人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

450 伝わり始めた情報

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 《 二時間程前 》


 魔導列車を降りた一人男性が、住宅の町エイト・タウンの小さな冒険者ギルド支部に入り、馴れた口調で職員に挨拶をする。
 突如としてギルド支部に入ったのは、職人の街クラフトの冒険者ギルドに行っていた支部長。
 前線を退いたが、現役のBランク冒険者ではある。
 家庭を持ち、家族とこのエイト・タウンウッド・タウンに住むようになった事で、モンスター討伐や遠出をする依頼をしなくなった。
 二年程前にギルドを仕切っていた前支部長が辞める事になり、推薦されて現支部長の地位に着くようになった。
 家庭を持ち家族を養うのに、収入の浮き沈みが激しい冒険者より、安定した給金が入るギルドの仕事は願ったりかなったりだった。
 一線を退いた冒険者にとっては尚更。

 数日ぶりに戻って来た早々、ギルドから町の兵士に対して抗議すると聞き、作成した書類を女性職員から受け取り、その内容に目を通した。

「書類に記載した通り、外壁に作られた扉を若い三人の冒険者が兵士の隙を見て、外に出てしまうという事があり、これを作成しました」

「わかった。抗議して改善を求めよう」

「宜しくお願いします」

「それで、三人の処分はどうした?」

「今までの功績を全て剥奪し、ランクをFに落として、ギルドへの出入りを一ヶ月禁止としました」

「それで良いだろう。これで冒険者を辞めるか、反省して一からやり直すかは本人達次第」

「それとこれは、今回討伐依頼を受けてくれた冒険者の方から言われたのですが、モンスターの討伐を出来る職員を、支部長以外に一人二人は居るべきだと」

「そうだな。オレが留守にしてる時に、今回のような事がまた起きたらと考えると、やはり必要か」

「はい」

「小さなギルド支部だと、実力のある職員を回してくれないんだが、一度クラフトのギルドに頼んで見よう」

「お願いします。今回〝ユウヒの片腕〟というパーティーが来なければ、わたし達職員がギルドを閉めて、三人で行かなければならないところでした」

「……今なんと言った?」

「ですから、わたし達職員が三人で、スパイクアントの討伐に行かなければならない事態になるところだったと」

「そうじゃない。パーティー名はなんと言ったと聞いてる?」

「〝ユウヒの片腕〟という四人のパーティーですが。それがどうかしましたか?」

「それは人族の男一人に、小さなエルフと獣人と小人の女三人か?」

「男と人はよく覚えてませんが、そうだと思います」

「名前は覚えてるか?」

「エルフの方は、アレナリアさんという方でした」

「マジか……」

 支部長は右手をあごに当て、眉間にシワを寄せて考え事をする。
 その様子を見た女性職員は不思議に思い、黙っている支部長に声を掛けた。

「あのパーティーの方々がどうかしたんですか? もしかして手配されてたり」

「ん? いや、違う。クラフトのギルドで聞いたんだが、バイアステッチで手配されてた暗殺者が捕らえられたらしい」

「はあ。それとなんの関係が?」

「その暗殺者を捕らえたのが〝ユウヒの片腕〟だと聞いた。それと大峡谷に現れたワイバーンを、アレナリアというエルフが討伐したとも」

「そんなスゴいパーティーなんですか!? あれ? でもパーティーランクはCだったような……?」

「パーティー登録をして、まだ日が浅いからだろう。あとこれは未確認だが、クラフトにある鉱山のダンジョンに住み着いた大百足の変異種を、カズという冒険者が一人で討伐したらしい」

「そのモンスターは強いんですか?」

「オレは詳しく知らんが、当初はAランク以上のパーティーでないと、討伐出来ないんじゃないかって事だったと聞いた。ただ証拠となる物が発見されてないから、そこまでの脅威じゃなかったんだと、話は落ち着いたようだが」

「〝ユウヒの片腕〟のパーティーと、そのダンジョンに住み着いた変異種モンスターが、何か関係してるんですか?」

「何を言ってるんだお前は?」

「は?」

「〝ユウヒの片腕〟全員のギルドカードを確認しなかったのか?」

 支部長と職員は、それぞれ相手の言っている事と噛み合ってないのに気付き、女性職員はアレナリアが依頼を聞きに来たところから話し始めた。

「元々はビワさんとレラさんという、Eランク二人のギルドカード更新をする依頼だったんです。アレナリアさんが自分のギルドカードを提示して、二人に適した依頼を聞いてきた時にBランクだと知って、こちらから急な討伐依頼を頼んだんです」

「その時に話しはしなかったのか?」

「男の方は離れていたのでしませんでした。なのでギルドカードも確認はしてません」

「よりによって一番知りたい奴の名前がわかんとは」

「す、すみません」

「ハァー……」

 支部長の中年男性は額に手を当てると、ため息をして項垂うなだれた。

「いや、責めたようで悪い。この町に寄る冒険者なんてのは、魔導列車に乗らず来た連中が殆んどだ。Bランクの冒険者なんてのは年に一度来るかどうか。確認しなくても仕方ない。これからはパーティーを組んでいる事がわかったら、一人でも依頼を受けに来ても、全員のギルドカードもしくは名前とランク聞いて、登録と合っているか確認をしてくれ。こんな小さな支部だと、後々面倒になりかねんからよ」

「職員全員に通達して、このギルド支部の決まりとします」

「頼む。それと転送魔法の準備をしてくれ。ここを通過したとなると、早く先のギルドに知らせた方が良いだろから、クラフトのギルドに書類を送る」

「わかりました。でも不便ですね。クラフト以外のギルドに転送できないなんて」

「それを言うな。小さな支部だから、管理してるクラフトのギルド伝でないと、転送に使う魔力が足りないんだ」

「貧乏ギルドですもんね」

「ハッキリ言うな。ギルドが請け負う依頼が、この町では少ないんだ。経費がかさむと、いつ畳む事になるかわからぞ」

「悪い冗談はよしてください。この町で仕事探すの、大変なのわかってますよね」

「だからそうならないように、クラフトのギルドまで出向いてるだろ」

「わたしが老後苦労にしないような、良い男優良物件見つけるまでは、ギルドを続けてくださいよ」

「そう欲を出すと、年老いても独り身のままだぞ」

 二十代半ばを過ぎた女性に対して、禁句とも言える言葉を発した支部長を、女性職員は威嚇をするオーガのごとき形相になり睨み付けた。
 自分が言ってはならない事を口にしたと理解した支部長は、直ぐ様訂正しようとする。
 が、一歩遅かった。

「ええ、そうですよ! こんな小便臭い冒険者しか来ないギルドで仕事をしても、良い出会いなんてありませんもんねッ! 今日仕事が終わったら、支部長の奥さんに良い男と出会うコツを聞かせてもらいます。もちろん、こんな話をする切っ掛けになった事もッ!」

「お、おい! ちょちょっ、待っ」

「失礼します! 書類を送る準備は御自分でどうぞ!」

 支部長室の扉をバタンと思いっきり閉め、女性職員は自分の仕事に戻って行った。

「やっちまった……」

 女性職員が本当に妻に話したらと考え、頭を抱える支部長。
 下手に弁解しようとすると、経験上から悪化すると感じ、自分のした事を素直に受け止めて怒られる覚悟した。
 今まで話していた〝ユウヒの片腕〟のことなど忘れ、どう妻に顔を合わせるかが、脳内を巡っていた。
 この事で〝ユウヒの片腕〟が既にエイト・タウンを通過した情報を送るのが数日遅れる事になった。

 支部長が仕事を終えて家に戻ると、妻に怒られてお説教されたのは言うまでもない。


 《 四時間後 》


 カズ達が乗った魔導列車が、農作の街ウエスト・ファームに到着した。
 ウエスト・ファームの駅を出て宿泊する宿屋を決めて、その足で冒険者ギルドに行く。
 掲示板に貼ってある依頼書を見て、滞在する間に出来る依頼をそれぞれ受けて、この日は宿屋に戻り、話し合って翌日からの予定を立てた。 
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