上 下
431 / 774
五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

414 ダンジョンからの脱出魔法

しおりを挟む
 ダンジョンが崩壊はしなかったが、二人が通って脱出した通路は落盤で塞がれてしまった。

 生き埋めにはならずにすんだが、通路は通れなくなったか。
 予測出来たが、今気になるのはデススペルの効果だ。
 いったい元の効果からどう変わったんだ?

 カズは近場の石に座り【アイテムボックス】からアーティファクトの古書を出して開き、浮かび上がったデススペルの効果を読む。

 『怨霊の招きデス・スペル』を受けたものは怨霊の声? が聞こえ、精神が耐えきれなくなると死に至る。
 ってことは、効果が消えるまでの約五分を耐えられると、倒せないってことか。
 元の即死効果より弱ければと思ったが、耐えきれなければ死で、耐えていると精神異常。
 1枚数百円のレアが、この世界で使うと効果がこうも変わるのか。
 持っているトレカの半分が使えれば良い方だが、選ぶとせいぜい三割ってところか。
 改めて考えると、持っていても使え…使っては駄目なトレカチートだな。

 カズは改めて自分のチートな能力を思い知り、気を付けなければと思いながらアーティファクトの古書を【アイテムボックス】にしまった。

「はあああァ……」

 厄介な住壁鉱食大百足じゅうへきこうしょくおおむかでを、デススペルという名のトレカを使い、平然と倒した自分は何処へ向かってるのかと、また考えてしまい深い溜め息を吐く。

「さて、こんな所に座ってる場合じゃないや。俺も脱出しないと。3枚目のトレカこれが使えればいいんだが、駄目なら崩れた通路を何とかしないと」

 腰を下ろしていた石から立ち上り、ライトで出していた光球が小さくなっているのに気付き、横たわる住壁鉱食大百足じゅうへきこうしょくおおむかでの死骸が、半分程地中に沈んでいるのにも気付いた。
 光球が小さくなっているのも、死骸が地中に沈んでいくのも、崩壊する寸前だったダンジョンが、魔素の回復と取り込まれた鉱石を回収しようとしているからだった。
 カズは自分も取り込まれるのではと、ハッと足元を見るが、そんなことはなかったと安心した。

 そうこうしている間にも、すぐそこにあった巨大な死骸は、外皮を一節を残して、他は全てに地中へと沈み無くなっていた。

「これは持って行けってことか? ダンジョンからの討伐報酬……まさかな。ここまで来て手ぶらもなんだから、回収しておこう」

 ダンジョンと会話をするカズをヤトコが見たら、イタい奴だと引いていたに違いない。

「これ一節分で、130キロくらいあるんじゃないか? 役に立つかわからんが、とりあえずアイテムボックスに入れてここを出よう」

 住壁鉱食大百足じゅうへきこうしょくおおむかでの一節分の外皮を【アイテムボックス】に入れたカズは、3枚目のトレカを手に持ち魔力を込め使用する。

 これを使って、ダンジョンと繋がる坑道に移動するか、焚き火をした所まで戻るか、それとも何も起こらないか、だ。

 手元から『エスケープ』のトレカが消えた次の瞬間、カズの視界がダンジョン内の広い空間から、二股に分かれた坑道に変わっていた。
 ダンジョンからの脱出は成功した。

 この場でもう一度エスケープを使えば、多分今度は焚き火をしていた坑道の外に移動するだろうが、ヤトコさんに説明するのも面倒だから、歩いて出るか。
 何はともあれエスケープの効果が、考えた通りでよかった。
 ヤトコさんを見つけるという目的も果たしたし、あとは手芸屋のパフさんに頼まれた事を伝えてバイアステッチに戻るだけ。
 っと、その前に火酒屋のナプルさんの所に、ヤトコさんを連れて顔を出さないと。

 坑道を二人が待つ場所に向かいながら、カズはこれからの予定を立てる。

 レラと二人でこっちに来てから二週間は経ってるか。ビワは仕事はどうかなぁ? アレナリアはしっかりとビワを守ってるだろうか? 絡まれたからって、やり過ぎたりしてないだ…

「戻って来た! カズカズカズ!」

 ぶつぶつと考えてることを声に出して歩いていると、坑道の出入口まで戻って来たカズに気付いたレラが、石階段を下りてカズに飛びつく。

「なんとか逃げてきたか。無茶をする」

「逃げて? 大百足なら倒しましたよ。死骸は一部を残して、ダンジョンが取り込んでしましたけど」

「そうか。なら時間が経てば、ダンジョンでまた有効な鉱石が取れるように……? 奴を倒しただと!」

「ええ」

「あれはどう見ても、ランクAの冒険者パーティーが相手にするモンスターだろ! あんた何者なんだ?」

「これでも少しは場数を踏んでますから。あとできれば、あまり口外しないでもらえますか」

「なぜだ? それだけの実力があれば、国からも一目置かれるだろ。後ろ盾がつけば、冒険者として安泰だろうに」

「面倒なんで、国や貴族なんかと関り合いになりたくないんですよ。それに一応、旅の途中なので(俺が元の世界に帰える方法の情報を集めるには、国のお偉いさんと関わった方がいいんだろうが、レラとビワの方が優先だから、俺は二の次で)」

 カズは元の世界への執着が、少し薄れてきているようであった。
 それはカズ自身も分かっていた。
 が、それを口には出さないようにしていた。

「ワシが言うのもなんだが、あんたも相当変わってんな。フェアリー妖精族を連れてるだけあるか」

「……え?」

 カズは腕にしがみついてるレラを見ると、レラはそっぽを向きカズから視線を外す。

「いつ気付いたんですか?」

「ダンジョンが大きく揺れた時に、ワシを引っ張って、落ちてきた石から守ってくれたんだ。最初は見間違いかと思ったが『カズが時間を稼いでる間に、早くここを出るの!』だ。それでワシの背負い袋に乗っていた娘だと確信した」

「そうでしたか。ヤトコさんを守ってバレたなら仕方がない。よくやったなレラ」

 事情が事情なだけに、レラを怒るようなことは出来なかった。

「普段は魔法で姿を小人に見せてるので…」

みなまで言うな。こんな場所にフェアリー妖精族が居るなんて知られたら、狙う連中は多いだろ。助けてもらったんだ、恩を仇で返すようなことはしない」

「助かります」

「まあなんだ、明日街に戻ったら飯を食いに行こう。もちろんワシの奢りだ」

「なら火酒屋に行きますか。ナプルさんが気に掛けてましたから、顔を出した方がいいでしょう。それに採掘師の……あ、名前聞いてなかった」

「『ケル』か。ワシと話す採掘師はあいつくらいだ。ケルにも酒を奢ってやらんといかんな」

 ダンジョンから抜けて外に出ると、もうすっかり日は落ちていた。
 地中やダンジョン内に居ると、日が当たらないため慣れなければ時間の感覚がおかしくなるとヤトコは言いながら、眠たそうにする。
 疲れと緊張から解放されたことで、一気に眠気が襲ってきたのだった。
 焚き火をして暖を取り、朝が来るまで坑道の外で夜を明かす。
 レラは既に夢の中。
 カズはいつものように〈アラーム〉使い就寝する。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝ヤトコが起きると、同じくカズも目を覚ます。
 ヤトコは溜まっている冷たい水で顔を洗い、寝惚けた目を覚ます。
 カズは焚き火で焼いた腸詰め肉ソーセージと、かるく焼き目をつけたパンをヤトコに渡して朝食にした。
 その香ばし匂いでレラも目を覚ましたので、同じものをレラにも作った。
 朝食を取りながら、カズはパフから頼まれて来たことを話した。

 ヤトコはそれに使う素材が無かったから、ここに取りに来ていたのだと。
 他にも素材を集めるのに、クラフトを離れていたから連絡が取れなかったと言った。
 ヤトコと連絡が取れなくなった理由も分かり、お腹を満たした三人は、街に向けて岩の狭い通路を上がって行く。

 緑の鉱石が含まれた岩壁まで来ると、カズが宝石だと言った事を思い出し、レラは欲しいと言い出す。
 カズがヤトコに話を聞くと「純度の低い鉱石が混じった、ただの模様だ」と言われ、宝石ではなかったことにレラはガックシと肩を落とし、その場を通過する。
 崖際がけぎわの道を抜け、細い道を通り、足場がしっかりとしている所まで来ると、岩にハンマーを叩き付ける音が聞こえてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~

星天
ファンタジー
 幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!  創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。  『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく  はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...