人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

文字の大きさ
上 下
441 / 807
五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

424 バイアステッチで暮らすアラクネの住まう家

しおりを挟む
 メリアスは体格的に奥の部屋に入れないため、アレナリアとクルエルが店の方に出る。

「メリアス姉さま!」

「えらい早く着いたんやね」

「会えて嬉しいです」

 メリアスの顔を見た途端に、クルエルの涙腺はゆるみじんわりとする。

「アレナリアさんやね。急なお願いを聞い、クルエルを連れて来てもらってありがとう」

「こんな厄介だと聞いてなかったわ」

「厄介?」

「長く引き留めると、先に出た三人を待たせることになるからね。本題に入ろうじゃないか」

 パフの一言を合図に、アレナリアは今日の出来事をパフとメリアスに話した。

「そんな事が……」

 バイアステッチ周辺に盗賊は居ない、なのでプルドが雇った冒険者か傭兵の可能性は高いとメリアスは言う。
 街の隅っこに暮らすごろつきの可能性もあったが、いくらなんでもプルドがそんな連中を使うとは思えなかった。

 冒険者の場合だとしたら、ギルドを通さずに受けた依頼だろう。
 それは決して違反ではないが、自身の功績に反映されることはなく、正規の依頼だとしたら、襲ったり誘拐するような依頼が受理されるわけがない。
 そのことからメリアスは傭兵だろう確信し、アレナリアもその意見に同意した。

 冒険者が盗賊のような行為をすればギルドカードは抹消され、当然冒険者として活動は出来なくなり、場合によっては指名手配されることもある。
 そのため冒険者の可能性はほぼないとアレナリアは考えての同意だった。

 しかしそれも絶対ではない。
 冒険者としての活動をせずとも、他の国に行き、生涯遊んで暮らせるだけの報酬をちらつかせられたら、簡単に冒険者を辞めてしまう者も少なくはないだろう。
 だがプルドにそれ程の見返りが払えるとは考えにくく、結果クルエルを襲った五人は十中八九傭兵である可能性が高いとの結論に至った。

 その後これからのことなどを話していたら、早くも一時間が経過してしまった。

「暫くクルエルは、うちの所から通わせます」

「そうだね。一人暮らしするにもお金も無いだろうし、メリアスの所なら大丈夫だろうね」

「ほら、挨拶しなさい」

「よ、よろしくお願いします」

「最初は奥の部屋で、さっきの三人に聞きながら簡単な仕事からしてもらうね」

「あ、はい」

「慣れてきたとわたしが判断したら、次は接客だよ」

「せ、接客…ですか」

 色々な相手と話さなければならないと考えると、クルエルはスゴく不安な表情を浮かべる。

「街で暮らすなら慣れないといけないよ」

「……メリアス姉さま」

「十日や二十日で出来るようになれなんて、パフ姐さんだって言わないわよ。どれだけ時間が掛かるかは、クルエルの頑張り次第やからね」

 メリアスはクルエルの目を真っ直ぐ見て答える。

「が、がんばります」

「今日は疲れたろうから、明日は休んで明後日から来なさい」

「はい。よろしくお願いします」

「ってことだから、アレナリアのお嬢ちゃん」

「クルエルを迎えに行けばいいんでしょ」

「よろしく頼みます。アレナリアさん」

 メリアスはアレナリアに自分の住んでる場所を教えた。

「遠くはないけど、こことは逆方向ね。まあ、いいわ。とりあえず明後日の朝からね(ビワと一緒に行くか相談しないと)」

「早く済ませるつもりだったけど、少し長くなっちゃったわね。三人共ごはんはどうする? わたしが何か買って来るから、ここで食べようか」

「私は遠慮するわ。ビワが待ってるから。それに私の分も用意してくれてると思うしね。あ、でもクルエルを送った方がいいかしら?」

「今日はうちがいるから大丈夫です。これでもそんれなりに強いんですよ」

「今日は無理言って悪かったね。また明日」

「ええ」

 アレナリアはパフ手芸店を出て、急いで三人の元に向かった。
 グレーツとプフルの住む部屋に着くと、食事をしないでアレナリアの来るのを待っていた。
 プフルは空腹ですねているかと思いきや、待ってる間にビワがプリンを作り方を教えていたので、意外と御機嫌だった。
 これでいつでもプリンが食べられるとプフルは考え、表情に出ていた。 
 ビワのように上手く作れるのだろうか? と、アレナリアとグレーツは思っていたが口には出さなかった。
 アレナリアは単にお腹が空いていたため、これ以上夕食を遅らせたくかったから黙っていたのだった。
 余計なことを言おうが言わまいが、どうせ上手く作れなければ、プフルに変わり自分が作らされるはめになるのだからと、グレーツは黙っていた。
 遅めの夕食を取りながら、アレナリアは昼間あった事の一部を話し、三人にも気を付ける様にと注意をした。

 グレーツとプフルの部屋を出て、自分達の部屋に戻る道すがら、アレナリアは明後日からクルエルを送り迎えすることになったとビワに伝えた。
 ビワを先に送るか、クルエルを先に迎えに行くかは、明日メリアスに教えられた場所に行き、通勤による人の流れを見てから決めることにしていた。


 カズがパフに探すのを頼まれたヤトコを連れて、レラと共にバイアステッチに到着する一日前になっていた。


 ◇◆◇◆◇


 ビワをパフ手芸店に送り届けた足で、アレナリアはメリアスに教えられた場所に向かう。

 通勤時間を考えると、先にクルエルを迎えに行った方がよさそうね。
 この人混みで昨日の連中が何かしてきたら、守るのが難しいわ。

 アレナリアは大通りから裏通りへと移動し、少し遠回りでも混まない道を探した。
 通勤の時間も終わり、通りが落ち着く頃に、アレナリアはメリアスに教えた場所に到着する。
 一軒家の前で立ち止まるアレナリアは、目を見開き下から上へと首を動かし見上げた。

「ここ…よね?」

 住んでいるのが一軒家なのは予想していたアレナリアだったが、思っていたよりも大きかったことに驚愕する。
 外見からは八世帯が入る総合住宅アパートにも見える程の大きさだった。
 ただ大きく造られているのは、メリアスアラクネに合わせ造られているため、平均的な人族が暮らす三階建て以上の高さがあるにも関わらず、二階建ての造りになっている。
 アレナリアは見上げた顔を下げ、歩を進めて呼び鈴をならして、扉の前で中からの返事を待つ。
 少しすると中から気配が近づくのを感じると、ゆっくりと扉が開きメリアスが姿を現した。

「こんにちは」

「アレナリアさんやないの? 迎えは明日からと言ってあったはずやけど」

「朝は混むでしょ。だからどこを通って行くか、道筋を調べてたのよ。昨日の連中がまた来ないとも限らないから」

「色々と考えてくれるんやね。せっかく来たんやから入って。お茶くらいだしますよって」

「じゃあ、ちょっとお邪魔するわ」

 招かれてメリアスの家に入り、リビングルームに通されると、蜘蛛の糸で作られた揺れる椅子に座り、ぼんやりと眠そうにしているクルエルが居た。
 突如現れたアレナリアを見て、一瞬思考が止まり、寝間着のままのみっともない格好をしていた自身の姿が恥ずかしくなり、慌てて着替えに二階へかけ上がっていった。

「だから早く着替えるよう言うたのに」

「起きたばかりみたいね」

「疲れてるはずなのに、昨夜は中々寝付けなかったらしいん」

「昨日あんな事があったから仕方ないわよ。今日は外に出ないで、家でのんびりと?」

「どうやろか? クルエル次第やね」

「そう……一つ聞いていいかしら?」

「なんです?」

「クルエルはアラクネ族からしたら、成人…大人として扱われる年齢なの?」

「大人ですか? 人や獣人は年齢か、成人の儀式をして大人として扱われるみたいやけど」

「まあ、そうね。アラクネにはないの?」

「そうやねぇ……うちら街で暮らすアラクネの様に、他の種族と交流して、一人で生活できるだけの稼ぎをして、揉め事を起こさない。ってところやね」

「人よりの考えなのね」

「うちの勝手な考えやけど、街で暮らす内にそうなってしまったんやな」

「パフさんの影響じゃない?」

「かもしれんね」

「ならクルエルが立派な大人になるようにしないと」

「そうやね。うちも手本として、がんばらんと」

 メリアスと話した結果、二人はクルエルがまだまだ子供だという結論に至った。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

処理中です...