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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

458 深夜の討伐 1 ポーン

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 食後部屋にあるシャワーを順番に浴びてサッパリと汗を流した後、四人は腰に手を当てて、ぐいっとフルーツミルクを喉に流し込んだ。

「暖まった身体に、冷えた甘いフルーツミルクが美味しい」

「ビワに同意」

「私も」

「くあぁ。この一杯がたまらない」

「仕事終わりに飲む一口目の酒じゃないんだぞ。レラ」

「このかわいいあちしを見て、誰が髭面の汗臭いおっさんだ!」

「カズはそこまで言ってないわよ」

「ビワお代わりちょうだい」

「無視するのね。……寝る前に二杯も飲むと、漏らすわよ」

「あちし子供じゃないんもん!」

「本当かなぁ?」

「ムキィー! 出そうになったらちゃんと起きるから漏らさないもん!」

「ほらカップ貸して」

「はいビワ。お願いね。出来ればハチミツも入れて欲しいなぁ」

「寝る前だから駄目です」

「うぅ……」

 恒例行事のようなアレナリアとレラのふざけた言い争いを、ビワが間に入り止める。
 アレナリアとレラもすんなりと言い争いを止め、本気の喧嘩に発展しないようにした。

「ビワ。私にもお願い」

「はい」

「な~んだ、アレナリアも飲むじゃん」

「いいでしょ別に」

「カズさんもどうです?」

「俺はいいよ。ありがと」

 アレナリアとレラは二杯目のフルーツミルクを飲み終えると、カズとビワに注意されて口をゆすぎ、ベッドで横になり就寝。
 カズはお決まりの長椅子で。


 三人が寝てから二時間、一人寝付けなかったカズは長椅子から起き出し、部屋に〈バリア・フィールド〉と〈アラーム〉を使用して《隠密》を使い《隠蔽》を『3』に上げる。

「あれ、カズ起きてるの?」

「どうしたレラ?」

「おしっこ」

「トイレはそっちだそ」

「うん……」

「ほら、寝惚けてると漏らすぞ」

「わかってる……もん」

 うとうとしてるレラが用足しを済ませてベッドに戻るのを確かめると、カズは宿屋を後にして深夜の街を出て北西に走って向かった。


 街を離れると街灯も無いからやっぱ暗い。
 二つとも月は出てるが、魔素マナの濃いのか、そこまで明るくもないし、暗視スキルがなければ、10メートル先も見えないだろうな。
 マップに反応があった場所はもう少し先か。
 魔力反応が弱いからこっちはただのターマイトだから放置するとして、もう一度確認するか。


 カズは立ち止まり【マップ】を操作して、討伐対象のグラトニィ・ターマイトの反応を探した。
 現在地は材木の街ヒッコリーから、北西に約22キロ。


 宿で見た時より、3キロくらい南東に移動してる。
 このまま行くと、夜明けには街のすぐ近くまで着きそうだ。
 朝まで待たずに出て来て正解だったな。


 グラトニィ・ターマイトが移動する場所を把握したカズは、地面を強く蹴って進行を阻止すべく走る。
 所々で根が食いちぎられ、荒く食い残した雑木が、緑の葉を散らばしながら転がっているのを多く見かけた。
 残っていたのは枯れた雑木のみ。
 グラトニィ・ターマイトが通ったと跡だと如実に物語っていた。
 荒らした跡をたどって、カズは地中を移動するグラトニィ・ターマイトを追い越し、200メートル程先で停止する。

 カズは魔力感知で地中を移動するグラトニィ・ターマイトを狙い〈アースホール〉で直径50メートル深さ50メートルの大穴を作った。
 突如として空いた大穴に、数十体のグラトニィ・ターマイトが落下する。
 カズは大穴の中に向けて〈ファイヤーストーム〉を放った。
 炎が大穴内で渦巻き、落ちたグラトニィ・ターマイトを黒焦げにする。
 周囲の地中の温度も高温になった事で、残ったグラトニィ・ターマイトが熱から逃れ地面から這い出て来る。
 カズは即座に《分析》を使い、視界に入るグラトニィ・ターマイトのステータスを調べる。

 事前の情報では百五十体くらいだと聞いて、初手の攻撃で四十体以上を倒したのだが、残ったグラトニィ・ターマイト標的の数は二百数十体。
 しかも1メートル程と聞いていた大きさも個体により様々で、中には4メートルを超える個体も存在した。

「ルークにナイト……誰が名付けたんだ」

 通常のターマイトだけではなく、グラトニィ・ターマイトにもランクが付けられ、最上位は卵を生み数を増やす事の出来るクイーン。
 もしくは群れから離脱して新たな群れを作ったキング。
 最下位が最も数が多いポーン。

 現れた八割がポーンで1メートル前後。
 残った二割がルークとナイトで、大きい一体を守るように囲んでいる。
 見た目は蟻に似ているが、それはポーンとしょうされる個体だけで、他の個体は様々な特長をしている。
 ルークと名の付く個体は2メートル程あり、硬く重いその体は群の重要個体を守る頑丈な盾となり、数が集まるとまるで砦のよう。
 ナイトと名の付く個体はポーンより少し大きいくらいだが、鋭く研ぎ澄まされた刃物のような前脚と牙をしている。
 その二種のグラトニィ・ターマイトの中心部でカズを威嚇するのは、キングとしょうされる4メートルはあり一際ひときわ大きな個体。
 ルークと同じ硬い外皮をし、ナイトよりも大きく鋭い牙と前脚を持っていた。

 平均なレベルとランクはグラトニィ・ターマイト・ポーンがDで19。
 グラトニィ・ターマイト・ルークがCランクでレベル34。
 グラトニィ・ターマイト・ナイトがランクCでレベルが33。
 唯一のグラトニィ・ターマイト・キングがランクBでレベルが46。

 グラトニィ・ターマイト・キングが鋭く大きな前脚をカズに向けると、全てのグラトニィ・ターマイト・ポーンが大穴を迂回して、カズに敵意を向けて突き進み出す。
 二百近い数のグラトニィ・ターマイト・ポーンが地上で一斉に動き出した事で、ヒッコリーの街にも微かに聞こえる地響きが起きる。

「誰にも気付かれないように、静かに街を抜けて来たのに。この震動で誰かが偵察にでも来たら厄介だ」

 ぶつぶつと独り言を言ってる間に、大穴を左右から迂回して来たグラトニィ・ターマイト・ポーンが、すぐそこまで迫っていた。
 グラトニィ・ターマイト・キングは何やら指示をしているようであったが、カズの異世界言語のスキルでも、何を言っているのか解らなかった。
 やはり相手に対話の意思がなければ、理解は出来ないようだった。


 この群れがもし、エイト・タウンの方に雪崩れ込んでたらと思うとゾッとする。
 半日と経たずに住宅が全て食い荒らされ、住人は襲われ、あの若い冒険者達も殺されただろう。
 ヒッコリーに向かって来たのが不幸中の幸い……いや、多くの材木を扱うからヒッコリーを目指したのは必然か。
 レオラもそれを分かってて、来させたって事か?
 情報を得るためとはいえ、アレナリアの言うように、レオラの誘いに乗ったのは早計だったか?
 なんてこと考えてる場合じゃなかった。
 確か各種の特性を調べて、更に各種一体を回収しないとならないんだった。


 討伐条件を思い出したカズは、グラトニィ・ターマイト・ポーンの一体に〈ライトニングボルト〉を放って仕留め、即座にその死骸を【アイテムボックス】に回収する。
 その間にも無数のグラトニィ・ターマイト・ポーンが襲って来る。
 攻撃を避けながら一体目の回収を終えると、多くの魔力を使用して〈アイス・フィールド〉を広範囲に使う。
 カズの足元から瞬時に氷が放射状に広がり、攻めて来た全てのグラトニィ・ターマイト・ポーンを氷像へと変える。

「ふぅ……今度はこっちから攻めるか」

 カズは〈身体強化〉を使いジャンプして、そのまま〈フライ〉を使用し、大穴の反対側に集まるグラトニィ・ターマイトの所に向かった。
 カズが大穴の半分を過ぎると、グラトニィ・ターマイト・キングの合図でグラトニィ・ターマイト・ルークが積み重なり壁を作り、グラトニィ・ターマイト・ナイトは背中から羽を生やして飛び立つ。

「飛べんのかよ! もうシロアリじゃなくて、見た目蟷螂カマキリじゃないか(予想外だ。空中戦なんて殆どした事ないのに)」

 カズ目掛けて二十六体のグラトニィ・ターマイト・ナイトが、鋭い前脚を構えて四方八方から突撃を繰り返す。
 先程までと違い、慣れない空中での戦闘で、カズは防戦一方になる。
 攻撃を避けながら地上に向かおうにも、カズが居るのはまだ大穴の上、中間を少し過ぎた辺り。

「これじゃ埒が明かない。どうすれば……」
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