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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

456 材木の街ヒッコリーへ

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 一階下の部屋に戻るまでの間、アレナリアはレオラに対しての本音をカズに漏らした。

「あれで本当に帝国の皇女なの? ここまで付いて来ちゃったけど信用して大丈夫? 今ならまだ断れるんじゃない」

 信用する相手を間違ってるのではと、アレナリアは心配する。

「アレナリアの気持ちはわかるが、このまま手がかりもなく旅を続けてもだろ」

「それは、そうだけど……」

 皇女らしからぬ発言と行動力に、カズも不安が無いとは言えなかった。
 短期間で有益な情報が手に入る可能性があるならば、気兼ねなく接することが出来るレオラ権力者と友好を深めた方が良いと考えた。(カズの本心では、関わり合いになりたくはないが、今回は情報収集のため)
 相手は領主や貴族ではなく、その上の皇女であり守護者なのだから。

 ただ、不敬な態度は今まで通りレオラ個人前だけにしなければと、カズは自分に念を押した。
 場所を考えて対応しなければ、他の皇族や貴族に見られたら、不敬と叱責されかねなく、アレナリア、レラ、ビワの三人を危険にさらしてしまうため、賭けでもあった。

 ビワとレラの待つ部屋に戻り、レオラと話した内容を二人にも話した。
 一度レオラと離れる事で、常に緊張していたビワの気持ちを落ち着かせるには良い機会だと、カズは考えた。
 急に帝国の皇女が同行すれば、緊張して縮こまるのは至極当然。
 アレナリアとレラが動じないから、ビワが浮いた様に見えるだけで、本来ならビワのそれが正しい反応。

「見返りを考えれば、レオラの誘いに乗る価値はあるだろ」

「下手したら、その代償はとんでもないんじゃないの?」

「最悪帝国の皇族に睨まれたら、四人で帝国を脱出するさ」

「大陸中に手配されたらどうするの? それだけじゃなく、オリーブ王国にまで手配が回ったら」

「その場合は……そうさな、無人島でも探して、四人で生涯暮らそうかな」

「! 期限なんて必要なかったようね」

「何が?」

「だから、それはプロポーズと取って良いのよね?」

「待て待て……今のは最悪の場合の選択肢の一つだ(確かにプロポーズしてるように聞こえなくもない!)」

 慌てて否定するも、アレナリアは現実になる日も近いと確信した。
 救いはビワがアレナリアのように早合点しなかった事だった。

 高い宿屋だけに、風呂は無かったがシャワーはあった。
 就寝前に順番で汗を長し、サッパリとする。
 寝室にはベッドが二台あったが、何時ものごとく三人がベッドを使い、カズは二人掛けのソファーで寝ることに。
 アレナリアが四人で寝ればと誘って来るが、さらりと流してカズはソファーで横になった。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝レオラがカズ達の部屋に来ると「北に二時間程歩い先に、別の駅がある。ヒッコリーへはそっちの列車に乗って行った方が早い」と言い、レオラは先に宿屋を出て昨日降りた駅に一人で行ってしまった。
 朝から急な事で呆気に取られ、仕事が終わった後の事を、まだ聞かされてないと気付いたが遅かった。

 とりあえず朝食を済ませて、レオラに言われたもう一方の駅に向かった。
 商店や住宅が多く、冒険者らしき姿は見当たらない。
 依頼があるとしても、ランクの低い雑用仕事ばかりだろうと思われ、モンスターや盗賊が出るような雰囲気ではない。
 冒険者ギルドも近くにはないと思われた。
 気掛かりなのは、帝都中心部で冒険者としての仕事があるだろうかということだった。
 冒険者としてのあり方が、今までと違うのではと考えてしまう。

 などと一人で考えを巡らせてる間に、目的の駅に着いた。
 二等車の乗車券を買い、到着した魔導列車に乗って材木の街ヒッコリーを目指す。
 魔導列車に乗って一時間もすれば、心地好い揺れからレラとビワは眠ってしまった。
 アレナリアもうとうととし、今にも眠ってしまいそう。


 《 五時間後 》


 やっと入った帝都を離れて、西へと向かう逆戻りの魔導列車に揺られ、三つの街を通過して着いたのは材木の街ヒッコリー。
 街に入ると加工された新しい木の良い匂いが、列車の窓から香ってきた。
 駅を出ると木工品の店が、あちらこちらにあった。
 机だけや椅子だけを専門に作る店、はたまた箪笥たんすだけを専門に作る店。
 家具全般を作る店や、木製の食器を作る店など様々。
 形を変えたり彫刻を施したりと、それぞれの店独自の特長で、客の目を引いていた。
 やはり駅周辺は、街の特産品(材木の街ヒッコリーでは木工品)を売る店が多かった。

座布団クッションがあるとはいえ、こんなに長く乗ってると疲れるわね」

「ふあぁ~……本当だよ。疲れて頭がぼーっとする」

「それは単に寝過ぎなの。ビワを見なさい。レラと違って、あくびなんてしてないでしょ」

「ふぁ……ぇ! あ…あの……」

 レラに釣られビワもあくびが出たところに、三人の視線が注がれ、恥ずかしくなり下を向く。

「にっちっち。ビワもだって」

「この……恥ずかしがってないのビワ!」 

「ご…ごめんなさい」

「そこは、ごめんなさい。じゃなくて『私は関係ないでしょ!』とか言わなきゃ」

「あ、はい。ごめんなさい」

「だから、そんなに謝らない……もういいわ」

「無理矢理変えようとしなくてもいいだろ。アレナリアはアレナリアの、レラにはレラの、ビワにはビワの話し方があるんだからさ」

「……そうね。わかった」

 変わらないビワの物腰柔らか謙虚な性格に、言葉を崩すように言うのを、アレナリアは諦めた。

「先ずは宿探しよね。その次はギルド? それともギ…ンコだっけ? 探しに行く?」

「先にギルドのかな。その辺で場所を聞いて、緊急の討伐依頼が出てるか確かめよう。本当に出てるのか、出てたとしたら、何のモンスターなのか気になるし」

「改めて聞くと雑な仕事の説明よね。やっぱり本当に皇女なのか疑わしくなるわ」

「別にいいんじゃ。これが終われば、住む所とごはんに不自由しなくなるんしょ。皇女様ならマーガレットの所よりでっかい屋敷で、出される料理もきっと豪華なんだろうなぁ。にっちっち」

 豪華絢爛な食事が毎食出されることを想像するレラの口元からは、よだれが溢れ出てきていた。

「妄想するのは勝手だが、期待が大きいと後でがっかりする事になるぞ」

「その辺の店で出す料理より高級なのは間違いないっしょ」

「それはどうかしらね。あの性格のレオラが、食事の作法をまもってるところなんて想像できないわ」
 
「ヒドい言われようだな。気持ちはわかるが(自宅でも分厚い肉をガッツリ食べてそう)」

 レオラのうわさ話をしながら歩き、宿泊する宿屋を決める。
 前日レオラに案内された宿屋には、風呂は無かったものの、珍しくシャワールームがあった。
 この街でもシャワールーム付きの部屋がある宿屋があると知り、ちょっと贅沢をして少し高めの宿屋に入った。

「長い時間列車に乗って疲れたろ。ギルドには俺一人で行ってくるから、三人は休んでてよ」

「だったら私達はギンコって店を探すわ。今日に今日討伐に向かうわけじゃないでしょう」

「それは出されてる依頼を見ないと。連絡用の店探しは頼むよ。一休みしてからで良いからさ」

「了解」

「ビワは大丈夫? 疲れてない?」

「大丈夫です」

「ねぇカズ、あちしには?」

「レラは寝過ぎで疲れてるんだろ。動いて頭をシャキッとさせないと、夜寝れなくなるぞ」

「やっぱしあちしだけに厳しい」

「とりあえず今日は店を探すだけでいいから。あとはのんびりしててくれ。俺はギルドに行って来る」

「わかったわ」

「いってらっしゃい。カズさん」

「いってら~」

 三人と一旦別行動することにし、カズは一人で冒険者ギルドに向かった。

 宿屋から歩いて十五分程でギルドに着き、すぐに依頼書が貼ってある掲示板の所に行き、緊急の討伐依頼を探した。

「あれ? 緊急の討伐依頼なんてないぞ(ここに来るまでに終わったのか? だったら行けなんて言わないか)」

 出されてもない緊急の討伐依頼を、受付で聞くのも変だと思い、一旦ギルドを離れ、カズも路地裏を歩いてギンコという店を探した。
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