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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

462 次の仕事?

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 グラトニィ・ターマイトの群れを討伐してから五日後、朝食を済ませたカズ達は木製食器店のギンコに行き、アレナリアがギンナンに会った早々、質問を投げ掛ける。

「グラトニィ・ターマイトの事で、ギルトが慌ててる様子がなかったんだけど。緊急討伐依頼もターマイトのものだったし」

「仕事が片付いたと聞いて、すぐギルトマスターに根回ししたからだ」

「ここの冒険者ギルトと繋がってたの?」

「ああ。お前達に話さなかったのは、レオラ様からの指示があったからだ。悪く思うな」

 ここでレオラと、この街の冒険者ギルトのギルトマスタートップが繋がってると知った。

「それとお前達に、次の仕事だ」

「次?」

 カズ達には次の仕事場所に向かうよう指示が来たと、ギンナンが伝えた。

「あの男勝りの姫様は何考えてるの? 今回の仕事が終わったら、自分の屋敷に呼ぶんじゃなかったの?」

「それをオレに言われても、答えようがない」

「それで、回収したグラトニィ・ターマイトはどうすればいい?」

「それについてもオレは聞いてない。次の仕事が終わるまでには指示が来るだろう」

「……で、どこに行って何をしろと?」

「やるのカズ?」

「一応、話は聞く。レオラは断っても構わないって言ってたしな」

「場所はシックス・タウンの南にある小さな村。仕事内容については、先行して一人向かってるから、そいつ聞いてくれ」

「誰なの? 冒険者?」

「行けばわかる」

「は? 何それ? またなの? ふざけないで、ちゃんと説明しなさいよ!」

 アレナリアが杖に強く握り、ギンナンを睨み付ける。

「おい、なんでそれをこっちに向けるんだ?」

 カズは一歩右に移動し、ビクッとして後退りするギンナンと、睨み付けるアレナリアの間に入った。

「落ち着けた。アレナリアがすまない」

「オ、オレの所には、そう連絡が来ただけなんだ。なんでレオラ様はこんな連中を……」

 ポロッとギンナンが本音が漏らすと、カズはアレナリアの視線がキツくなったのを背中で感じた。

「すまないがシックス・タウンへは、どう行けばいいか教えてもらえるか?」

「ここからの最短は、エイト・タウンで乗り換えて、ウエスト・ファーム方面に向かう列車だ。詳しくは駅員に聞いてくれ。これはレオラ様から頼まれた列車代だ。それ持ったら、アレナリアそいつを連れて早く行ってくれ。こんな所で暴れられたらたまらねえ」

 ギンナンの雑な対応にカズも腹は立ったが、これ以上ここに居ると、アレナリアが何をしでかすか分からなかったので、列車代を受け取ると、アレナリアを引っ張り店を出て駅に向かった。

「先行してるって言う相手も、仕事も解らずに行けって雑過ぎでしょ。腹が立つ!」

「確かにそうだな。だけど次の仕事を終えれば、レオラの所に行って報酬を受け取れるだろ。たぶん」

「次の仕事を終わらせたとしても、今回と同じ様に、また次の仕事で他の街に移動なんて事になったら?」

「その時はやめればいいだろ。さすがに使われるだけってのはなぁ。連絡も曖昧だし」

「お人好しのカズのことだから、このままずっとレオラに言われるまま仕事をするのだと思った」

「レオラの話に乗ったのは、レラとビワに関する情報が手に入ればと思ったからだって言ったろ。俺もそこまで使われる気はないさ。報酬が無いなら、回収したグラトニィ・ターマイトを素材として売ればいい」

「なら良いわ」

 次の仕事を終わらせて、レオラから来る指示次第で、帝都に入っての行動をどうするか決める事にした。

「話してて少しは落ち着いたか?」

「少しだけね」

「文句ならレオラに言う為に溜めておけ」

「そうする」

 次の目的地も決まった事で、一行は宿屋を引き払い駅に向かった。
 駅員にシックス・タウンの行き方を聞き、昼過ぎに来るウエスト・ファームまでの魔導列車に乗る。
 魔導列車は材木の街ヒッコリーを出て、隣のエイト・タウンに入る。
 そこから折り返して畜産の街グレイジングを過ぎ、農作の街ウエスト・ファームで止まり終点となった。

「十日程前に通った路線を、また通るとは思わなかったわ」

「まったくだな」

「今日はもう列車はないんですよね?」

「俺達が向かう方面へはないみたいだ。シックス・タウンを通るのは、明日の昼前に来る列車だってさ。だから今日はここで一泊する事になる」

「ならこの前と同じ宿で良いわね」

「そうだな。新しく探すのも面倒だし」

 一行は前回と同じ宿屋で部屋を取り、夕食はビワが作ったものを部屋で食べて済ませた。


 ◇◆◇◆◇


 朝食を済ませ宿屋を後にすると、一行が乗る魔導列車が来る前に、買い物をする事になった。
 フルーツミルクを毎食のように飲んでいたので、果物とミルクが予想以上に早く減ってしまっていたから。
 畜産の街グレイジングの隣にある農作の街ウエスト・ファームならば、ミルクも新鮮で値段安いからと、前回よりも多く買溜めした。

「これで大丈夫。今まで以上に飲み放題!」

「んな訳ないだろ。今までと同じで十分だ」

「えぇ~。だったらもっと買って行こうよ」

「三人が毎食飲んでも、二ヶ月は持つ量だぞ。列車代を渡されたとはいえ、宿代なんかは掛かるんだからな。それに移動中は依頼を受けられない。つまり稼ぎは無いんだ」

 魔導列車が通る街では、今まであった運搬の依頼が皆無だった。

「街を移動しながら稼げて良かったんだけど、魔導列車こんなものが街と街を繋いでたら、運搬の依頼なんて無くなるわよね」

「早く仕事を終わらせて、レオラの所に行かないとな。報酬をもらって、帝都での宿代わりになるのか、ハッキリさせないと」

「期待しない方が後々がっかりしなくて済むわよ」

「確かにな。あとは、オリーブ王国のお金が使えるかも調べないと」

「忘れてたわ。ヒッコリーに居る時にギルトで聞けば良かったわね。時間があったんだから」

「だな。俺も忘れてた」

「カズは倒したグラトニィ・ターマイトを気に掛けてたんだから仕方ないわよ」

 グラトニィ・ターマイトを討伐した翌日翌々日と、埋めた場所を確認に行っていた。
 グラトニィ・ターマイトの死骸を、モンスターが掘り返しに来ないとも限らなかったからだった。
 マップの範囲を広げれば、モンスターが集まって来ているか確認は出来るが、常にマップを見ている訳ではない。
 そのため深夜に街を出て、変化がないかを確かめに行っていた。

「ところで、もうお金が?」

「まだ大丈夫たが、それも今回の仕事が終わって、レオラから報酬が貰えるかどうかだ。報酬は情報が欲しいと言ったけど、最初の仕事はお金をもらった方が良いかもな」

 正直、帝国領土に入って得た報酬などで得たお金も、あと二十日持てば良いところ。
 最近食料の買溜めや、シャワーのある少し高め宿屋に泊まったのがあだとなり、無駄遣いが過ぎた。
 一定の決まった収入がない冒険者なのだから、出費には気を付けるべきだと再認識した。

「あ、駅が見えてきたわ。まだ列車は来てないようね」

「乗る列車が来るまで、あと二十分くらいかな」

 魔導列車の乗車代金は、レオラの指示でギンナンから受け取ってあったので、移動に掛かるお金の心配はなかった。
 と言っても、その残金ではウエスト・ファームから、帝都に入って数駅分までがせいぜい。
 それ以上魔導列車に乗る為には、目的地の村に先行している者に出してもらわなければ、レオラの住む街まで自腹になる。
 レオラが指示した仕事ならば、先行して行っている者はその事を知ってるはず。
 ならば大丈夫だろうと、カズはそれ程心配はしてなかった。

「来たわ。あの列車でしょ」

「ああ。駅員の話では、三時間弱で降りる駅に着くってさ」

 一行は魔導列車の二等車に乗り、農作の街ウエスト・ファームを出て、分岐した線路を今回は南東進む。
 ビワが作った座布団クッショクを敷き、魔導列車の振動からお尻を守り、心地よい揺れは今日も眠気を誘う。
 一時間もすればアレナリアとレラは眠り、ビワもこっくりこっくりと、今にも寝そうになっていた。

「眠ければ寝ていいよビワ。着いたら起こすから」

「でも…毎回カズさん…に」

「そんなの気にしなくていいから。列車を降りたら、次の目的地まで歩いて行くかも知れないからさ。それにアレナリアが聞いたら『眠ければ寝ればいいのよ。カズが起こしてくれるんだから』みたいなこと言うよ」

「それも…そうです……ね………」

 自分まで寝ては悪いと思いながらも、カズの言葉に甘えるように、ビワは話してる途中で寝てしまった。

「今日も陽気が良くて、過ごしやすい日だ」

 スヤスヤと寝る三人から視線を窓の外に移して、カズは流れる景色を見て列車内での時間を過ごす。
 あと三十分程で降りる駅がある街に着くという所で、寝ている三人に視線を移した。

「……家族…か」

 そこでぽつりと、感情から来た言葉が無意識に小さく出た。
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