人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

文字の大きさ
上 下
461 / 807
五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

444 小さなギルドの討伐依頼

しおりを挟む
 

 物心ついた頃から私はとても可愛がられていた。
 伯爵家の次女として生まれ優しいお父様お母様に可愛がられ、周囲の使用人も温かく接してくれた。
 5つ歳上のお姉様もとても優しく、いつも一緒に遊んでくれて幸せだった。

 私にとって世界が優しいのは当たり前のことで、誰もにとってもそうだと思っていた。
 その日までは。



『お姉様今日もお勉強?』

『ええ、ミリアレナ』

 その日もお姉様の部屋に行くと教本を抱えたお姉様が授業の準備をしていた。

『遊んでくれないの?』

『ごめんなさい、今日はダメなの』

 その日は後でねとは言ってくれなかった。
 どうしてもお姉様と遊びたかった私はヤダとわがままを言った。メイドが別のことをして遊びましょうと促すのに駄々をこねて首を振る。

『イヤ、お姉様と一緒がいいの!』

 困った顔を浮かべるお姉様にお願い!と言い募る。

『何の騒ぎだ』

 外に声が聞こえたのか通りがかったお父様が入ってくる。
 メイドが事情を説明するとお父様の表情が変わった。

『遊んでやればいいだろう。
 妹の願いを無碍にするとはなんて冷たい奴だ』

『ですがお父様、今日の教師の方はわざわざ遠方から招いて時間を取っていただいているのです』

 ですから今日は……、と続けるお姉様の言葉を遮り怒りの形相を浮かべる。

『だからなんだ!
 また改めて呼べばいいだろう!
 なぜ妹に優しくできない、自分の都合ばかり優先しようとして。
 利己的なのもいい加減にしろ!』

 大きな怒鳴り声でお姉様に迫るお父様。
 そんな大きな声を聞いたことのなかった私は怖くなって後退あとずさる。
 どうしてそんなに怒るのかわからず、潤んだ目で豹変したお父様を見つめた。

『お父様、怖い……』

 そう訴えると一転して笑顔に変わる。
 その変化が余計に恐ろしく感じる。けれど私を見つめる目はいつもと同じ優しいお父様のものだった。

『とにかくもう少し妹に優しくしてやりなさい』

『……承知しました』

 悲しそうに眉を寄せ手を握りしめるお姉様。
 私のせいだ。私がわがままを言ったから。
 いいな、と念を押してお父様は部屋を出て行った。
 静かになった部屋でどうしようと思っているとすっと息を吸う音が聞こえた。深呼吸をしたお姉様が微笑んで私を見つめる。

『何をして遊びたかったの、ミリアレナ?』

 優しい声で聞いてくれるお姉様に胸がずきんと痛んだ。

『……やっぱりいい』

『ミリアレナ?』

 お姉様と遊びたいけど、それをしちゃいけないんだと思った。
 お姉様を困らせたくない。

『遊ばなくていい』

『ミリアレナ……』

 困った顔で名前を呼ぶお姉様に別のお願いをしてみる。

『でも、お勉強が終わったら一緒にケーキ食べてくれる?』

 これなら良いって言ってくれるかなと思いながらお姉様を窺う。

『いいわ、終わったら一緒にお茶にしましょう』

 にっこりと微笑んでそう言ってくれた。
 うれしくって満面の笑みを浮かべる。

『でも夕食の前だから小さいケーキね。
 ミリアレナが好きな小さくて可愛いケーキよ』

 ふふっと笑うお姉様につられてミリアレナも笑顔になる。
 手のひらよりも小さいケーキは料理長の特製だ。 
 きゅっと絞ったクリームも乗せたフルーツも全部小さくてとっても可愛い。
 お茶の時間ならいくつも食べていいけど今日は夕食前だからひとつだけ。
 そう約束してお姉様の部屋から出た。
 自分の部屋に戻って一人で遊ぶ。お姉様が怒ってなくて良かった。お勉強は大事、お姉様の部屋にあるたくさんの本を思い浮かべて頷く。
 お人形やおもちゃでいっぱいの私の部屋と違ってお姉様の部屋には本やお勉強するための物がいっぱいある。
 だからお姉様はお勉強が好き。
 好きなことをしちゃダメって言われるのが嫌なのはミリアレナにもわかった。


 それからはお勉強のときは邪魔しないように側で見てるか近づかないようにした。
 お姉様に嫌われたくなかったし、お父様が怒るのも怖い。
 一度お姉様が勉強している横で一緒に聞いていたらお父様にすごいと褒められた。
 難しくてよくわからないところもいっぱいあったけど、褒められたのは嬉しい。
 お姉様はもっとすごいのよと自慢したらお父様はミリアレナよりたくさん勉強しているんだから当たり前だって。本当にすごいのに。
 私の頭を撫でて褒めてくれたお父様はお姉様の先生と少しだけ話をして出て行く。
 お姉様の頭は撫でてくれてない。
 出て行くお父様を見つめるお姉様を見てたら、なんだか苦しくて不安になる。
 けれど私を向いたお姉様は笑顔に戻っていて、優しく頭を撫でてくれて。 
 二人で授業に戻ったときには不安はどこかに行っていた。



 些細なこと、けれど確かな違和感は幾度も繰り返し不和を起こしていた。
 それが見える形で問題になったのはお姉様の10歳の誕生日パーティでのことだった。


しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...