかもわからない。村に続く道でも見つければいいんたが、そもそもこっちに来る道があるかどうかも不明だし」

「なら森に入るのは明日ってこと?」

「そうした方がいいだろ。森の手前までゆっくり行っても、二時間も掛からないが」

 話し合った結果、小高い丘を越えた森の手前で一晩明かして、翌日小さな村だと思われる場所に向かう事になった。

「なら丘の上で、のんびりしましょう」

「いや。丘を越えたら、二人には仲直りついでに、やってもらう事がある」

「「え!」」

 何をやらされるのだろうと、アレナリアとレラは不安になり、同時に声を上げた。

「とりあえず丘を越えて、今日野宿する所まで行くよ」

「はい」

「二人、返事は?」

「うい~」

「……は~い」

 元気の無い返事をし、足取りが重くなるアレナリアとレラの背中を押して、小高い丘を越えて行く。
 カズが言ったように、二時間もせず丘を越えて、森の手前まで移動して来た。

「じゃあ、これな」

 カズは【アイテムボックス】から、小さな一振りの短剣をレラに渡した。
 それはバイアステッチを離れる時に、鍛冶屋のヤトコから受け取ったレラ専用の武器。

「これって?」

「忘れたか? ヤトコさんに作ってもらった、レラの短剣」

「これがあちしの!」

「アレナリアにレラに、短剣の使い方を教えてやること」

「私、剣はあんまり」

「短剣ならアレナリアだって、少しは使えるだろ」

「え、ええ」

「それに慣れてきたら、風属性の魔法と組み合わせて使えるようにも教えてほしい。レラは刃物自体を使う事が殆どなかった。だからとりあえず最初は、基本の素振りとかを教えてやればいい。それくらいの事なら教えられるだろ」

「わかったわ」

「アレナリアは優しく教えてやって、レラはしっかり言うことを聞いて、使い方を身体で覚えること。ケンカしたら……わかってるよな」

「……はい」

「あちし専用の短剣だぁ」

「聞いてるのかレラ?」

「え? あ、うん。了解」

 この後、日が暮れるまでの約三時間、喧嘩になりそうになるとカズの視線を感じ、その都度何度か休憩を挟みつつ、レラの修練を終える。
 修練終了後は、レラ専用の短剣はカズが預かり【アイテムボックス】にしまった。
 レラは自分のだから持ってたいと言ったが、慣れるまでは危ないからと、アレナリアとビワにも諭されて、渋々言う事を聞いた。
 昼食の事でカズに怒られたので、夕食はアレナリアもレラも静かに食べていた。
 修練の御褒美として、夕食後にプリンを出して、カズは二人を労う。
 飴と鞭は必要。

 翌日から目の前の森に入るのを考え、レラはトレントの森を思い出し、虫の群れに遭遇しない事を願った。
 寝る前に騒いで、馬車ではなく外で寝ろと言われたくなかった二人は、大人しく就寝した。
 カズは見張りもあるので、いつものごとく一人焚き火をしながら外で寝た。


 ◇◆◇◆◇


 朝食を終えて、日が少し高くなるのを待ってから森に入った。
 樹木の枝葉は高い所だけにあり、下の方にはあまり無く、意外と先の方まで見る事が出来る。
 しかし日中も森の中は薄暗く、地面に差す陽は少ない。
 なので草は生えても短く、移動の支障になる程でもなかった。
 雨もあまり降らなかったらしく、足下がぬかるんでる様子もない。
 思っていたよりも歩きやすかったが、レラが虫を見かけるようになると、一人騒ぎ始めた。

「うひャ! カ、カズぅ~」

「そんなに引っ付くと、歩きづらい」

「だってぇ」

 森に入ってから小さな虫を見るようになり、いつ何処からうじゃうじゃと出て来るか、レラは気が気でならなかった。

「数匹程度なら平気だろ」

「そうだけどぉ……」

「しょうがないなぁ」

 カズは最近使わなくなった肩掛け鞄を【アイテムボックス】から出し、その中に入るようレラに合図する。
 レラはズボッと肩掛け鞄に飛び込んだ。

「あぁ~この感じ、この揺れ……良いね! カズ、お菓子と飲み物ちょ~だい」

 カズはすぐに調子に乗るレラを、ちょっと懲らしめる事にした。

「おんやぁ……? あの木の下に小さいのが集まってるなあ。ちょっと休憩するのに、この鞄を置いてくかな」

「イヤぁー! ごめんなさい。お菓子も飲み物もいらないから、そんな所に置かないでよォー!」

 肩掛け鞄の被せふたをガバッと開けてカズにしがみつき泣きべそをかく。

「調子に乗るからそうなるのよ。ほらそこ、カズが言った所を見てみなさい」

「うじゃうじゃなんて見たくない。やだァー!」

 レラはカズの腕に顔を強く押し付け、目を開けるのを拒む。

「ちょっと薬が効き過ぎたか」

「大丈夫。虫じゃないわよレラ」

「へ?」

 ビワの言葉を聞き、レラはゆっくりと目を開ける。
 そこで見たのは、森に住む動物が集めたと思われる、大量の木の実があった。
 どれもまだ新しく、近くに巣穴でもあり、隠れてるのだと思われる。

「虫じゃないじゃん!」

「俺は虫なんて言ってないぞ。ただ小さいのが集まってる。としか」

「ムカっ! バカバカ、カズのバァーカ!」

「言い過ぎよレラ」

「いつもの元気が出たなら自分で歩けるだろ」

「フンっだ」

 不貞腐りながらも文句を言わずに、レラは森をずんずん進んで行く。
 そして森に入ってから二時間が経過した。

「ねぇカズ。村はまだ?」

「そろそろ見えはずなんだが」

「見えるの、木ばっかじゃん」

 一時間程前から歩き出したレラは、疲れて苛立っていた。
 
「少し休憩しましょうか?」

「そうね。珍しくレラが文句も言わずに歩いたんだし」

「休憩休憩。どこに座ろっかな?」
 
 周囲を見渡し、レラは座れそうな場所を探す。
 すると、また木の下に木の実が集まってる場所があった。
 今度のは中身が殆ど無く、食べかすばかりで、かなりの日数が経っているようだった。

「なんだ、中身は入ってないのか。新しければ、おやつに拾って行こうかと思ったのに。えいッ……イヤぁぁぁぁ!」

 突如叫び出したレラが、蒼い顔をしてカズの身体を駈け上がって後頭部にしがみつく。

「うじゃ、うじゃじゃじャー」

 木の実の食べかすをレラが蹴飛ばすと、その下から多くの蛞蝓ナメクジが、粘液を出してうねっていた。

「キモいキモい。もう嫌だ歩かない!」

「あとちょっとだから」

「やだ! 森から出る!」

「ハァー……」

 溜め息をついたカズは、ふと視線を上に向けた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する

昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。 グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。 しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。 田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

処理中です...