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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って
451 花の街 と 本の街
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◇◆◇◆◇
「それじゃ私は、ビワと一緒に依頼に行って来る」
「街の北側にある農場の手伝いだっけ?」
「はい。アレナリアさんも一緒に受けてくれたんです。依頼に慣れるまではって」
「ビワのこと頼むアレナ…」
「言われなくてもわかってる。そっちはレラをしっかり見ておきなさい。甘やかして、レラだけに美味しいもの食べさせたら許さないわよ」
「わ、わかった(ちょっと機嫌悪いかな?)」
朝食を済ませた後、アレナリアとビワは昨日受けた依頼に行き、カズはレラを連れて、自分が受けた依頼先に向かった。
短時間で報酬の良い運搬依頼を選び、着いた依頼先は、出荷する野菜を貨物専用の駅に運搬する依頼。
帝国でもアイテムボックスを使用出来る者が、簡単な運搬の依頼を受けるなんてのは滅多にある事ではないらしく、カズが出荷する大量の野菜を瞬時に消した(アイテムボックスに収納した)のを見て、依頼主は商品が無くなったと急に激怒した。
アイテムボックスを出来ると説明し、農場の従業員に確認してもらうため、一緒に貨物用の駅に同行してもらった。
駅に着き、収納した野菜を出して確認してもらってから、到着した運搬用の魔導列車に積み込んだ。
予定より時間が掛かってしまったが、信用された事で、街に滞在する間は指名させてもらうと言われた。
嬉しくもあったが、長くは滞在しないので、もう一度来るかどうかというところだろう。
遅くなってしまい時間は既に昼、レラと適当な店で昼食を取り、午後は色々な店を見て回り、野菜の買い集めた。
と言っても、アレナリアとビワの意見も聞かなければならなかったので、ジャガイモ、玉葱、キャベツ、人参などの、よく使いそうな野菜だけを買い、ギルドで運搬依頼の報酬を受け取り、帝都までに通る街の情報を聞いてから宿屋に戻った。
カズとレラが宿屋に戻ってから数十分すると、アレナリアとビワが依頼を終わらせ、ギルドで報酬を受け取り宿屋で待つ二人の元に戻った。
翌日も同様二手に別れて依頼をこなし、翌々日はアレナリアの機嫌も良くなったので、朝から四人で野菜と果物などを買う。
下拵えだけしてある肉を使い、料理を仕上げてしまう予定だったが、結局出来ずじまいになってしまった。
そして次の日に到着した魔導列車に乗り、農作の街ウエスト・ファームを離れた。
魔導列車は帝都に向けて、分岐した線路を東方面へ進む。
草原から様々な花が咲く景色へと変わり、フローラルな香り辺りを包み込み、花の街『スプリング・リース』に入った。
駅構内にも様々な花が飾られ、とても美しいホームだった。
街の特産物は花以外には蜂蜜がある。
見慣れぬ者が養蜂している花畑に入ると刺される事から、街にある半分以上の花畑は、働いてる者達しか入ることが出来ない。
多くの種類の花から取れる蜂蜜は、ハーブティーや料理などに合わせて使うことができ、帝都の飲食店や、特に豪商や貴族に需要がある。
蜂蜜はまだ多く残っていたので、花の街で降りることはせず、一行は先をスプリング・リースを通過した。
ウエスト・ファームの冒険者ギルドで聞いた情報によると、次に着く本の街『キルケ・ライブラリー』を過ぎると、帝都『テクサイス』に到着する。
しかし様々な書籍が集まる街を通過ことは出来ない。
そこでならフェアリーに関する本や、ビワの生れた場所に関することが書かれている書物がある可能性が高いからだ。
なので帝都に入る前に、本の街キルケ・ライブラリーで少しの間滞在する事にした。
そして本の街で降り、駅を出て先ずは宿屋を探す。
その後四人で本屋や図書館を見て回った。
三日間探したが妖精に関するものは、吟遊詩人が詩いそうな物語や、小さな子供向けの絵本ばかり。
漫画は無いが、挿し絵が入った小説はある。
魔法に関する本はあるが、安価なのは誰でも使えるような生活魔法に関するもの。
冒険者が使うような属性魔法が記載されてる本もありはしたが、そうやすやすと手は出せない高価格。
帝国より東の国に関する地理的なものも見かけることはなく、図書館でも同様の結果だった。
奴隷商に関することが書かれているものも調べたが、役に立ちそうな情報は無かった。
カズ達に取って有力な情報が書かれているであろう書物は、簡単に閲覧出来る場所には置いてないようだった。
「表通りの大きな本屋じゃ駄目だな。裏通りの小さな本屋や露店なら、掘り出し物があるかも知れない」
「大きな書店だと、新しい本が殆どでしたね」
「本の街と言うだけあって、毎日新しい本が多くの製造されてるんだろう」
「古い書籍は街に幾つもある図書館に所蔵してあるみたいだけど、今の私達じゃ見ることは出来ないわね」
「どうします? ここで本を探すのやめて、帝都に行きますか?」
「あちしはその方が良いかな。新しい本の匂いは良いけどさあ、古い本が置いてある図書館はもう嫌だよ。臭いんだもん」
「確かに今日行った図書館は、少し埃っぽくてカビ臭かったな」
「もうあちし行かないからね」
「わかったよ。裏通りの店には俺一人で見に行く。アレナリアは二人とギルドに行って、依頼を見て来てほしい」
「いいけど、報酬が高い依頼を探すの?」
「報酬じゃなくて、依頼内容を見て来てくれ。俺達が探してるのと、同じ様な情報が書いてある本を探してる依頼があるかを」
「なんで? あちし達も依頼を出すのに、他より報酬を高くするため?」
「いや。もしそういった依頼があれば、その依頼主は似たような情報が書かれた本を、少なからず持ってる可能性があると思ってさ」
「なるほどね。図書館や売ってる本から探すんじゃなくて、個人の方から探すのね」
「そういうこと。この街全ての本を調べるのは無理だからな」
「わかった。明日はビワとレラの三人でギルドに行くわ。可能性は低いけど、探してみる価値はありそうね」
「今日もプリン出してよ。あちしも手伝ったんだからね」
「わかってる(働いたから報酬としてプリン欲しいって言うが、半分はレラの為に調べてるってのを、忘れてるんじゃないのか?)」
「では、夕食の支度をしますね」
カズが食材を出し、ビワが調理をする。
本の街キルケ・ライブラリーに着いてから食事は、宿屋で取るようにしていた。
理由としては、この街にある飲食店の味は微妙だったから。
レラが甘いものが食べたいと騒ぐ前に、畜産の街グレイジングで作り溜めたプリンを夕食後に出すようにしていた。
だが「あれだけ働いたんだから一個じゃ足りない」と、結局騒いだのは言うまでもなかった。
◇◆◇◆◇
朝も昼も夜も一日通して、本の街はとても静か。
漫画や小説を読んでいたカズ、ギルドの資料室で一人書類仕事をしていたアレナリアの二人は、紙とインクの匂いは嫌いではない。
ビワも屋敷で働いていた時に、料理本やマーガレットから薦められた本を読んでいた事があり、様々な本があるこの街は嫌いではなかった。
ただやはり、保管方法の悪い古書のカビ臭さには、レラだけではなくアレナリアもビワも参っていた。
カズもまた然り。
「昼になったら一度宿に戻るよ」
「私達もそうする。その時にギルドでの情報を話すわ。昨日言われた依頼があったら受けておいた方がいい?」
「とりあえず、依頼内容だけ知ることが出来ればいい。受けるかは聞いてから決める。それとコートは着てくようにしてくれ。あれには三人を守る為の、最低限の付与をしてあるんだから」
「わかったわ」
「じゃあ昼に宿屋で」
一人先に宿屋を出たカズは、今まで足を踏み入れなかった路地裏の小さな書店に向かった。
店の中には天井まで山積みにされた本が、今にも崩れそうになっていた。
埃が溜まり、店の奥はカビ臭い。
ボロボロになり、本だかゴミだが区別のつかない物まであった。
似たような店を数軒見て回ったが、手に取るような物はなかった。
売り物を雑に扱い、よく商売が成り立つものだとカズは思った。
路地裏から場所を変えて、今度は建物の地下にある店を見て回る。
さっきまでの店と同じ様に、本が山積みされていたが、カビ臭さは殆どなかった。
埃っぽさはあるが、ボロボロになってる本はなく、背表紙のタイトルもしっかりと分かる。
幾つか手に取り軽く目を通すが、目的の情報が書かれてる本はなかった。
三軒目に入った地下二階の店で、スクロールを見つけた。
古い物のようで少し期待したが、内容はただの恋愛小説だった。
隣に同じタイトルの本が置いてあったので、おそらくはスクロールが初版で、本が再販といったところだろう。
あと一軒見たら時間的に、宿屋に戻らなければならないのだが、前の店を出た所から、尾行されているのにカズは気付いた。
他のお客が居るからなのか、店の中までは入って来ない。
が、外で隠れて出て来るのを待っているのは【マップ】で確認済み。
接触してくる事を考えて、カズは地下二階の店を出ると、路地裏に移動した。
「それじゃ私は、ビワと一緒に依頼に行って来る」
「街の北側にある農場の手伝いだっけ?」
「はい。アレナリアさんも一緒に受けてくれたんです。依頼に慣れるまではって」
「ビワのこと頼むアレナ…」
「言われなくてもわかってる。そっちはレラをしっかり見ておきなさい。甘やかして、レラだけに美味しいもの食べさせたら許さないわよ」
「わ、わかった(ちょっと機嫌悪いかな?)」
朝食を済ませた後、アレナリアとビワは昨日受けた依頼に行き、カズはレラを連れて、自分が受けた依頼先に向かった。
短時間で報酬の良い運搬依頼を選び、着いた依頼先は、出荷する野菜を貨物専用の駅に運搬する依頼。
帝国でもアイテムボックスを使用出来る者が、簡単な運搬の依頼を受けるなんてのは滅多にある事ではないらしく、カズが出荷する大量の野菜を瞬時に消した(アイテムボックスに収納した)のを見て、依頼主は商品が無くなったと急に激怒した。
アイテムボックスを出来ると説明し、農場の従業員に確認してもらうため、一緒に貨物用の駅に同行してもらった。
駅に着き、収納した野菜を出して確認してもらってから、到着した運搬用の魔導列車に積み込んだ。
予定より時間が掛かってしまったが、信用された事で、街に滞在する間は指名させてもらうと言われた。
嬉しくもあったが、長くは滞在しないので、もう一度来るかどうかというところだろう。
遅くなってしまい時間は既に昼、レラと適当な店で昼食を取り、午後は色々な店を見て回り、野菜の買い集めた。
と言っても、アレナリアとビワの意見も聞かなければならなかったので、ジャガイモ、玉葱、キャベツ、人参などの、よく使いそうな野菜だけを買い、ギルドで運搬依頼の報酬を受け取り、帝都までに通る街の情報を聞いてから宿屋に戻った。
カズとレラが宿屋に戻ってから数十分すると、アレナリアとビワが依頼を終わらせ、ギルドで報酬を受け取り宿屋で待つ二人の元に戻った。
翌日も同様二手に別れて依頼をこなし、翌々日はアレナリアの機嫌も良くなったので、朝から四人で野菜と果物などを買う。
下拵えだけしてある肉を使い、料理を仕上げてしまう予定だったが、結局出来ずじまいになってしまった。
そして次の日に到着した魔導列車に乗り、農作の街ウエスト・ファームを離れた。
魔導列車は帝都に向けて、分岐した線路を東方面へ進む。
草原から様々な花が咲く景色へと変わり、フローラルな香り辺りを包み込み、花の街『スプリング・リース』に入った。
駅構内にも様々な花が飾られ、とても美しいホームだった。
街の特産物は花以外には蜂蜜がある。
見慣れぬ者が養蜂している花畑に入ると刺される事から、街にある半分以上の花畑は、働いてる者達しか入ることが出来ない。
多くの種類の花から取れる蜂蜜は、ハーブティーや料理などに合わせて使うことができ、帝都の飲食店や、特に豪商や貴族に需要がある。
蜂蜜はまだ多く残っていたので、花の街で降りることはせず、一行は先をスプリング・リースを通過した。
ウエスト・ファームの冒険者ギルドで聞いた情報によると、次に着く本の街『キルケ・ライブラリー』を過ぎると、帝都『テクサイス』に到着する。
しかし様々な書籍が集まる街を通過ことは出来ない。
そこでならフェアリーに関する本や、ビワの生れた場所に関することが書かれている書物がある可能性が高いからだ。
なので帝都に入る前に、本の街キルケ・ライブラリーで少しの間滞在する事にした。
そして本の街で降り、駅を出て先ずは宿屋を探す。
その後四人で本屋や図書館を見て回った。
三日間探したが妖精に関するものは、吟遊詩人が詩いそうな物語や、小さな子供向けの絵本ばかり。
漫画は無いが、挿し絵が入った小説はある。
魔法に関する本はあるが、安価なのは誰でも使えるような生活魔法に関するもの。
冒険者が使うような属性魔法が記載されてる本もありはしたが、そうやすやすと手は出せない高価格。
帝国より東の国に関する地理的なものも見かけることはなく、図書館でも同様の結果だった。
奴隷商に関することが書かれているものも調べたが、役に立ちそうな情報は無かった。
カズ達に取って有力な情報が書かれているであろう書物は、簡単に閲覧出来る場所には置いてないようだった。
「表通りの大きな本屋じゃ駄目だな。裏通りの小さな本屋や露店なら、掘り出し物があるかも知れない」
「大きな書店だと、新しい本が殆どでしたね」
「本の街と言うだけあって、毎日新しい本が多くの製造されてるんだろう」
「古い書籍は街に幾つもある図書館に所蔵してあるみたいだけど、今の私達じゃ見ることは出来ないわね」
「どうします? ここで本を探すのやめて、帝都に行きますか?」
「あちしはその方が良いかな。新しい本の匂いは良いけどさあ、古い本が置いてある図書館はもう嫌だよ。臭いんだもん」
「確かに今日行った図書館は、少し埃っぽくてカビ臭かったな」
「もうあちし行かないからね」
「わかったよ。裏通りの店には俺一人で見に行く。アレナリアは二人とギルドに行って、依頼を見て来てほしい」
「いいけど、報酬が高い依頼を探すの?」
「報酬じゃなくて、依頼内容を見て来てくれ。俺達が探してるのと、同じ様な情報が書いてある本を探してる依頼があるかを」
「なんで? あちし達も依頼を出すのに、他より報酬を高くするため?」
「いや。もしそういった依頼があれば、その依頼主は似たような情報が書かれた本を、少なからず持ってる可能性があると思ってさ」
「なるほどね。図書館や売ってる本から探すんじゃなくて、個人の方から探すのね」
「そういうこと。この街全ての本を調べるのは無理だからな」
「わかった。明日はビワとレラの三人でギルドに行くわ。可能性は低いけど、探してみる価値はありそうね」
「今日もプリン出してよ。あちしも手伝ったんだからね」
「わかってる(働いたから報酬としてプリン欲しいって言うが、半分はレラの為に調べてるってのを、忘れてるんじゃないのか?)」
「では、夕食の支度をしますね」
カズが食材を出し、ビワが調理をする。
本の街キルケ・ライブラリーに着いてから食事は、宿屋で取るようにしていた。
理由としては、この街にある飲食店の味は微妙だったから。
レラが甘いものが食べたいと騒ぐ前に、畜産の街グレイジングで作り溜めたプリンを夕食後に出すようにしていた。
だが「あれだけ働いたんだから一個じゃ足りない」と、結局騒いだのは言うまでもなかった。
◇◆◇◆◇
朝も昼も夜も一日通して、本の街はとても静か。
漫画や小説を読んでいたカズ、ギルドの資料室で一人書類仕事をしていたアレナリアの二人は、紙とインクの匂いは嫌いではない。
ビワも屋敷で働いていた時に、料理本やマーガレットから薦められた本を読んでいた事があり、様々な本があるこの街は嫌いではなかった。
ただやはり、保管方法の悪い古書のカビ臭さには、レラだけではなくアレナリアもビワも参っていた。
カズもまた然り。
「昼になったら一度宿に戻るよ」
「私達もそうする。その時にギルドでの情報を話すわ。昨日言われた依頼があったら受けておいた方がいい?」
「とりあえず、依頼内容だけ知ることが出来ればいい。受けるかは聞いてから決める。それとコートは着てくようにしてくれ。あれには三人を守る為の、最低限の付与をしてあるんだから」
「わかったわ」
「じゃあ昼に宿屋で」
一人先に宿屋を出たカズは、今まで足を踏み入れなかった路地裏の小さな書店に向かった。
店の中には天井まで山積みにされた本が、今にも崩れそうになっていた。
埃が溜まり、店の奥はカビ臭い。
ボロボロになり、本だかゴミだが区別のつかない物まであった。
似たような店を数軒見て回ったが、手に取るような物はなかった。
売り物を雑に扱い、よく商売が成り立つものだとカズは思った。
路地裏から場所を変えて、今度は建物の地下にある店を見て回る。
さっきまでの店と同じ様に、本が山積みされていたが、カビ臭さは殆どなかった。
埃っぽさはあるが、ボロボロになってる本はなく、背表紙のタイトルもしっかりと分かる。
幾つか手に取り軽く目を通すが、目的の情報が書かれてる本はなかった。
三軒目に入った地下二階の店で、スクロールを見つけた。
古い物のようで少し期待したが、内容はただの恋愛小説だった。
隣に同じタイトルの本が置いてあったので、おそらくはスクロールが初版で、本が再販といったところだろう。
あと一軒見たら時間的に、宿屋に戻らなければならないのだが、前の店を出た所から、尾行されているのにカズは気付いた。
他のお客が居るからなのか、店の中までは入って来ない。
が、外で隠れて出て来るのを待っているのは【マップ】で確認済み。
接触してくる事を考えて、カズは地下二階の店を出ると、路地裏に移動した。
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