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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国
434 無くなった国 と 警戒されるカズ
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メリアスが助けてもらったお礼を言えてなく、是非にということもあり、サブ・ギルドマスターが特別にと許可したことで、カズはメリアスの家に入ることが許された。
「クルエル。メリアスさん」
「アレナリアさん! それにビワさんとレラも」
「クルっち目が赤いよ」
「あ、うん。ちょっと……泣いちゃって」
昨夜遅くに目を覚ましたクルエルの隣には、脚を切断され腹部を刺され血まみれで瀕死だったはずのメリアス。
クルエルは無事なメリアスを見て、自分は悪い夢を見ていたのかと大泣きしていた。
「あれから具合はどうですか? メリアスさん」
「まだ少し立ちくらみがしますけど、脚もお腹の傷もすっかり治って、カズさんには感謝してもしきれません。クルエル共々お礼を。ありがとうございます」
メリアスはカズに頭を下げ感謝の意を込める。
「俺の出来ることをしただけです。アラクネという種族には詳しくないので、違和感があればギルドに聞いて治療出来る方を紹介してもらってください。ただの冒険者に頼むより、そっちの方が良いでしょう」
「確かにそうしてもらえれば、ギルドとしての面目も保てる。連中を一人で片付けたあんたが、ただの冒険者とは思えないけど」
カズとメリアスのやり取りを黙って見ていたサブ・ギルドマスターが、カズの意見に同意する。
「自己紹介をしておこうか。わたしはニラ。この街にある冒険者ギルドのサブマスをしている。あんたのことはアレナリアから聞いてるよ」
「初めまして。カズです」
「アレナリアにはハウリングウルフの討伐やら、ちょっと面倒な依頼を受けてもらって助かってる。パーティー名は確か…〝ユウヒの片腕〟だったか?」
「はい。ユウヒか……」
「何か?」
「いや。どこかで聞いたような気が……」
ニラは記憶をたどり、ユウヒを思い出そうとする。
「サブマスに話をと、ギルド職員から言われたんですが」
帝国の守護者という名前が出てきたら面倒だと、ニラが思い出す前に、カズは話題を変える。
「ん? ああそうだね。今朝職員から廃工場で捕らえた三人から聴取した資料が届いて目を通した。まだ手配されていた二人は、まだ完全に自白してないようだがね。とりあえず現場に居たカズとアレナリアに、直接話を聞きたくて来てもらった。すまないがどこか部屋を貸してもらえるか?」
ニラはレラと話すクルエルに一瞬視線を向けると、メリアスに話し掛ける。
「それなら二階の部屋を」
メリアスに案内され、ニラとカズとアレナリアは二階に移動する。
部屋には裁縫道具や素材が多く、整頓され置かれていた。
「うちも同席しても?」
「メリアスさんは下で三人が上がって来ないように見ててもらえる」
「アレナリアの言う通りにしてもらえる。被害者のあなた達には悪いけど、事が片付いたら話すから」
それでも今聞きたいという表情をメリアスは浮かべる。
「数日で片付きますよ。もしギルドが話してくれなければ、俺が話します」
「……わかりました」
メリアスを説得して部屋を出ていってもらった。
「数日で片付くとは言ってくれるじゃない。何か知ってるの? カズ」
「それを含めて話します」
「だったら先ず私から話すわ」
前日アレナリアがクルエルと共に、メリアスの家に来たところから話し始めた。
侵入して暗い部屋で気配を消し、クルエルを人質に取り無抵抗になったアレナリアを拘束して、帰ってきたメリアスを待ち構えていたこと。
そこからは気を失っていたため、殺されそうになった直前に目を覚まし、カズが助けに入るまでを話した。
そしてその続きをカズが。
「先に廃工場から出ていった人物についてだが、捕らえた三人からはまだ情報を得られてない。獣人の傭兵は聞いた通り、拐う際の運び役として使われたようだ」
「他の連中は? それに最初クルエルを拐おうとした傭兵が、あと三人いるはずだけど」
「狼の獣人傭兵とモルフィと呼ばれていた二人は、あの塲で使われた毒煙で死亡した。アレナリアの言う他の傭兵三人は、街の外で死体となって見つかっている。まだ出回ってない情報よ。一部の者を除いては。わかっていると思うけど」
「ええ。他にまた潜んでる連中がいたら、メリアスさんやクルエルだけじゃなく、パフさんの店も従業員も危険が及ぶからでしょ」
「一つの国を無くした事で、早くも影響が出たってことね。アレナリアの話を聞いて確信が持てたわ」
「それって……?」
アレナリアがニラにどういう事か説明を求める。
「まだ公にはなってない事よ」
ニラは冒険者ギルド内でも一部の者しか知らない情報を、カズとアレナリアに内密として話す。
今から三ヶ月程前に、帝国がセテロンを気取られずに潰した。
と言っても、戦争を起こしたわけではなく、秘密裏にセテロン国内の情報を集め、主要人物と危険視されていた者を捕らえた。
ニラの話を聞いて、アレナリアには思い当たる節があった。
セテロンから大峡谷を越えたセカンド・キャニオンの街で、受付のギルド職員が口を滑らせたのが、ふと頭に浮かんだ。
「帝国が属国のセテロンを?」
「通って来たなら見たでしょ。セテロン国内を」
「ええ。でも主要街道は通ってこなかったから。だからこそ見知った事もあるけど」
「痺れを切らした。ってとこね。帝国内でも、非道な扱いを受けてる奴隷は少なからずいるから」
「少し意外だったわ。セテロンなんて国を放置してるから、帝国も種族売買を黙認してるんだと思ってた」
「昔前はね。国同士多少の小競合いはあっても、戦争をしないように話し合いで済んでるはずよ。だからこうして街も発展してるし、魔導列車もあと数年でバイアステッチにも通る予定。そうなれば常駐する兵士も増えて治安はもっと良くなる。そうすればギルドが治安維持の代わりをしなくてすみ、冒険者に多くの仕事を回せるようになる。本来のギルドとしての仕事を」
「他に街から多くの冒険者が来たら、バイアステッチで活動してる冒険者の仕事は減るけどね」
「その辺はなんとかするわよ。すぐいなくなる流れの冒険者より、地元で活動してる冒険者を優遇するのは当然でしょ」
「それはそうね」
「わたし的には、魔導列車が開通するまで、アレナリアには滞在してほしいんだけど」
「私達にも目的があるから無理ね。長くても半月くらい。でしょカズ」
「ビワ次第ってのもあるが、あとそれくらいかな」
「そう、それは残念。話が脱線したから戻すわ。カズ!」
「な、なんですか……?」
ニラの表情が変わり、真剣な面持ちで真っ直ぐカズを見据える。
「カズはどうやってアレナリアの場所を突き止めた? 他にもメリアスを治した魔法に、暗殺者三人を相手に無傷でいる実力。それに気を失っているクルエルを、ここまで短時間でどう運んだのか? 調べればまだ出てきそう」
「ちょっと! そんな聞き方…罪人の聴取じゃないのよ!」
ニラの言い方に腹が立ち、アレナリアが怒鳴る。
「落ち着けアレナリア。ニラさんは俺が連中と繋がってるとでも?」
「そんな事は考えてないさ。ただカズが、ただの一冒険者だというのに納得がいかないのよ。捕らえた暗殺者の実力だけど、ギルドの基準でBランクってとこね。同じBランクならアレナリアの方が実力は上でしょうけど、近距離から中距離の戦闘だと部が悪い。でしょアレナリア?」
「ええそうよ。私の戦闘は魔法主体だから、中距離から遠距離で戦うようにしてるわ」
「もしクルエルという人質がいなくて、万全の状態だったら勝てた? Bランク程の暗殺者三人と、Cランク程度の近距離戦の狼の獣人相手に」
「外なら近寄らせない様にすれば。ちょっとは怪我をするでしょうけど」
「毒を使ってくるから、そのちょっとの傷が命取り。そうならないよう慎重に戦うのは困難よね」
「……ええ。って、何が言いたいの?」
「その点から考えても、カズがBランクっていうのはおかしいでしょ。実力はAランクか、それ以上。特殊な移動手段や強力な回復の魔法があって、毒は無効かしたのか耐性を持ってるのか知らないけど、それ程の事が出来る人物を警戒するのは当然。その力がこちらに向いたらと考えると……この街に居る冒険者や兵士が束になっても勝てないでしょうね」
「カズはそんなことし…」
「それはどこかの王族が? それとも、わたし達が知ってる様な地位と実力がある人が、カズの力がこちらに向くことはないと保証してくれるの? わたしはカズのことを、まだ全然知らない。だから」
「だから……?」
「いえ(いくらなんでも、カズが怖いなん言えないわ。これでもこの街の冒険者ギルドの、サブ・ギルドマスターなんだから)」
「クルエル。メリアスさん」
「アレナリアさん! それにビワさんとレラも」
「クルっち目が赤いよ」
「あ、うん。ちょっと……泣いちゃって」
昨夜遅くに目を覚ましたクルエルの隣には、脚を切断され腹部を刺され血まみれで瀕死だったはずのメリアス。
クルエルは無事なメリアスを見て、自分は悪い夢を見ていたのかと大泣きしていた。
「あれから具合はどうですか? メリアスさん」
「まだ少し立ちくらみがしますけど、脚もお腹の傷もすっかり治って、カズさんには感謝してもしきれません。クルエル共々お礼を。ありがとうございます」
メリアスはカズに頭を下げ感謝の意を込める。
「俺の出来ることをしただけです。アラクネという種族には詳しくないので、違和感があればギルドに聞いて治療出来る方を紹介してもらってください。ただの冒険者に頼むより、そっちの方が良いでしょう」
「確かにそうしてもらえれば、ギルドとしての面目も保てる。連中を一人で片付けたあんたが、ただの冒険者とは思えないけど」
カズとメリアスのやり取りを黙って見ていたサブ・ギルドマスターが、カズの意見に同意する。
「自己紹介をしておこうか。わたしはニラ。この街にある冒険者ギルドのサブマスをしている。あんたのことはアレナリアから聞いてるよ」
「初めまして。カズです」
「アレナリアにはハウリングウルフの討伐やら、ちょっと面倒な依頼を受けてもらって助かってる。パーティー名は確か…〝ユウヒの片腕〟だったか?」
「はい。ユウヒか……」
「何か?」
「いや。どこかで聞いたような気が……」
ニラは記憶をたどり、ユウヒを思い出そうとする。
「サブマスに話をと、ギルド職員から言われたんですが」
帝国の守護者という名前が出てきたら面倒だと、ニラが思い出す前に、カズは話題を変える。
「ん? ああそうだね。今朝職員から廃工場で捕らえた三人から聴取した資料が届いて目を通した。まだ手配されていた二人は、まだ完全に自白してないようだがね。とりあえず現場に居たカズとアレナリアに、直接話を聞きたくて来てもらった。すまないがどこか部屋を貸してもらえるか?」
ニラはレラと話すクルエルに一瞬視線を向けると、メリアスに話し掛ける。
「それなら二階の部屋を」
メリアスに案内され、ニラとカズとアレナリアは二階に移動する。
部屋には裁縫道具や素材が多く、整頓され置かれていた。
「うちも同席しても?」
「メリアスさんは下で三人が上がって来ないように見ててもらえる」
「アレナリアの言う通りにしてもらえる。被害者のあなた達には悪いけど、事が片付いたら話すから」
それでも今聞きたいという表情をメリアスは浮かべる。
「数日で片付きますよ。もしギルドが話してくれなければ、俺が話します」
「……わかりました」
メリアスを説得して部屋を出ていってもらった。
「数日で片付くとは言ってくれるじゃない。何か知ってるの? カズ」
「それを含めて話します」
「だったら先ず私から話すわ」
前日アレナリアがクルエルと共に、メリアスの家に来たところから話し始めた。
侵入して暗い部屋で気配を消し、クルエルを人質に取り無抵抗になったアレナリアを拘束して、帰ってきたメリアスを待ち構えていたこと。
そこからは気を失っていたため、殺されそうになった直前に目を覚まし、カズが助けに入るまでを話した。
そしてその続きをカズが。
「先に廃工場から出ていった人物についてだが、捕らえた三人からはまだ情報を得られてない。獣人の傭兵は聞いた通り、拐う際の運び役として使われたようだ」
「他の連中は? それに最初クルエルを拐おうとした傭兵が、あと三人いるはずだけど」
「狼の獣人傭兵とモルフィと呼ばれていた二人は、あの塲で使われた毒煙で死亡した。アレナリアの言う他の傭兵三人は、街の外で死体となって見つかっている。まだ出回ってない情報よ。一部の者を除いては。わかっていると思うけど」
「ええ。他にまた潜んでる連中がいたら、メリアスさんやクルエルだけじゃなく、パフさんの店も従業員も危険が及ぶからでしょ」
「一つの国を無くした事で、早くも影響が出たってことね。アレナリアの話を聞いて確信が持てたわ」
「それって……?」
アレナリアがニラにどういう事か説明を求める。
「まだ公にはなってない事よ」
ニラは冒険者ギルド内でも一部の者しか知らない情報を、カズとアレナリアに内密として話す。
今から三ヶ月程前に、帝国がセテロンを気取られずに潰した。
と言っても、戦争を起こしたわけではなく、秘密裏にセテロン国内の情報を集め、主要人物と危険視されていた者を捕らえた。
ニラの話を聞いて、アレナリアには思い当たる節があった。
セテロンから大峡谷を越えたセカンド・キャニオンの街で、受付のギルド職員が口を滑らせたのが、ふと頭に浮かんだ。
「帝国が属国のセテロンを?」
「通って来たなら見たでしょ。セテロン国内を」
「ええ。でも主要街道は通ってこなかったから。だからこそ見知った事もあるけど」
「痺れを切らした。ってとこね。帝国内でも、非道な扱いを受けてる奴隷は少なからずいるから」
「少し意外だったわ。セテロンなんて国を放置してるから、帝国も種族売買を黙認してるんだと思ってた」
「昔前はね。国同士多少の小競合いはあっても、戦争をしないように話し合いで済んでるはずよ。だからこうして街も発展してるし、魔導列車もあと数年でバイアステッチにも通る予定。そうなれば常駐する兵士も増えて治安はもっと良くなる。そうすればギルドが治安維持の代わりをしなくてすみ、冒険者に多くの仕事を回せるようになる。本来のギルドとしての仕事を」
「他に街から多くの冒険者が来たら、バイアステッチで活動してる冒険者の仕事は減るけどね」
「その辺はなんとかするわよ。すぐいなくなる流れの冒険者より、地元で活動してる冒険者を優遇するのは当然でしょ」
「それはそうね」
「わたし的には、魔導列車が開通するまで、アレナリアには滞在してほしいんだけど」
「私達にも目的があるから無理ね。長くても半月くらい。でしょカズ」
「ビワ次第ってのもあるが、あとそれくらいかな」
「そう、それは残念。話が脱線したから戻すわ。カズ!」
「な、なんですか……?」
ニラの表情が変わり、真剣な面持ちで真っ直ぐカズを見据える。
「カズはどうやってアレナリアの場所を突き止めた? 他にもメリアスを治した魔法に、暗殺者三人を相手に無傷でいる実力。それに気を失っているクルエルを、ここまで短時間でどう運んだのか? 調べればまだ出てきそう」
「ちょっと! そんな聞き方…罪人の聴取じゃないのよ!」
ニラの言い方に腹が立ち、アレナリアが怒鳴る。
「落ち着けアレナリア。ニラさんは俺が連中と繋がってるとでも?」
「そんな事は考えてないさ。ただカズが、ただの一冒険者だというのに納得がいかないのよ。捕らえた暗殺者の実力だけど、ギルドの基準でBランクってとこね。同じBランクならアレナリアの方が実力は上でしょうけど、近距離から中距離の戦闘だと部が悪い。でしょアレナリア?」
「ええそうよ。私の戦闘は魔法主体だから、中距離から遠距離で戦うようにしてるわ」
「もしクルエルという人質がいなくて、万全の状態だったら勝てた? Bランク程の暗殺者三人と、Cランク程度の近距離戦の狼の獣人相手に」
「外なら近寄らせない様にすれば。ちょっとは怪我をするでしょうけど」
「毒を使ってくるから、そのちょっとの傷が命取り。そうならないよう慎重に戦うのは困難よね」
「……ええ。って、何が言いたいの?」
「その点から考えても、カズがBランクっていうのはおかしいでしょ。実力はAランクか、それ以上。特殊な移動手段や強力な回復の魔法があって、毒は無効かしたのか耐性を持ってるのか知らないけど、それ程の事が出来る人物を警戒するのは当然。その力がこちらに向いたらと考えると……この街に居る冒険者や兵士が束になっても勝てないでしょうね」
「カズはそんなことし…」
「それはどこかの王族が? それとも、わたし達が知ってる様な地位と実力がある人が、カズの力がこちらに向くことはないと保証してくれるの? わたしはカズのことを、まだ全然知らない。だから」
「だから……?」
「いえ(いくらなんでも、カズが怖いなん言えないわ。これでもこの街の冒険者ギルドの、サブ・ギルドマスターなんだから)」
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