上 下
428 / 770
五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

411 ダンジョンに寄生するモンスター

しおりを挟む
 流石は坑道に慣れているだけあり、変化した通路をカズが示した方向へ的確に向かい移動する。

「モンスターに気付かれないように、明かりを点けないようにしてたのかと」

「それもあったが、手持ちの明かりは鉱石ライターが一つだけ。使用する鉱石が少なくてな、使えても五分が限度だ」

「鉱石ライター?」

「しらんのか? 鉱石を燃料として使うこういった物だ」

 ヤトコは上着のポケットから、10センチ程の長方形の箱を取り出して魔力を流す。
 すると上の穴から3センチ程の勢いのある真っ赤な火が出た。
 ヤトコが出した鉱石ライターの見た目から、カズは百円ライターを思い浮かべたが、実際に火が付くと、車に常備されている発炎筒に近い感じだった。

「火力が強いから何かと便利だぞ。魔力も付ける時と消す時に少し使うだけだから、魔力が少ない連中にも簡単に使える。燃料の鉱石も安いし、ワシのこれは最長で一時間は持つ」

 噴出口が熱くなる前に鉱石ライターの火を消し、ヤトコはポケットにしまった。

「帝国で作られたアイテムですか?」

「そうだ。古い物だが頑丈で、ワシらみたいな仕事をしてる連中は重宝してる。一度火を落とした鍛冶場の炉に火を入れる時は特にだ」

「そんな話ここを出てからでいいよ」

「誰だ!?」

 カズの懐からの聞こえた声でヤトコは驚き振り返る。

「あちしレラ。カズと一緒におっちゃんを探しに来たんだよ」

 カズの上着からひょこっと顔を出すレラ。

「そんな所にちっこいのが隠れてたのなら最初に言ってくれ。急に女の声が聞こえたから驚いたぞ」

「だってキモいのいるって言うんだもん」

「奴のことか。女のお前さんは嫌がりそうだ。くねる多くの脚とふし。ぬめりののある触角は確かに気持ちわ…」

「話してるところすいませんが、その問題のモンスターがこっちに向かって来てるっぽいです(狙ったかのように、急に方向を変えてきたな)」

「なに!? どうし…これかぁ……」

 ヤトコは鉱石ライターをしまったポケットに手をやり、失敗したという顔をすると、ドコーンと大きな音が通路を反響して三人の元に伝わってくる。
 そのヤトコの考えは正しくその通りだった。
 鉱石ライターを使った事で、消費された少量の鉱石を嗅ぎ付けて『住壁鉱食大百足じゅうへきこうしょくおおむかで』が壁から通路に出て、三人の居る場所に向かって来ていた。

「まずいですね。こっちに近付いて来てる」

「すまねぇ。ライターを使ったのも失敗だったが、これの効果が切れたようだ」

 モンスターから発見されずらくなる金属の小箱を開けて、中身が空になったのを確かめるヤトコ。

「出口もまだわかってないのに。この狭い場所じゃ、格好の獲物だぞ」

 カズは【マップ】を見て、広い空間が出口より近くにあるのを確認した。

「走って俺に付いて来てください」

「どこに行く気だ? そっちは逆方向だぞ!」

「こっちに広い空間があるから、そっちに行きます」

「なんでそんなことがわかる?」

「スキルでわかったんです」

「だったらワシじゃなく、あんたが出口まで案内すればよかったじゃないか!」

「ヤトコさんが向かう方向があってましたから、何も言わなかったんです。間違ってたら言いました(それにマップのスキルがあるなんて、軽々しく言えない)」

「そんなこと今はいいから、もっと速く走ってよカズ!」

 キモいモンスターが向かって来ていると聞いたレラが、怒鳴りながらそっと後ろを見る。
 くねくねの狭い通路を必死に走るヤトコの後方から、青光する丸と、にょろにょろヌメヌメする二本の太く長い触角が見え隠れしていた。
 狭い通路を鉱石ライターの気配をたどり、無理矢理に通路をその巨体で破壊して広げ移動してるため、住壁鉱食大百足じゅうへきこうしょくおおむかでの速度は遅かった。
 この事から追って来ている百足は、それほど知能が高くないと分かる。

 暗視スキルを持たないヤトコからは、狭い通路の壁を削りながら、這いずり近付いてるが音が聞こえるだけだった。
 カズがライト魔法で出している光球がなければ、ヤトコは何も見えず走るどころか歩くことも難しい。

「お、おい、まだかなのか? 段々音が近付いて来てるぞ!」

「次を左に曲がれば、広い所に出ます。急いで」

「はあ、はあ。ここを出たら、もう少し痩せるか」

 少し前まで動くのも辛かったのに、走るとなるとかなりキツい。
 ただそれは空腹や精神的疲れだけではなく、肥満によるものが多かった。
 数日食事を取らなくても平気だったのは、ドワーフの上位種のハイドワーフだからということではなく、脂肪備蓄燃料があったからだった。

「見えました。そこを曲がればすぐです」

「おりゃあぁー」

 疲労を覚悟して、全力でもうダッシュするヤトコ。

「でたらすぐ右に飛び退いて!」

 広い場所に出ると、走って来た通路の直線上から避けるように言うカズ。
 ヤトコは疲労から考えることをやめて、カズの指示に従い、通路を抜けたところで、即座に右に曲がり倒れ込んだ。
 カズも同様に通路の直線上から避けると、通路を破壊し広げて出てきた。
 広い空間に出たその長く大きなモンスターは、勢い余って壁に突っ込んだ。
 カズは即座に現れたモンスターを《分析》する。


 名前 : 住壁鉱食大百足じゅうへきこうしょくおおむかで(変異種)
 種族 : 鉱食大百足
 ランク: A
 レベル: 55
 力  : 1210
 魔力 : 3588
 敏捷 : 953
 全長 : 8m~11m
 スキル: 壁面移動ウォールムーヴ
 魔法 : アシッドショット アシッドポイズン アシッドボム アシッドブレス
 補足 : 基本鉱食大百足は知能が低く、本能で自分の好む一種の鉱石を強い酸で溶かしながら体内に取り込み、外皮を強化する。
 ・ 取り込む鉱石に応じて外皮や硬さや特徴が異なり、生成する酸の強さも違う。
 ・ 数百本の足で凹凸おうとつを掴み、垂直の壁だけではなく天井にも張り付き移動する。
 ・ その外皮は強力な装備を作る素材となる。
 ・ この変異種個体は何種もの鉱石を取り込み、魔力が異常に増大して、外皮は通常の個体と比較しても遥かに硬くなっている。


「なんだありゃ!? ワシが見た時よりでデカくなってるぞ!」

「鉱石を大量に取り込んだせいでしょう。魔力量がかなり多い」

「うげーキモいキモい」

 怖いもの見たさで、カズの上着から顔を出すレラは、そのキシキシと動く大量の足とふしを見て青ざめる。

「ヤトコさんよくコイツら逃げられましたね」

「ワシの秘蔵のハンマーで一発ぶっ叩いて、その隙に細い坑道に逃げたんだ。って、そんなこと今はどうでもいい。どうやって奴をまいて外に逃げるんだ?」

「俺が足止めしてる間に、外に出てもらうつもりです。外までの案内には、レラを付けます」

「は? 聞いてないよ」

 カズの突然の発言に、驚きの顔をするレラ。

「レラだってここを早く出たいだろ」

「出たいけど……」

 不安な顔になるレラに、カズは小声で答える。

「坑道が変化しても、今の俺にはマップでわかるから迷うことはない。レラがヤトコさんに付いていてくれれば、念話で連絡が出来るだろ。頼むよレラ」

「……う、うん」

「小人の姿に見えるようするから、いざって時まで飛ばないようにしてくれ」

「わかった…もん」

 ヤトコに背を向けたまま、上着に隠れるレラに〈イリュージョン〉を掛ける。

「俺が奴の注意を引きますから、その間にレラを連れてダンジョンを出てください」

「本気か?」

「レラを頼みます」

「よし。ワシの背負い袋に乗せてくれ。落ちないようにしっかり掴まってろ」

 カズはヤトコが背負う袋にレラを乗せると、住壁鉱食大百足じゅうへきこうしょくおおむかでが突っ込んだ壁から頭部を出し、ぐるりと振り返り三人を見定めて口を大きく開ける。

「さっき進んだ所まで戻ったら、次の突き当りを右曲がればダンジョンの出口が見えるはずです。俺が合図したら走ってください。急がないと、また坑道が変化しますから」

「了解だ」

「身体強化を掛けるので、いつでも動けるようにしててください」

「今のワシではダンジョンを出るまで持ちそうにないから頼むぞ」

 カズはヤトコに〈身体強化〉を使用した。

「おお! これなら、なんとか行けるぞ」

「今出してる光の玉は、持ち主をレラに移しますから、気を付け行ってください」

 住壁鉱食大百足じゅうへきこうしょくおおむかでが強力な酸の粘液を口から垂らし、長い触角をゆらゆらと動かしながら、見つけた獲物をなぶる前のごとく、三人の方にゆっくりと近付く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~

夢・風魔
ファンタジー
高校二年生最後の日。由樹空(ゆうきそら)は同じクラスの男子生徒と共に異世界へと召喚された。 全員の適正職業とスキルが鑑定され、空は「空気師」という職業と「空気清浄」というスキルがあると判明。 花粉症だった空は歓喜。 しかし召喚主やクラスメイトから笑いものにされ、彼はひとり森の中へ置いてけぼりに。 (アレルギー成分から)生き残るため、スキルを唱え続ける空。 モンスターに襲われ樹の上に逃げた彼を、美しい二人のエルフが救う。 命を救って貰ったお礼にと、森に漂う瘴気を浄化することになった空。 スキルを使い続けるうちにレベルはカンストし、そして新たに「空気操作」のスキルを得る。 *作者は賢くありません。作者は賢くありません。だいじなことなのでもう一度。作者は賢くありません。バカです。 *小説家になろう・カクヨムでも公開しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

処理中です...