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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国
431 殺意ある者達
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一人の男が短剣を持ち、倒れているアレナリアに近づいていく。
「……ッ〈アイスショット〉」
寸前のところで目を覚ましたアレナリアは、緩くなった縄を解き、氷の散弾を周りに放つ。
意識が朦朧としていたことで、攻撃は当たることはなかったが、自分と気を失っているクルエルから距離を取らせることが出来た。
ふらつきながらも、気を失ってるクルエルに駆け寄り、周囲に居る連中をクルエルに近づけさせないように立ちはだかる。
「目を覚ましやがって。縛りが甘いんだ獣人!」
「すまない」
「まあいい。もう必要はねえ」
「さっきはクルエルを人質に取られてたから大人しくしてたけど、今度はそうはいかないわよ!」
「オレに殺らせてくれ。このちびには邪魔をされた借りがある」
「やっぱりあなた達!」
よくよく見ると連中の中で、アレナリアに見覚えのある者が二人、クルエルがバイアステッチに来る時に襲った傭兵。
一人はアレナリアとクルエルを運んで来た熊の獣人、もう一人はアレナリアの足に傷を負わせた狼の獣人。
他の三人は見当たらない。
「覚えていたか。忘れてたら思い出すまで八裂きにしてやるところだ。ってか、八裂きする事には変わらねぇが」
「あなた程度で、私に勝てるとでも?」
「確かにお前の方が強いようだが、後ろのクルエルを庇いながらならどうだ?」
「おい、大事な商品なんだぞ」
「うるせェ! アレナリアが自分かわいさに避けたりしなければ、傷つく事はねぇだろ。まあ、どっちだろうがオレには関係ねえが」
「流れの傭兵だと思ってたけど、盗賊擬きだったみたいね」
「言ってろ。どれだけ抵抗しようと、この状況から逃げられはしねえ。お前が死ぬのは確定だ。あのアラクネと同じ様に」
「あのアラクネ? メリアスさんのこと!? メリアスさんに何をしたの?」
「さあなあ」
「くだらん話をしないで、早く始末しろ。そのアラクネに怪我を負わせたら、報酬を減らすぞ」
「聞いた通りだ」
「知るか! オレはこいつを痛め付けて殺せればいい。報酬なんざ二の次だ!」
「チッ。やり過ぎるな(オレらに近い考えの狼の獣人を残したつもりだったが駄目だ。これが終わったら始末する)」
「お前らは手を出すな。オレの獲物だ」
口が大きく裂けて全身に茶色の毛が行き渡り、獣形へと姿を変えた狼の獣人は、30センチを越える鉤爪状の刃が三本のある武器を右手に装備し、斬撃を飛ばす独自のスキルを使う。
「《飛爪》」
「っ! 〈アイスシールド〉」
狼の獣人から放たれた三本の斬撃は、アレナリアが作り上げた氷の障壁に阻まれる。
「よく耐えたが、それがいつまで持つか、だ!」
連続してスキルを使用し、斬撃を飛ばす狼の獣人の攻撃が、アレナリアが作り出した氷の障壁を削る。
自分を攻撃する狼の獣人以外の者を警戒するアレナリアだが、気を失う際に頭を打ったらしく頭痛が治まらない。
「どうした、守ってばかりか!」
斬撃が氷の障壁を貫通し、アレナリアに届き出す。
「っく……(カズに連絡をするにも頭が痛くて。今は耐えるしか)」
再度氷の障壁を作ろうと、アレナリアは手を正面に向ける。
「アイスシー…!」
魔法を使おうとした瞬間、ナイフがアレナリアの肩に刺さる。
「手を出すなと言ったろ!」
「時間を掛け過ぎだ」
「くそッ」
狼の獣人はまだ痛め付けて足りないと顔に出している。
「次の一撃でアイスシールドはぶっ壊れる。逃げたければ好きにしろ。後ろのが犠牲になってよければだ」
「あんた達みたいな人で無しと一緒にしないで!」
「その威勢がどこまで続くか楽しみだ《飛爪》」
「ア…アイ……(身体が痺れてきてる)」
放たれた斬撃が氷の障壁を砕き、アレナリアを切り裂く。
「きゃッ……!」
避けずクルエルに当たらないようにして、自らの身体で貫通した斬撃を受ける。
威力は落ちたものの、服を裂き身体中には多くの切り傷が付き、服には赤く血が滲む。
ナイフに塗られた麻痺毒でアレナリアは痺れ、膝から崩れ落ちる。
そこに狼の獣人が近付き、武器を付けた右手を大きく振り上げ、狼の獣人特有の爪と牙の斬撃スキルを使う。
「とどめだ《狼牙裂き》」
自分でなんとかしようとせず、もっと早く助けを呼べばと後悔し、もう駄目だと目を閉じたアレナリアの口から、小さく声が漏れる。
「……カズ」
狼の獣人がへたり込むアレナリア目掛け、鉤爪が付いた右手を振り下ろす。
だがアレナリアに攻撃が当たる事はなかった。
何故ならそれよりも早く、狼の獣人の顔面に拳が沈み、勢いそのまま十数メートル吹っ飛び壁に激突して気絶。
「〈ハイヒール〉」
身体の傷と痛みが消え、目を開けるアレナリアの前には、自然と声に出していたカズがそこに。
「……カ…ズ」
「遅くなってごめん」
「ありが…とう。私は…大丈夫。でもメリアスさんがあの連中に……」
「メリアスさんなら助けてきたから安心して。クルエルさんは気を失ってるだけだね」
「うん」
「麻痺を治す薬だよ。これ飲んでクルエルさんの側に。防御結界を張っておくから」
優しく話し掛けるカズに、アレナリアは今にも声を上げ泣きそうになる。
「てめェ誰だ? どこから入ってきやがった?」
その場の誰一人として、カズがこの廃工場に侵入した事に気付けなかった。
「面倒臭い事ばかりじゃねぇか。殺す相手が増えたんだ、報酬は増やしてもらうぞ」
「だったら早く片付けろ。終わらせたら死体ごとここを燃やせ。そのアラクネだけは必ず生かして連れて来い」
依頼主と思わしき男が廃工場を出ていく。
「だとよ! そいつらを助けに来たようだが、オレら五人…いや、馬鹿一人は使い物にならなくなったか」
依頼主と交渉していた男が、カズに吹き飛ばされた狼の獣人を見る。
「ちょうどいい。てめェらと一緒に始末して、今回の事を全て狼の獣人一人でした事にすれば」
「話が違うだろ!」
熊の獣人が今のを聞いて反論する。
「使えね傭兵は黙ってろ。お前を殺さないのは、クルエルを運ぶ役目があるからだ」
「ッ……」
毛を逆立て怒りをあらわにする熊の獣人だが、逆らっても自分では三人に勝てないと、これ以上反論はしなかった。
「さて、荷物持ちの熊の獣人は参加しないだとよ。オレら三人でてめェら二人を殺す」
「オレはむしゃくしゃしてッから、エルフはてめェの前で嬲り殺す」
「それはいいが、あまり遊んでる時間はねえぞ」
「ならエルフはオレ一人で殺る」
各々毒の付いた武器を持ち、三人はカズに殺意を向ける。
《 一分前 》
ここは……使われなくなった工場か? アレナリアとクルエルさんの他には六人。
メリアスの家を飛び出したカズは【マップ】に表示されたアレナリアの反応がある場所にたどり着いた。
そこはゴミが山積みに置かれ、壁にヒビが入り、一部の屋根は錆びて崩れ落ち、長い間使用されてない廃工場。
雨音で聞き取りずらいが、廃工場からアレナリアの声がする。
カズは歪んだ扉の隙間から音を立てないよう静かに入りると、座り込むアレナリアに向けて、狼の獣人が鉤爪状の武器を振り下ろそうとしていたのが目に入った。
周囲の状況を確認し、次に最善が何かを考え行動する。
それが今まで気に掛けて取るようにしてた行動だった。
が、現状を目の当たりにしたカズは、考えるよりも先に身体が動き、瞬時に狼の獣人の顔に力を込めた拳を叩き込む。
狼の獣人の顔は陥没し、衝撃方向へ吹き飛んでいく。
服が裂け傷付き、血が流れるアレナリアの姿を見たカズは怒りが込み上げる。
自分の力を思うよう振るえば、この場の敵対する連中を容易く殺す事は出来る。
だがそれをしてしまえば……
今までの自分が──
これからの自分が──
感情に任せて動けば──
アレナリアの傷を治し〈バリア・フィールド〉を使用している間に、後方で男達が何か喋っていた。
だがカズの耳には殆ど入ってこない。
そんな中でハッキリと聞こえたのが「エルフを嬲り殺し」という言葉。
アレナリアに更に危害を及ぼそうとする発言に、カズは怒りを押さえきれなくなる。
「……ッ〈アイスショット〉」
寸前のところで目を覚ましたアレナリアは、緩くなった縄を解き、氷の散弾を周りに放つ。
意識が朦朧としていたことで、攻撃は当たることはなかったが、自分と気を失っているクルエルから距離を取らせることが出来た。
ふらつきながらも、気を失ってるクルエルに駆け寄り、周囲に居る連中をクルエルに近づけさせないように立ちはだかる。
「目を覚ましやがって。縛りが甘いんだ獣人!」
「すまない」
「まあいい。もう必要はねえ」
「さっきはクルエルを人質に取られてたから大人しくしてたけど、今度はそうはいかないわよ!」
「オレに殺らせてくれ。このちびには邪魔をされた借りがある」
「やっぱりあなた達!」
よくよく見ると連中の中で、アレナリアに見覚えのある者が二人、クルエルがバイアステッチに来る時に襲った傭兵。
一人はアレナリアとクルエルを運んで来た熊の獣人、もう一人はアレナリアの足に傷を負わせた狼の獣人。
他の三人は見当たらない。
「覚えていたか。忘れてたら思い出すまで八裂きにしてやるところだ。ってか、八裂きする事には変わらねぇが」
「あなた程度で、私に勝てるとでも?」
「確かにお前の方が強いようだが、後ろのクルエルを庇いながらならどうだ?」
「おい、大事な商品なんだぞ」
「うるせェ! アレナリアが自分かわいさに避けたりしなければ、傷つく事はねぇだろ。まあ、どっちだろうがオレには関係ねえが」
「流れの傭兵だと思ってたけど、盗賊擬きだったみたいね」
「言ってろ。どれだけ抵抗しようと、この状況から逃げられはしねえ。お前が死ぬのは確定だ。あのアラクネと同じ様に」
「あのアラクネ? メリアスさんのこと!? メリアスさんに何をしたの?」
「さあなあ」
「くだらん話をしないで、早く始末しろ。そのアラクネに怪我を負わせたら、報酬を減らすぞ」
「聞いた通りだ」
「知るか! オレはこいつを痛め付けて殺せればいい。報酬なんざ二の次だ!」
「チッ。やり過ぎるな(オレらに近い考えの狼の獣人を残したつもりだったが駄目だ。これが終わったら始末する)」
「お前らは手を出すな。オレの獲物だ」
口が大きく裂けて全身に茶色の毛が行き渡り、獣形へと姿を変えた狼の獣人は、30センチを越える鉤爪状の刃が三本のある武器を右手に装備し、斬撃を飛ばす独自のスキルを使う。
「《飛爪》」
「っ! 〈アイスシールド〉」
狼の獣人から放たれた三本の斬撃は、アレナリアが作り上げた氷の障壁に阻まれる。
「よく耐えたが、それがいつまで持つか、だ!」
連続してスキルを使用し、斬撃を飛ばす狼の獣人の攻撃が、アレナリアが作り出した氷の障壁を削る。
自分を攻撃する狼の獣人以外の者を警戒するアレナリアだが、気を失う際に頭を打ったらしく頭痛が治まらない。
「どうした、守ってばかりか!」
斬撃が氷の障壁を貫通し、アレナリアに届き出す。
「っく……(カズに連絡をするにも頭が痛くて。今は耐えるしか)」
再度氷の障壁を作ろうと、アレナリアは手を正面に向ける。
「アイスシー…!」
魔法を使おうとした瞬間、ナイフがアレナリアの肩に刺さる。
「手を出すなと言ったろ!」
「時間を掛け過ぎだ」
「くそッ」
狼の獣人はまだ痛め付けて足りないと顔に出している。
「次の一撃でアイスシールドはぶっ壊れる。逃げたければ好きにしろ。後ろのが犠牲になってよければだ」
「あんた達みたいな人で無しと一緒にしないで!」
「その威勢がどこまで続くか楽しみだ《飛爪》」
「ア…アイ……(身体が痺れてきてる)」
放たれた斬撃が氷の障壁を砕き、アレナリアを切り裂く。
「きゃッ……!」
避けずクルエルに当たらないようにして、自らの身体で貫通した斬撃を受ける。
威力は落ちたものの、服を裂き身体中には多くの切り傷が付き、服には赤く血が滲む。
ナイフに塗られた麻痺毒でアレナリアは痺れ、膝から崩れ落ちる。
そこに狼の獣人が近付き、武器を付けた右手を大きく振り上げ、狼の獣人特有の爪と牙の斬撃スキルを使う。
「とどめだ《狼牙裂き》」
自分でなんとかしようとせず、もっと早く助けを呼べばと後悔し、もう駄目だと目を閉じたアレナリアの口から、小さく声が漏れる。
「……カズ」
狼の獣人がへたり込むアレナリア目掛け、鉤爪が付いた右手を振り下ろす。
だがアレナリアに攻撃が当たる事はなかった。
何故ならそれよりも早く、狼の獣人の顔面に拳が沈み、勢いそのまま十数メートル吹っ飛び壁に激突して気絶。
「〈ハイヒール〉」
身体の傷と痛みが消え、目を開けるアレナリアの前には、自然と声に出していたカズがそこに。
「……カ…ズ」
「遅くなってごめん」
「ありが…とう。私は…大丈夫。でもメリアスさんがあの連中に……」
「メリアスさんなら助けてきたから安心して。クルエルさんは気を失ってるだけだね」
「うん」
「麻痺を治す薬だよ。これ飲んでクルエルさんの側に。防御結界を張っておくから」
優しく話し掛けるカズに、アレナリアは今にも声を上げ泣きそうになる。
「てめェ誰だ? どこから入ってきやがった?」
その場の誰一人として、カズがこの廃工場に侵入した事に気付けなかった。
「面倒臭い事ばかりじゃねぇか。殺す相手が増えたんだ、報酬は増やしてもらうぞ」
「だったら早く片付けろ。終わらせたら死体ごとここを燃やせ。そのアラクネだけは必ず生かして連れて来い」
依頼主と思わしき男が廃工場を出ていく。
「だとよ! そいつらを助けに来たようだが、オレら五人…いや、馬鹿一人は使い物にならなくなったか」
依頼主と交渉していた男が、カズに吹き飛ばされた狼の獣人を見る。
「ちょうどいい。てめェらと一緒に始末して、今回の事を全て狼の獣人一人でした事にすれば」
「話が違うだろ!」
熊の獣人が今のを聞いて反論する。
「使えね傭兵は黙ってろ。お前を殺さないのは、クルエルを運ぶ役目があるからだ」
「ッ……」
毛を逆立て怒りをあらわにする熊の獣人だが、逆らっても自分では三人に勝てないと、これ以上反論はしなかった。
「さて、荷物持ちの熊の獣人は参加しないだとよ。オレら三人でてめェら二人を殺す」
「オレはむしゃくしゃしてッから、エルフはてめェの前で嬲り殺す」
「それはいいが、あまり遊んでる時間はねえぞ」
「ならエルフはオレ一人で殺る」
各々毒の付いた武器を持ち、三人はカズに殺意を向ける。
《 一分前 》
ここは……使われなくなった工場か? アレナリアとクルエルさんの他には六人。
メリアスの家を飛び出したカズは【マップ】に表示されたアレナリアの反応がある場所にたどり着いた。
そこはゴミが山積みに置かれ、壁にヒビが入り、一部の屋根は錆びて崩れ落ち、長い間使用されてない廃工場。
雨音で聞き取りずらいが、廃工場からアレナリアの声がする。
カズは歪んだ扉の隙間から音を立てないよう静かに入りると、座り込むアレナリアに向けて、狼の獣人が鉤爪状の武器を振り下ろそうとしていたのが目に入った。
周囲の状況を確認し、次に最善が何かを考え行動する。
それが今まで気に掛けて取るようにしてた行動だった。
が、現状を目の当たりにしたカズは、考えるよりも先に身体が動き、瞬時に狼の獣人の顔に力を込めた拳を叩き込む。
狼の獣人の顔は陥没し、衝撃方向へ吹き飛んでいく。
服が裂け傷付き、血が流れるアレナリアの姿を見たカズは怒りが込み上げる。
自分の力を思うよう振るえば、この場の敵対する連中を容易く殺す事は出来る。
だがそれをしてしまえば……
今までの自分が──
これからの自分が──
感情に任せて動けば──
アレナリアの傷を治し〈バリア・フィールド〉を使用している間に、後方で男達が何か喋っていた。
だがカズの耳には殆ど入ってこない。
そんな中でハッキリと聞こえたのが「エルフを嬲り殺し」という言葉。
アレナリアに更に危害を及ぼそうとする発言に、カズは怒りを押さえきれなくなる。
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