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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

425 特製のお茶 と 到着する一行

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 リビングルームに通され三人掛けのソファーに座るアレナリアは、失礼だと思いながらも右へ左へと視線を動かして部屋の中を見てしまう。

「そんなにうちが珍しい?」

「あ、ごめんなさい。アラクネが住んでる家は、もっとこう……」

「蜘蛛の糸だらけやと思った?」

「……ええ、正直そうなのかと。悪気はないのよ。ごめんなさい」

「別に謝らんでもええよ。実際に寝室はそうやしね。こっちは訪ねて来るお客さんもいるから、その大きさに合わせたのを置いてるんよ」

 通されたリビングルームには、メリアスが使うには小さい椅子やテーブルが置かれている。
 アレナリアがソファーに座る際も、大変というほどの高さでもなかった。
 が、アレナリアの足は床につかず、ぶらつかせることにはなっている。
 それでも座っているソファーは、リビングにある一番低い椅子なのだが。
 などと話してる間に、クルエルが着替えを済ませて二階から下りて来る。

「こ、こんにちは。アレナリアさん」

「外に出ないのなら、別に着替えなくても…なんて、女性ならだから、そんなわけにもいかないわね(だらしない性格なら別だけど。私だったら……)」

 クルエルがテーブルを挟んで、アレナリアの向い側座ると、メリアスは発酵した茶葉を使い、それに山羊乳と蜂蜜と、ちょっとした香辛料を入れたお茶を用意する。

「クルエルはこのカップでええね」

「ありがとう。メリアス姉さん」

「今日はええけど、明日から仕事なんだからシャキッとせんと」

「わ、わかってるけど……知らない人と一緒だと考えると緊張ちゃって」

「先行きが不安ね(アラクネの種族とは思えない発言だわ。でもそれは古い考えなのよね)」

「まったくやね」

 前日にパフと会って話したにも関わらず、仕事だと聞かされ不安になるクルエルに、メリアスは特製のお茶を淹れて出す。

「アレナリアさんどうぞ。こっちはクルエル」

「変わった香りね?」

「発酵させた茶葉を使って淹れたお茶に、山羊のミルクとスパイスを少し、それと砂糖の代わりに蜂蜜を入れとるんよ。今から緊張せんと、クルエルもこれ飲んでリラックスするんやね」

「ありがとう。メリアス姉さま」

 アレナリアとクルエルは出されたカップを口に運び、甘い香りのお茶を一口。

「これ、美味しいわね」

「喜んでもらえて嬉しいわ」

「私にはちょっと……」

 茶葉とスパイスの微かな香りと、甘味の合わさった味が今一つ分からず、飲めはすれどクルエルはそこまで美味しいとは感じなかった。

「クルエルには砂糖を入れた甘い麦茶を出してあげたら。ね、メリアスさん(クルエルはまだ子供でしょ)」

 先程至った結論を、アイコンタクトでメリアスに伝えるアレナリア。
 
「ええ(そうやね)」

 アレナリアとメリアスが、ふふっと微笑すると、クルエルが不思議そうな顔をする。

「まだまだあるからか、好きなだけ飲んで。アレナリアさん」

「ええ。と言っても、そんなに飲めないけどね」

 と、言いながらも、メリアスに出されたお茶を気に入り、三人で会話をしながら、アレナリアは三度もお代わりした。

「もうお昼ね。私、そろそろ行くわ」

「うちも午後から仕事があるんやった。家にあるもの好きに使っていいから、クルエルは外に出ないようにしい」

「そうします」

「それじゃ、明日の朝迎えに来るわ」

「お願いします」

 アレナリアはメリアスの家を後にすると、午後だけで終わる仕事をして探しに、冒険者ギルドに向かった。



 バイアステッチから東に8キロメートルの場所を、馬車を引く大きな馬のモンスター、バルヤールが街に向かって走っている。

「見えてきたぞ。バイアステッチだ」

「二十日ぶりくらいか。アレナリアとビワは元気でやってるかな?」

「大丈夫しょ。あちし達みたいに、ダンジョンに入ったりすることないんだから」

「そうだな」

 バルヤールが引く馬車がバイアステッチの東側から街に入り、定期の馬車を乗り降りする所まで移動して停まる。
 職人の街クラフトからヤトコを連れて、カズとレラがバイアステッチへと戻って来た。
 馬車が停止する前に、レラが小人の姿に見えるように、カズは〈イリュージョン〉の魔法を掛ける。
 馬車から降りた三人は、ぐっと背伸びをして身体をほぐす。

「これからどうします。すぐにパフさんの店に行きますか?」

「少し小腹が空いた。何か食ってからでいいだろ。バイアステッチに着いたんだから焦ることもない」

「あちしも賛成。もうおやつの時間だよね」

「おやつ食うのはレラだけだろ。たまにならいいが、クラフトを出てから毎日じゃないか」

「いいじゃんいいじゃん。ダンジョンでヤトコのおっちゃん助けたんだから」

「自分からまだ見返りを要求するか」

「いいじゃないかカズ。ワシが奢ったるから食え食え」

「やったぁ! ゴチで~す」

「まったく(そんな言葉どこで覚えた?)」

 飲食店通りに足を進めた三人は、片手で持ち歩き出来る軽食を買う。
 カズとヤトコは、細切りにした野菜と肉に酸味の利いたドレッシングを掛け、薄く焼いた小麦の生地で包んだのを。
 レラはバイアステッチで一般的な、ドライフルーツが入ったクッキーを選び、両手で持ち満足そうにして食べる。
 バイアステッチの場所的に、果物類は乾燥させたものが殆どのため、もっぱら甘いお菓子といったら、ドライフルーツを加えたクッキーが多い。

「生の果物に限らず、工事が順調に進めば、あと三年もしない内に状況が変わるだろ」

「三年でこの距離を?」

「地中の魔素を調べ終わってれば、地盤を固めてレールを引くだけだ。国の事業で動いてるんだから、それくらいだろう。クラフトからバイアステッチまで、山や谷なんかの障害は殆どないんだらよ」

「気を付けるのは盗賊やモンスターってところですか」

「ああ。だがそれ程の脅威はないだろ。どちらが出た所で、護衛に付いてる兵士や依頼を受けた冒険者連中が追っ払う」

「次クラフトに行った時にでも乗ってみます。魔導列車に」

「便利だぞ。あのレールが繋がってれば、他の主要な街に乗るだけで行ける。クラフトから帝都までだって一日で着く」

 クラフトからバイアステッチに来る移動時間の間、カズはヤトコから様々なことを聞いていた。
 ヤトコもカズという男を信じて、自分の知っていることを話した。


 その内の一つが帝国最大の魔道具アイテム魔素還元式先導列車まそかんげんしきせんどうれっしゃ、通称『魔導列車』と呼ばれる移動手段。
 街の外に引かれたレールは、周囲から魔素マナを集め、それを通過する魔導列車が補給し燃料とする作りになっているらしい。
 レールの金属が特別というわけではなく、レールに魔素マナを集めるという術式を付与し組み込んであるいうものだと。
 敷いたレールをたどり走る列車という技術と、魔素マナを周囲から集める術式は、ダンジョンから発見されたアーティファクトを解析して得たものらしいとの噂だが、ヤトコも詳しくは知らないと。

 街中を走る魔導列車が燃料を補給するには、特定の駅に設置された魔力を補充する魔道具アイテムを使用しているとのこと。
 魔素マナを集める効果のレールを、街の外の荒野などにしか敷かないは、レールに近付いた生き物の魔力も吸収してしまうという欠点があるからだと。
 そのため街の外を通るレールには、中に侵入しないよう簡易的な柵が作られていると言う。

 燃料不足におちいらないよう、魔導列車には魔力量の多い者が必ず二、三人は乗り込むことになっているのだと。
 街から次の街までの長距離を移動する場合だと、運行が始まった初期の頃だと、十人は乗り待機してたらしい。
 だが今は魔力蓄積型人工鉱石バッテリーの精度が上がり、長距離でも魔導列車に乗り待機する人数も、三人以下となっているのだと話す。

 何でも帝都の北にある街には、アーティファクトが多数発見されるダンジョンがあり、今でも新たなアーティファクトが発見されているらしい。
 帝国が魔道具アイテムを数多く作り出せるのは、そのダンジョンがあるのが大きいとカズは聞いていた。
 これにより元の世界に戻るためのアーティファクトが見つかるのではと、とても確率の低い可能性が、一瞬だけカズの頭をよぎった。
 帝都北にあるダンジョンの街が、カズの頭の片隅に強く刻まれた瞬間だった。
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