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五章 テクサイス帝国編 2 魔導列車に乗って

443 住宅の町エイト・タウン

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 西の終着駅、職人の街クラフトの東駅、そこから魔素還元式先導列車まそかんげんしきせんどうれっしゃ、通称『魔導列車』に乗って二十分後、クラフトの東駅に到着する。
 街中で出せる速度はせいぜい時速40キロと、それほど速くは走らない。
 しかし同距離ならば、馬車より遥かに速く目的の街に着く。
 カズ達が乗る二等車の乗客席は、三両あるものの半分も埋まってない。
 乗車券のみで乗る三等車は五両と多いことから、二割程度しか乗客はなくガラガラの状態。
 一等車両には一組しか居らず、特等車に至っては誰も乗ってない。
 最西端の駅から出発したのだから、乗客が少ないのは当たり前なのかも知れない。

 五分程で停車を済ませると、魔導列車はクラフトの東駅を出発して、職人の街を出る。
 工房が建ち並ぶ街の風景が見えなくなると、窓の外の景色が次第に荒野へと変わり、速度は段々と上がっていき80キロ程に達する。
 最初は窓の外を速く流れる景色を見ていたレラだったが、クラフトを出ると景色は代わり映えしなくなり、飽きたから列車内を見てくると言い出す。
 二等車の客が三等車に行くのはまだ良いとしても、前の一等車の方に行こうとしていた。
 初乗りで興奮していたのか、アレナリアも一緒に行こうとしていたので、流石に止めた。
 ビワは大人しく座って……と思いきや、少しそわそわしていた。

「物珍しいのはわかるが、少ないとはいえ他の乗客も居るんだから迷惑が掛かるだろ。だから列車内の探索はしないように」

 と、三人に言い聞かせるカズだが、実際は先頭の機関車を見てみたいと内心思っていた。


 現在乗っている魔導列車の一客車の長さは約20メートル。
 先頭の機関車とその後ろに大型の魔素蓄積型人工鉱石バッテリーを搭載した車両があり、次に貴族が乗る特別頑丈に作られた特等車が続く。
 特等車と一等客車が一両ずつ連なり、その後に仕切りとして荷物を積む車両が二両、そして二等車が三両、三等が五両と全て合わせると十四両の魔導列車となる。
 全長は約300メートル、現在運行している魔導列車では平均的なもので型は古い。
 新しい魔導列車は、大抵国の重鎮や位の高い貴族用として使われている。
 余程の事がない限り、乗ることは叶わない。


 魔導列車に走ること二時間弱、周囲の景色は荒野から平地へと変わっていき、進行方向に次の街が見えてきた。
 街の外壁に大きな扉があり、線路はそこに向かって続いている。
 街に近付くと魔導列車は汽笛を鳴らし知らせる。
 すると大きな扉はゆっくり開いた。
 通過すると大きな扉はゆっくりと閉まり、魔導列車は街唯一の駅に停まる。
 乗り降りする乗客は少ない。
 それもそのはず、バイアステッチやクラフトと違い、着いたのは多くの集合住宅が建ち並ぶ町。
 駅にはクラフトから帰宅した人を、家族が迎えに来ていただけで、新たな乗客はいなかった。

 ホームに降りると、カズはそこに居た駅員に町について尋ねた。
 すると宿屋は片手で数える程しかなく、町の治安は国の兵士がしているので、冒険者ギルドは小さく冒険者も少ないと。
 高い外壁があるのでモンスターが入ってくる事は滅多になく、冒険者の仕事はもっぱら雑用だと、前に来た冒険者に聞いたのだと駅員は言う。

「この住宅街で降りてもしょうがないか。追加料金払って、次の街まで行こうか」

「そうね。住宅の多い町なんじゃしょうがないわね。とりあえず駅員さんに次の街がどんな所か聞きましょう。また住宅だったら、次の街で降りても意味ないでしょ」

「だな」

 この住宅の町に居ても仕様がないと、続けて駅員に先の街について聞く。

「魔導列車が停まる駅ですか?」

「ええ。二、三先の街までていいんですが」

「魔導列車は初めての方ですか。停車時間もあまりないので、この住宅の街『八番目の住宅の町エイト・タウン』の後に到着する街のことを少しだけ」

 駅員の話によるとエイト・タウンを出てすぐに、良木りょうぼくが多く自生する山や森方面に向かう路線と、見渡す限りの草原が広がる方面に向かう路線に分岐するのだと言う。
 現在乗る魔導列車は山と森方面に向かう路線で、次に停まるのは材木の街『ヒッコリー』その次が焼き物の街『マセイン』。
 二日後にエイト・タウンに来る魔導列車は分岐したもう一方へと進み、畜産の街『グレイジング』に入り、その次が農作の街『西の農場ウエスト・ファーム』。

「材木と焼き物は、今の私達に必要ないわよね」

「だな。新しい食器もクラフトで買ったし。ビワは材木と焼き物に興味はある?」

「そうですね……どんな物が作られてるか、少しだけ気になりますが、どうしても行ってみたいというわけでは」

「そう。ならまた機会があったらにしよう(ビワが記憶のこともあるから、気になった方には行ってもいいんだが、そこまでてはなさそうだな)」

「あちしには聞かないのかよッ!」

「レラは興味ないだろ。材木とか焼き物に」

「ないけど聞くだけ聞いてよッ!」

「はぁ……わかった。レラはどっちに行きたいんだ?」

「どっちでもいい。どっちに行っても、あちしが欲しい物なんてないでしょ」

「ほら見ろ(やっぱりじゃないか)」

「畜産の街に行けば、レラの欲しい物があるじゃない(私もだけど)」

「あちしの欲しい物?」

 レラは小首をかしげ考えるが、分からずアレナリアに聞いた。

「牛や羊や鶏なんかを育ててるんだから、新鮮な卵とミルクが売ってるわよ」

「新鮮な卵とミルクが買え……プリン! よし決定! そっちに行こう! すぐ行こう! このまま行こう!」

 卵とミルクがプリンの材料だと思い出したレラは、今降りた魔導列車に乗ろうとする。

「レラ待て。畜産の街に行くなら、二日後の列車に乗らないとならないんだぞ」

「じゃあこの街で、次の列車が来るまで待とう」

「レラはこう言ってるけど、アレナリアとビワもそれでいい?」

 アレナリアとビワの承諾を取ると、エイト・タウンで宿屋を探して二日後の魔導列車を待つことにした。


 ◇◆◇◆◇


 エイト・タウンは住宅の町というだけあって、冒険者や職人風の人は全然見かけない。
 小さな子供や老人が居る家庭が多く、働き手の男性と若い女性は少ない。
 この町にも働く場所はあるが、生活に使う物や食材を売っている店くらい。
 老人は老後をのんびり過ごそうと、小さな子供がいる家庭は、成人したらより良い仕事につけるようにと最低限の一般常識を教えられ、元気に健康的に育てられている。
 そのため、この住宅の町に家を持つ者以外が魔導列車から降りるの少なく、冒険者はこの街のギルドから呼ばれない限り、来ることはあまりない。

 町に滞在する冒険者は十代そこそこの新人ばかりで、もっぱら身分証を得るのが目的と、経済的に家計が苦しく、家族の助けにと、雑用仕事でお金を稼ぐ若者かばかり。
 エイト・タウンは通称『ウッド・タウン』と呼ばれ、建物の八割は木造。

 一行は宿屋で出された朝食を済ませると、ビワとレラのギルドカードを更新するために、簡単な依頼を受けようと冒険者ギルドに向かっていた。

「本当に住宅の町なんてあるのね」

「だな。村みたいな少数な所ならあったが、オリーブを出てから町は初めてだ」

「ここに住んでる人達は、きっと家族の誰かが他の町で働いて生活費を稼いでるのね」

「単身赴…出稼ぎに行ってるって事か」

「でしょうね。見たところ働く場所は少ないみたいだし」

「クラフトに住宅は少なかったっけな」

「よそ者が町中を下手に歩き回るより、ギルドに行った方が色々と情報も聞けていいでしょ。小さなギルドなら、私達…というか、カズのことは知らないでしょう」

「だといいんだがな。まあ、明日には乗る列車が来る……あ! 乗車券買ってないや」

「乗る時でいいんじゃないの? 昨日乗った魔導列車も空いてたんだし」

「そだな(最西端のクラフトから折り返して来るんだから、アレナリアの言う通りか)」

 四人は三階から五階建ての集合住宅の間の道を右へ左へと曲がり、時折住人や巡回する兵士とすれ違いながら、町の外壁近くにある冒険者ギルドに到着する。
 パッと見はただの一軒家にしか見えないが、建物の正面には確かに冒険者ギルドエイト・タウン支部と書いてあった。
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