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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

426 街の外に作りられた鍛冶場

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 小腹を満たした三人は、飲食店通りから主要の大通りに移動し、一本裏に入った通りにある手芸店へと足を進めた。

「パフ来たぞ。いないのか?」

 店に着いたヤトコが、入口で声を上げて店主を呼ぶ。

「連絡が取れなくなったと思ったら、来た早々騒がしいね」

「素材を集めてあちこちに行ってたんだ」

「はあ……」

 パフは眉間にシワを寄せ額に右手を当て、首を左右に振りため息をつく。

「こんなのを探させて苦労掛けたね」

「こんなのとはなんだ。こんなのとは」

「うちの仕事道具を、いつでも作って手入れしてくれると言っておきながら、半年も連絡が取れなくなったのに、何を言ってるんだか」

「それについては悪いと思ってる。次に素材を集めに行く時は一声掛けるようにする」

「そうしておくれ。道具作りと手入れは、ヤトコあんたを信頼して任せてるんだから」

「すまん。とりあえず明日から道具の手入れに取り掛かるから、用意しておいてくれ」

「道具の手入れもいいんだが、新しい子の道具も作ってもらいたいんだがね」

「仕事に支障がでないよう、先に手入れを済ませよう。作るのはそれからでいいか?」

「ああいいよ。一人は今奥にいる。もう一人は明日から来る」

「奥の一人っていうのはビワですか?」

「そうだよ。ビワにも自分用の道具が必要だからね。わたしは自分の店で働かせる子には、その子に合わせた道具を作ってもらってるんだよ。前回はグレーツとプフルのだね」

「だろうと思って、ワシは素材を集めたんだ」

 パフは目を細め、横目でいぶかしげにヤトコを見る。

「……本当だぞ!」

「本当かねぇ? 前から半年だよ。ヤトコのことだから、どっかの鉱山に入り浸ってたんりしてたんじゃないの?」

「……」

 図星なだけに、ヤトコは言い返せない。
 長い付き合いなだけに、パフはヤトコの性格を分かっていた。

「ハハは(少し前にも聞いたぞ。これ)」

「とりあえずワシは鍛冶場を見てくる。手入れせんと使えるかわからんからな」

 気不味くなったヤトコは、バイアステッチ近くに作られた鍛冶場を見に行くと言い出した。

「なら俺も行きます。ビワの仕事はまだ終わりませんよね?」

「店を閉めるまで、あと三時間くらいだよ。ちょっと急ぎの仕事があってね。今は手が離せないんだ。わたしも続きをやるから、早く行きなヤトコ」

「わかってらぁ」

「店が閉まる前には戻ってきます」

「わかったよ。ビワには伝えておくよ。アレナリアのお嬢ちゃんが先に来たら、待ってるように言っておく」

「お願いします」

「あちしビワの所で待ってるよ」

「仕事の邪魔になるだろ。急ぎって言ってるんだから」

「構わないよ。小人の一人や二人、おとなしく見てるならね」

「すみません。それじゃお願いします。邪魔するなよレラ」

「ほ~い」

 レラをビワの元に置いて、カズはヤトコと共に街の外に設けられた鍛冶場に向かう。
 移動するヤトコに何処まで行くのか聞くと、バイアステッチでは個々に使い慣れた道具を修理して長く使う者が多いため、鍛冶場のある街の外に向かうと言う。
 大きな工場ではドワーフの鍛冶師を専門に雇って、防音を施した専用の鍛冶場を街中に作ってあるのだと。
 パフ手芸店のような小さな商店から、五十人以下のような中規模の店では、専門に雇うのは金銭的に難しく、バイアステッチで修理屋として店を構える鍛冶屋に頼むのが、当たり前なのだと。
 街の外に鍛冶場が作られているのは、昼夜問わず金属を叩く音がするため、五月蝿くないようにとのこと。
 鍛冶場は基本誰でも使えるが、場所は早い者勝ちになっている。
 なので空いているかは、行ってみないとわからないのだとヤトコは言う。

 ヤトコはパフ手芸店の専門というわけではないが、パフと付き合いも長いく、新人の新しい道具はヤトコ自身が作ると言い出したらしい。
 すると必然的に道具の修理と手入れは、ヤトコ自身がしないと気がすまなくなったのだと。
 他の鍛冶屋でも出来なくはないが、使い手の癖を知ってるからこそ修理のし方があるのだと、鍛冶場に向かう道中、愚痴も交えながらヤトコの話を聞く。
 まさに職人気質かたぎなんだと、カズはヤトコを見直した。

 バイアステッチを出て北に二十分程歩くと、トンカンと金属を叩く音が聞こえてきた。
 音の発生源には、2メール程の石壁に囲まれた倉庫のような建物があった。
 中に入ると使用してる炉が三ヶ所あり、そこにはやっとこで真っ赤になった金属を挟み、それを一人もしくは二人で叩いて加工していた。
 ヤトコは作業者の手が空くのを待ち、作業場の使用について話を聞きに行った。
 三分程で話を終えてカズの所に戻って来た。
 思っていたよりも、早く話がついたようだ。

「この鍛冶場は当分空かないらしい」

「他にもこういった場所はあるんですか?」

「街の周囲に数ヶ所あるが、今はどこも忙しく、空くのは十日くらい先になるんだと」

「せっかく早い馬車で来たのに残念でしたね。一度街に戻りますか」

 暫し考えて込むと、ヤトコは何かを思い出したように歩き出した。

「そっちは街と逆方向ですよ」

「もしかしたら古い鍛冶場なら空いてるかもしれん」

「古い鍛冶場?」

「モンスターがちょくちょく現れるようになってから、危険だと言われ使われなくなったんだ。街から離れ過ぎているから、何かあった場合でも助けが来るまで時間が掛かるしよ。もしかしたら、そこが」

「古いって言ってましたけど、使えるんですか?」

「わからん。とりあえず言ってみる。モンスターが出た場合は頼むぞ。ダンジョンに居たあれに比べたら、ここらに出るモンスターなんて大したことないだろ」

「まあ、そうですかね(パフさんから頼まれたのは、ヤトコさんを探して連れて来るだけ、だったんだけど。ビワの道具を作ってくれるんだから、まあそれくらいはいいか)」

 鍛冶場から更に北へ三十分歩くと、石で作られた小さな建物と、それを囲むように崩れて1メールもない塀があった。
 ヤトコは建物が視界に入ると小走りで近づき、中に入って様子を見る。

「炉は壊れてないから、片付ければ使えそうだ」

「結構ボロボロに見えますけど、崩れませんか?」

「外側はそうだが中は大丈夫だ。ただ、仕事中に周りから丸見えだから、ちと物騒だな」

「さっき行った鍛冶場みたいな壁くらいなら作りましょうか?」

「出来るのか?」

「ええ。土属性の魔法を使えば。2メールくらいの壁で囲えばいいですか?」

「中を暗くして熱した炉の色をみたいから、もう少し高くしてくれ」

「わかりました。とりあえず中を片付けてからりしましょう。今暗くしたらやりずらいでしょうから」

「そうだな」

 カズは積もった土や砂を外に出し、ヤトコはふいごが使えるかの点検をする。
 ヤトコに言われカズは【アイテムボックス】から預かった荷物を全部を出した。

「これでふいごも使えるだろ。ワシはこのまま一度火を入れて状態を確かめる。カズは街に戻っていいぞ」

 カズは街に戻る前に、小さな鍛冶場を囲むよう〈ストーンウォール〉を使い、3メール程の石壁を作った。
 簡素な扉ならば自分で作れるからと、出入口はヤトコの身長に合わせ小さく開けておいた。

「とりあえず食べ物を置いてきます」

「おお、すまん。鍛冶場のことを考えて、飯を買うの忘れてた。今夜、炉の状態を確かめたら明日一度街に戻る。だからそんなにはいいぞ」

「了解です。出した荷物の所に置いときます(と言っても、串焼きを食べて以降、何も口にしてないからな)」

 カズは三食分の食料を置くと、念の為に【マップ】の範囲を広げ、モンスター等の危険な反応がないか確かめてから鍛冶場を出て街へと走って戻る。
 パフ手芸店へと向かい大通りを通行するも、工場の仕事を終え帰宅する人達で混み合っていた。
 そのまま帰宅する人もいれば、飲食店通りへと向かう人の流れもある。
 帰宅ラッシュに巻き込まれないように、少し遠回りと分かりながらも、カズは裏通りからパフ手芸店に向かう。
 街灯はあれど薄暗く細い裏通りも、仕事を終えて帰宅する人がぱらぱらと居る。
 
「ふぅ(こっちは空いてるな。女性ばっかりの中を、かき分けて通るのはさすがになぁ……)」

 カズは男だからと警戒されぬよう、通行する人と距離を取りながら、パフ手芸店へと足を進める。
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