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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

407 パフの手芸店

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 カズ達は一縷いちるの望みを抱き、年配女性の後を付いて行くと一軒の店に着いた。
 店には『パフ手芸店』と書かれた看板がかけられていた。
 年配女性は店の裏口の扉を開けて、四人を招き入れる。
 四人は年配女性の後に続き、裏口から店の中に入った。
 十畳程の部屋の中には様々な糸や生地が置いてあり、手動式のミシンも置いてあった。

「そっちは仕事場だよ。こっち来て座りな」

 年配女性が隣の六畳程の部屋に移動し、テーブルを囲む椅子に座るように言う。
 部屋にある棚には、何人かの名前が書かれていた。

「こっちは休憩部屋。そこの棚には、ここで働いてる子達の道具が置いてあるのさ。狭い店だから簡単な縫い仕事だったら、こっちでやったりもするがね」

「あの、それで相談に乗ってくれるとは」

「先ずは自己紹介といこう。わたしはパフ。この店の持ち主だよ」

「俺はカズです」

「私アレナリア」

「ビワです」

「あちしレラだよ」

「夜も更けてきたからね、回りくどい話はやめて聞くよ。ビワその子が仕事を探してるんだね」

「そうです」

「さっきの店で話が聞こえてきてね、悪いと思ったが聞かせてもらった。自分達に都合の良い職場を探して、反省してたんだろ」

「改めて言われると耳が痛いです」

「別に嫌味や説教をするつもりはないさ。誰でも自分にプラスになる職場を探すのは当たり前さ。ただ誰もが自分の希望に合う職場を見つけられる訳じゃない。現実の厳しさに気付き、何かを妥協して働くのが仕事だからね」

 そのつもりはないと言っておきながら、説教じみたことを言うパフ。

「まったくその通りです」

「長々と話はしないんでしょ。本題に入ってちょうだい」

「こっちの小さいお嬢ちゃんは強気だね。そういった子は嫌いじゃないよ」

「お嬢ちゃんて、私はこれでも貴女より年上よ」

「おやそうかい。見た目で判断してしまったようで、悪かったね」

「気を付けてくれればいいわよ。慣れてるから」

 慣れてるからと言いつつ、アレナリアはむすっとする。

「じゃあ本題だ。えーとビワと言ったね」

「あ…はい」

「話を聞いた限りだと、幾つか服を作ったんだろ? 今までどんな物を作ったんだい?」

「それは…」

「これだよこれ。あちしの服」

 レラが着ていたオーバーコートを脱ぎ、パフに見せる。

「どれどれ」

 パフはレラのオーバーコートの裏表をじっくり見る。

「切り返しもいいね。思ってたより出来てるじゃない」

「ありがとう…ございます」

 手芸を仕事にしてる人に誉められてビワは喜ぶ。

「明日からうちに来なさい。色々な素材を使ったやり方を仕込んであげるわ」

「え! よろしいんですか……?」

「私達は旅をしてるから、ビワもずっと働ける訳じゃないのよ」

「それはわかってる。人に教えるのは、わたしの趣味なのよ。一人だから大人数は無理だけどね。それに見ての通り小さな店だから、給金はそれほど出せないわよ」

「本当に良いんですか?」

「ええ」

「どうする? 決めるのはビワだよ」

「よろしくお願いします」

 パフに頭を下げるビワに続き、カズとアレナリアも頭を下げる。
 それを見たレラも一緒に下げた。

「話は決まった。今日はゆっくり寝て、明日からの仕事に備えなさい」

「はい」

 こうしてビワの仕事場が決まり、翌日からパフ手芸店に通うことになった。

「ビワがここで仕事をしてる間、あんたらは何をしてるんだい? ビワの覚えによるけど、一通り教えるにしても二ヶ月以上は掛かるよ」

「とりあえず俺は住む場所を探してみます。その後は冒険者ギルドで依頼を受けてれば、やることもありますから」

「知らない土地だから、私はレラを連れてビワの護衛でもするわ」

「女ばかりの街だから、護衛なんていらないと思うがね。少なくとも昼間わたしの店に居る間は大丈夫。言い掛りを付けてくる者がいても、それなりにわたしも顔が広いから守れるよ」

「それならその間、私も近所の依頼でも受けてるわ」

「そうしな。昼はうちに来てる子達と、その辺の店で食べればいいんだから」

「ビワはちょっと人見知りなのよ。だから、お昼には私が来るわ」

「小さい声の子だと思ったら、そういうことかい。なら慣れるまでそうするといい」

 ビワの気持ちを汲むパフ。

「そうだ! カズあんたに一つ頼みがあるんだよ」

「なんです?」

「ここから東にあるクラフトって街に行って、人を探してきて欲しいんだ。前に一度冒険者ギルドに依頼を出したんだけど、受けた冒険者が途中で諦めて見つからなかったんだよ。だから頼めないかね?」

「人探しですか。ビワがお世話になるんですし、構いませんよ。アレナリアに居てもらえば、ビワを守るのは十分ですから」

「待って。明日ギルドにその依頼出して、それをカズが受ければいいじゃないの。そうすればギルドカードの更新にもなるし」

「でもそれだと依頼料がかかるだろ。今回はお礼としてやるからいいんだ」

「……わかったわ。一応レラとビワのギルドカードの期限が近付いたら、ビワの方は私が簡単な依頼を受けておくわ。掃除とか」

「頼んだ」

「なんだか逆に悪いね」

「気にしないでください。それで探してるのはどんな人ですか?」

「名前は『ヤトコ』ハイドワーフの鍛冶屋。半年程前から連絡がつかなくて、ちょっと困ってたの。うちで使ってる道具を作ってくれてるから、そろそろ来てもらわないと」

「仕事に差し支える訳ですか。わかりました。急いでクラフトに行き探します」

「クラフトへは定期の馬車が出てるから、それに乗るといい」

「そうですか、わかりました」

 こうしてビワの技術向上目的での勤め先が決まった。
 翌日ビワをパフ手芸店に送り届け、カズはアレナリアと暫く住む部屋を探した。
 パフ手芸店から徒歩で十五分程の場所にある部屋を借り、 前払いで二ヶ月分の家賃を払った。
 その日の夕食時に「レラが居たらアレナリアに負担がかかるだろ。だからレラは俺が連れ行くよ」とカズは話した。
 特にレラは渋る様子もなく、翌日ビワが二日目の仕事に行くのを見送り、定期的に運行する大型の馬車で職人の街クラフトに向けて出発した。
 馬車に乗る時にクラフトまで十日以上掛かると知り、旅に出てからビワと長く離れる事がなかったので、カズは少し不安ではあった。
 それでもアレナリアが居るから大丈夫だと、自分に言い聞かせた。


 ≪ 現在職人の街クラフト≫


 カズとレラが乗った馬車がクラフトに着くと、すぐ鍛冶屋組合に行きヤトコについて聞いていた。
 半年前にクラフトを離れ、二ヶ月前に戻って鍛冶屋組合に顔を出したが、その一度だけでそれからは来ていないとの事だった。
 本人の工房はクラフトにはなく、仕事が入ると知り合いの所を借り作業をしている変わった者らしい。
 二日目からはクラフトの鍛冶屋を回り、ヤトコの情報を集めた。
 だがやはり二ヶ月程前から姿を見てない、ということしか分からなかった。
 三日目は馬車から見た鉱山に行き、働く人達に話を聞き回った。
 するとよくヤトコと鉱石採取をしているというドワーフを見つけた。

「ヤトコを最後に見たのは一月くらい前だ」

「一ヶ月? 組合や鍛冶屋の方々に聞いたら、二ヶ月前から姿を見てないと聞きましたが」

「二ヶ月前からこの鉱山で鉱石採取をしてたからだろ。あやつは使ってない穴に一人で入って採取しとるからな。鉱山で働く者達ともあまり顔を合わせないんだ」

「どうりで。それで今は?」

「わからん。言っただろ一月くらい前から見てないと」

「心当たりとかないですか?」

「う~む……」

 ドワーフは腕組みをして、あご髭を触りながら眉間にシワを寄せて考え込む。

「! そう言えば更に奥に行った所の下層に行くと、言ってたと思うたが」

「そこに珍しい鉱石でもあるんですか?」

「あるにはあるが、そこはダンジョンなんじゃよ」

「ダンジョン! 危険じゃないんですか?」

「浅い場所ならそれほど危険じゃないはずだ。ただ出て来るモンスターが少々変わっていて、鉱石で出来てるって話だ」

「ゴーレムみたいなのですか?」

「そこまでは知らんが。噂では中に入る度に奥の通路が変わってるらしい」

「坑道が変化するダンジョン。確かに奥まで入るのは危険ですね」

「珍しい素材が手に入るらしいが、危険を犯してまで手に入れたい物じゃないと聞いたぞ。本当かどうかはわからんが」

「素材採取にしても、そんな所に行きますかね?」

「あやつは組合に入ってる中でも、変り者だからありえるぞ。確かめるなら先に火酒って飯屋に行って聞いてみるといい。鉱山に来てる連中も行きつける奴が多い飯屋でな、ヤトコもよく行ってるた所だ」

火酒ひざけですか、わかりました。ありがとうございます」

「なあに。おいもヤトコのことは気にはなってた。もし奥まで行ってるなら、そこで酒と食料を買い込んでるはずや」

「さっそく行ってみます」

 新たにヤトコの情報を得たカズは、鉱山に来るドワーフがよく通うという食事処に向かった。
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