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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国
408 鉱山近くの飲み屋通り
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鉱山を下りて歩くこと三十分、二階建ての店が建ち並ぶ通りへとやってきた。
既にどの店も鉱山での仕事を終えた人達が酒盛りをして賑わっていた。
日が落ち街灯が照らす賑やかな飲み屋通りを、カズは聞いた店を探す。
鉱山方面から飲み屋通りに入り、反対側から抜ける手前に、目的の食事処火酒があった。
店の中には鉱山で働く人達以外にも、街の鍛冶屋で働いてる人達も来ていた。
食事処といよりは大衆酒場、お客の比率はドワーフが七割で他三割といったところだ。
鉱山が近いのと鍛冶屋が多いことから、やはりドワーフが多い。
ドワーフが行きつけというだけあって、出しているお酒の度数はどれも高く、ドワーフと張り合える酒豪でなければ一緒に飲むのは難しい。
顔を真っ赤にして今にも潰れそうなエルフに、自分の背丈の半分もある木のジョッキを傾け飲む小人に、空のジョッキを並べてドワーフと飲み比べをする熊の獣人。
カズは込み合う店に入り、狭い通路を通って壁際の立ち飲み用の所に行き、壁から突き出た幅の狭いテーブルにレラを座らせ、度数の低い麦シュワと店の定番料理をお任せで頼んだ。
火酒屋の厨房を仕切るドワーフの女性が、注文した飲み物と料理を運んで来る。
何を頼むのかが分かっていたか、料理が出て来るのが早い。
作り置きしていたわけではなく、ちゃんと湯気が立ち熱々の出来立てだ。
「新顔だね。あんたも鍛冶屋かい? それともそこの子を連れて、鉱山に働きに来たのかい?」
「どちらでもないです。俺は一応冒険者をしてまして、ここには人探しに来たんです」
「人探しかい?」
「ええ。その人がここの常連だと聞いたので、それを聞きに」
「うちの常連かい。あたしにわかることなら教えてやるよ。おっと、借金取りとかならお断りだ。揉め事を持ち込まれちゃたまらないからね」
「いえいえ、探してるのはヤトコさんという鍛冶師の方なんですが」
「ヤトコ…ヤトコ……ああ!」
「知ってますか?」
「たまにこの街に来ては鉱山で働いて、この近辺で飲んでる風来者だよ」
「風来者?」
「ヤトコってのはそういう奴さ」
カズが火酒屋のドワーフの女性店員と話をしていると、近くに座るドワーフが話に入ってきた。
「どこの鍛冶屋にも身を置かずに、気が向いたら鍛冶場を借りて一人で細かな物を作ってる変り者だ」
「細かいのを打てるってことは、それだけ腕が良いってことなんじゃがな」
「おれが聞いた話だと、自分の鍛冶場があるって聞いたぞ」
「わしも聞いたが、それがどこにあるのか誰も知らんのじゃろ。単なる噂じゃよ」
「わしは酒飲んでるとこ見たことあるが、いつも一人だぞ」
一人が話に入ってきたと思ったら、次々とジョッキを片手にドワーフ達がヤトコの話をしだす。
「これこれ、勝手に話に入ってきたと思ったら、何を酒の肴にしてるんだい。まったく、誰か最近ヤトコを見たひとはいるかい?」
ドワーフの女性店員が大きな声で、店に来ているお客にヤトコのことを聞いた。
しかしだれもが「しらん」「見てないのう」「他の街に行ったんじゃないのか?」「鉱石を堀ながら、どこかの穴で寝てるんじゃないのか?」などと、他にも目撃情報はなかった。
「実はこの店を紹介してくれたドワーフの人に、もしかしたら奥の鉱山に行ったかも知れないと聞かされて、それだったらこちらで食料を買って行ったんではと言われまして。一ヶ月くらい前に」
「一ヶ月くらい前ねえ……奥で旦那に聞いてくるから、酒飲んで待ってな」
ドワーフの女性店員は、ここ火酒屋の店主の女将であることがわかった。
カズが話してる間、レラは麦シュワを飲みながら、一緒に運ばれた芋とイノボアのモツ煮込みを食べていた。
「ここで情報が入らなかったら、鉱山の奥に行くの?」
「今のところそれしか手掛かりがないからな。可能性があるなら行ってみるさ」
「なら十分に栄養取らなきゃ。この煮込み追加ね」
「一人で食べたのかよ!」
「注文すればいいじゃん。ほらこっちならあるよ」
レラが手を付けなかったのは、キノコと野菜を塩胡椒とトウガラシを加えて炒めたものと、カエルの肉の唐揚げ。
キノコと野菜の炒めものは辛いから嫌だと食べず、唐揚げはカエルの肉だと聞いて食べたくないと。
仕方なくカズが一人で両方を食べる。
キノコと野菜の炒めものは確かに辛かったので、レラが食べないのが分かった。
カエル肉の唐揚げは鶏肉っぽく淡白で、思いのほか美味しかった。
見た目も骨を外して揚げてあるため、聞かされなければカエル肉だと分からない。
たが料理を持ってきた時に「麦シュワには最高に合うカエル肉の唐揚げだ」と言ったことで、レラが口にするのを躊躇い、結局は手を付けなかった。
「唐揚げ旨いぞ。一つ食べてみろよ」
「だってカエルでしょ、あちし嫌だよ。あ、マヨがあればちょびっとだけ食べてみてもいいかも」
「唐揚げにマヨか。カロリー高いが確かに旨い。でもお酢も代理になる物もないから、マヨ作れないんだよなぁ」
「お酢あるか聞いてみたら?」
「そうだな。もののついでに聞いてみるか(ま、無いだろうけど)」
カズは自分の麦シュワを飲み干すと、煮込みと二人分の麦シュワを近くの店員に注文する。
少しして女将のドワーフが、追加の麦シュワと煮込みを持って来た。
「はいよ」
「ねぇねぇ、お酢ってある?」
「お酢?」
「酸っぱい調味料なんですが、ないですよね」
「ビュネグゥのことかい?」
「酢があるんですか!?」
「ビネガーじゃなくてビュネグゥだよ。別に珍しくもない。街の食材市場に行けば売ってるよ」
「あるってカズ。これでマヨネーズが作れるじゃん」
「マヨネ? なんだそれ」
「ちょっとしたソースです。ところでヤトコさんのこと、何かわかりましたか?」
「そうそう、旦那に聞いたら一ヶ月前くらいに、鉱山の奥に行くとかで、芋やら干し肉からを多く買ってたんだって」
鉱山でドワーフに聞いた情報と一致し、翌日ヤトコを探しに鉱山の奥に行くことをカズは決めた。
「もしかして探しに行くのかい?」
「そのつもりですが」
「冒険者なら大丈夫だと思うが、気を付けることだね」
「ええ。無理だと思ったら引き上げてきます」
「ヤトコを見つけたら、火酒屋の『ナプル』に心配かけた詫びに、飲みに来るよう言っとくれ」
「ナプルさん…ですか?」
「そういや言い忘れたね。あたしがナプルだよ」
「わかりましたナプルさん。俺はカズで、こっちのがレラです」
「カズとレラだね。こんな騒がしい所だが、いつで気軽に来とくれ」
食事処火酒屋でヤトコの情報を得た二人は、鉱山に近い宿屋を探して泊まった。
◇◆◇◆◇
朝早く宿屋を出た二人は、鉱山に向かいながら軽い朝食を取る。
鉱山が多くの採掘者で賑わう前にと、急ぎ奥に続く細道に向かう。
レラはカズに抱えられ、寝ぼけ眼でパンをちびちび食べる。
まだ人気のない鉱山を登り、切り出した岩と岩の間にある細道の近く来ると、手前の石に一人座っているドワーフの姿があった。
よく見ればそれは、前日ヤトコの知り合いだと言ったドワーフだった。
「もしやと思って早く来て正解だった。ヤトコを探しにダンジョンに行くんだろ」
「そうですが、どうしてわかったんです?」
「おいも昨日火酒屋に行ったんだ。あんたはもう出た後だったが」
「そこで聞いたんですか」
「ああ。昨日奥は危険だと言うたこと覚えてるか?」
「ええ」
「入るにしても、日のあるうちに出て来ることだ。入口のある場所は暗いから、外に出たとしてもわからなくなるぞ」
「わざわざそれを伝えに来てくれたんですか?」
「おいがダンジョンの場所を教えてしまったのが原因で、戻って来なくなったなんて言われたらたまらん。必ず戻って来い」
少々照れながら話す採掘師のドワーフ。
そうしてる間に、多くの声が近付いて来ていた。
「他の連中も上がって来たようだ。もう一度道を教えておくから忘れるな。この細道をずっと行くと崖に出る。そしたらそこを通り、先に見える赤と青の鉱石が含まれた岩壁をたどって、くねった道を下りて行くんだ。白と黄色の斑な足場に出たら、緑が含まれてる岩壁をたどって行けば、入口の穴に着くはずだ」
「わかりました。ありがとうございました」
「気を付けて行け」
軽く会釈をしたカズは、細道を奥へと進んで行く。
既にどの店も鉱山での仕事を終えた人達が酒盛りをして賑わっていた。
日が落ち街灯が照らす賑やかな飲み屋通りを、カズは聞いた店を探す。
鉱山方面から飲み屋通りに入り、反対側から抜ける手前に、目的の食事処火酒があった。
店の中には鉱山で働く人達以外にも、街の鍛冶屋で働いてる人達も来ていた。
食事処といよりは大衆酒場、お客の比率はドワーフが七割で他三割といったところだ。
鉱山が近いのと鍛冶屋が多いことから、やはりドワーフが多い。
ドワーフが行きつけというだけあって、出しているお酒の度数はどれも高く、ドワーフと張り合える酒豪でなければ一緒に飲むのは難しい。
顔を真っ赤にして今にも潰れそうなエルフに、自分の背丈の半分もある木のジョッキを傾け飲む小人に、空のジョッキを並べてドワーフと飲み比べをする熊の獣人。
カズは込み合う店に入り、狭い通路を通って壁際の立ち飲み用の所に行き、壁から突き出た幅の狭いテーブルにレラを座らせ、度数の低い麦シュワと店の定番料理をお任せで頼んだ。
火酒屋の厨房を仕切るドワーフの女性が、注文した飲み物と料理を運んで来る。
何を頼むのかが分かっていたか、料理が出て来るのが早い。
作り置きしていたわけではなく、ちゃんと湯気が立ち熱々の出来立てだ。
「新顔だね。あんたも鍛冶屋かい? それともそこの子を連れて、鉱山に働きに来たのかい?」
「どちらでもないです。俺は一応冒険者をしてまして、ここには人探しに来たんです」
「人探しかい?」
「ええ。その人がここの常連だと聞いたので、それを聞きに」
「うちの常連かい。あたしにわかることなら教えてやるよ。おっと、借金取りとかならお断りだ。揉め事を持ち込まれちゃたまらないからね」
「いえいえ、探してるのはヤトコさんという鍛冶師の方なんですが」
「ヤトコ…ヤトコ……ああ!」
「知ってますか?」
「たまにこの街に来ては鉱山で働いて、この近辺で飲んでる風来者だよ」
「風来者?」
「ヤトコってのはそういう奴さ」
カズが火酒屋のドワーフの女性店員と話をしていると、近くに座るドワーフが話に入ってきた。
「どこの鍛冶屋にも身を置かずに、気が向いたら鍛冶場を借りて一人で細かな物を作ってる変り者だ」
「細かいのを打てるってことは、それだけ腕が良いってことなんじゃがな」
「おれが聞いた話だと、自分の鍛冶場があるって聞いたぞ」
「わしも聞いたが、それがどこにあるのか誰も知らんのじゃろ。単なる噂じゃよ」
「わしは酒飲んでるとこ見たことあるが、いつも一人だぞ」
一人が話に入ってきたと思ったら、次々とジョッキを片手にドワーフ達がヤトコの話をしだす。
「これこれ、勝手に話に入ってきたと思ったら、何を酒の肴にしてるんだい。まったく、誰か最近ヤトコを見たひとはいるかい?」
ドワーフの女性店員が大きな声で、店に来ているお客にヤトコのことを聞いた。
しかしだれもが「しらん」「見てないのう」「他の街に行ったんじゃないのか?」「鉱石を堀ながら、どこかの穴で寝てるんじゃないのか?」などと、他にも目撃情報はなかった。
「実はこの店を紹介してくれたドワーフの人に、もしかしたら奥の鉱山に行ったかも知れないと聞かされて、それだったらこちらで食料を買って行ったんではと言われまして。一ヶ月くらい前に」
「一ヶ月くらい前ねえ……奥で旦那に聞いてくるから、酒飲んで待ってな」
ドワーフの女性店員は、ここ火酒屋の店主の女将であることがわかった。
カズが話してる間、レラは麦シュワを飲みながら、一緒に運ばれた芋とイノボアのモツ煮込みを食べていた。
「ここで情報が入らなかったら、鉱山の奥に行くの?」
「今のところそれしか手掛かりがないからな。可能性があるなら行ってみるさ」
「なら十分に栄養取らなきゃ。この煮込み追加ね」
「一人で食べたのかよ!」
「注文すればいいじゃん。ほらこっちならあるよ」
レラが手を付けなかったのは、キノコと野菜を塩胡椒とトウガラシを加えて炒めたものと、カエルの肉の唐揚げ。
キノコと野菜の炒めものは辛いから嫌だと食べず、唐揚げはカエルの肉だと聞いて食べたくないと。
仕方なくカズが一人で両方を食べる。
キノコと野菜の炒めものは確かに辛かったので、レラが食べないのが分かった。
カエル肉の唐揚げは鶏肉っぽく淡白で、思いのほか美味しかった。
見た目も骨を外して揚げてあるため、聞かされなければカエル肉だと分からない。
たが料理を持ってきた時に「麦シュワには最高に合うカエル肉の唐揚げだ」と言ったことで、レラが口にするのを躊躇い、結局は手を付けなかった。
「唐揚げ旨いぞ。一つ食べてみろよ」
「だってカエルでしょ、あちし嫌だよ。あ、マヨがあればちょびっとだけ食べてみてもいいかも」
「唐揚げにマヨか。カロリー高いが確かに旨い。でもお酢も代理になる物もないから、マヨ作れないんだよなぁ」
「お酢あるか聞いてみたら?」
「そうだな。もののついでに聞いてみるか(ま、無いだろうけど)」
カズは自分の麦シュワを飲み干すと、煮込みと二人分の麦シュワを近くの店員に注文する。
少しして女将のドワーフが、追加の麦シュワと煮込みを持って来た。
「はいよ」
「ねぇねぇ、お酢ってある?」
「お酢?」
「酸っぱい調味料なんですが、ないですよね」
「ビュネグゥのことかい?」
「酢があるんですか!?」
「ビネガーじゃなくてビュネグゥだよ。別に珍しくもない。街の食材市場に行けば売ってるよ」
「あるってカズ。これでマヨネーズが作れるじゃん」
「マヨネ? なんだそれ」
「ちょっとしたソースです。ところでヤトコさんのこと、何かわかりましたか?」
「そうそう、旦那に聞いたら一ヶ月前くらいに、鉱山の奥に行くとかで、芋やら干し肉からを多く買ってたんだって」
鉱山でドワーフに聞いた情報と一致し、翌日ヤトコを探しに鉱山の奥に行くことをカズは決めた。
「もしかして探しに行くのかい?」
「そのつもりですが」
「冒険者なら大丈夫だと思うが、気を付けることだね」
「ええ。無理だと思ったら引き上げてきます」
「ヤトコを見つけたら、火酒屋の『ナプル』に心配かけた詫びに、飲みに来るよう言っとくれ」
「ナプルさん…ですか?」
「そういや言い忘れたね。あたしがナプルだよ」
「わかりましたナプルさん。俺はカズで、こっちのがレラです」
「カズとレラだね。こんな騒がしい所だが、いつで気軽に来とくれ」
食事処火酒屋でヤトコの情報を得た二人は、鉱山に近い宿屋を探して泊まった。
◇◆◇◆◇
朝早く宿屋を出た二人は、鉱山に向かいながら軽い朝食を取る。
鉱山が多くの採掘者で賑わう前にと、急ぎ奥に続く細道に向かう。
レラはカズに抱えられ、寝ぼけ眼でパンをちびちび食べる。
まだ人気のない鉱山を登り、切り出した岩と岩の間にある細道の近く来ると、手前の石に一人座っているドワーフの姿があった。
よく見ればそれは、前日ヤトコの知り合いだと言ったドワーフだった。
「もしやと思って早く来て正解だった。ヤトコを探しにダンジョンに行くんだろ」
「そうですが、どうしてわかったんです?」
「おいも昨日火酒屋に行ったんだ。あんたはもう出た後だったが」
「そこで聞いたんですか」
「ああ。昨日奥は危険だと言うたこと覚えてるか?」
「ええ」
「入るにしても、日のあるうちに出て来ることだ。入口のある場所は暗いから、外に出たとしてもわからなくなるぞ」
「わざわざそれを伝えに来てくれたんですか?」
「おいがダンジョンの場所を教えてしまったのが原因で、戻って来なくなったなんて言われたらたまらん。必ず戻って来い」
少々照れながら話す採掘師のドワーフ。
そうしてる間に、多くの声が近付いて来ていた。
「他の連中も上がって来たようだ。もう一度道を教えておくから忘れるな。この細道をずっと行くと崖に出る。そしたらそこを通り、先に見える赤と青の鉱石が含まれた岩壁をたどって、くねった道を下りて行くんだ。白と黄色の斑な足場に出たら、緑が含まれてる岩壁をたどって行けば、入口の穴に着くはずだ」
「わかりました。ありがとうございました」
「気を付けて行け」
軽く会釈をしたカズは、細道を奥へと進んで行く。
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