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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国
422 気弱なアラクネの救出
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「……近くは…いないわね。もっと集中しないと(ワイバーンと戦って気付いたけど、腕が落ちてるわ。わかってたけど。カズに頼り過ぎね)」
アレナリアはバイアステッチに来てから、毎日一人になると、魔力操作や感知の訓練をして、鈍った勘を取り戻そうとしていた。
その甲斐あって消えかけた足跡と魔力残滓に気付き、ここまで追って来れていた。
しかし遠く離れてしまうと、止まって目を閉じて集中しなければ、感じ取るのは難しかしい。
「こっち……じゃない。こっち……でもない」
アレナリアは北へ東へ南へと何度も向き直り、足跡つけた者達の魔力を探した。
「……! わずかにだけど、複数の魔力の移動」
アレナリアは目を開け、感じ取った魔力のある方角、北東へと走り出す。
魔力反応の向かう先は、アレナリアが出発した街、バイアステッチがある。
アレナリアは走りながら向かっている方にだけ集中して、魔力感知を続ける。
気のせいや間違いだったら時間の無駄になってしまうが、自分の経験を信じる。
走ること五分、微かだった魔力反応が確実のものとなった。
しかし強い風の影響で砂埃が舞い、視界が悪く対象を捕捉することが出来ない。
アレナリアは気付かれないように、慎重に距離を詰める。
するとうっすらと、複数の人影らしきものを視界に捉えた。
何もない荒野では隠れる所もなく、これ以上近づくと気付かれると、アレナリアは蜃気楼を作り出せる魔法〈ミラージュ〉を使い、自身の姿を周囲の景色と同化させるようにした。
しかし昼間の風のない砂漠のような暑さや、海や湖のような場所で使う場合と違い、本来光属性だけで使えるはずのミラージュが、火属性と水属性の魔力も使用しなければならなかった。
それも上手く魔力配分をしなければ効果は発揮せず、出来たとしても短く一時的なものとなってしまう。
そのため蜃気楼魔法ミラージュは、本来限られた場所でしか使われない魔法。
ただでさえ場所的に使うのが難しい魔法を、今の腕が鈍っているアレナリアに出来るかは不明、だが状況的にやるしかなかった。
「今の私では出来たとして、五…三分が限度ね。敵じゃなければいいのだけど、その期待は薄そうだわ」
蜃気楼魔法を使用したアレナリアは、足早に捕捉した集団へと近付いて行く。
二人が周囲を警戒し、時折アレナリアが居る方を向くが、魔法の効果が有効であったため、今のところ気付かれることはなかった。
そして集団から30メートル程の所まで近付くと、その姿がハッキリと見て取れた。
金属製の網を被せられて動きづらくなっているアラクネを、目付きの悪い男が五人が囲み移動している。
二人が人族で、二人が狼で一人が熊の獣人族。
盗賊には見えず冒険者とも違うとアレナリアは感じ、五人は傭兵だと考えた。
話しに聞いていたプルドというアラクネが雇ったのだと推測した。
動きからすると、CランクかBランクの冒険者くらいかしら。
アラクネを護りながら戦うのは厳しいわね。
あの網を外したら、逃げの一手しかないわ。
「ん?」
「どうした?」
「いや、気のせいか。今そこに誰かがいたように見えたんだが」
一人の男がアレナリアの居る方向を指差すが、そこには周囲と同じ風景が見え、強い風が吹いて砂埃が舞っているだけ。
「誰もいないぞ」
狼の獣人がその方向を見るが、アレナリアの姿は見えてない。
それに幸いアレナリアが居るのは風下のため、匂いで気付かれることもなかった。
「止まるな。早く行くぞ。てめぇもだ蜘蛛女が!」
一人の男がアラクネの足を蹴る。
「おい、傷付けるな。報酬が減るだろ」
「チッ、わかってらぁ」
蹴られたアラクネはビクッとして縮こまり、見た目よりとても小さく見える。
ふぅ……危なかった、そろそろミラージュの効果も消えるわね。
考えてる時間はない、不意を付いて一気に。
意を決しアレナリアは杖を構え〈エアーバースト〉を放ち、突風を起こして砂埃を舞い上がらせた。
突如後方からの突風で体制を崩す五人は、飛ばされないように踏ん張り、砂が目に入らぬよう目を閉じた。
既にアレナリアの姿は現れていたが、目を閉じた五人はまだその存在に気付いてない。
アレナリアは近付きながら〈アースホール〉使用し、アラクネを囲む五人の足元に穴を空けた。
アラクネが巻き込まれないようにして、五ヶ所同時に穴を空けるのは難しく、1メール程の深さでしか空けることが出来なかった。
急に足場が無くなり、 下半身が穴にズボリはまり、五人は驚き目を開けた。
するとそこには、アラクネに被せていた金属製の網を外そうとしている、アレナリアの姿があった。
「っく、これ重いわね。アラクネも引っ掛かってる所を外して!」
「え? あ、はい。でも脚に縛り付けてあって、先にそれを」
すぐ外されないよう、左右の脚二ヶ所ずつ紐で固定してあり、アラクネはそれをアレナリアに伝えた。
「道理で外れないはず。早く言ってよ」
「す、すみません」
アラクネが自身に左側の脚に縛り付けられた紐を外し、アレナリアが右側の脚に縛り付けられた紐を外す。
あと一ヶ所というところで、穴に落ちている狼の獣人が手を伸ばしアレナリアの足を掴む。
「てめぇ誰だ?」
「あと少しなのに」
狼の獣人は掴む手に力を入れる。
「痛いッ! 放しなさい!」
「誰が!」
狼の獣人はアレナリアの足を掴む手に更に力を入れると、爪がアレナリアの足に食い込む。
「痛い痛い! 放しなさいよッ! 〈アイスショット〉」
足を掴んでる狼の獣人に杖を向け、アレナリアは氷の霰弾を放つ。
至近距離から放たれたアイスショットのあまりの痛さから、掴んでいた手を放して、両腕を壁にして氷の霰弾か自身を守る。
そうしている間に、他の四人が穴から抜け出ようとしていた。
アレナリアは急ぎ最後の紐を外した。
「この網を連中の上に」
「は、はい。わかりました。…えい!」
アレナリアとアラクネは金属製の網を穴から抜け出そうとしている五人に向けて全力で頬り投げる。
ギリギリで穴から抜け出た人族と熊の獣人二人は、金属製の網を避けることが出来たが、残る三人は間に合わず、上に覆い被さって穴に逆戻り。
「私を乗っけて走って! 早く!」
アレナリアが大声でアラクネに指示をする。
「は、はい」
アラクネはアレナリアを自分の上(蜘蛛の部分)に乗せて走り出そうとする。
そうはさせまいと、熊の獣人が完全に熊の姿へと変わり、その怪力と爪で後方からアラクネを捕らえようとし、人族は後ろ腰に携えた剣を抜き接近する。
「気安く女性に触れようとするんじゃないわよ! 〈フラッシュ〉」
アレナリアは迫る二人に向けて、強い光を放ち目を眩ませる。
「ぐあ!」
「ちくしょう!」
フラッシュは近くに居た二人に効果はあったが、昼間の明るい場所での閃光は効果が薄く、穴にはまっている三人には、少し眩しい程度でしかなかった。
だが今のアレナリアにとっては、それで十分の効果だった。
「〈身体強力〉〈速度上昇〉今よ走って!」
アレナリアが強化魔法を掛けると、アラクネは全速力でその場から離脱する。
金属製の網をどかして穴から三人が出た頃には、既にアラクネとアレナリアは遠くへと移動してしまい、追い付くのは困難になっていた。
「ちくしょう。なんなんだあのガキは!」
「どうする追うか?」
「無理だろ。強力魔法を使ってたから、追い付けねえ」
「街中だと目立つからと、こんな場所まで出向いたのに」
「一度報告に戻るしかねぇな」
「あのガキ、次会ったら骨をバキバキに砕いてやる」
アイスショットで顔と腕に多くの痣が出来た狼の獣人は、アレナリアに対しての怒りが収まらなかった。
閃光で目をやられた二人の視界が戻るのを待ち、五人は苛立ちながら依頼主の元に戻って行く。
アレナリアはバイアステッチに来てから、毎日一人になると、魔力操作や感知の訓練をして、鈍った勘を取り戻そうとしていた。
その甲斐あって消えかけた足跡と魔力残滓に気付き、ここまで追って来れていた。
しかし遠く離れてしまうと、止まって目を閉じて集中しなければ、感じ取るのは難しかしい。
「こっち……じゃない。こっち……でもない」
アレナリアは北へ東へ南へと何度も向き直り、足跡つけた者達の魔力を探した。
「……! わずかにだけど、複数の魔力の移動」
アレナリアは目を開け、感じ取った魔力のある方角、北東へと走り出す。
魔力反応の向かう先は、アレナリアが出発した街、バイアステッチがある。
アレナリアは走りながら向かっている方にだけ集中して、魔力感知を続ける。
気のせいや間違いだったら時間の無駄になってしまうが、自分の経験を信じる。
走ること五分、微かだった魔力反応が確実のものとなった。
しかし強い風の影響で砂埃が舞い、視界が悪く対象を捕捉することが出来ない。
アレナリアは気付かれないように、慎重に距離を詰める。
するとうっすらと、複数の人影らしきものを視界に捉えた。
何もない荒野では隠れる所もなく、これ以上近づくと気付かれると、アレナリアは蜃気楼を作り出せる魔法〈ミラージュ〉を使い、自身の姿を周囲の景色と同化させるようにした。
しかし昼間の風のない砂漠のような暑さや、海や湖のような場所で使う場合と違い、本来光属性だけで使えるはずのミラージュが、火属性と水属性の魔力も使用しなければならなかった。
それも上手く魔力配分をしなければ効果は発揮せず、出来たとしても短く一時的なものとなってしまう。
そのため蜃気楼魔法ミラージュは、本来限られた場所でしか使われない魔法。
ただでさえ場所的に使うのが難しい魔法を、今の腕が鈍っているアレナリアに出来るかは不明、だが状況的にやるしかなかった。
「今の私では出来たとして、五…三分が限度ね。敵じゃなければいいのだけど、その期待は薄そうだわ」
蜃気楼魔法を使用したアレナリアは、足早に捕捉した集団へと近付いて行く。
二人が周囲を警戒し、時折アレナリアが居る方を向くが、魔法の効果が有効であったため、今のところ気付かれることはなかった。
そして集団から30メートル程の所まで近付くと、その姿がハッキリと見て取れた。
金属製の網を被せられて動きづらくなっているアラクネを、目付きの悪い男が五人が囲み移動している。
二人が人族で、二人が狼で一人が熊の獣人族。
盗賊には見えず冒険者とも違うとアレナリアは感じ、五人は傭兵だと考えた。
話しに聞いていたプルドというアラクネが雇ったのだと推測した。
動きからすると、CランクかBランクの冒険者くらいかしら。
アラクネを護りながら戦うのは厳しいわね。
あの網を外したら、逃げの一手しかないわ。
「ん?」
「どうした?」
「いや、気のせいか。今そこに誰かがいたように見えたんだが」
一人の男がアレナリアの居る方向を指差すが、そこには周囲と同じ風景が見え、強い風が吹いて砂埃が舞っているだけ。
「誰もいないぞ」
狼の獣人がその方向を見るが、アレナリアの姿は見えてない。
それに幸いアレナリアが居るのは風下のため、匂いで気付かれることもなかった。
「止まるな。早く行くぞ。てめぇもだ蜘蛛女が!」
一人の男がアラクネの足を蹴る。
「おい、傷付けるな。報酬が減るだろ」
「チッ、わかってらぁ」
蹴られたアラクネはビクッとして縮こまり、見た目よりとても小さく見える。
ふぅ……危なかった、そろそろミラージュの効果も消えるわね。
考えてる時間はない、不意を付いて一気に。
意を決しアレナリアは杖を構え〈エアーバースト〉を放ち、突風を起こして砂埃を舞い上がらせた。
突如後方からの突風で体制を崩す五人は、飛ばされないように踏ん張り、砂が目に入らぬよう目を閉じた。
既にアレナリアの姿は現れていたが、目を閉じた五人はまだその存在に気付いてない。
アレナリアは近付きながら〈アースホール〉使用し、アラクネを囲む五人の足元に穴を空けた。
アラクネが巻き込まれないようにして、五ヶ所同時に穴を空けるのは難しく、1メール程の深さでしか空けることが出来なかった。
急に足場が無くなり、 下半身が穴にズボリはまり、五人は驚き目を開けた。
するとそこには、アラクネに被せていた金属製の網を外そうとしている、アレナリアの姿があった。
「っく、これ重いわね。アラクネも引っ掛かってる所を外して!」
「え? あ、はい。でも脚に縛り付けてあって、先にそれを」
すぐ外されないよう、左右の脚二ヶ所ずつ紐で固定してあり、アラクネはそれをアレナリアに伝えた。
「道理で外れないはず。早く言ってよ」
「す、すみません」
アラクネが自身に左側の脚に縛り付けられた紐を外し、アレナリアが右側の脚に縛り付けられた紐を外す。
あと一ヶ所というところで、穴に落ちている狼の獣人が手を伸ばしアレナリアの足を掴む。
「てめぇ誰だ?」
「あと少しなのに」
狼の獣人は掴む手に力を入れる。
「痛いッ! 放しなさい!」
「誰が!」
狼の獣人はアレナリアの足を掴む手に更に力を入れると、爪がアレナリアの足に食い込む。
「痛い痛い! 放しなさいよッ! 〈アイスショット〉」
足を掴んでる狼の獣人に杖を向け、アレナリアは氷の霰弾を放つ。
至近距離から放たれたアイスショットのあまりの痛さから、掴んでいた手を放して、両腕を壁にして氷の霰弾か自身を守る。
そうしている間に、他の四人が穴から抜け出ようとしていた。
アレナリアは急ぎ最後の紐を外した。
「この網を連中の上に」
「は、はい。わかりました。…えい!」
アレナリアとアラクネは金属製の網を穴から抜け出そうとしている五人に向けて全力で頬り投げる。
ギリギリで穴から抜け出た人族と熊の獣人二人は、金属製の網を避けることが出来たが、残る三人は間に合わず、上に覆い被さって穴に逆戻り。
「私を乗っけて走って! 早く!」
アレナリアが大声でアラクネに指示をする。
「は、はい」
アラクネはアレナリアを自分の上(蜘蛛の部分)に乗せて走り出そうとする。
そうはさせまいと、熊の獣人が完全に熊の姿へと変わり、その怪力と爪で後方からアラクネを捕らえようとし、人族は後ろ腰に携えた剣を抜き接近する。
「気安く女性に触れようとするんじゃないわよ! 〈フラッシュ〉」
アレナリアは迫る二人に向けて、強い光を放ち目を眩ませる。
「ぐあ!」
「ちくしょう!」
フラッシュは近くに居た二人に効果はあったが、昼間の明るい場所での閃光は効果が薄く、穴にはまっている三人には、少し眩しい程度でしかなかった。
だが今のアレナリアにとっては、それで十分の効果だった。
「〈身体強力〉〈速度上昇〉今よ走って!」
アレナリアが強化魔法を掛けると、アラクネは全速力でその場から離脱する。
金属製の網をどかして穴から三人が出た頃には、既にアラクネとアレナリアは遠くへと移動してしまい、追い付くのは困難になっていた。
「ちくしょう。なんなんだあのガキは!」
「どうする追うか?」
「無理だろ。強力魔法を使ってたから、追い付けねえ」
「街中だと目立つからと、こんな場所まで出向いたのに」
「一度報告に戻るしかねぇな」
「あのガキ、次会ったら骨をバキバキに砕いてやる」
アイスショットで顔と腕に多くの痣が出来た狼の獣人は、アレナリアに対しての怒りが収まらなかった。
閃光で目をやられた二人の視界が戻るのを待ち、五人は苛立ちながら依頼主の元に戻って行く。
応援ありがとうございます!
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