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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

409 鉱山奥の洞窟

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 奥へ続く細道を通る者は少ない。
 奥に行っても取れる鉱石の種類と質は変わらないから。
 石や岩ばかりのため草木は少なくこけは多い。
 そして細道は崖際がけぎわへと続き、道にはひび割れ崩れてる所も出てきた。

「こんなとこ通ってくの? 道あってる?」

「言われた通りに来てるから、間違ってはないはずだ」

 採掘師のドワーフと別れた少し後、カズの懐から出たレラは、人の目がないため飛んで移動していた。

「ほら、向こうに赤と青の色が入った壁が見えるだろ。あれをたどるって言ってたから、道はあってる」

「アレナリアとビワが一緒だったら、ここを通るの大変だったね」

「自分が飛べるからって安心するなよ。落石注意、だぞ」

「わかってるよ~ん。あちし先に行って道を見て来てあげる」

 久しぶりに外を自由に飛び回れるのが嬉しかったレラは、一人先へと飛んでいった。
 崩れた足場に気を付けながら、崖際がけぎわの道を通り先へと進む。
 赤色と青色が含まれた岩壁をたどって行くと、レラが途中で待っていた。
 レラが先へと行かなかったのは、くねった道が薄暗くなっていたから。
 カズは〈ライト〉を使用して光の玉を出し、足元に気を付けながら、くねった狭い道を下って行く。
 落石で大きな石が引っ掛かり、トンネルのようになっている所を通過すると、こけで足を滑らせた真新しい跡を見つけた。

「カズカズ、これ見てよ。やっぱり来てるんだよ」

「最近誰かが来たのは確かだが、まだヤトコさんとは限らないぞ。何が出るかわからないから、あまり離れるなよレラ」

「う、うん」

「足場が白と黄色のまだらになってきたから、あとは緑の鉱石が含まれてる壁をたどれば、目的の場所に着くはずだ(マップには……人の反応はないよな)」

 周囲に光を当てて確認すると、一面だけ緑がえる岩壁があった。

「スッゴいキレイな緑色!」

翡翠ヒスイみたいな色だな」

「ひすい?」

「おれ知ってる物と同じなら、宝石に分類されてる石だ」

「宝石! これ全部が!? 取り放題じゃん。カズ、掘って掘って」

「掘らないよ」

「はあ!? なんでなんで!」

「人探しに来てるんだから。それに翡翠ヒスイだとは断定してない。似てる色だと言っただけだ(鑑定すればわかるだろうけど)」

「それでもちょっとでだけでいいからさあ。あの辺をちょこっとだけ」

 カズの服を引っ張り、緑の鉱石が含まれた岩壁を指差すレラ。

「ヤトコさんが見つかって時間があったらな(甘いものだけじゃなく、宝石にも興味あるのかよ。食っちゃ寝してても、いっぱしの女なんだな)」

「なら早く見つけるよ! 急いでカズ」

「ハァー。ああ…そうだな」

 一つ大きなため息をついたカズは、レラに背中を叩かれながら薄暗い道を先へと進む。
 緑色の鉱石が含まれた石壁をたどり、下へと移動して行くと、さらさらと水の流れる音がする。
 くねった狭い道の先には、削られて出来たようなドーム状の開けた空間があった。
 ライトの明かりでドーム内を照らすと、岩壁にある小さな亀裂からは、水が少しずつ染み出て、小川のようになっていた。
 
 壁際かべぎわには流れて来た水が溜まり、小さな池が出来ていた。
 池の大きさは約1メール、深さはだいたい30センチと非常に浅い。
 溜まった水は池の底にある細い亀裂から、更に地中へと流れていた。
 そしてその小さな池の近くには、焚き火をして野宿した痕跡こんせきがあった。

「焚き火に使って炭になった薪の匂いも殆どしないから、ここを離れてから日が経ってそうだな」

「カズ」

「どうした?」

「穴があるよ。これがダンジョンの入口?」

 小さな池がある場所の反対側の壁に近付くと、地中へと続く洞窟があった。
 洞窟には人工的に作られた階段があり、幅は人が二人並んで歩ける程度。
 入口からは5メール程先までしか見えなく、その奥は階段を下りなければわからない。

「入る?」

「ヤトコさんが中にいる可能性があるから、少し入ってみないと(やっぱりマップには、何も映らないか)」

 暗い洞窟をじっと見ていたレラが一瞬ビクッと震え、ゆっくりと後退してカズの腕をつかむ。

「とりあえず休憩して何か腹に入れよう。朝も軽くだったし、もう昼も過ぎてるからな」

「ごはん食べてる間に、探してるおっちゃん出て来ないかなあ?」

「そうならいいんだが、最悪の場合は道に迷って……」

「ならごはん食べてないで、急いだ方がいいんじゃないの?」

「焦って入っても、こっちが迷子になったら、元も子もないからな。一息おいて、気持ちを落ち着かせてから入った方がいいだろ(レラはダンジョンに入った事がないから、不安なだろう。さっきビクッてしてたからな)」

「う、うん」

 カズは【アイテムボックス】から薪を出し、小さな池の近くにあった焚き火跡に薪を並べ火をつける。
 焚き火で表面をカリッと焼きいたパンにハチミツをつけ、それをレラが食べている間に、カズは洞窟を対象に《分析》を使用した。

「あれ?」

「なに!? 何かいるの?」

 レラはカズが発した言葉に驚き、周囲を見渡した。

「わるい。ちょっと分析してみたんだけど……」

「なにかわかった?」

「ダンジョンとは出てこなかった。人工的に掘られた洞窟なんだ。階段だけじゃなくて中も」

「ここダンジョンじゃないの?」

「ここから見た限りではそうみたい(教えられた通りに来たんだけどなぁ?)」

「な~んだ。だったら早く中に入って、ドワーフのおっちゃん探して連れて来よう」

 見るからにほっとした様子のレラとは違い、カズは何か納得がいってなかっな。

「あ、そうだ。コート裏にして着てってくれ」

「なんで?」

「裏にして着れば、暗視の効果が使えるだろ。それがどの程度見れるか確かめてくれ。こういった洞窟で、どんな風に見えるのか」

「わかった」

 レラは着ているオーバーコートを脱ぎ、ひっくり返して黒地を表にして着る。

「暗視を確かめるのは、少し奥入ってからにするから〈ライト〉」

 焚き火を消して、お腹を満たし元気なレラと共に、カズは階段を下り洞窟内へと入って行く。
 三十八の階段を下りて坑道を進むと、三股に分かれていた。

 右の坑道は少し先で行き止まり。
 左の坑道は狭くなっており、人ひとりが通れる幅しかなく、15メール程で壁に突き当たり、そこで左右に分かれていた。 
 とりあえずは真っ直ぐ、階段と同じ幅の坑道をそのまま進むことにした。

 30メール程進むと左に曲がれる坑道があり、その先は左に少しずつ曲がっていた。
 場所しからして予測すると、最初の三股を左に曲がって、突き当たりを右に曲がった坑道と繋がっていると思われたので、そのまま直進する。

 緩やかに下りだした坑道を100メール程進むと、今度二股に分かれていた。
 右の坑道の先は幾つも分かれており、入り組んでるようだった。
 左の坑道はただ真っ直ぐに、更に地中へと続いていた。

「おーい! ドワーフのおっちゃーん」
 
 右の入り組んだ坑道に向けて、レラが急に大きな声を出した。
 レラの声は反響を繰り返し、声は次第に奥へと消えていった。

「急に大声出すなよ。耳がキーンとするじゃないか」

「この方が手っ取り早いじゃん。これで返事がなければ、左の方に行けばいいんだから」

「あのなあ、入口では人工的に作られた洞窟だとは言ったが、安全だとは言ってないぞ。もしかしたら、凶暴なモンスターが住み着いてるかも知れないんだから」

「え! そ、そ、その時はカズがモンスターをやっつけて、か弱いあちしを守るから大丈夫」

「ぁぁ……(ビクビクしながらよく言うよ。ちょっと確かめてみるか〈サーチ〉)」

 ヤトコを知らないため、生き物を対象にサーチの魔法をカズは使用した。
 入り組んでる右の坑道からも、左の坑道からもなんの反応もなかった。
 ただ、左の坑道からはおかしな感じがした。

「なんで黙るの? 守ってくれるんでしょ! まさか置いてったりしないよね。ねえ!」

 カズの素っ気ない返事にレラは不安になり声を荒らげる。

「一日くらい一人で過ごしてみるか?」

「ふざけんな!」

 怒ったレラが上着の隙間からカズの懐に入り、顔だけを出してがっちりと上着を掴んで出てこようとしない。

「冗談だよ。わるかった」

「……」

 黙ったまま唇を尖らせてカズを睨み、レラは機嫌を損ねる。
 カズは右手の人差し指で鼻の頭を掻く。

「まあなんだ、レラのお陰で右の通路を確かめる手間が省けたよ」

「……なら早く左の通路を進んで、ヤトコっておっちゃん見つけて戻ろうよ」

「それはそうなんだがな……(ここでもう一度《分析》と)」

「まだ急に黙って、あちしを怖がせる気なの」

「それがな、どうやら左の通路の先がダンジョンになってるようなんだ」

「……は? え? だってただの洞窟だって」

「さっきも言ったろ。入口で調べただけではって。どうやらダンジョンだってのは、本当だったらしい」

「は、入るの?」

「一応な」

「確か通路が変わるって言ってたよね? 迷って出られなくなったら……」

「嫌ならここで待ってるか?」

「てや、てや、てや!」

 ペチペチとカズの頬を叩き、今の怒りを表現するレラ。

「はいはい、わるかった。怖いならそこから出てくるなよ。危険だと思ったら、引き返すから(一人なら奥まで探索してもいいんだが、レラと一緒だから無理はできないからな)」

 ヤトコが奥に居る可能性を考え、カズは『限定迷宮リミテッド・ラビリンスこう』という名のダンジョンに歩を進める。
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