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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国
429 裁縫道具が出来るまで
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それから三日後、ヤトコは手入れを済ませた道具と、試作品の鋏を持ってパフ手芸店にやって来た。
ビワとクルエルに試作品を使わせて合うものを選ばせた。
大きさとかたちを決めると、試作品を持って鍛冶場へと戻り本製作にかかる。
それを何度か繰り返し、布切り鋏と握り鋏が完成した。
鍛冶仕事に取り掛かかってから二十日程して、仕上げに使う砥石が足りなくなりそうだったのに気付いたヤトコは、カズに調達を頼んだりなんて事もあったが、道具作りは順調に進んでいた。
針や毛抜きに指貫き等の道具を作り、全て出来上がる頃には四十日もの日数が経っていた。
その間に様々な出来事があった。
夜寝ぼけたアレナリアが、ソファーで寝るカズに覆い被さりなんて事が何度かあり「四人では手狭だから、近くにもう一部屋借りようか?」と言うカズの意見を「お金がもったいないから」と、却下したりなんて事も。
アレナリアが本当に寝ぼけていたのかは、あやしいものだ。
幸いクルエルを襲った連中が現れる事もなく、至って平和な日々が過ぎていた。
仕事に慣れてきたのを感じたパフが「せっかく刺繍の得意なクルエルが居るんだ。よければ三人にその技術を教えてやってくれないか?」とパフがクルエルに頼んでいた。
狙いとしては、クルエルが他人と話すことに慣れるのもあったが、三人が細かい刺繍が出来るようになれば、それぞれの仕事に幅が広がると考えてのことだった。
これによりカズ達は、予定より長くバイアステッチに滞在することになった。
その事に関して、カズもアレナリアも反対はしなかった。
ビワの技量が向上するならと。
それに道具も全部出来てはなかったので、どっちにしろまだ滞在することに変わりはなかった。
そんな中でレラがクルエルと仲良くなり、休み前日の夕食を皆で取ろうと、メリアスの家に行った時、お酒を飲み酔った勢いでレラ自ら妖精族だとばらした。
救いはグレーツとプフルは用事があり、来なかったことだろう。
女性だけの方が良いだろうと、カズは送って行くだけにして参加しなかったので、飲み過ぎだと注意することは出来なかった。
迎えの際に酔い潰れたレラを引き渡された時に、メリアスから聞き発覚した。
自分達も少し特殊な種族だから黙っていたい理由は分かると、レラのことは内緒にしてくれると約束してくれた。
当然の事ながら、翌日二日酔いのレラはカズに怒られ、はしゃぎ過ぎないように面倒を頼んだアレナリアも怒られた。
ビワは自分が注意出来なかったと反省し、重い空気が漂う。
このまま一日気不味い雰囲気になるのも嫌だったので、事前にレラに注意をしなかった自分も悪いと、カズ自身も反省して言い過ぎたと三人に謝った。
が、結局この一日、気不味い雰囲気になってしまった。
ビワとクルエルの裁縫道具が出来てから三日後、ヤトコがレラ用の武器作りに取り掛かるため、昼過ぎにレラに会おうと鍛冶場からバイアステッチやって来た。
ヤトコは先に空かせた小腹を満たすため、飲食店通りに足を向けた。
ガッツリとした大盛りの揚げ物を食べ終え店を出た所で、カズを偶然見かけ声を掛け用件を伝えた。
「そういえば、レラがそんなこと言ってましたね。作ってくれるのはいいんですが、一ヶ月以上作業してましたけど、休まなくて大丈夫なんですか?」
「もう三日も休んだ。そろそろ鎚を振るわんと」
ヤトコは腕を上下に動かし、金槌を振るう仕草をする。
「素材だが、レラの属性に合わせて、風属性の金属を使用する」
「そんな貴重なのを使わなくても」
「なぁに構わんさ。使用する量も少ないからよ」
「結構値が張るんじゃ?」
「それは心配ない。少量で使い道があまりない、風属性の魔鉄が少しだけ残ってるからそれを使う」
「ではどれくらい払えばいいですか?」
「いらんいらん。ダンジョンで助けてもらった恩もある。それにここまでの馬車代や飯代を払ってもらったろ」
「いやしかし少量とはいえ、属性付きの魔鉄は貴重でしょう」
「属性付きの魔鉄と言っても、同じ属性の者が使わんと、ただの鉄と同じ程度の弱い物だ。大した価値はない。それに魔鉄だけで作るわけじゃない」
「そうですか。ならお願いします」
「おう。それでだ」
「レラならパフさんの店にいます。最近はちょくちょくお邪魔してるんですよ」
「すまんが、また暫く鍛冶場に籠るからよ、食い物を運んでもらえるか?」
「いいですよ」
「そうか悪いな。じゃあパフの店に行くとするか」
「ええ(時間的にヤトコさんを鍛冶場に送ったら、急いで戻って来ないと迎えに間に合わないか)」
偶然ヤトコと会ったカズは、二人でパフ手芸店に向かった。
パフは出掛けているらしく、店番は元気なプフルと、まだ慣れずお客が来る度に緊張するクルエルがしていた。
カズとヤトコに少しは慣れてきたが、未だたどたどしい話し方になるのは変わらない。
今回はレラに会うのが目的なので、ヤトコはクルエルに道具の使い心地を聞く程度の会話しかしなかった。
レラの居る店の奥の部屋にヤトコが移動すると、カズは仕事の邪魔にならないよう外から裏口に回り待つ。
十五分程で裏口からヤトコが出て来た。
「ヤトコさんを鍛冶場まで送って来るから、ちょっと迎えが遅れるかも知れないから」
「わかった。アレナリアにも言っとくね」
レラに言伝を頼むと、ヤトコと共に食料を買いバイアステッチを出て鍛冶場へと向かう。
二人がパフ手芸店を離れてから一時間程で、パフが店に戻る。
「お帰りなさいパフさん」
「お帰り、なさい」
「……ん? ああ…ただいま」
店番をしていたプフルとクルエルが、戻ってきたパフの固い表情が気になり、何かあったのかと二人は顔を見合う。
どうかしたのかと、プフルが聞こうとすると、先に口を開いたのはパフの方だった。
「今日はもう店を閉めるよ。すぐに帰り支度をしなさい。奥の三人にもそう伝えて」
「え? あ、はい」
何がなんだか分からないが、プフルは言われた通り奥の部屋に行き、グレーツとビワに伝えた。
パフの様子を聞いたグレーツが、それを確かめに来る。
「どうかしたんですかパフさん? プフルが様子が変だと」
「ちょっと物騒な連中を見たって聞いたもんだから、暗くなる前にあんたらを帰すんだよ」
「物騒な連中?」
「ああ」
「……わかりました。とりあえず今日はもう上がります。今度話を聞かせてください。プフル帰り支度をして」
「クルっちはどうするの? アレナリアさんまだ来ないよね?」
「アレナリアのお嬢ちゃんなら、さっき会ったから来るよう伝えておいた。ギルドに寄ったらすぐに来るって言ってたから、そろそろ来るはずだよ」
店を閉めるとグレーツとプフルを先に上がらせ、パフはアレナリアが来るのを待った。
グレーツとプフルが店を出てから十分程して、裏口の扉が開きますアレナリアが入ってきた。
「今日はいつもより店閉めるの早いけど、誰か来るの?」
「そうじゃないんだよ。あれからわたしもプルドについて調べてたんだけど、最近になって傭兵らしき連中と一緒にいたのを見たって噂を聞いたんだよ」
「傭兵って、クルエルを襲った連中?」
「同じかは分からないがね」
「どこからそんな情報を得たの?」
「これでも長く住んでるんだ。古い付き合いから回ってく噂話も伊達じゃないのよ。ただ確証はないの。一応、念の為に」
「わかったわ。三人共帰り支度は出来てる?」
「出来てるけど、少し前にカズがヤトコのおっちゃんを鍛冶場まで送って来るから、迎えが少し遅くなるって」
「それだと暗くなっちゃうわね。四人で行きましょう。ビワとレラを先に送ったら、その足でクルエルを送って行く。パフさんは?」
「どうしても明日渡す品があるから、わたしはそれを仕上げてから上がるわ」
「大丈夫なの?」
「戸締まりしておけば大丈夫。二時間もあれば終わるわ。まだ人通りもあるし。カズさんが来たら、先に帰ったって言っておくから」
「わかったわ。行きましょう」
「お疲れさまでした。お先に失礼します」
「お疲れさまです」
「またね~」
日が暮れ始める前に、四人はパフ手芸店を出て帰路に就く。
日暮れまでまだ時間はあるが、天候が悪くなり雲が多くなってきていた。
流石に雑踏に紛れて、目立つアラクネのクルエルを狙ってきたりはしないはずだと、アレナリアは大通りを選び移動する。
周囲を警戒しつつ先にビワとレラを部屋まで送り、しっかり戸締まりして出ないように注意をして、クルエルをメリアスの家まで送って行く。
ビワとクルエルに試作品を使わせて合うものを選ばせた。
大きさとかたちを決めると、試作品を持って鍛冶場へと戻り本製作にかかる。
それを何度か繰り返し、布切り鋏と握り鋏が完成した。
鍛冶仕事に取り掛かかってから二十日程して、仕上げに使う砥石が足りなくなりそうだったのに気付いたヤトコは、カズに調達を頼んだりなんて事もあったが、道具作りは順調に進んでいた。
針や毛抜きに指貫き等の道具を作り、全て出来上がる頃には四十日もの日数が経っていた。
その間に様々な出来事があった。
夜寝ぼけたアレナリアが、ソファーで寝るカズに覆い被さりなんて事が何度かあり「四人では手狭だから、近くにもう一部屋借りようか?」と言うカズの意見を「お金がもったいないから」と、却下したりなんて事も。
アレナリアが本当に寝ぼけていたのかは、あやしいものだ。
幸いクルエルを襲った連中が現れる事もなく、至って平和な日々が過ぎていた。
仕事に慣れてきたのを感じたパフが「せっかく刺繍の得意なクルエルが居るんだ。よければ三人にその技術を教えてやってくれないか?」とパフがクルエルに頼んでいた。
狙いとしては、クルエルが他人と話すことに慣れるのもあったが、三人が細かい刺繍が出来るようになれば、それぞれの仕事に幅が広がると考えてのことだった。
これによりカズ達は、予定より長くバイアステッチに滞在することになった。
その事に関して、カズもアレナリアも反対はしなかった。
ビワの技量が向上するならと。
それに道具も全部出来てはなかったので、どっちにしろまだ滞在することに変わりはなかった。
そんな中でレラがクルエルと仲良くなり、休み前日の夕食を皆で取ろうと、メリアスの家に行った時、お酒を飲み酔った勢いでレラ自ら妖精族だとばらした。
救いはグレーツとプフルは用事があり、来なかったことだろう。
女性だけの方が良いだろうと、カズは送って行くだけにして参加しなかったので、飲み過ぎだと注意することは出来なかった。
迎えの際に酔い潰れたレラを引き渡された時に、メリアスから聞き発覚した。
自分達も少し特殊な種族だから黙っていたい理由は分かると、レラのことは内緒にしてくれると約束してくれた。
当然の事ながら、翌日二日酔いのレラはカズに怒られ、はしゃぎ過ぎないように面倒を頼んだアレナリアも怒られた。
ビワは自分が注意出来なかったと反省し、重い空気が漂う。
このまま一日気不味い雰囲気になるのも嫌だったので、事前にレラに注意をしなかった自分も悪いと、カズ自身も反省して言い過ぎたと三人に謝った。
が、結局この一日、気不味い雰囲気になってしまった。
ビワとクルエルの裁縫道具が出来てから三日後、ヤトコがレラ用の武器作りに取り掛かるため、昼過ぎにレラに会おうと鍛冶場からバイアステッチやって来た。
ヤトコは先に空かせた小腹を満たすため、飲食店通りに足を向けた。
ガッツリとした大盛りの揚げ物を食べ終え店を出た所で、カズを偶然見かけ声を掛け用件を伝えた。
「そういえば、レラがそんなこと言ってましたね。作ってくれるのはいいんですが、一ヶ月以上作業してましたけど、休まなくて大丈夫なんですか?」
「もう三日も休んだ。そろそろ鎚を振るわんと」
ヤトコは腕を上下に動かし、金槌を振るう仕草をする。
「素材だが、レラの属性に合わせて、風属性の金属を使用する」
「そんな貴重なのを使わなくても」
「なぁに構わんさ。使用する量も少ないからよ」
「結構値が張るんじゃ?」
「それは心配ない。少量で使い道があまりない、風属性の魔鉄が少しだけ残ってるからそれを使う」
「ではどれくらい払えばいいですか?」
「いらんいらん。ダンジョンで助けてもらった恩もある。それにここまでの馬車代や飯代を払ってもらったろ」
「いやしかし少量とはいえ、属性付きの魔鉄は貴重でしょう」
「属性付きの魔鉄と言っても、同じ属性の者が使わんと、ただの鉄と同じ程度の弱い物だ。大した価値はない。それに魔鉄だけで作るわけじゃない」
「そうですか。ならお願いします」
「おう。それでだ」
「レラならパフさんの店にいます。最近はちょくちょくお邪魔してるんですよ」
「すまんが、また暫く鍛冶場に籠るからよ、食い物を運んでもらえるか?」
「いいですよ」
「そうか悪いな。じゃあパフの店に行くとするか」
「ええ(時間的にヤトコさんを鍛冶場に送ったら、急いで戻って来ないと迎えに間に合わないか)」
偶然ヤトコと会ったカズは、二人でパフ手芸店に向かった。
パフは出掛けているらしく、店番は元気なプフルと、まだ慣れずお客が来る度に緊張するクルエルがしていた。
カズとヤトコに少しは慣れてきたが、未だたどたどしい話し方になるのは変わらない。
今回はレラに会うのが目的なので、ヤトコはクルエルに道具の使い心地を聞く程度の会話しかしなかった。
レラの居る店の奥の部屋にヤトコが移動すると、カズは仕事の邪魔にならないよう外から裏口に回り待つ。
十五分程で裏口からヤトコが出て来た。
「ヤトコさんを鍛冶場まで送って来るから、ちょっと迎えが遅れるかも知れないから」
「わかった。アレナリアにも言っとくね」
レラに言伝を頼むと、ヤトコと共に食料を買いバイアステッチを出て鍛冶場へと向かう。
二人がパフ手芸店を離れてから一時間程で、パフが店に戻る。
「お帰りなさいパフさん」
「お帰り、なさい」
「……ん? ああ…ただいま」
店番をしていたプフルとクルエルが、戻ってきたパフの固い表情が気になり、何かあったのかと二人は顔を見合う。
どうかしたのかと、プフルが聞こうとすると、先に口を開いたのはパフの方だった。
「今日はもう店を閉めるよ。すぐに帰り支度をしなさい。奥の三人にもそう伝えて」
「え? あ、はい」
何がなんだか分からないが、プフルは言われた通り奥の部屋に行き、グレーツとビワに伝えた。
パフの様子を聞いたグレーツが、それを確かめに来る。
「どうかしたんですかパフさん? プフルが様子が変だと」
「ちょっと物騒な連中を見たって聞いたもんだから、暗くなる前にあんたらを帰すんだよ」
「物騒な連中?」
「ああ」
「……わかりました。とりあえず今日はもう上がります。今度話を聞かせてください。プフル帰り支度をして」
「クルっちはどうするの? アレナリアさんまだ来ないよね?」
「アレナリアのお嬢ちゃんなら、さっき会ったから来るよう伝えておいた。ギルドに寄ったらすぐに来るって言ってたから、そろそろ来るはずだよ」
店を閉めるとグレーツとプフルを先に上がらせ、パフはアレナリアが来るのを待った。
グレーツとプフルが店を出てから十分程して、裏口の扉が開きますアレナリアが入ってきた。
「今日はいつもより店閉めるの早いけど、誰か来るの?」
「そうじゃないんだよ。あれからわたしもプルドについて調べてたんだけど、最近になって傭兵らしき連中と一緒にいたのを見たって噂を聞いたんだよ」
「傭兵って、クルエルを襲った連中?」
「同じかは分からないがね」
「どこからそんな情報を得たの?」
「これでも長く住んでるんだ。古い付き合いから回ってく噂話も伊達じゃないのよ。ただ確証はないの。一応、念の為に」
「わかったわ。三人共帰り支度は出来てる?」
「出来てるけど、少し前にカズがヤトコのおっちゃんを鍛冶場まで送って来るから、迎えが少し遅くなるって」
「それだと暗くなっちゃうわね。四人で行きましょう。ビワとレラを先に送ったら、その足でクルエルを送って行く。パフさんは?」
「どうしても明日渡す品があるから、わたしはそれを仕上げてから上がるわ」
「大丈夫なの?」
「戸締まりしておけば大丈夫。二時間もあれば終わるわ。まだ人通りもあるし。カズさんが来たら、先に帰ったって言っておくから」
「わかったわ。行きましょう」
「お疲れさまでした。お先に失礼します」
「お疲れさまです」
「またね~」
日が暮れ始める前に、四人はパフ手芸店を出て帰路に就く。
日暮れまでまだ時間はあるが、天候が悪くなり雲が多くなってきていた。
流石に雑踏に紛れて、目立つアラクネのクルエルを狙ってきたりはしないはずだと、アレナリアは大通りを選び移動する。
周囲を警戒しつつ先にビワとレラを部屋まで送り、しっかり戸締まりして出ないように注意をして、クルエルをメリアスの家まで送って行く。
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