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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って
448 覚悟 と期限 と 正念場
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顔には届かないからと、カズの腹部目掛けて力を込めた拳を繰り出し、自分が悪いんだと思っているカズは、素直に痛みを受け入れることにした。
そしてアレナリアの拳は深くカズの腹部に減り込み、カズは膝から崩れ落ち──なんて事になり、ビワが介抱したりでもしたら、完全に自分の八つ当たりになってしまうからと、力を込めた拳を引っ込めアレナリアは我慢した。
「期限…そう、せめて期限を決めて。レラの故郷探しと、ビワの記憶と生まれた場所探しの両方が終わるまで待ってたら、いつになるか。それに後回しにしてるけど、カズだって元の世界に戻る方法を探してるんでしょ!」
アレナリアはビシッと右手の人差し指をカズに向けて突き立てる。
「確かに戻りたい自分もいるが、諦めてる自分もいる。どちらかと言えば元の世界は……」
ふと、昔の事を思い返すカズ。
「……今は、こちらの世界で暮らそうという考えの方が大きくなってる。ただ戻る方法がわかって実行出来るとしたら、その考えも変わってしまうかも知れない」
今まで先送りにしてきた皺寄せだと真摯に受け、カズは誤魔化そうとせず真面目に答える。
この世界に来てから四年近くが経過し、自分の行く末について、今の考えを。
「だから期限は、この帝国に居る間にさせてくれないか?」
「バイアステッチでの事があったとはいえ、帝国に入ってから既に五ヶ月は経ってる。帝都での情報収集に最低限でも半年以上……それを考えると長い」
「長い……か」
「ええ。帝国に居る間では長いわ。だから期限はそうね……一年」
「一年……わかった」
「このあと寄り道して、帝都に着くのが遅くなったから期限を延ばして。なんて言わせないわよ」
「り、了解……です」
「ビワとレラは、カズに何か言いたいことある?」
「私も…それで…大丈夫…です」
「あちし? あちしはどっちでも良いよ。故郷が見つかっても、戻るとは限らないもん。勝手に居なくなったから追放処分になってるか、死んだと思われてるかもだし」
「だったらレラの故郷探しはしなくていいんじゃない?」
「いやいや。目的の一つなんだから、急に無くさないで一応探してよ」
「一応なのね」
心底アレナリアはレラの故郷を探さなくてもいいのではと思った。
「一応じゃない。おまけみたいに考えないで、ちゃんと探して」
「だったら一応とか言わないこと」
「うい~っす(でも、みんなでいる方が楽しいんだよねぇ)」
ぐぅ~ぎゅるる~と、二度お腹の鳴る音がし、重苦しかった雰囲気は和らぐ。
「もう夕食の時間過ぎちゃったわね。すぐ食べれる物とお酒を買ってきて。カズ」
「昼間飲んだのにま…」
「口答え出来るの?」
「……はい。買ってきます」
「この街特産のミルク酒ね。果汁入りのとかもあるから買溜めもしておいて」
反論出来る訳もなく、カズはアレナリアの言うがまま、お酒と夕食を買いに宿屋を出た。
時間を掛けるとアレナリアを怒らせると思い、急いで買い終えてカズは宿屋に戻った。
幸いアレナリアの機嫌は損ねてはなかっが、何故かビワの顔はまだ赤くなったままだった。
買ってきた夕食とミルク酒を各種テーブルに並べ、少し遅い夕食にした。
いつもとは逆で買ってきたにも関わらず、アレナリアにお酒を禁止されるカズ。
もちろん反論しない。
レラは相も変わらず楽しそうにお酒を飲み、アレナリアはやけ酒のごとくあおり呑む。
珍しくビワもお酒が進んでいた。
ミルク酒が飲みやすいのもあるが、先程までのやり取りを考えれば当然かも。
夕食を取りながらチビチビとお酒飲み始めてから二時間、アレナリアが呑むのを止めようとせず、さっきまでの話を愚痴愚痴と繰り返し、負い目のあるカズは止める事が出来なかった。
自分も大分飲んでしまったと、ビワがアレナリアを止めに入った。
これで止めなかったら、あと何時間も呑んでいただろう。
レラは満腹になったと、三十分程に満足して席を離れた。
いつもなら酔ったアレナリアの話に付き合っていそうだが、夕方のやり取りを見て満足したのか、とっとと寝てしまった。
面白がってたレラを思い返し、またぶくぶくに太ってしまえと、カズは思ってしまった。
この後、自分がどうなるかも知らず。
「ふぅ~飲んで食べたわ。溜まってたのも少しは発散出来たし、これ以上は二日酔いになるから、この辺にしておくわ」
「そう。程々がちょうど良い(と言うも、結構呑んでたから、二日酔いにはなると思うが)」
「さぁ、寝ましょう」
「食べてすぐに寝ると」
「牛になるんだっけ?」
「ああ」
「変なの。でも、今はどうでもいいわ。ほら、カズは真ん中で横になって待ってる」
隣の狭い寝室に移ると、左右の壁際にそれぞれ置いてあった一人用のベッドがくっつくられていた。
「真ん中?」
「そう。私とビワが着替えたら、隣に寝るからね」
「え? なん…」
「逆らえる立場なの」
アレナリアの目は座り、断ることが出る雰囲気ではなかった。
「……はい(酔ってるんだ、すぐに寝るだろ)」
二人が…と言うよりアレナリアが寝たら、長椅子に移ればと考え、二台くっつけたベッドの真ん中でカズは横になる。
若干合わせた所が凹んでいるが、そこまで気にはならない。
「言い忘れたけど、今夜カズの方から私達に手を出したら、期限を待たずに……だからね。もちろん今夜はここで寝ること。長椅子に移るのは禁止」
「手を出すって? ……その格好ッ!」
顔を上げて着替えた二人の姿を見て、カズは驚き動揺する。
「寝間着メリアスさんが気を使って用意してくれたの。早々と役に立って良かったわ」
「と…隣…失礼します」
着替えると言うからパジャマ的な服だと思っていたカズだが、実際は薄い生地で作られたネグリジェのような寝間着を着ていた。
薄暗い部屋のため、透けて肌が見えるなんて事はない。(ただカズには暗視のスキルがある)
アレナリアとビワがベッドに横になると、カズの方を向きピッタリと身体をつける。
下着は着けているようだが、それは下だけ、上は着けてないのが腕に当たる感触で分かる。
右腕には小さな膨らみと、あばら骨が当たり、左腕は二つの柔らかい膨らみと突起物が腕に。
言い出したアレナリアと、それを受け入れたビワの二人の早い鼓動がカズに伝わる。
夕食の買い出しから戻って来た時に、ビワが赤面してたのはこれの事かと、カズは悟った。
三人の鼓動だけが部屋に響き(実際に響いてる訳ではないが)恥ずかしさからか、興奮しているからなのか、両方かは定かではないが、最初よりも熱が増してるも伝わる。
だがそれも二十分程すると二人の鼓動は正常に戻り、熱も次第に下がった。
お酒が多く入っていた事で、二人は早々眠りに着いた。
カズはベッドを抜け出すことはせず、二人の覚悟を受け入れてそのままの体勢で眠ろうとする。
本当は長椅子に移りたいが、軽くとはいえ両腕を掴まれているので抜け出すのは厳しい。
もしアレナリアが起きたらと考えると。
気持ち的には幸せだが、ここで手を出したら、話し合って決めた意味がない。
男の本能たけで後先考えず動くほど理性は壊れてない。(この状況で男として行動に出ないのは、ある意味では壊れてるかも知れないが)
蛇の生殺しならぬ、コロコロ鳥の卵とミルキーウッドの樹液で作った極上プリンを、レラの目の前に置いてのお預け状態。
「俺の腕は何も感じない。俺の腕は何も感じ……(んなわけない!)」
目を閉じて他のことを考え、両腕から意識を外そうとする。
少し眠気が差して眠れそうになったところで、アレナリアは膝を曲げてカズの腕を股に挟み込み抱き抱える。
ビワは寝返りを打ち、カズの左腕にうつ伏せで乗るようなかたちになる。
カズの左腕はビワの胸の間に挟まれ、顔は真横に。
当然カズの目は冴えてしまう。
両腕からなんとか意識を外していたのにも関わらず、強烈な感触がそれを呼び戻した。
しかも今度は、両腕を完全に押さえ込まれた状態。
アレナリアは時折もぞもぞと動き体制を変えようとするが、股からは離そうとしない。
ビワはカズの耳元に悩ましげな寝言と吐息をかける。
ビワに関しては、寝ている時の方が積極的だった。
そんな事が何度もあり、明け近くに二人が寝返り離れた事で気持ちが落ち着いた。
その後、精神的な疲れと眠気で、カズはやっと寝ることが出来た。
そしてアレナリアの拳は深くカズの腹部に減り込み、カズは膝から崩れ落ち──なんて事になり、ビワが介抱したりでもしたら、完全に自分の八つ当たりになってしまうからと、力を込めた拳を引っ込めアレナリアは我慢した。
「期限…そう、せめて期限を決めて。レラの故郷探しと、ビワの記憶と生まれた場所探しの両方が終わるまで待ってたら、いつになるか。それに後回しにしてるけど、カズだって元の世界に戻る方法を探してるんでしょ!」
アレナリアはビシッと右手の人差し指をカズに向けて突き立てる。
「確かに戻りたい自分もいるが、諦めてる自分もいる。どちらかと言えば元の世界は……」
ふと、昔の事を思い返すカズ。
「……今は、こちらの世界で暮らそうという考えの方が大きくなってる。ただ戻る方法がわかって実行出来るとしたら、その考えも変わってしまうかも知れない」
今まで先送りにしてきた皺寄せだと真摯に受け、カズは誤魔化そうとせず真面目に答える。
この世界に来てから四年近くが経過し、自分の行く末について、今の考えを。
「だから期限は、この帝国に居る間にさせてくれないか?」
「バイアステッチでの事があったとはいえ、帝国に入ってから既に五ヶ月は経ってる。帝都での情報収集に最低限でも半年以上……それを考えると長い」
「長い……か」
「ええ。帝国に居る間では長いわ。だから期限はそうね……一年」
「一年……わかった」
「このあと寄り道して、帝都に着くのが遅くなったから期限を延ばして。なんて言わせないわよ」
「り、了解……です」
「ビワとレラは、カズに何か言いたいことある?」
「私も…それで…大丈夫…です」
「あちし? あちしはどっちでも良いよ。故郷が見つかっても、戻るとは限らないもん。勝手に居なくなったから追放処分になってるか、死んだと思われてるかもだし」
「だったらレラの故郷探しはしなくていいんじゃない?」
「いやいや。目的の一つなんだから、急に無くさないで一応探してよ」
「一応なのね」
心底アレナリアはレラの故郷を探さなくてもいいのではと思った。
「一応じゃない。おまけみたいに考えないで、ちゃんと探して」
「だったら一応とか言わないこと」
「うい~っす(でも、みんなでいる方が楽しいんだよねぇ)」
ぐぅ~ぎゅるる~と、二度お腹の鳴る音がし、重苦しかった雰囲気は和らぐ。
「もう夕食の時間過ぎちゃったわね。すぐ食べれる物とお酒を買ってきて。カズ」
「昼間飲んだのにま…」
「口答え出来るの?」
「……はい。買ってきます」
「この街特産のミルク酒ね。果汁入りのとかもあるから買溜めもしておいて」
反論出来る訳もなく、カズはアレナリアの言うがまま、お酒と夕食を買いに宿屋を出た。
時間を掛けるとアレナリアを怒らせると思い、急いで買い終えてカズは宿屋に戻った。
幸いアレナリアの機嫌は損ねてはなかっが、何故かビワの顔はまだ赤くなったままだった。
買ってきた夕食とミルク酒を各種テーブルに並べ、少し遅い夕食にした。
いつもとは逆で買ってきたにも関わらず、アレナリアにお酒を禁止されるカズ。
もちろん反論しない。
レラは相も変わらず楽しそうにお酒を飲み、アレナリアはやけ酒のごとくあおり呑む。
珍しくビワもお酒が進んでいた。
ミルク酒が飲みやすいのもあるが、先程までのやり取りを考えれば当然かも。
夕食を取りながらチビチビとお酒飲み始めてから二時間、アレナリアが呑むのを止めようとせず、さっきまでの話を愚痴愚痴と繰り返し、負い目のあるカズは止める事が出来なかった。
自分も大分飲んでしまったと、ビワがアレナリアを止めに入った。
これで止めなかったら、あと何時間も呑んでいただろう。
レラは満腹になったと、三十分程に満足して席を離れた。
いつもなら酔ったアレナリアの話に付き合っていそうだが、夕方のやり取りを見て満足したのか、とっとと寝てしまった。
面白がってたレラを思い返し、またぶくぶくに太ってしまえと、カズは思ってしまった。
この後、自分がどうなるかも知らず。
「ふぅ~飲んで食べたわ。溜まってたのも少しは発散出来たし、これ以上は二日酔いになるから、この辺にしておくわ」
「そう。程々がちょうど良い(と言うも、結構呑んでたから、二日酔いにはなると思うが)」
「さぁ、寝ましょう」
「食べてすぐに寝ると」
「牛になるんだっけ?」
「ああ」
「変なの。でも、今はどうでもいいわ。ほら、カズは真ん中で横になって待ってる」
隣の狭い寝室に移ると、左右の壁際にそれぞれ置いてあった一人用のベッドがくっつくられていた。
「真ん中?」
「そう。私とビワが着替えたら、隣に寝るからね」
「え? なん…」
「逆らえる立場なの」
アレナリアの目は座り、断ることが出る雰囲気ではなかった。
「……はい(酔ってるんだ、すぐに寝るだろ)」
二人が…と言うよりアレナリアが寝たら、長椅子に移ればと考え、二台くっつけたベッドの真ん中でカズは横になる。
若干合わせた所が凹んでいるが、そこまで気にはならない。
「言い忘れたけど、今夜カズの方から私達に手を出したら、期限を待たずに……だからね。もちろん今夜はここで寝ること。長椅子に移るのは禁止」
「手を出すって? ……その格好ッ!」
顔を上げて着替えた二人の姿を見て、カズは驚き動揺する。
「寝間着メリアスさんが気を使って用意してくれたの。早々と役に立って良かったわ」
「と…隣…失礼します」
着替えると言うからパジャマ的な服だと思っていたカズだが、実際は薄い生地で作られたネグリジェのような寝間着を着ていた。
薄暗い部屋のため、透けて肌が見えるなんて事はない。(ただカズには暗視のスキルがある)
アレナリアとビワがベッドに横になると、カズの方を向きピッタリと身体をつける。
下着は着けているようだが、それは下だけ、上は着けてないのが腕に当たる感触で分かる。
右腕には小さな膨らみと、あばら骨が当たり、左腕は二つの柔らかい膨らみと突起物が腕に。
言い出したアレナリアと、それを受け入れたビワの二人の早い鼓動がカズに伝わる。
夕食の買い出しから戻って来た時に、ビワが赤面してたのはこれの事かと、カズは悟った。
三人の鼓動だけが部屋に響き(実際に響いてる訳ではないが)恥ずかしさからか、興奮しているからなのか、両方かは定かではないが、最初よりも熱が増してるも伝わる。
だがそれも二十分程すると二人の鼓動は正常に戻り、熱も次第に下がった。
お酒が多く入っていた事で、二人は早々眠りに着いた。
カズはベッドを抜け出すことはせず、二人の覚悟を受け入れてそのままの体勢で眠ろうとする。
本当は長椅子に移りたいが、軽くとはいえ両腕を掴まれているので抜け出すのは厳しい。
もしアレナリアが起きたらと考えると。
気持ち的には幸せだが、ここで手を出したら、話し合って決めた意味がない。
男の本能たけで後先考えず動くほど理性は壊れてない。(この状況で男として行動に出ないのは、ある意味では壊れてるかも知れないが)
蛇の生殺しならぬ、コロコロ鳥の卵とミルキーウッドの樹液で作った極上プリンを、レラの目の前に置いてのお預け状態。
「俺の腕は何も感じない。俺の腕は何も感じ……(んなわけない!)」
目を閉じて他のことを考え、両腕から意識を外そうとする。
少し眠気が差して眠れそうになったところで、アレナリアは膝を曲げてカズの腕を股に挟み込み抱き抱える。
ビワは寝返りを打ち、カズの左腕にうつ伏せで乗るようなかたちになる。
カズの左腕はビワの胸の間に挟まれ、顔は真横に。
当然カズの目は冴えてしまう。
両腕からなんとか意識を外していたのにも関わらず、強烈な感触がそれを呼び戻した。
しかも今度は、両腕を完全に押さえ込まれた状態。
アレナリアは時折もぞもぞと動き体制を変えようとするが、股からは離そうとしない。
ビワはカズの耳元に悩ましげな寝言と吐息をかける。
ビワに関しては、寝ている時の方が積極的だった。
そんな事が何度もあり、明け近くに二人が寝返り離れた事で気持ちが落ち着いた。
その後、精神的な疲れと眠気で、カズはやっと寝ることが出来た。
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