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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って
445 モンスターの脅威を知らない無知な冒険者
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倒したスパイクアントから素材になりそうな脚を集めて、他のモンスターが来ないように死骸を燃やして地中に埋めた。
あとはギルドに戻り、討伐完了の報告をして依頼は終了。
のはずだったが、町に入る扉をドンドンと叩き、騒ぐ声が聞こえてきた。
「誰かいるわね」
「何か慌ててるみたいですね」
「だな(フラグ強制回収ってか)」
四人が扉まで戻ると、ギルドで見かけた三人の若い男の冒険者が中に入れろと騒いでいた。
兵士は扉の小さな覗き窓からその三人を見るも、通した覚えもなく許可証も持ってないので、町の住人だと確認が取れるまで扉を開けようとはしない。
「あの三人どこから出たんだろう? あちしみたいに実は羽があって飛べるとか?」
「そんなわけないでしょ。ただモンスターから逃げて来たのは確かね。ほら見えてきた。あれは……初めて見るわ」
アレナリアが指差す方を見ると、ゆっくりと移動するモンスターの姿が目に入った。
カズはすぐに《分析》を使用して、若者三人を追い掛けてきたモンスターを調べた。
「近くの生物を見境なく食べる大口ミミズ。名前は貪りワーム。レベルは23」
「あんなのが町に入ったら、住人は皆食べられるわね」
扉の前で騒いでいた若者らが、後方に迫る貪りワームに気付き、カズ達の方へ逃げて来る。
助けてくれと半泣き状態の三人は、カズ達の後ろに回り座り込む。
「あなた達、町の住人よね? どこから出たの?」
「そ、そんなことより、あれなんとかしてくれ! 冒険者なんだろ!」
「口が悪いわね。あなた達だって冒険者なんでしょ。モンスターを討伐しようとして死んでも、それは自己責任。それなのに、モンスターを引き連れて町に戻ろうとするなんて論外。被害が出たら冒険者の登録は剥奪されて牢屋行き。場合によっては罪人奴隷になって強制労働よ」
三人の若い冒険者を反省させるのに、脅かす言い方をする。
「そ、そんな……」
「ちょっと見るだけだったんだ。でも貪りワームに気付かれて……」
「動きが遅かったから、おれたちだけでも倒せる弱いモンスターだと……」
顔が青ざめて後悔の色を浮かべる三人。
「まったく……ギルドに戻ったら、罰があると思いなさい〈クイックフリーズ〉」
アレナリアが杖を構えて氷結魔法を使用し、貪りワームを瞬時に凍結させ〈エアースラッシュ〉でバラバラにした。
「あとは俺が〈アースホール〉」
カズは地面に大きな穴を空けて、バラバラになった貪りワームを地中深くに埋めた。
「これで大丈夫だろ」
「ええ。さあギルドに戻りましょう。あなた達はギルドで嘘偽りなく話すこと。その後でキツいお仕置きがあると覚悟しておきなさい」
自分達が必死で逃げてきたモンスターを、意図も容易く倒してしまったのを見た三人は、アレナリアの言うことを素直に聞いた。
兵士に扉を開けてもらい、面倒事を起こした三人を連れてギルドに戻って行く。
三人が町に入るのにあたり、住んでる区画と名前を兵士に教える事になった。
ギルドに討伐完了の報告と、一緒に連れて来た三人についてアレナリアは説明をした。
当然の事ながら顔見知りのギルド職員からはこっ酷く怒られ、ギルドへの出入りを一ヶ月禁止されて、ランクも功績も全て初期状態に戻された。
怪我も負わず死ぬこともなく、これで済んだのだから、三人にとっては最良の結果。
当然家族にも連絡がいき、家に戻れば更に怒られる事にはなるのは確定している。
そして聴取が始まり、三人がどうやって外に出たのかという質問に、兵士が外壁に異常がないかを調査する時に、施錠しなかった扉からこっそり出たと答えた。
どうやら扉を警備する兵士が、一人しかいない場所があり、外壁を調査する時間帯を覚えたらしい。
雑な扉の管理もそうだが、外に出た三人は、どうやって中に戻ってくるつもりだったのだろうか?
まさか次の外壁調査まで、外に居るつもりだったのだろうか?
ずさんな考えを聞き、アレナリアも職員も呆れてしまった。
三人を家に帰らせると、不用心な兵士に対して、支部長が戻ったら抗議することを決めて、職員は抗議文書制作に取り掛かった。
職員から依頼の報酬は翌日にしてほしいと言われ、アレナリアは了承して四人は宿屋に戻った。
午後は出歩かずに宿屋で過ごした。
昼食後すぐにレラは昼寝をし、ビワはクルエルから教わった刺繍の練習を始めた。
アレナリアは自分でもやってみていと、ビワに教わりながらチクチクと花の刺繍をする。
カズはそれを邪魔にならないように、少し離れて静かに見ている。
こうしてのんびりと過ごすのはやっぱり良いなと感じていると、カズはいつの間にか寝てしまい、静かな午後が過ぎた。
◇◆◇◆◇
初めての魔導列車に乗ったが、行く先を決めなかったことで、次が住宅の町だと知らず降りる事に。
駅員に先の街について聞き、二日後に来る魔導列車が畜産の街に行くと言うので、二日住宅の町に滞在し、乗り換えてそちらに行くことにした。
そして住宅の町エイト・タウンこと、通称ウッドタウンで二日過ごし、今日到着する魔導列車に乗るのに、宿屋で朝食を済ませ、冒険者ギルドに前日の報酬を受け取りに行き、それからエイト・タウンの駅に向かう。
魔導列車が到着するのは昼頃だとギルドで聞き、時間に余裕があるので焦らずにゆっくりと駅に向かった。
カズが駅で前回と同じ二等車の乗車券を買おうとすると、空いてるだろうから乗車券だけの三等車にしようとアレナリアが言ってきた。
「俺は別に三等車でも構わないが、レラとビワは椅子が固いの大丈夫か? 二等車の席は辛うじてクッションがあったが、三等車はそれも無いはずだぞ」
「それは大丈夫。ビワと昨日の内に用意したから」
「そう? なら、俺は別にいいけど」
結局次の街まで四人分の乗車券金貨二枚を支払い、魔導列車が来るのをホームで待った。
小一時間待つと街の外から汽笛が聞こえ、外壁の大きな扉が開き魔導列車が街に入って来た。
「あれが先頭車か(SLっぽい見た目をしてるけど、少し違うな。そりゃそうか。蒸気で走るわけじゃないんだ)」
カズは初めて見た先頭の機関車に煙突は無いが、何かを放出するような管が多くあって気になったので《鑑定》を使用した。
「へぇ(なるほどな)」
魔素還元式というだけあり、線路から取り込んだ魔力と、大型の魔素蓄積型人工鉱石の燃料を消費しきれなかったのを、機関車外に放出して魔素に戻しているのが分かった。
「どうかしたのカズ?」
「ちょっと機関車を調べてただけ。さあ、乗ろう」
四人は到着した魔導列車の後方に移動し、三等車に乗った。
二日前に乗った魔導列車と同じで乗客数は少なく、席に座ることが出来る。
ただ思っていた通り固く、長時間座るとお尻が痛くなる。
「これカズのね」
「座布団?」
「クッションよ。昨日カズとレラが昼寝してる間に、ビワと一緒に作ったの。これがあれば、三等車の固い椅子でも大丈夫でしょ。二等車でも少しお尻が痛くなりそうだったから」
「へぇ。ありがとう。四人分も作るの大変だったんじゃない?」
「私はパフさんのお店で使ってたのに、少し手を加えただけなので」
「なんかあちしのボロいんだけど」
「ほら私のも同じ。座れば一緒よ。一緒」
アレナリアは縫い目が粗い自分のクッションをレラに見せた。
レラはカズが持っているのと比べ、明らかに出来が違うと知る。
「カズのだけビワが作ったんでしょ。あちしもビワに作って欲しかったんだけど!」
「そんなこと言わないのレラ。アレナリアさんが一生懸命に作ったのよ」
「わ、悪かったわね下手で。これでもビワに習いながらやったのよ(本当は私が作ったのをカズに使ってもらいたかったんだけど、これはちょっと……)」
「ビワの作ったの使うか?」
「大丈夫。カズはビワが作ってくれたの使って。私は自分で作ったのでいい。使えば改善点がわかるから」
「そ、そうか。なら使わせてもらうよビワ」
「はい」
自分が役に立ったと、笑みを見せ喜ぶビワ。
それぞれ座布団を敷き、魔導列車はエイト・タウンの駅を発車して住宅の町を出る。
分岐した場所まで街中を走るのと同じくらいの速度で進み、分岐した線路を過ぎて南東方面に移動し、魔導列車は時速80キロ程まで上がり走行する。
あとはギルドに戻り、討伐完了の報告をして依頼は終了。
のはずだったが、町に入る扉をドンドンと叩き、騒ぐ声が聞こえてきた。
「誰かいるわね」
「何か慌ててるみたいですね」
「だな(フラグ強制回収ってか)」
四人が扉まで戻ると、ギルドで見かけた三人の若い男の冒険者が中に入れろと騒いでいた。
兵士は扉の小さな覗き窓からその三人を見るも、通した覚えもなく許可証も持ってないので、町の住人だと確認が取れるまで扉を開けようとはしない。
「あの三人どこから出たんだろう? あちしみたいに実は羽があって飛べるとか?」
「そんなわけないでしょ。ただモンスターから逃げて来たのは確かね。ほら見えてきた。あれは……初めて見るわ」
アレナリアが指差す方を見ると、ゆっくりと移動するモンスターの姿が目に入った。
カズはすぐに《分析》を使用して、若者三人を追い掛けてきたモンスターを調べた。
「近くの生物を見境なく食べる大口ミミズ。名前は貪りワーム。レベルは23」
「あんなのが町に入ったら、住人は皆食べられるわね」
扉の前で騒いでいた若者らが、後方に迫る貪りワームに気付き、カズ達の方へ逃げて来る。
助けてくれと半泣き状態の三人は、カズ達の後ろに回り座り込む。
「あなた達、町の住人よね? どこから出たの?」
「そ、そんなことより、あれなんとかしてくれ! 冒険者なんだろ!」
「口が悪いわね。あなた達だって冒険者なんでしょ。モンスターを討伐しようとして死んでも、それは自己責任。それなのに、モンスターを引き連れて町に戻ろうとするなんて論外。被害が出たら冒険者の登録は剥奪されて牢屋行き。場合によっては罪人奴隷になって強制労働よ」
三人の若い冒険者を反省させるのに、脅かす言い方をする。
「そ、そんな……」
「ちょっと見るだけだったんだ。でも貪りワームに気付かれて……」
「動きが遅かったから、おれたちだけでも倒せる弱いモンスターだと……」
顔が青ざめて後悔の色を浮かべる三人。
「まったく……ギルドに戻ったら、罰があると思いなさい〈クイックフリーズ〉」
アレナリアが杖を構えて氷結魔法を使用し、貪りワームを瞬時に凍結させ〈エアースラッシュ〉でバラバラにした。
「あとは俺が〈アースホール〉」
カズは地面に大きな穴を空けて、バラバラになった貪りワームを地中深くに埋めた。
「これで大丈夫だろ」
「ええ。さあギルドに戻りましょう。あなた達はギルドで嘘偽りなく話すこと。その後でキツいお仕置きがあると覚悟しておきなさい」
自分達が必死で逃げてきたモンスターを、意図も容易く倒してしまったのを見た三人は、アレナリアの言うことを素直に聞いた。
兵士に扉を開けてもらい、面倒事を起こした三人を連れてギルドに戻って行く。
三人が町に入るのにあたり、住んでる区画と名前を兵士に教える事になった。
ギルドに討伐完了の報告と、一緒に連れて来た三人についてアレナリアは説明をした。
当然の事ながら顔見知りのギルド職員からはこっ酷く怒られ、ギルドへの出入りを一ヶ月禁止されて、ランクも功績も全て初期状態に戻された。
怪我も負わず死ぬこともなく、これで済んだのだから、三人にとっては最良の結果。
当然家族にも連絡がいき、家に戻れば更に怒られる事にはなるのは確定している。
そして聴取が始まり、三人がどうやって外に出たのかという質問に、兵士が外壁に異常がないかを調査する時に、施錠しなかった扉からこっそり出たと答えた。
どうやら扉を警備する兵士が、一人しかいない場所があり、外壁を調査する時間帯を覚えたらしい。
雑な扉の管理もそうだが、外に出た三人は、どうやって中に戻ってくるつもりだったのだろうか?
まさか次の外壁調査まで、外に居るつもりだったのだろうか?
ずさんな考えを聞き、アレナリアも職員も呆れてしまった。
三人を家に帰らせると、不用心な兵士に対して、支部長が戻ったら抗議することを決めて、職員は抗議文書制作に取り掛かった。
職員から依頼の報酬は翌日にしてほしいと言われ、アレナリアは了承して四人は宿屋に戻った。
午後は出歩かずに宿屋で過ごした。
昼食後すぐにレラは昼寝をし、ビワはクルエルから教わった刺繍の練習を始めた。
アレナリアは自分でもやってみていと、ビワに教わりながらチクチクと花の刺繍をする。
カズはそれを邪魔にならないように、少し離れて静かに見ている。
こうしてのんびりと過ごすのはやっぱり良いなと感じていると、カズはいつの間にか寝てしまい、静かな午後が過ぎた。
◇◆◇◆◇
初めての魔導列車に乗ったが、行く先を決めなかったことで、次が住宅の町だと知らず降りる事に。
駅員に先の街について聞き、二日後に来る魔導列車が畜産の街に行くと言うので、二日住宅の町に滞在し、乗り換えてそちらに行くことにした。
そして住宅の町エイト・タウンこと、通称ウッドタウンで二日過ごし、今日到着する魔導列車に乗るのに、宿屋で朝食を済ませ、冒険者ギルドに前日の報酬を受け取りに行き、それからエイト・タウンの駅に向かう。
魔導列車が到着するのは昼頃だとギルドで聞き、時間に余裕があるので焦らずにゆっくりと駅に向かった。
カズが駅で前回と同じ二等車の乗車券を買おうとすると、空いてるだろうから乗車券だけの三等車にしようとアレナリアが言ってきた。
「俺は別に三等車でも構わないが、レラとビワは椅子が固いの大丈夫か? 二等車の席は辛うじてクッションがあったが、三等車はそれも無いはずだぞ」
「それは大丈夫。ビワと昨日の内に用意したから」
「そう? なら、俺は別にいいけど」
結局次の街まで四人分の乗車券金貨二枚を支払い、魔導列車が来るのをホームで待った。
小一時間待つと街の外から汽笛が聞こえ、外壁の大きな扉が開き魔導列車が街に入って来た。
「あれが先頭車か(SLっぽい見た目をしてるけど、少し違うな。そりゃそうか。蒸気で走るわけじゃないんだ)」
カズは初めて見た先頭の機関車に煙突は無いが、何かを放出するような管が多くあって気になったので《鑑定》を使用した。
「へぇ(なるほどな)」
魔素還元式というだけあり、線路から取り込んだ魔力と、大型の魔素蓄積型人工鉱石の燃料を消費しきれなかったのを、機関車外に放出して魔素に戻しているのが分かった。
「どうかしたのカズ?」
「ちょっと機関車を調べてただけ。さあ、乗ろう」
四人は到着した魔導列車の後方に移動し、三等車に乗った。
二日前に乗った魔導列車と同じで乗客数は少なく、席に座ることが出来る。
ただ思っていた通り固く、長時間座るとお尻が痛くなる。
「これカズのね」
「座布団?」
「クッションよ。昨日カズとレラが昼寝してる間に、ビワと一緒に作ったの。これがあれば、三等車の固い椅子でも大丈夫でしょ。二等車でも少しお尻が痛くなりそうだったから」
「へぇ。ありがとう。四人分も作るの大変だったんじゃない?」
「私はパフさんのお店で使ってたのに、少し手を加えただけなので」
「なんかあちしのボロいんだけど」
「ほら私のも同じ。座れば一緒よ。一緒」
アレナリアは縫い目が粗い自分のクッションをレラに見せた。
レラはカズが持っているのと比べ、明らかに出来が違うと知る。
「カズのだけビワが作ったんでしょ。あちしもビワに作って欲しかったんだけど!」
「そんなこと言わないのレラ。アレナリアさんが一生懸命に作ったのよ」
「わ、悪かったわね下手で。これでもビワに習いながらやったのよ(本当は私が作ったのをカズに使ってもらいたかったんだけど、これはちょっと……)」
「ビワの作ったの使うか?」
「大丈夫。カズはビワが作ってくれたの使って。私は自分で作ったのでいい。使えば改善点がわかるから」
「そ、そうか。なら使わせてもらうよビワ」
「はい」
自分が役に立ったと、笑みを見せ喜ぶビワ。
それぞれ座布団を敷き、魔導列車はエイト・タウンの駅を発車して住宅の町を出る。
分岐した場所まで街中を走るのと同じくらいの速度で進み、分岐した線路を過ぎて南東方面に移動し、魔導列車は時速80キロ程まで上がり走行する。
応援ありがとうございます!
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