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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国
415 安価なストーブ
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岩の間の細い道を抜けると、多くの人が作業する鉱山に出た。
ふぅ、と一息つくヤトコに声を掛ける人物。
「おい、ヤトコ無事だったか」
「なんとかだ。今回は危なかった。この冒険者カズに助けられて、生きて戻って来れた。ケルにも心配かけたみたいだな。どうだ、これからの火酒屋に行くが、来るか? 詫びに奢るぞ」
「今日は頼まれた鉱石を掘らんとならんから、また今度にする」
「そうか。ならワシのつけで飲んでくれや」
「せっかくの好意だ。そうさせてもらおうかのぉ」
安心した表情をしたケルと分かれ、三人は鉱山を下り、火酒屋へと向かった。
時刻は昼を過ぎたあたり、どの店も昼食のピークを過ぎたので、それほど混んではいない。
もちろんそれは火酒屋も同じだった。
流石に汚れたまま店に入るわけにはと、カズが〈クリーン〉で体と衣服の汚れを取り除いてから店内に入る。
「おや、ヤトコを見つけたのかい」
「ええ」
「迷惑かけた」
「あんたのことだから、どっかに穴ぐらで石も掘って寝泊まりしてたんだろ」
「そんなもんだ。とりあえず飯をくれ。煮込みは大盛りでだ。あとは三人分の酒を」
「あちしは麦シュワね」
「俺もそれで」
「あいよ」
「なんだ酒は苦手か?」
「嫌いではないですが、ほどほどで」
「そうか。まあ、支払いは気にせず好きに飲み食いしてくれ」
「ありがとうございます。けど、それこそほどほどにしときます」
「遠慮深いやつだ」
注文した料理とお酒を一ヶ月ぶりに噛みしめながら食すヤトコに、カズはバイアステッチのパフの所に、いつ頃行けるか、もしくは必要な道具を持って行けるかを訪ねる。
「誰でも使える鋏や針などの道具はこの街でも売ってはいるが、個々に使う道具ならば、その使い手に合わせて作らねばならん。だから本人に会ってから作る必要がある」
「なるほど(一流が使う道具は高く良い物でも、量産品じゃ駄目ってことか)」
「大事に手入れをして使えば長く持つが、それでも本人にも気付いてない癖がついたりすると、使いにくくなるってもんだ。それを直して使いやすくするのが、作った鍛冶屋だ」
ヤトコは職人が使う道具の大切さを、酒に伸ばす手を止めて話す。
カズはありがたく話を聞くが、レラはそんな話に興味はなく、一人もつ煮込みを食べ、追加注文した麦シュワをグビグビと飲む。
「変り者と言われていても鍛冶屋の端くれなんだね。仕事の話になると夢中になって、酒が進まなくなる」
女将のナプルに言われ、手に持ったままのジョッキに入ってる飲みかけのヤトコは酒を、ぐいっと一気に飲み干す。
「鍛冶の話をすれば、鍛冶屋は誰でもそうなる。わかってるだろナプル」
「それはまったくだね」
「ほら空になったぞ。新しいの持ってきてくれ」
「久しぶりの酒だろ。程々にしなよ」
「今日はもう一杯で終わりにする」
「そうしな」
ナプルがジョッキに、なみなみと注いだ酒を持って来る。
「今日はゆっくり休むんだね」
「言われなくてもそうする。勘定出してくれ」
ナプルは食事代を伝えると、ヤトコは倍の料金を払った。
「うちはぼったくりしてないよ」
「ケルが来たらそこから払ってくれ…ひっく。誘ったが、今日は急ぎの仕事で断られた。残ったら他の客に何か出し…ひっく」
「そういうことなら貰っとくよ」
追加した酒を飲みながら、残りの料理をつまみ気持ち良く酔うヤトコと、既に満腹になって椅子の背もたれ身体を預けるレラ。
なみなみ注がれ追加した酒をヤトコが飲み終えると、カズは寝てしまったレラを抱えて共に火酒屋を出る。
定期の馬車があれば明日出発すると言い残し、ヤトコは知り合いの鍛冶屋に泊まると行ってしまった。
ヤトコとは翌日の昼前に、鍛冶屋組合で待ち合わせる約束をしてはある。
カズは寝てしまったレラを抱えてたまま市場で翌朝の食材を買い、仕事を終えた人達で賑わう通りから外れ宿屋を探して入る。
寝るには早く、外はまだ日が暮れつつある時間帯。
レラを一人を宿屋に置いて出掛けるわけにもいかず、お酢を買ったのでマヨネーズ作りに取り掛かり、出来たものを小分けにして【アイテムボックス】にしまい就寝する。
ベッドで寝れるのは良いが、もう長いこと風呂に入れてなく、流石にそろそろ入りたいと思う、今日この頃だった。
◇◆◇◆◇
あれから一度も起きることなくぐっすりと寝たレラは、朝早くに大きなあくびをして目を覚ます。
「……あれ、あちし夜まで寝ちゃった?」
ベッドからもぞもぞと動きだし、カズの元に移動するレラ。
「カズ起きて。あちしのど乾いた。ねぇ」
「……ん? 起きたのかレラ」
「うん」
カズもレラと同様に、大きなあくびをして起き上がる。
「今日は早起きだな」
「早起き? まだ暗いよ」
「もうすぐ夜が明けるだろ。レラは昨日の夕方前からずっと寝てたんだぞ。覚えてないか?」
「ああ~……どうりで頭がぼぉ~っとすると思った。こんなに長く寝たの久しぶりだから」
「のど乾いたんだったな。すぐ飲めるのは水しかないけどいいか?」
「いいよ」
【アイテムボックス】から水の入った容器と、自分とレラ用のコップを出し水を注ぐ。
「はいよ」
「カズも?」
「俺も」
二人はゆっくりとコップに入った水を飲み、のどを潤す。
カズはもう少し寝たいと思っていたが、レラがまったく眠たくなさそうだったので、起きて朝食の支度をすることにした。
部屋に置かれている鉱石ストーブに、燃料に使う魔力が溜まっている魔力蓄積型人工鉱石を入れ、本体のレバーを上げて発熱させる。
鉱石に蓄積された魔力を使用し、鉱石が熱を発すると、次第に部屋が暖かくなる。
鉱石ストーブも帝国で作られた物で、値段も安く一般家庭に多く普及している魔道具。
「このストーブっての便利だね。うちらも買おうよ。これならあちしでも簡単に使えるから」
「良いかも。考えておこう(これなら馬車の中でも使えそうだし、火事の心配もなさそうだ)」
全員で相談してから鉱石ストーブを買うか決めることにした。
「んで、今日の朝ごはんは?」
「パン」
「またあ。たまには朝からシチューとか食べたいな」
「俺は米が食いたいよ」
「こめ?」
「あと味噌汁と漬物が……」
「みそじゅる? づけぼけ?」
「わざと言ってるのか?」
「言ってないよ。もうなんでもいいからごはん。お腹空いた」
「はいはい。ではここでちょこっと作業を」
カズは【アイテムボックス】から、スプーンとボウルとゆで卵と、とろりとした液体が入った小ビンを出した。
「今から作るの? 時間が掛かるなら、黒パンとスープだけでいいよ。もうッ」
「コーンスープはもうないぞ。クラフトに来るまでの馬車で、レラががぶ飲みして無くなっただろ」
「ええぇ、じゃあ黒パンだけなのッ!」
バイアステッチを出発してから、朝食は歯応えのある黒パンか、柔らかいがレラの好みではない塩パンのどちらか。
レラはずっと黒パンをコーンスープで柔らかくして食べていたが、流石に十日も食べていれば飽きもしていた。
クラフトに着いてからは、パスタなどを食べていたため、また黒パンだと聞かされ嫌になり、機嫌を損ねる。
「黒パンはあきたんだろ。だったら塩パンにしとけ」
「それもいや」
「これを見てもか?」
カズは取り出したボウルにゆで卵三個を細かくしたのを入れ、そこに小ビンのマヨネーズを入れてかき混ぜる。
ボウルの中で混ぜられるものを見たレラは、ハッと思い出す。
「それってタマゴサラダ?」
「正解。ゆで卵は売ってた鶏卵だけど、マヨネーズには皆で取りに行ったコロコロ鳥の卵を使ってるぞ」
足をバタバタさせ、テーブルをバンバンと叩いて早くしろとレラは催促する。
好みじゃないと言いながら、半分に割った塩パンにたっぷりとタマゴサラダを自分で入れ、がぶりと食いつく。
「ふむうむほむ。ほれひはしふひのは…」
「お決まりだな。喋るなら口の中のを飲み込んでから」
大量に口に入れ過ぎて、何時もよりも長くモグモグとし、コップに注いだ水に口をつけてゴクリと飲み込む。
「前に食べたのより濃くて美味しい! 塩パンとも合って、これならいつでも食べれる」
「そりゃ良かった。さて、俺も食べるか」
ふぅ、と一息つくヤトコに声を掛ける人物。
「おい、ヤトコ無事だったか」
「なんとかだ。今回は危なかった。この冒険者カズに助けられて、生きて戻って来れた。ケルにも心配かけたみたいだな。どうだ、これからの火酒屋に行くが、来るか? 詫びに奢るぞ」
「今日は頼まれた鉱石を掘らんとならんから、また今度にする」
「そうか。ならワシのつけで飲んでくれや」
「せっかくの好意だ。そうさせてもらおうかのぉ」
安心した表情をしたケルと分かれ、三人は鉱山を下り、火酒屋へと向かった。
時刻は昼を過ぎたあたり、どの店も昼食のピークを過ぎたので、それほど混んではいない。
もちろんそれは火酒屋も同じだった。
流石に汚れたまま店に入るわけにはと、カズが〈クリーン〉で体と衣服の汚れを取り除いてから店内に入る。
「おや、ヤトコを見つけたのかい」
「ええ」
「迷惑かけた」
「あんたのことだから、どっかに穴ぐらで石も掘って寝泊まりしてたんだろ」
「そんなもんだ。とりあえず飯をくれ。煮込みは大盛りでだ。あとは三人分の酒を」
「あちしは麦シュワね」
「俺もそれで」
「あいよ」
「なんだ酒は苦手か?」
「嫌いではないですが、ほどほどで」
「そうか。まあ、支払いは気にせず好きに飲み食いしてくれ」
「ありがとうございます。けど、それこそほどほどにしときます」
「遠慮深いやつだ」
注文した料理とお酒を一ヶ月ぶりに噛みしめながら食すヤトコに、カズはバイアステッチのパフの所に、いつ頃行けるか、もしくは必要な道具を持って行けるかを訪ねる。
「誰でも使える鋏や針などの道具はこの街でも売ってはいるが、個々に使う道具ならば、その使い手に合わせて作らねばならん。だから本人に会ってから作る必要がある」
「なるほど(一流が使う道具は高く良い物でも、量産品じゃ駄目ってことか)」
「大事に手入れをして使えば長く持つが、それでも本人にも気付いてない癖がついたりすると、使いにくくなるってもんだ。それを直して使いやすくするのが、作った鍛冶屋だ」
ヤトコは職人が使う道具の大切さを、酒に伸ばす手を止めて話す。
カズはありがたく話を聞くが、レラはそんな話に興味はなく、一人もつ煮込みを食べ、追加注文した麦シュワをグビグビと飲む。
「変り者と言われていても鍛冶屋の端くれなんだね。仕事の話になると夢中になって、酒が進まなくなる」
女将のナプルに言われ、手に持ったままのジョッキに入ってる飲みかけのヤトコは酒を、ぐいっと一気に飲み干す。
「鍛冶の話をすれば、鍛冶屋は誰でもそうなる。わかってるだろナプル」
「それはまったくだね」
「ほら空になったぞ。新しいの持ってきてくれ」
「久しぶりの酒だろ。程々にしなよ」
「今日はもう一杯で終わりにする」
「そうしな」
ナプルがジョッキに、なみなみと注いだ酒を持って来る。
「今日はゆっくり休むんだね」
「言われなくてもそうする。勘定出してくれ」
ナプルは食事代を伝えると、ヤトコは倍の料金を払った。
「うちはぼったくりしてないよ」
「ケルが来たらそこから払ってくれ…ひっく。誘ったが、今日は急ぎの仕事で断られた。残ったら他の客に何か出し…ひっく」
「そういうことなら貰っとくよ」
追加した酒を飲みながら、残りの料理をつまみ気持ち良く酔うヤトコと、既に満腹になって椅子の背もたれ身体を預けるレラ。
なみなみ注がれ追加した酒をヤトコが飲み終えると、カズは寝てしまったレラを抱えて共に火酒屋を出る。
定期の馬車があれば明日出発すると言い残し、ヤトコは知り合いの鍛冶屋に泊まると行ってしまった。
ヤトコとは翌日の昼前に、鍛冶屋組合で待ち合わせる約束をしてはある。
カズは寝てしまったレラを抱えてたまま市場で翌朝の食材を買い、仕事を終えた人達で賑わう通りから外れ宿屋を探して入る。
寝るには早く、外はまだ日が暮れつつある時間帯。
レラを一人を宿屋に置いて出掛けるわけにもいかず、お酢を買ったのでマヨネーズ作りに取り掛かり、出来たものを小分けにして【アイテムボックス】にしまい就寝する。
ベッドで寝れるのは良いが、もう長いこと風呂に入れてなく、流石にそろそろ入りたいと思う、今日この頃だった。
◇◆◇◆◇
あれから一度も起きることなくぐっすりと寝たレラは、朝早くに大きなあくびをして目を覚ます。
「……あれ、あちし夜まで寝ちゃった?」
ベッドからもぞもぞと動きだし、カズの元に移動するレラ。
「カズ起きて。あちしのど乾いた。ねぇ」
「……ん? 起きたのかレラ」
「うん」
カズもレラと同様に、大きなあくびをして起き上がる。
「今日は早起きだな」
「早起き? まだ暗いよ」
「もうすぐ夜が明けるだろ。レラは昨日の夕方前からずっと寝てたんだぞ。覚えてないか?」
「ああ~……どうりで頭がぼぉ~っとすると思った。こんなに長く寝たの久しぶりだから」
「のど乾いたんだったな。すぐ飲めるのは水しかないけどいいか?」
「いいよ」
【アイテムボックス】から水の入った容器と、自分とレラ用のコップを出し水を注ぐ。
「はいよ」
「カズも?」
「俺も」
二人はゆっくりとコップに入った水を飲み、のどを潤す。
カズはもう少し寝たいと思っていたが、レラがまったく眠たくなさそうだったので、起きて朝食の支度をすることにした。
部屋に置かれている鉱石ストーブに、燃料に使う魔力が溜まっている魔力蓄積型人工鉱石を入れ、本体のレバーを上げて発熱させる。
鉱石に蓄積された魔力を使用し、鉱石が熱を発すると、次第に部屋が暖かくなる。
鉱石ストーブも帝国で作られた物で、値段も安く一般家庭に多く普及している魔道具。
「このストーブっての便利だね。うちらも買おうよ。これならあちしでも簡単に使えるから」
「良いかも。考えておこう(これなら馬車の中でも使えそうだし、火事の心配もなさそうだ)」
全員で相談してから鉱石ストーブを買うか決めることにした。
「んで、今日の朝ごはんは?」
「パン」
「またあ。たまには朝からシチューとか食べたいな」
「俺は米が食いたいよ」
「こめ?」
「あと味噌汁と漬物が……」
「みそじゅる? づけぼけ?」
「わざと言ってるのか?」
「言ってないよ。もうなんでもいいからごはん。お腹空いた」
「はいはい。ではここでちょこっと作業を」
カズは【アイテムボックス】から、スプーンとボウルとゆで卵と、とろりとした液体が入った小ビンを出した。
「今から作るの? 時間が掛かるなら、黒パンとスープだけでいいよ。もうッ」
「コーンスープはもうないぞ。クラフトに来るまでの馬車で、レラががぶ飲みして無くなっただろ」
「ええぇ、じゃあ黒パンだけなのッ!」
バイアステッチを出発してから、朝食は歯応えのある黒パンか、柔らかいがレラの好みではない塩パンのどちらか。
レラはずっと黒パンをコーンスープで柔らかくして食べていたが、流石に十日も食べていれば飽きもしていた。
クラフトに着いてからは、パスタなどを食べていたため、また黒パンだと聞かされ嫌になり、機嫌を損ねる。
「黒パンはあきたんだろ。だったら塩パンにしとけ」
「それもいや」
「これを見てもか?」
カズは取り出したボウルにゆで卵三個を細かくしたのを入れ、そこに小ビンのマヨネーズを入れてかき混ぜる。
ボウルの中で混ぜられるものを見たレラは、ハッと思い出す。
「それってタマゴサラダ?」
「正解。ゆで卵は売ってた鶏卵だけど、マヨネーズには皆で取りに行ったコロコロ鳥の卵を使ってるぞ」
足をバタバタさせ、テーブルをバンバンと叩いて早くしろとレラは催促する。
好みじゃないと言いながら、半分に割った塩パンにたっぷりとタマゴサラダを自分で入れ、がぶりと食いつく。
「ふむうむほむ。ほれひはしふひのは…」
「お決まりだな。喋るなら口の中のを飲み込んでから」
大量に口に入れ過ぎて、何時もよりも長くモグモグとし、コップに注いだ水に口をつけてゴクリと飲み込む。
「前に食べたのより濃くて美味しい! 塩パンとも合って、これならいつでも食べれる」
「そりゃ良かった。さて、俺も食べるか」
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