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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

436 仮眠

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 メリアスが部屋を出ると、カズは仮眠を取ることにした。

「アレナリアは皆と一緒に食べるといい。俺は少し寝かせてもらうから、昼食はいいや。一応アラームを使っておく(これでもしもの時でも起きれるだろ)」

「ならそれまでどうぞ」

「ん……?」

 ソファーに移動してアレナリアが、ぽんぽんと自分のももを叩き、カズに膝枕をするしてあげるという仕草をする。
 添い寝でもよかったのだが、流石に他人の家でするわけにはと、とどまった。
 もちろん何時ものごとく、断られるだろうとアレナリアは思っていたが、二人っきりなんだからと行動に移した。
 だがそれは裏切られ、アレナリアのももにカズの頭が乗り、二人の視線が合う。

「え?」

「駄目だった?」

「い、いいえ……」

「重かったら退くけど(ちょっと低いかな)」

「全然大丈夫!」

 カズは見上げたまま、アレナリアから視線を外さない。

「どうしたの? 寝ていいわよ」

「……怖がらせたみたいでごめん」

「え……?」

 アレナリアは昨夜の事を思い出す。
 廃工場で怒ったカズを見て、背筋に寒気が走ったのを。

「私の為に怒ってくれたんでしょ? ……なんて言ってみたりして」

「……」

「カズ……?」

 今の今までアレナリアと話していたカズは、目を閉じ寝息を立てていた。
 それを見たアレナリアは満足げな表情をする。
 カズの寝顔をじっと、静かに起こさな様にして見る。
 それから一時間、アレナリアは飽きもせずにカズの寝顔を見ていると、それだけでは満足できず、そっと自分の唇をカズの唇に重ねようとする。

「カズ……い、いいよね(ぐっすり寝てるから大丈夫。もし起きても、がんばった御褒美だって言えば)」

 ドキドキと自分の心音が大きく聞こえ、膝枕をしているカズの顔に自分の顔を近付けていく。
 あと数センチで唇が重なるというところで、部屋の扉がコンコンと叩かれると、アレナリアはハッとして顔を上げる。

「アレナリア~。ごはんだよ~」

「カズさんが寝てるんだから、静かにしないと駄目よレラ」

「あ、そうだっけ」

 レラとビワが昼食が出来たと、アレナリアとカズを呼びに来た。

「アレナリアさん入ってもいいですか?」

「ええ。カズが寝てるから静かにね(もうちょっとだったのに。もっと早くしてれば)」

 アレナリアのドキドキはまだ収まらない。
 落ち着くまで入らないでとは言えず、真顔で平静を装う。
 ビワが静かに部屋の扉を開け、レラと一緒に入る。

「カズはお昼いいって言ってたわ」

 レラに何か突っ込まれる前に、アレナリアは先に話し出す。

「寝てるカズ見るの久しぶりかも。ちょっと鼻摘まんでみようか」

「レラ!」

「駄目よレラ!」

 怒るアレナリアと叱るビワに、レラはちょっと引く。

「じょ、冗談だよ。大きい声出すと、カズ起きるよ」

 三人の視線がアレナリアの膝枕で寝るカズに向く。

「これでカズさんが起きないなんて珍しいですね」

「それだけ疲れてるのよ」

「起きて誰もいないのはかわいそうだね。お昼はを交代で食べて、どっちかがいればいいんじゃない」

「レラにしては珍しく良いことを言うわね」

「珍しくないも~んだ。んで、ビワが先? それともアレナリア?」

「私は後でいいから。先に食べてきて」

「だってさビワ。行こう」

「メリアスさんには後で来ると言っておきます」

 アレナリアを呼びに来た二人だったが、そのまま一階に戻り、ビワが先に昼食と取ることになった。
 十五分程で食べ終わると、席を立ち、食器を片付け二階に上がるビワ。
 それを追い掛けるレラ。

「お待たせしました」

「交代だよアレナリア」

「早いわね。もう食べ終わったの?」

「あちしはまだ途中。アレナリア一人で食べるのは寂しいでしょ。だからゆっくり食べてるの。ビワはいつもより早いみたいだったけど」

「そ…そんなこと……」

「まあいいや。ほらアレナリアと交代して、ビワが膝枕」

「私もするの!?」

「大きな声を出すと、カズが起きるよ」

「ご…ごめんなさい……」

「膝枕は私が好きでしてるだけだから、別にビワはしなくていいわよ」

 ビワはアレナリアの膝枕で寝るカズを視線を落とし、自分が膝枕をしてるのを想像する。

「……枕が無いですから、私もします」

「そ、そう(このまま私一人でこうしてても良いのだけど、せっかくメリアスさんが昼食を用意してくれたんだから、食べないと失礼よね)」

 ゆっくりとカズの頭を持ち上げ、立ち上がるアレナリアと交代で、同じ位置にビワが座り、上げたカズの頭を下ろす。

「すぐ食べて戻るから」

「ゆっくりで…大丈夫です。早く食べたら作ってくれたメリアスさんに失礼ですから」

「あ、うん。そうね」

「ビワはいつもより早かったのに、よく言えるねぇ。早くアレナリアと交代したかったからなのかなぁ~?」

「違っ…レラ!」

「ほらアレナリア行くよー。早くしないと冷めちゃう」

 ビワをからかうと、レラはアレナリアを背中を押して部屋を出る。

「もう…レラったら……一言余計よ」

 ビワが視線落とすと、カズがごろりと寝返りを打ち、ビワの方を向く。
 スゥスゥとカズの寝息が聞こえ、急に恥ずかしくなったビワは、尻尾を前に回して、自分とカズの間に挟み込む。
 尻尾でカズの顔が隠れ、ビワの気持ちは少し落ち着く。
 顔に毛先が当たり、避けるようにカズはまた少しと寝返り、うつ伏せに近い状態になる。
 カズの顔はビワの股座またぐらに。

「! カ…カズさん。そこは…駄目です」

 顔を真っ赤にするビワは、カズを押して反対側に寝返りをさせようとする。

「ん……?」

 薄目を開けて上を見るカズの視界に、ビワの顔が目に入る。
 頭がぼんやりとして夢か現実かハッキリしないカズは、押される方へと寝返りを打ち、最初のあお向けの状態戻りビワはほっとする。

「ひゃッ!」

 今度は前に回していた尻尾にカズが抱き付き、ビワは思わず声を漏らす。
 強く抱き付いてるわけではなかったので、抜き取ることは出来たが、それでまだうつ伏せにでもなられたらと考え、ビワはそのまま尻尾をカズに預けた。
 カズの息が尻尾の毛を揺らし、少しこそばくもある。
 モフモフの尻尾を抱くカズの寝顔は、とても気持ち良さそう。

「もう……(アレナリアさん達がいなくてよかった。でなかったら……)」

 立て続けに自分を恥じらわせる行動をするカズを見て、わざとしてるのではとビワは思ってしまった。
 カズが寝ているふりをしているのではないので、たまたまだろうと思うことにした。
 本心では別に嫌と言う訳ではなかったが、やはり恥ずかしい。
 二人っきりになる直前にレラが余計なことを言うから、ビワは変に意識してしまって、そういった方向に考えが向いてしまっていた。

 カズは狙っているわけではなく、たまたまそうなっているだけ。
 だが、偶然が続けばそれは必然と思え、カズの本心ではそれを望んでいる……の、かも。

 カズの膝枕をビワに変わってから二時間が経過すると、アレナリアが階段を駆け上り、カズが仮眠をしているメリアスの仕事部屋に戻る。
 
「遅くなったわ。すぐに代わるわねビ…」

「俺ならもう起きてる。知らぬ内にビワと代わってたんだな」

「あ、そう。起きちゃったんだ……」 

 残念そうにするアレナリアと、何故か顔を赤くしてうつ向くビワ。


 《 十分前 》


 突如として苦痛の声が聞こえ、カズはハッと目を覚ました。

「く……」

「ビワ……?」

 いつの間にアレナリアからビワに代わったのか、気付きもしなかったカズの見上げる視線の先には、痛さを我慢するビワの歪む顔があり、その原因は自分がガッチリと抱き付いてるビワの尻尾。
 とっさに離して〈ヒーリング〉を使う。

「ごめんビワ! まだ痛い? ごめんごめんごめん……」

 横になっていたソファーから下り、カズは頭を深々と下げ謝る。

「え…あの…そんなに謝らないで。大丈夫だから」

 カズの下げた頭を上げさせようと、ビワもソファーから下りて座り込む。

「ビワがそんな事しなくても…」

「だったらソファーこっちに座って。もう痛くないから」

「ごめん。ありがとう。ごめん……」
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