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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

435 名前の使い所

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 ニラは出そうになった言葉を飲み込み思った。
 自分も実力的にはアレナリアと同程度はあるはず。
 でも今回の件を調べた結果、カズに勝てるとは到底思えなかった。

「サブマスだからといって、自分のスキルや魔法を簡単に明かしたりはしないですよね。ステータスを覗き見されないように、そういったアイテムを持っている冒険者も多いでしょう」

「まあそうだね。誰しも自分のスキルは隠すのは当然。ギルドの権限を使ってカズのスキルを…と言いたいけど、現状であんたを敵に回したくはないね。大事の際にアレナリアが手を貸してくれなかったりしても困るしね。今のところは無理に聞くつもりはない。わたし個人じゃなくて、ギルドとして」

 カズを危険視はするものの、アレナリアが非協力的になっては困ると、サブ・ギルドマスターとしての権限を使おうとはしなかった。

「ギルドとしてって、そういうのはギルマスが決めるものでしょ」

「うちのギルマスは半月前から出掛けて、この街にはいないんだよ。だから今は、わたしがギルドを任されてるから、色々と権限はあるの」

 ニラのどや顔に、アレナリアは少しだけイラっとしたが、顔には出さないようにした。

「悪いけど、少しだけカズと二人にしてもらっていいかしら?」

 アレナリアは先程の話を思いだし、カズと相談しようと、ニラに一度部屋を出て行ってもらうことにした。

「……いいわ。下で飲み物を貰ってくる」

 部屋を出てニラの足音が遠ざかると、アレナリアはトカ国のキ町で知り合った人物の名前を出した。

「グリズさんの名前を使えば、ニラの態度も変わると思うのだけど」

「確かにそうかも知れないが……」

 帝国の守護者という称号を持つグリズの名を出し、ニラがそれを信じればカズを危険視するのを払拭させることは出来るだろう。
 だが帝国の誰もが知り得るであろうグリズの名を、今の状況で出したところで、ニラが信じないのは明らかだとカズは思い、アレナリアの提案を受け入れようとは思わなかった。
 それに一度はパーティー名から気付かれないように、話を変えて誤魔化しているのだから、あとで何か言われかねない。

「ここでグリズさんの称号に頼ってもいいだろか? 後々面倒になるんじゃ?」

「他に現状でニラを納得させる方法ある? カズの本当のステータスを見せる? それなら今回の事を一人でやったと、納得してもらえると思うわ。でもそれこそ後々面倒になるんじゃないの?」

「……アレナリアの言う通りなのかも(グリズさんの名を出して、ニラさんが信じるとは思えないが)」

「今日ニラがカズと接したのを見る限りでは、彼女男嫌いね」

「そうなのか?」

「この街に来てから見てきたけど、そういう住人多いわよ。彼女もそれね。同性が多い街なんだから、あってもおかしくないわ」

「ならアレナリアに任せる。俺が口出したら、悪化しそうだからな」

「ええ。私だって元サブマスなんだから、こういう時くらい頼って」

 アレナリアと相談した結果、グリズの名を使うことにした。
 そこへ見計らったかの様に、ニラが三人分の飲み物を持って部屋に戻ってくる。
 ニラは二人の前にカップを置くと、カズは手に取るの躊躇う。

「何も入ってないわよ。メリアスさんがせっかく入れてくれたんだから、そんなことしたら失礼でしょ」

「そうですね(自白剤とか入ってたりしないよな。メリアスさんが淹れたなら飲まないのは失礼だし……)」

 三人がメリアスが淹れた特製のお茶を一口飲むと、アレナリアがグリズの名を出す。
  パーティー名を付けたのもグリズだと話した。
 ニラはグリズの名を聞き、ユウヒがグリズの種族だということを思い出した。
 だが現状では本当かどうか、知ることが出来ず、調べるまでカズの件は保留とした。

「もしカズを知らないと言ったら、帝国の守護者の名前を使ったとして、重い罪になるわよ」

「ええ、わかってる」

「あと半月はここに滞在するのよね。それまでには調べておくわ。くれぐれもその前に街を出ないように。カズ」

「わかってます(やっぱりアレナリアの言った通り、この人男嫌いか)」

「話しを戻すわ。飲み物を貰いに下に行ったら、ギルドから新しい連絡が来てた。一つはプルドというアラクネが、死んだ状態で見つかったのと、昨夜廃工場に居たもう一人の場所がわかって、ギルド職員達が冒険者を連れて向かってるって」

「プルドが! どうして?」

「毒が使われてるから、暗殺者に殺されたんでしょうね。部屋は荒らされて、金品も持ち去られてたみたい。強盗に襲われたと、見せ掛けようとしたのかもね」

「連中の会話で、から回収したって言うよは、プルドのことだったのね」

「今、職員と冒険者が捕らえに行ってるから、わたしはギルドに戻るわ。聴取の準備をしないとならないから」

「だったら私達がこのまま、クルエルの護衛してるわ。いいわよね」

「ええ。何かあったら外の冒険者に言って、ギルドに連絡をして」

「わかったわ。それで、プルドの事メリアスさんには?」

「全部終わったら、わたしから話をする」

「そう。ならその事は黙ってる」

「あとは頼むわ。カズは皆の食事でも買いに行きなさい。どうせ暇なんでしょ」

「ちょッ、あなたね!」

 言いたいことを言うとニラは一階に下りて、アレナリアが護衛として残ると伝え、自分はギルドに戻って行った。

「ごめんなさいカズ。まさかサブマスがあんなんだとは思わなかった」

「アレナリアが謝ることじゃないだろ。女性が多い街なんだから、ああいう人もいるさ。一応、サブマスとしての仕事はしっかりしてるみたいだから、今回は俺が我慢してればいいだけ」

「でも……」

「いいよアレナリア。あの連中を動かしてた奴が捕らえられたんだ」

「やっぱりずっと、マップで見張ってたね。昨日は寝てないんでしょ」

「気付いてたのか。ちょっと寝付けなくてな……」

「カズが殺したんじゃないわよ。気にしてるんでしょ」

「……」

「今まで結果的にカズと関わった人が死んだとしても、それは罪人であって、捕らえた国が裁いたの。今回だってそう。最後にあそこにいた全員を巻き込む毒を使って、それで死んだんだから、カズが殺したわけじゃないわ」

「……あの場で連中が毒を使わなくても、アレナリアが呼び止めてくれなければ、最終的に殺していたさ」

 数分の沈黙の後、下りて来ない二人の元にメリアスが様子を見に来た。

「ニラさんがギルドに戻りましたんやけど、今日はアレナリアさんがいてくれると?」

「ええ。もう大丈夫だとは思うけど、私達が護衛として残るわ。レラが騒がしいでしょうけど」

「レラちゃんがいてくれれば、クルエルの気が紛れるよって。それにカズさんもいてくれるんなら安心やね」

「ニラさんに言われまして、俺は皆の食べ物を買いに行って来ます」

「そんな気を使わんでも、あるもんで何か作りますよって」

「ついでと言ってはなんですが、パフさんの所に行ってきます。ギルドから連絡はいってると思いますが、心配してるでしょうし」

「そうですか。なら、お願いします」

「何か買ってきて欲しい物はありますか?」

「大丈夫です」

「ならさっそ…」

「悪いけど、お昼はある物でお願いしていい? カズは寝不足なの。だから少し休ませてあげたいの」

「俺は別に…」

「いいから。どこかで少し休ませてもらえるとありがたいのだけど」

 カズを寝かせようと、メリアスに部屋を借りようと頼むアレナリア。

「もしうちの仕事部屋で良ければ、このまま休んでもらっても構いませんよ。それとも、うちの部屋の方がいいですかね」

 家は大きくとも部屋数の少ないため、メリアスは三人が話をしていた仕事部屋か、自分の寝室を貸そうかと言う。

「ここで十分よ。ありがとう。カズには後程買い物に行ってもらうわ。欲しい物があったらメモしておいて」

「みんなにも聞いておきます」

「ありがとうございますメリアスさん。少しここで休ませてもらいます」

「どうぞ。昼食が出来たら呼びに来ます」
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