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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

452 お仕置きのシリピン

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 小さな書店を見つけ足を止める。
 そこは最初に回った数軒とは違い、しっかりと本を棚に陳列してあり、古書は店の奥に並べてあった。
 店に客は居ないが、年配の店主が一人椅子に座り、本を読んでいるのが見えた。
 カズは店に入り、並べられた本を物色する。
 棚に並べてある本を【マップ】越しに見て、付けて来ている者の行動に注意した。
 表示された色からして敵意はないようだが、それが逆に不気味だった。

 五分程すると、付けて来ていた者が店の中へと入って来た。
 視界の端に入ったのは、頭からスッポリとフード付きの外套マントで姿を隠した人物。
 カズは視線を店の奥に向け、入って来た人物から顔を背けた。
 その人物は迷う事なくカズの後ろまで来て足を止めた。
 やはり殺気もなければ敵意もない。
 すぐ後ろまで近づいて来たので、カズは意を決して振り向こうとしたとき、その人物が声を掛けて来た。

「もうアタシに気付いてるだろ?」

  付けて来た声の主は女性。
 カズはその声に聞き覚えがあった。
 が、それが何処でかは、今一つ思い出せない。


 《 三時間前 》


 カズが一人で出掛けてから一時間程して、三人は宿屋を出て冒険者ギルドに向かった。
 アレナリアの経験上から、ギルドが空くであろう時間帯に着くよう見計らって。
 宿泊している宿屋を出てから二十分程歩き、ギルドに到着する。

 アレナリアの予想に反して、ギルドに来ている冒険者は多かった。
 だが建物内はとても静か。
 その理由はギルド内にも本が大量に置いてあり、皆それを読んでいるからだった。
 一階は受付になっており、二階の壁には棚が多く作られ、本が数百冊は並べてあった。
 棚の上には『獣・モンスター』『鉱石』『植物』『手配書』など、依頼を受ける際に役に立つ本が、分類別に分けて置かれている。
 こういった情報が書かれた本は、ギルド職員に頼んで見せてもらうのだが、ここではギルドカードを持っているだけで、誰でも閲覧出来るようになっていた。
 
 三人は依頼書が貼ってある掲示板を見に行き、カズに言われた内容の依頼があるかを探そうとしたが、依頼書は数枚しか貼ってなかった。
 その理由は掲示板の隅の書かれていた。
 掲示板に貼り出されてる依頼書は二、三日中に来た新しい依頼で、古い依頼書は二階に移動されているらしい。
 三人は二階に上がり『依頼書』と書かれた棚の所に移動すると、依頼書が束ねられたファイルが棚に並べられていた。
 一冊に依頼書が三十枚程じてあり、それが十数冊あった。

「思った以上に多いわね。手分けして探しましょう」

「そうですね」

「また調べもの。あちしもう、本は見なくていい」

「ならそうカズに言っておくわよ。わかっていると思うけど、働かなければ、夕食後のプリンお楽しみは無し」

「はう! ……わかったよぉ。もう」

 面倒臭がるレラを、アレナリアはプリンで釣って手伝わせる。
 すぐに飽きたレラは、周りの冒険者達に目を移し、何を見ているか気になり、こっそりと覗いた。

 三人と同じく、依頼書のファイルを見ている人物が二人。
 足元まである長いコートを着た長身の優男、見た目二十歳前後の新人らしき軽装の細い男性冒険者。
 帝国内で採取可能な鉱石が、イラスト付きで書かれている本を見ているドワーフ。
 手配書が束ねられたファイルを見る、柄の悪そうな三人の男。(この場所を使っているのだから、一応は冒険者なのだろう)
 他には女性ギルド職員の趣味なのだろうか、棚の一部には化粧や装飾品や衣服などの新しいファッション誌が置いてあり、それを見る若い女性が数人。(こちらも冒険者とは思えぬ格好をしていた)

 アレナリアとビワが真面目に依頼書を見ている間に、二階で本を閲覧する人達は入れ替り、その都度暇潰しと、レラはこそこそと覗き見しては、アレナリアとビワに注意されていた。
 幸いな事に、覗き見していた相手らには、煙たがれたり怒られたりする事なかった。
 もしかしたらレラはこの旅の間に、気配を消す能力スキルを得たのかと、勘違いしそうになる。
 が、ただ単に、小人の子供に見えているレラを、邪険にするようなひとが居なかっただけのこと。

「出されてる依頼はこれだけのようね」

「カズが言ってた依頼あったの?」

「それらしいのは幾つかあったわよ。でもね……」

「でも?」

「その話は後にしましょう。そろそろ宿に戻らないと」

「思ったより時間が掛かりましたね」

「ねえ、でもって?」

「ええ。昼前に調べ終わったのは良かったわ。さぁ行きましょう」

「でもって、何ってばさぁ」

「騒がないの。宿に戻りながら話してあげるわよ」

 棚に置かれていた依頼書を一通り見終えると、騒ぐレラを黙らせて、カズと合流する時間に間に合うように近くに、三人はギルドを出て宿屋に戻って行った。


 カズが戻るまで空腹に耐えるレラだったが、宿屋に戻ってから三十分以上待ち、流石に我慢が出来なくなってきていた。

「ねぇ、カズ遅くない? 自分からお昼に宿ここで。って言ってたのに」

「もう少し待ちましょう。カズさんが約束破るなんて思えない。ちょっと遅れてるだけよ」

「私もそう思う……けど、本当に遅いわね。カズなら相手を待たせるくらいなら、先に来て待ってる考えのはずなんだけど」

「もう先にごはん食べようよ。なんか作ってビワ」

「どうします? アレナリアさん」

「何か、ちょっと摘まめそうなのある?」

「カズさんが居ないので、何も。買いに行きませんと」

「お腹空いた。お腹空いた。お腹空いたァ!」

 空腹だと騒ぐレラが五月蝿くて、アレナリアは耳を塞いだ。

「仕方ないわね。何か買って来るから待ってなさい」

「でしたら、私が行ってきます」

「変なのが出て来てたら、ビワじゃ何も出来ないでしょ。近場で買うからすぐに戻るわ」

 アレナリアは椅子から立ち上り、オーバーコートを羽織って食べ物を買いに出ようとする。

「あ、買って来るなら、カズが戻るまで待ってる。ここの食べ物って、微妙なんだよね」

「はあ?」

 わざわざレラだけの為に食べ物を買いに行こうと準備したアレナリアを、味が好みじゃないから必要ないと、アレナリアの誠意を無下にするレラ。
 通常状態に戻っていたアレナリア態度が怒りへと傾き、指でペチンとレラのお尻を弾く。
 デコピンならぬ、尻ピン。

「痛った! 何すんの!」

「ギルドではろくに手伝わない。お腹が空けばすぐに騒ぐ。更には私の好意を邪険にして。小さな子供じゃないんだから、いい加減我慢を覚えなさい!」

「う…うぇ~ん。アレナリアがぶったぁ~」

 レラはビワの胸に飛び込み甘える。

「アレナリアさん叩いたら駄目ですよ。レラのわがままは、いつもの事なんですから」

「だからレラにはこういったお仕置もたまには必要。それに、そんなに強くはしてないわよ。ほら」

 ビワが庇ってくれてる間、レラはちらちらとアレナリアの顔色を伺っていた。
 それをビワに分からせるのに、アレナリアはタイミングを見計らい、ビワに抱き付き泣くレラを指差した。
 っは、としたレラは、ビワの胸に顔を埋めた。

「うぇ~ん。アレナリアがおこ……」

 抱き付き再度泣き出すレラを、アレナリアがビワから引っがした。

「あ……」

 アレナリアによって引き剥がされたレラの顔を見ると、そこには一滴の涙も流れた跡はない。

「嘘泣きだったのね……」

「あやや、バレちゃったか……ごめんちゃい。てへ」

 レラは片目を閉じてペロリと舌を出し『可愛いあちしを許して』と、言わんばかり態度を取る。
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