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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国
417 同僚と過ごす休日
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グレーツの出身はバイアステッチから南東に歩きで三日の場所にある村、プフルは南西に歩きで三日の場所にある村の出身。
二人は従姉妹にあたり、プフルが16歳でグレーツが18歳。
二人の実家があるのは、ジャンクと呼ばれ差別されている半獣人が多く住む村。
仕事はあれど村の中だけでは少なく、自給自足するにも家族が多いと、暮らしていくだけでも困難。
一部分だけに現れる獣の特徴が半獣人の証拠となり、常に肌が露出する顔や手などに出る者は、仕事を求めても大きな街には行かない。
誰しもが差別するでもないが、やはり村から出るのを躊躇する。
グレーツとプフルの二人は服で隠れるため、幸いなことに半獣人とは気付かれにくく、村の外に仕事を探しに出ることが出来た。
バイアステッチだけではなく、他の街でも素性を隠して働く半獣人は少なからず居る。
グレーツが16歳の時に村から出て、バイアステッチで働きだし、半年程前にグレーツの元を訪ねて、16歳になったプフルがバイアステッチに働きにやって来た。
しかしその半月前にグレーツが半獣人だと知られ、職場と住んでいた場所を追い出されてしまっていた。
家族に仕送りしながらも、やりくりをして貯めたお金で、その日その日を暮らして新たな仕事を探すようになった。
半月もすると貯めたお金も残りわずかとなり、もうバイアステッチでは駄目かという時にパフと出会い、仕事を与えて住む場所も紹介してもらい救ってもらった。
プフルがグレーツを訪ねて来たのは、その数日後。
事情を知っているパフはプフルも雇い、グレーツと一緒に住むように進め、今は二人一緒に暮らしいる。
この事を知っているのはパフだけ。
ビワとアレナリアが聞かされているのは、パフと初めて会ったあの夜に、二人が半獣人だと聞かされているそれだけ。
なのでグレーツとプフルの身体の何処に、獣の特徴が出ているかは知らない。
アレナリアとビワもそれを聞こうとはしない。
「ビワっちのお弁当、今日も美味しかったね。あーしのどうだった?」
「美味しかった…です。ちょっと味が…濃いですが」
「不味いって言っていいのよ。ビワさん」
「グレーツちゃんひどいなぁ」
「ひどいのはプフルの味付け。わたしも一口食べたけど、スッゴい濃くて舌が曲がりそうだったわ」
「そ、そこまで言うか! グレーツちゃんだって、ビワっちみたいな美味しいの作れないでしょ」
「そんなこと言うなら、これからプフルの分は作ってあげないわよ」
「横暴だぁ」
口喧嘩を始める二人を見て、ビワはおろおろする。
「どこがよ。だったらもっとましな料理を作れるようになりなさい」
「なれったって、グレーツちゃんに教えて……」
プフルの視線がビワに向くと、次の瞬間口の両端を上げてにんまりとする。
「ねぇビワっち、明日の休みってひま~?」
「と…特に用事はないです。なので、一人で縫い物の練習を…しようかと」
「用はないのね。だったらうちに来て、料理教えて!」
「え…あ…でも……」
どうしたものかと、ビワはグレーツを見る。
「それ良いわね。そうすれば、わたしも美味しい料理が作れるように。どうビワさん」
口喧嘩はどこえやら、グレーツもプフルの意見に同意してビワにお願いする。
「あの、す…少しくらいなら」
「やったー! 決まりね。明日グレーツちゃんと迎えに行くから、そのまま食材買いに行こう」
「あの…はい」
「プフルったら。無理言ってごめんなさい。アレナリアさんも一緒に来てもらっていいから」
「き…聞いてみます(お二人の部屋に……アレナリアさん来てもらわないと、私だけだと間が持たない)」
「それと部屋には小さいけど、備え付けの冷蔵箱があるから」
プフルの押しとグレーツの同意で、ビワは二人に料理を教えることになった。
少々困惑するビワだったが、昼食の休憩が終わる時間となり、三人は午後の仕事に取り掛かる。
動揺からか多少の失敗をしつつも、ビワはこの日の仕事も終えた。
プフルとグレーツと店主のパフに挨拶をして店の裏口から出ると、ビワを迎えにアレナリアが既に来ていた。
「お疲れビワ。お昼に来れなくてごめんなさい。今日は依頼で街外れまで行ってたものだから」
「大丈夫です。プフルさんとグレーツさんと三人でお弁当食べました」
「少しは慣れた?」
「はい。二人から明日の休みに料理を教えてほしいと言われて、朝迎えに来ると。それでアレナリアさんも一緒にどうですか?」
「残念だけど明日は街の外に現れたハウリングウルフの討伐を頼まれちゃったの。だからビワには私が戻って来るまで、部屋から出ないようにしてもらおうと思ったのどけど」
「そうなんですか。なら…」
「いいわよ行って来て。あの二人の住んでる所ならここから近いし、料理をするなら部屋にこもるわけだから危険もないでしょ」
「わかりました」
「私も討伐の依頼を終えたら、お腹を空かせて行くから二人には伝えておいて」
「はい。アレナリアさんの分はちゃんと取っておきます」
「楽しみにしてるわ。お金を置いてくから、食材を買う足しにして。出来るだけお昼に間に合うようにするから」
「はい」
パフ手芸店を出た二人は、その足で出来合いの料理を買って戻り、夕食を取りながら今日の出来事を話す。
夕食をビワが作ることもあるが、毎日は大変だから作るのはたまにでいいと、二人で話して決めたことだった。
◇◆◇◆◇
翌朝、軽い朝食を済ませたアレナリアは、一足先に部屋を出て冒険者ギルドに寄り、他の冒険者二人とハウリングウルフの討伐に街の外へ向かった。
それから三十分程して、プフルとグレーツがビワを迎えに来た。
ビワは練習で作った買い物袋と、アレナリアが置いていったお金を持ち、プフルとグレーツと共に食材を買いに出掛ける。
流石に二人の前では、アイテムポケットが付与された手提げ袋を使うおうとはしない。
アレナリアにも注意されていたから。
「ビワっち、アレナリアさんは?」
「冒険者ギルドから…ハウリングウルフの討伐依頼を頼まれたと…少し前に出掛けまし…た」
「街の近くに出るって、わたしも最近噂で聞いたけど……本当だったのね」
心配事があるのか、一瞬表情が曇るグレーツ。
「ハウリングウルフは結構な数で群れるって聞いたことあるけど、アレナリアさん大丈夫なの?」
「大丈夫…です。アレナリアさんは、強いです…から」
「そうなんだ。見た目とは違うんだね。グレーツちゃんもそう思うでしょ」
「……あ、うん、そう。冒険者ギルドから頼まれたのね」
考え事をして話を聞き逃し、会話が噛み合わなくなるグレーツ。
「急にどうしたの? グレーツちゃん」
「何でもないわ。せっかくの休みにビワさんが料理を教えてくれるのに、考え事しちゃって」
「やっぱり…私では……不足でした…か?」
「違うわ。ごめんな……さい」
ビワとグレーツはお互いに黙ってしまう。
「な、なに静かになっちゃってるのさ。これから美味しいごはんを作ろうってのに。ビワっちが心配してないってことは、アレナリアさんなら大丈夫って信頼してるからでしょ」
「はい」
「グレーツちゃんはまだ、寝ぼけてるんだよね」
「そんなわけないでしょ」
冗談だとは分かっていたが、からかうプフルをつい睨み付けるしまうグレーツ。
「な、なら美味しいごはん作って待ってようよ。さぁ行こう!」
プフルはグレーツとビワの手を引っ張り、楽しげに市場へと向かう。
明るくするプフルにあてられて、ビワとグレーツも休日を楽しく過ごそうという気になる。
三人で数件の店を回り、野菜と肉と山羊乳と香辛料を選び、他にあとは鶏卵を買ってプフルとグレーツの部屋へ行く。
二人が住むのは三階建ての集合住宅。
大家がパフと長い付き合いで、住人の半分以上がパフの紹介で部屋を借りている。
大家も種族差別はしない主義の人だからこそ、グレーツとプフルも安心して暮らせている。
雪は降らずとも毎日まだ冷える日々、ビワはグレーツとプフルの二人と作る料理を相談して、最初は簡単なものにする。
山羊乳を使ったクリームシチューと、それを使ったグラタンを作ることにした。
コロコロ鳥の卵は売ってないが、鶏卵が売っていたので、アレナリアも喜ぶからと、デザートにプリンを作ることにした。
二人は従姉妹にあたり、プフルが16歳でグレーツが18歳。
二人の実家があるのは、ジャンクと呼ばれ差別されている半獣人が多く住む村。
仕事はあれど村の中だけでは少なく、自給自足するにも家族が多いと、暮らしていくだけでも困難。
一部分だけに現れる獣の特徴が半獣人の証拠となり、常に肌が露出する顔や手などに出る者は、仕事を求めても大きな街には行かない。
誰しもが差別するでもないが、やはり村から出るのを躊躇する。
グレーツとプフルの二人は服で隠れるため、幸いなことに半獣人とは気付かれにくく、村の外に仕事を探しに出ることが出来た。
バイアステッチだけではなく、他の街でも素性を隠して働く半獣人は少なからず居る。
グレーツが16歳の時に村から出て、バイアステッチで働きだし、半年程前にグレーツの元を訪ねて、16歳になったプフルがバイアステッチに働きにやって来た。
しかしその半月前にグレーツが半獣人だと知られ、職場と住んでいた場所を追い出されてしまっていた。
家族に仕送りしながらも、やりくりをして貯めたお金で、その日その日を暮らして新たな仕事を探すようになった。
半月もすると貯めたお金も残りわずかとなり、もうバイアステッチでは駄目かという時にパフと出会い、仕事を与えて住む場所も紹介してもらい救ってもらった。
プフルがグレーツを訪ねて来たのは、その数日後。
事情を知っているパフはプフルも雇い、グレーツと一緒に住むように進め、今は二人一緒に暮らしいる。
この事を知っているのはパフだけ。
ビワとアレナリアが聞かされているのは、パフと初めて会ったあの夜に、二人が半獣人だと聞かされているそれだけ。
なのでグレーツとプフルの身体の何処に、獣の特徴が出ているかは知らない。
アレナリアとビワもそれを聞こうとはしない。
「ビワっちのお弁当、今日も美味しかったね。あーしのどうだった?」
「美味しかった…です。ちょっと味が…濃いですが」
「不味いって言っていいのよ。ビワさん」
「グレーツちゃんひどいなぁ」
「ひどいのはプフルの味付け。わたしも一口食べたけど、スッゴい濃くて舌が曲がりそうだったわ」
「そ、そこまで言うか! グレーツちゃんだって、ビワっちみたいな美味しいの作れないでしょ」
「そんなこと言うなら、これからプフルの分は作ってあげないわよ」
「横暴だぁ」
口喧嘩を始める二人を見て、ビワはおろおろする。
「どこがよ。だったらもっとましな料理を作れるようになりなさい」
「なれったって、グレーツちゃんに教えて……」
プフルの視線がビワに向くと、次の瞬間口の両端を上げてにんまりとする。
「ねぇビワっち、明日の休みってひま~?」
「と…特に用事はないです。なので、一人で縫い物の練習を…しようかと」
「用はないのね。だったらうちに来て、料理教えて!」
「え…あ…でも……」
どうしたものかと、ビワはグレーツを見る。
「それ良いわね。そうすれば、わたしも美味しい料理が作れるように。どうビワさん」
口喧嘩はどこえやら、グレーツもプフルの意見に同意してビワにお願いする。
「あの、す…少しくらいなら」
「やったー! 決まりね。明日グレーツちゃんと迎えに行くから、そのまま食材買いに行こう」
「あの…はい」
「プフルったら。無理言ってごめんなさい。アレナリアさんも一緒に来てもらっていいから」
「き…聞いてみます(お二人の部屋に……アレナリアさん来てもらわないと、私だけだと間が持たない)」
「それと部屋には小さいけど、備え付けの冷蔵箱があるから」
プフルの押しとグレーツの同意で、ビワは二人に料理を教えることになった。
少々困惑するビワだったが、昼食の休憩が終わる時間となり、三人は午後の仕事に取り掛かる。
動揺からか多少の失敗をしつつも、ビワはこの日の仕事も終えた。
プフルとグレーツと店主のパフに挨拶をして店の裏口から出ると、ビワを迎えにアレナリアが既に来ていた。
「お疲れビワ。お昼に来れなくてごめんなさい。今日は依頼で街外れまで行ってたものだから」
「大丈夫です。プフルさんとグレーツさんと三人でお弁当食べました」
「少しは慣れた?」
「はい。二人から明日の休みに料理を教えてほしいと言われて、朝迎えに来ると。それでアレナリアさんも一緒にどうですか?」
「残念だけど明日は街の外に現れたハウリングウルフの討伐を頼まれちゃったの。だからビワには私が戻って来るまで、部屋から出ないようにしてもらおうと思ったのどけど」
「そうなんですか。なら…」
「いいわよ行って来て。あの二人の住んでる所ならここから近いし、料理をするなら部屋にこもるわけだから危険もないでしょ」
「わかりました」
「私も討伐の依頼を終えたら、お腹を空かせて行くから二人には伝えておいて」
「はい。アレナリアさんの分はちゃんと取っておきます」
「楽しみにしてるわ。お金を置いてくから、食材を買う足しにして。出来るだけお昼に間に合うようにするから」
「はい」
パフ手芸店を出た二人は、その足で出来合いの料理を買って戻り、夕食を取りながら今日の出来事を話す。
夕食をビワが作ることもあるが、毎日は大変だから作るのはたまにでいいと、二人で話して決めたことだった。
◇◆◇◆◇
翌朝、軽い朝食を済ませたアレナリアは、一足先に部屋を出て冒険者ギルドに寄り、他の冒険者二人とハウリングウルフの討伐に街の外へ向かった。
それから三十分程して、プフルとグレーツがビワを迎えに来た。
ビワは練習で作った買い物袋と、アレナリアが置いていったお金を持ち、プフルとグレーツと共に食材を買いに出掛ける。
流石に二人の前では、アイテムポケットが付与された手提げ袋を使うおうとはしない。
アレナリアにも注意されていたから。
「ビワっち、アレナリアさんは?」
「冒険者ギルドから…ハウリングウルフの討伐依頼を頼まれたと…少し前に出掛けまし…た」
「街の近くに出るって、わたしも最近噂で聞いたけど……本当だったのね」
心配事があるのか、一瞬表情が曇るグレーツ。
「ハウリングウルフは結構な数で群れるって聞いたことあるけど、アレナリアさん大丈夫なの?」
「大丈夫…です。アレナリアさんは、強いです…から」
「そうなんだ。見た目とは違うんだね。グレーツちゃんもそう思うでしょ」
「……あ、うん、そう。冒険者ギルドから頼まれたのね」
考え事をして話を聞き逃し、会話が噛み合わなくなるグレーツ。
「急にどうしたの? グレーツちゃん」
「何でもないわ。せっかくの休みにビワさんが料理を教えてくれるのに、考え事しちゃって」
「やっぱり…私では……不足でした…か?」
「違うわ。ごめんな……さい」
ビワとグレーツはお互いに黙ってしまう。
「な、なに静かになっちゃってるのさ。これから美味しいごはんを作ろうってのに。ビワっちが心配してないってことは、アレナリアさんなら大丈夫って信頼してるからでしょ」
「はい」
「グレーツちゃんはまだ、寝ぼけてるんだよね」
「そんなわけないでしょ」
冗談だとは分かっていたが、からかうプフルをつい睨み付けるしまうグレーツ。
「な、なら美味しいごはん作って待ってようよ。さぁ行こう!」
プフルはグレーツとビワの手を引っ張り、楽しげに市場へと向かう。
明るくするプフルにあてられて、ビワとグレーツも休日を楽しく過ごそうという気になる。
三人で数件の店を回り、野菜と肉と山羊乳と香辛料を選び、他にあとは鶏卵を買ってプフルとグレーツの部屋へ行く。
二人が住むのは三階建ての集合住宅。
大家がパフと長い付き合いで、住人の半分以上がパフの紹介で部屋を借りている。
大家も種族差別はしない主義の人だからこそ、グレーツとプフルも安心して暮らせている。
雪は降らずとも毎日まだ冷える日々、ビワはグレーツとプフルの二人と作る料理を相談して、最初は簡単なものにする。
山羊乳を使ったクリームシチューと、それを使ったグラタンを作ることにした。
コロコロ鳥の卵は売ってないが、鶏卵が売っていたので、アレナリアも喜ぶからと、デザートにプリンを作ることにした。
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