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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国
419 珍しい来客
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グレーツとプフルはごくりと生唾を飲み込み、スプーンを手にして容器からプリンをすくい口に運ぶ。
二人は目を見開くと、手を止めることなくプリンを一気に食べきった。
「っは! もう無い!」
「何これ!? 美味しい! こんなのがあるなんて。貴族専用デザート?」
「貴族とかは関係ないわ。最初はカズが作ってくれたのよ」
「そのカズさんは、元貴族とかですか?」
「カズは……そう、今も昔もただの冒険者よ」
「ただの冒険者がこれを? だとしたら、秘境に住む妖精族に会って、知り得た調理法? それと本当は、どこかの王族に使えて……」
「カズを変に疑うようなら、護衛の件はなかったことにするわよ」
アレナリアは機嫌を損ね、グレーツに注意する。
「ごめんなさい。わたしが知ってる冒険者は、お金になりそうなことを、簡単に教えたりしたいから」
「ごめんなさいアレナリアさん。グレーツちゃんは、悪気があって行った訳じゃないの」
うつむき反省するグレーツをフォローするプフル。
「あ…あの、アレナリアさん。勝手にプリンを作ったの私なので、怒るなら私を……」
ビワも慌ててグレーツを庇い、アレナリアをなだめようとする。
「怒ってないわよ。思えばカズのことを初めて知った人って、大抵そうなるのよね。一緒に居ると当たり前にだと思ってしまうけど違う。ビワもそう思うでしょ」
「私は……そう…ですね」
否定をしようとしたビワだが、カズと出会ってからの事を思い出し、アレナリアの意見に同意してしまう自分がいた。
昼食後は女子四人で、部屋の中で鉱石ストーブで暖まりながらハーディーを飲み、あれこれ話しながらのんびりと休日を過ごした。
「暗くなる前に私達は戻るわ。今日はのんびり出来て楽しかった。またしましょ」
「はい。いつでも来てください。と言っても、昼間はビワさんと一緒の職場なんですが」
「また明日ねビワっち。今日はありがとう」
「簡単な料理しか教えられなくて」
「最初だからそれで良いんだよ。じゃないと、あーし出来ないから」
「あと二つプリンが残ってますから、二人で食べてください」
「本当! ありがとう」
「ありがとうビワさん。また明日」
「はい」
日が傾き暗くなる前に、アレナリアとビワはグレーツとプフルの部屋を後にする。
昨日と比べ、ビワと二人の距離が縮まったことに、アレナリアは気付いた。
「どうだったビワ?」
「お屋敷に居た時のことを思い出しました。プフルさんが、なんかキウイみたいで」
「あぁ、なんとなく似てる気がするわね。あの明るい感じが」
良い休日になったと会話をしながら二人は借りている部屋に戻り、ビワは翌日の仕事の支度をしてから就寝する。
カズにビワのことを任され、アレナリアは少しながら不安はあったが、ビワの笑みが多くなったのを見て、この日それが解消された。
三人の休日から三日後の夕暮れに、パフ手芸店に一人のアラクネが訪ねて来た。
店を閉める少し前だったので、他のお客は一人も居ない。
「どうも~。パフ姐さん居りますか?」
アラクネがこの時間に来たのは、迷惑にならないよう、仕事が終わる時間を見計らってのこと。
お客が来たと思い、店の奥で片付けをしていたグレーツが出て来る。
「お待たせいしま…メリアスさん! お久しぶりです」
「久しぶりやねグレーツ」
「今日はどうしたんですか?」
「パフ姐さんに用があったんやけど、留守のようやね」
パフ手芸店に来たアラクネの名はメリアス、常に微笑みを浮かべ、おっとりと話す。
聞き覚えのある声を耳にして、店の奥からプフルが顔を出す。
「あ、メリアスさんだ!」
「相変わらずプフルは元気やね」
「うん。あーし元気元気! メリアスさんは、相変わらず喋るのゆっくりだね」
「うふふ。そうやね」
「そうか! ビワっちも同じ様な話し方をしてたから、初めて会った気がしなかったんだ。って、ビワっちはただの人見知りか」
「一言多いわよプフル」
「ごめ~ん」
「ビワっち……? 新人さんかい?」
「あ、はい。そうです」
「ビワっちぃ~」
アラクネのメリアスに紹介しようと、プフルは奥で片付けをするビワを呼ぶ。
「……はい。なんでしょうか?」
そこに居たアラクネを見て、ビワの尻尾の毛が逆立ちそうになる。
「こちらはパフさんと古い付き合いの…」
「そんな言い方したら、お年寄りみたいじゃない」
メリアスは左手を頬に当て、冗談めかしてグレーツに言う。
「す、すみません」
失礼なことを言ったと、メリアスに頭を下げるグレーツ。
「そこまでせんでも…まあ、えぇわ」
グレーツからビワの方に向き近づくメリアス。
「ええと、ビワさんやね。初めまして。うちはメリアス。見ての通りアラクネ」
「は…初めまして。ビワ…です」
ビワがお辞儀をするも、それは目に見えてぎこちなく、メリアスは口元に手を当てクスッと笑う。
「そんな緊張して、アラクネを見たのは初めて? 別に取って食べたりせんよ」
「うちの従業員を、からかわないでくれないかい」
出掛けていたパフが戻り、店の入口からメリアスに注意する。
「パフ姐さん! お久しゅう」
メリアスは振り返り、笑顔でパフを迎える。
「ここんとこ顔を見せなかったじゃないかい。アラクネは裁縫の名手、忙しいのは当然かね?」
「なにを言いますか。パフ姐さんの方が、うちなんかよりも繊細な仕事が出来るやないですか」
「よしてくれ。昔の事だよ」
毎度の事なのか、二人は冗談半分な話し方をして、ふふふッと笑う。
「三人共お疲れさま。今日はもう上がってくれていいよ」
「あの…でも、片付けが途中で」
「いいよ。あとはわたしがしておくから」
パフとメリアスの二人だけで話をするのだと理解したグレーツとビワは、店の奥へと移動し、帰り自宅をする。
「ほら、プフルも帰るわよ」
「ええ~。メリアスさんが来てくれたのに」
「少しは空気を読みなさい!」
グレーツはプフルの腕を引っ張り、ビワと共に店の裏口から出て、飲食店が建ち並ぶ通りへと向かう。
パフは閉めた店の中で、訪ねて来たメリアスが持ってきたお酒を飲みながら、積もる話をする。
飲食店が建ち並ぶ通りへと移動した三人の元に、依頼を終えてパフ手芸店に向かうアレナリアが合流する。
「あれ!? 今日は早く終わったの?」
「パフさんの知り合いの方が訪ねて来たので、早く上がらせてもらったんです」
「メリアスさん、パフさんと話があるみたいだったから」
「メリアスさん?」
「そう。アラクネのメリアスさん。アレナリアさんもまだ会ったことないんだよね」
「ええ、ないわ(アラクネがいるのは見て知ってたけど、パフさんの知り合いだったとは)」
周りの店から漂う料理の匂いに、プフルのお腹が反応してぐぅ~と鳴る。
「もう、プフルったら」
「はぅ~」
「お腹空いたわね。今日の夕食は四人で、どこかで食べましょう」
「そうですね」
「あ~しも賛成!」
「じゃあ、今日は私がご馳走するわ。依頼の報酬が入ったから」
「え、本当に!? やったー!」
「いいんですか?」
満面の笑みを浮かべて喜ぶプフルと、申し訳なさそうにするグレーツ。
「ええ。それに食事をしながら、そのアラクネのメリアスさんについて聞かせてほしいから」
「いいですよ。あーしが今度紹介します。あ、でもパフさんに聞いた方がいいのかなぁ?」
「そうね。機会が合ったらでいいわ」
「は~い」
アレナリアとビワは夕食を取りながら、アラクネのメリアスについてグレーツとプフルから話を聞いた。
と言っても、二人もメリアスと会うのは今日で五回目なので、そこまで詳しく知っているわけではなかった。
なので話したことは、メリアスがパフと三十年来の付き合いで、パフを姐えさんと呼んでいること。
たまにふらっと訪ねて来ては、二人で話をして過ごしているのだと言う。
少なくとも、話の半分は仕事で間違いないとグレーツは話した。
理由としては、メリアスが訪ねて来た後に仕事が増える事が多いことと、パフ自身がメリアスが回してくれた仕事だと言うこもあるからだと。
二人は目を見開くと、手を止めることなくプリンを一気に食べきった。
「っは! もう無い!」
「何これ!? 美味しい! こんなのがあるなんて。貴族専用デザート?」
「貴族とかは関係ないわ。最初はカズが作ってくれたのよ」
「そのカズさんは、元貴族とかですか?」
「カズは……そう、今も昔もただの冒険者よ」
「ただの冒険者がこれを? だとしたら、秘境に住む妖精族に会って、知り得た調理法? それと本当は、どこかの王族に使えて……」
「カズを変に疑うようなら、護衛の件はなかったことにするわよ」
アレナリアは機嫌を損ね、グレーツに注意する。
「ごめんなさい。わたしが知ってる冒険者は、お金になりそうなことを、簡単に教えたりしたいから」
「ごめんなさいアレナリアさん。グレーツちゃんは、悪気があって行った訳じゃないの」
うつむき反省するグレーツをフォローするプフル。
「あ…あの、アレナリアさん。勝手にプリンを作ったの私なので、怒るなら私を……」
ビワも慌ててグレーツを庇い、アレナリアをなだめようとする。
「怒ってないわよ。思えばカズのことを初めて知った人って、大抵そうなるのよね。一緒に居ると当たり前にだと思ってしまうけど違う。ビワもそう思うでしょ」
「私は……そう…ですね」
否定をしようとしたビワだが、カズと出会ってからの事を思い出し、アレナリアの意見に同意してしまう自分がいた。
昼食後は女子四人で、部屋の中で鉱石ストーブで暖まりながらハーディーを飲み、あれこれ話しながらのんびりと休日を過ごした。
「暗くなる前に私達は戻るわ。今日はのんびり出来て楽しかった。またしましょ」
「はい。いつでも来てください。と言っても、昼間はビワさんと一緒の職場なんですが」
「また明日ねビワっち。今日はありがとう」
「簡単な料理しか教えられなくて」
「最初だからそれで良いんだよ。じゃないと、あーし出来ないから」
「あと二つプリンが残ってますから、二人で食べてください」
「本当! ありがとう」
「ありがとうビワさん。また明日」
「はい」
日が傾き暗くなる前に、アレナリアとビワはグレーツとプフルの部屋を後にする。
昨日と比べ、ビワと二人の距離が縮まったことに、アレナリアは気付いた。
「どうだったビワ?」
「お屋敷に居た時のことを思い出しました。プフルさんが、なんかキウイみたいで」
「あぁ、なんとなく似てる気がするわね。あの明るい感じが」
良い休日になったと会話をしながら二人は借りている部屋に戻り、ビワは翌日の仕事の支度をしてから就寝する。
カズにビワのことを任され、アレナリアは少しながら不安はあったが、ビワの笑みが多くなったのを見て、この日それが解消された。
三人の休日から三日後の夕暮れに、パフ手芸店に一人のアラクネが訪ねて来た。
店を閉める少し前だったので、他のお客は一人も居ない。
「どうも~。パフ姐さん居りますか?」
アラクネがこの時間に来たのは、迷惑にならないよう、仕事が終わる時間を見計らってのこと。
お客が来たと思い、店の奥で片付けをしていたグレーツが出て来る。
「お待たせいしま…メリアスさん! お久しぶりです」
「久しぶりやねグレーツ」
「今日はどうしたんですか?」
「パフ姐さんに用があったんやけど、留守のようやね」
パフ手芸店に来たアラクネの名はメリアス、常に微笑みを浮かべ、おっとりと話す。
聞き覚えのある声を耳にして、店の奥からプフルが顔を出す。
「あ、メリアスさんだ!」
「相変わらずプフルは元気やね」
「うん。あーし元気元気! メリアスさんは、相変わらず喋るのゆっくりだね」
「うふふ。そうやね」
「そうか! ビワっちも同じ様な話し方をしてたから、初めて会った気がしなかったんだ。って、ビワっちはただの人見知りか」
「一言多いわよプフル」
「ごめ~ん」
「ビワっち……? 新人さんかい?」
「あ、はい。そうです」
「ビワっちぃ~」
アラクネのメリアスに紹介しようと、プフルは奥で片付けをするビワを呼ぶ。
「……はい。なんでしょうか?」
そこに居たアラクネを見て、ビワの尻尾の毛が逆立ちそうになる。
「こちらはパフさんと古い付き合いの…」
「そんな言い方したら、お年寄りみたいじゃない」
メリアスは左手を頬に当て、冗談めかしてグレーツに言う。
「す、すみません」
失礼なことを言ったと、メリアスに頭を下げるグレーツ。
「そこまでせんでも…まあ、えぇわ」
グレーツからビワの方に向き近づくメリアス。
「ええと、ビワさんやね。初めまして。うちはメリアス。見ての通りアラクネ」
「は…初めまして。ビワ…です」
ビワがお辞儀をするも、それは目に見えてぎこちなく、メリアスは口元に手を当てクスッと笑う。
「そんな緊張して、アラクネを見たのは初めて? 別に取って食べたりせんよ」
「うちの従業員を、からかわないでくれないかい」
出掛けていたパフが戻り、店の入口からメリアスに注意する。
「パフ姐さん! お久しゅう」
メリアスは振り返り、笑顔でパフを迎える。
「ここんとこ顔を見せなかったじゃないかい。アラクネは裁縫の名手、忙しいのは当然かね?」
「なにを言いますか。パフ姐さんの方が、うちなんかよりも繊細な仕事が出来るやないですか」
「よしてくれ。昔の事だよ」
毎度の事なのか、二人は冗談半分な話し方をして、ふふふッと笑う。
「三人共お疲れさま。今日はもう上がってくれていいよ」
「あの…でも、片付けが途中で」
「いいよ。あとはわたしがしておくから」
パフとメリアスの二人だけで話をするのだと理解したグレーツとビワは、店の奥へと移動し、帰り自宅をする。
「ほら、プフルも帰るわよ」
「ええ~。メリアスさんが来てくれたのに」
「少しは空気を読みなさい!」
グレーツはプフルの腕を引っ張り、ビワと共に店の裏口から出て、飲食店が建ち並ぶ通りへと向かう。
パフは閉めた店の中で、訪ねて来たメリアスが持ってきたお酒を飲みながら、積もる話をする。
飲食店が建ち並ぶ通りへと移動した三人の元に、依頼を終えてパフ手芸店に向かうアレナリアが合流する。
「あれ!? 今日は早く終わったの?」
「パフさんの知り合いの方が訪ねて来たので、早く上がらせてもらったんです」
「メリアスさん、パフさんと話があるみたいだったから」
「メリアスさん?」
「そう。アラクネのメリアスさん。アレナリアさんもまだ会ったことないんだよね」
「ええ、ないわ(アラクネがいるのは見て知ってたけど、パフさんの知り合いだったとは)」
周りの店から漂う料理の匂いに、プフルのお腹が反応してぐぅ~と鳴る。
「もう、プフルったら」
「はぅ~」
「お腹空いたわね。今日の夕食は四人で、どこかで食べましょう」
「そうですね」
「あ~しも賛成!」
「じゃあ、今日は私がご馳走するわ。依頼の報酬が入ったから」
「え、本当に!? やったー!」
「いいんですか?」
満面の笑みを浮かべて喜ぶプフルと、申し訳なさそうにするグレーツ。
「ええ。それに食事をしながら、そのアラクネのメリアスさんについて聞かせてほしいから」
「いいですよ。あーしが今度紹介します。あ、でもパフさんに聞いた方がいいのかなぁ?」
「そうね。機会が合ったらでいいわ」
「は~い」
アレナリアとビワは夕食を取りながら、アラクネのメリアスについてグレーツとプフルから話を聞いた。
と言っても、二人もメリアスと会うのは今日で五回目なので、そこまで詳しく知っているわけではなかった。
なので話したことは、メリアスがパフと三十年来の付き合いで、パフを姐えさんと呼んでいること。
たまにふらっと訪ねて来ては、二人で話をして過ごしているのだと言う。
少なくとも、話の半分は仕事で間違いないとグレーツは話した。
理由としては、メリアスが訪ねて来た後に仕事が増える事が多いことと、パフ自身がメリアスが回してくれた仕事だと言うこもあるからだと。
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