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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

460 深夜の討伐 3 クイーン・マザー

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 数十メートル上空からカズを見下ろして、前脚の大鎌に魔力を込めて攻撃の隙を窺う。

「ルークを倒した威力でかすり傷程度。キング以上の前脚武器があり、ルークの壁以上に頑丈で、ナイト以上の飛行能力か……正直空中戦はキツい」

 上空で静止するグラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーを見上げ、カズは自分もフライを使い飛翔するか考える。
 長期戦は好ましくなかったが、他にどんな能力があるか、カズには調べる必要があった。
 内心面倒な仕事を受けたと後悔している。

 動きを止めて行動を起こさないカズ目掛け、グラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーが左右の三つ叉になった前脚を大きく振るう。
 空を切り六本の鋭く大きな魔力の鎌鼬かまいたちが、上空からカズに向かって迫る。
 魔力を色濃く見ることが出来る目や、高度な魔力感知が出来なければ、暗い深夜で鎌鼬かまいたちを回避するのは困難。
 カズが使用している【万物ノ眼】には、5メートル程の薄い白刃が、高速で飛んで来ているのが見えていた。
 グラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーから距離があった事で、高速で飛来する鎌鼬かまいたちを回避するのは難しくはなかった。
 衝撃と共にカズが回避した地面には、六本の大きな裂け目が鎌鼬かまいたちで出来た。


 スキルでもなければ、ウィンドカッターやエアースラッシュでもないとすると、以前に見た魔力を纏わせ飛ばした魔力弾のようなものか。
 スキルや魔法以外にも、強力な間接攻撃があるのが分かったし、これ以上長引かせて、あれで無差別に攻撃されたら、ここら一帯は傷跡だらけになる。
 先ずは地上に落とす。


 初弾を回避された事で、更なる魔力を練り込むグラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーに向けて、カズは重力魔法〈グラヴィティ〉を使った。
 急に全身に重みが掛かり、少しずつ高度が下がる。
 グラヴィティ・ターマイト・クイーン・マザーは異変に気付き、その原因がカズであること察して、再度三つ叉になった前脚を振り下ろし、練り上げた魔力の刃を飛ばした。
 当然前脚にも重力が掛かっているため狙いが定まらず、飛来した魔力の刃はカズを逸れて、地面に新たな裂け目を作る。

 攻撃が当たらない事が分かると、今度はカズから距離を取ろうと動き出す。
 が、それを察したカズは、グラヴィティ重力魔法に使っている魔力量を増やし、更なる荷重を加える。
 降下するグラヴィティ・ターマイト・クイーン・マザーの速度が上がり、三分と経たず地面に押し付けられる。

「ふぅ(なんとかゆっくりと降ろす事ができた。一気に重くして地面に叩き付けたら、ポーンの群れが移動した時以上の揺れが起きるからな)」

 自身の重さとグラヴィティ重力魔法の荷重で、グラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーは地面にめり込んでいき、地中を移動して来た穴が重さで崩壊して半分以上が埋まる。
 それでも威嚇するグラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーに近づき、カズ【アイテムボックス】から実体化したままの誠心刀を右手で取り出し、左手で〈ファイヤージャベリン〉を作り、それをスキルで誠心刀に《付与》した。
 ファイヤージャベリンが誠心刀に重なると、刀身はうっすらと赤くなり、更に魔力を誠心刀に流すと、高熱になって刀身が赤白く変わる。

 カズがグラヴィティ重力魔法を切ると、グラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーが三つ叉になった前脚を振り下ろし、直接カズを狙う。
 三つ叉となった前脚大鎌を、赤白くなった誠心刀で真っ向から受けて斬り落とした。
 カズは勢いそのまま地面を蹴り、グラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーの首を切断。
 鋭く大きな三つ叉の前脚と、グラトニィ・ターマイト・ルークより硬い外皮も、大した抵抗もなく斬れ、地面に落ちた。
 切断された首から魔核コアあらわになり、カズはそれを取り出して、グラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーの死骸と共に【アイテムボックス】の回収した。
 一級品程度の武器に無理な付与をしたせいで、グラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーの首を切断した直後、誠心刀は砕け消滅してしまった。


 トレカを実体化させた武器に、属性魔法を付与したらこうなるのか。
 レア度等級なのか属性の相性が原因なのか、それとも俺が元の世界から持って物だから駄目なのか……どちらにしても、トレカを実体化させた物に付与するなら、検証する必要があるか。
 武器や装備系のトレカでダブってるので試せそうなのは、トレード用のトレカファイルに入れてあるのだな。
 なんて、トレードの相手なんか居るわけないか……おっと、これはまた今度考えるとして、倒したグラトニィ・ターマイトを片づ…埋葬して、この荒れた場所をある程度元に戻さないと。


 カズは大穴に向けて〈アース・ウェーブ〉使い、地面を波立たせて周囲に転がるグラトニィ・ターマイト・ルークの死骸と、氷像となってる多くのグラトニィ・ターマイト・ポーンを移動させて大穴に落とした。

「ふう……うまくいったが、広範囲を波立たせるの結構キツイな、これは。ドカンと吹っ飛ばして、片付けた方がよっぽど楽で早いんだけど。まあそうするとかなりの音がするから慎重にやったんだが(壊すより直す方が大変だってのを実感する。……今回の戦闘で使った魔力は、2300くらいか)」

 慣れない大量の魔力消費で、カズは少し息が上がった。
 魔力にはまだ余裕があっても、一度の魔法で使える魔力は、せいぜい1500程度。
 今回の戦闘で、自分が使用出来る魔力量がどれ程のものか、カズは理解した。

「あとは大穴を埋めて。全部終わったら、早く戻って寝よう。疲れた」

 〈サンドプレス〉や〈ストーンウォール〉などの土属性魔法を使い、アースホールで空けた大穴を埋めに掛かった。
 他の獣やモンスターに掘り返されないよう、しっかりと固める。

「これで終わりといきたいが……地上に出る前に産み落とした、卵を片付けないと」

 グラトニィ・ターマイト・クリーン・マザーが潜んでいた地中に〈アールホール〉で穴を作り、産み落とした数十個の卵を処理する。
 生き物を入れることの出来ないアイテムボックスに、卵を回収出来るか試みる。
 二個の卵だけを回収出来たが、あとは駄目だったな。
 それは詰り、既に卵の中でグラトニィ・ターマイトが存在してるということ。

 回収出来なかった他の卵は全て潰して、グラトニィ・ターマイトが生まれるのを阻止し全てを埋め終わると、カズは急いで材木の街ヒッコリーに戻って行く。


 あと二時間もすれば夜が明けるだろ。
 今後一度に使用出来る魔力量を増やせるようにした方がいいか……? 最大の威力を出しても、最大魔力量の三分の一だからなぁ。
 ってか、全魔力を一撃にかけるような相手となんか戦いたくもない。
 願わくば、そんな相手と会わない事を祈……誰にだ? チャラ神あれを知ってるから、祈っても無駄だな。
 結局は運次第か。
 しかし、今思い出しても、やっぱり腹が立つ。


 自分をこちらの世界に引き込んだ張本人と、当初の頃を久々に思い出すと、カズは苛立ちが込み上げ、疲れているはずなのに、地面を蹴る足に力が入り、走る速度が上がる。
 距離的きに近い事を抜きにしても、グラトニィ・ターマイトを討伐に向かうより、街に戻る方が速かった。
 宿屋に戻ると〈クリーン〉を掛け、三人を起こさないように静かに扉を開けて部屋に入り、定位置の長椅子で横になりカズは眠りについた。
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