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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国
404 裁縫と刺繍の街バイアステッチ
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前を走る荷馬車にカズが乗り、その後ろを付いて行く荷馬車にアレナリアとビワとレラが乗っている。
二台に別れて乗ることで、馬への負担は減り荷馬車の速度は上がる。
ウールの街を出てから二日目に周囲あった雪が無くなり、乾いた道になった事で一日で進める距離が一気に伸びた。
これにより冒険者ギルドの職員から徒歩で七日掛かると言われた距離を、半分以下の三日で目的地のバイアステッチに到着することが出来た。
四人はそれぞれ身分証を提示し、荷馬車と共に街に入り、荷物を受け渡す倉庫へと移動する。
荷馬車の持ち主の年配男性に言われ、カズは【アイテムボックス】から預かっていた荷物を倉庫の一角に出す。
これにて依頼は完了となった。
「ご苦労ご苦労。あんたのお陰でいつもの半分の日数で来れた」
「依頼ですこら。こちらも助かりました」
「これでギルド(商業)から頼まれた物を、ウールに運んで戻れば、すぐ次の運搬に出られる。いつもは一回置きなんだが、今月は稼ぎが増えそうだ。あんたが良ければ、もう少し手伝ってくれないか? 報酬は弾む」
「ありがたい申し出ですが、こちらも目的がありますので(さすが商売人だな。時は金なりか)」
「そうか、それは残念。もし機会があったら、またうちの運搬を頼む」
「その時はまた、よろしくお願いいたします」
「あんたみたいな冒険者が多ければ、互いのギルドが険悪にならんのだがな。あ、これはウールだけの話だ。他の街がそういう訳じゃないぞ」
「わかりました(やっぱり商業ギルドの人達があんななのは、冒険者の態度が問題か)」
荷馬車の持ち主の年配男性から、依頼完了のサインが入った依頼書を受け取ると、一行はその足で冒険者ギルドに行き、依頼完了の報告をして報酬を受け取る。
街の情報収集と次の依頼は翌日にし、宿屋を探して温かい夕食を取り、早くに就寝する。
裁縫と刺繍の街バイアステッチ、人口が約八千の街ウールよりずっと大きく、人口約三万の八割以上を占めるのが女性という、大きな街としては珍しい。
街には多くの大小様々な裁縫と刺繍の工場があり、街に女性が多い理由はその仕事の関係上。
帝国で流通する衣服など布製品の半分が、バイアステッチで作られた物だと言われている。
手先が器用であれば年齢種族関係なく働くことができ、技量が卓越したベテランにでもなれば、貴族や国の重鎮が使用する物を専門に作るようになり、報酬は工場で働く者の数十から数百倍にもなることも。
己の技量を上げ高額報酬を夢見て、地元を離れ仕事を得る為に、毎日のように女性が自分に合った職場を探して門を叩く。
技量が上がらずに挫折して街を去り、地元に戻って暮らす者も少なくはない。
技術向上の途中でバイアステッチを去る事が、決して失敗という訳ではない。
その時その時のタイミングで、仕事、技量、心が噛み合わなかっただけかも知れない。
バイアステッチで芽が出ずとも、地元では他より頭一つ抜き出た技量で成功し、それなりの暮らしができ、幸せになる者もいたりする。
そういった女性が多く集まるのが、ここ裁縫と刺繍の街バイアステッチ。
◇◆◇◆◇
バイアステッチに着いた翌日、ビワが裁縫と刺繍を見たいと言うので、色々な店を見て回ることにした。
街の大部分が女性を占めるため、ウールの街とは違い、様々な形や色をした衣類を売る店が多くある。
シャツにジャケットにパンツにスカート、華やかなドレスや獣やモンスターの革を使った物もあり、種族に合わせたサイズや形も多種多様。
数は少ないがフェアリーのサイズに合わせた衣類を取り扱ってる店もあった。
やはり女性物が断然多いが、男性の衣類も少なからず売ってはいる。
中には素材として新の生地に刺繍だけを施した商品だけを売る店や、裁縫に使う色々な道具だけを売ってる店もあり、値段もピンからキリまで様々。
他の街から仕入れに訪れる商人や、それ目的で買いに来る者も多くいる。
何軒も回り商品を見ては、その細かい仕上がりにビワは驚いていた。
アレナリアとレラは目の色を変えて、自分好みの衣服を探していた。
女性ばかりの店に入るのは気まずく、カズは毎回一人店の外、少し離れた所で待っていた。
行き交う人々も様々な種族の女性ばかり、見掛ける男性は恋人同士で買い物に来ている人か、仕入れに来た商人くらいしかいなかった。
カズが一番困ったのは、女性下着専門店の前で待たされたこと。
少し離れた場所に移動しようとする「私もじっくり見たいから、今度はちゃんと店の前で待っててよ。二人を気遣うようにはするけど、何かあったら大変でしょ」とアレナリアに言われたことだった。
返事を聞く前にアレナリアは店に入ってしまい、カズは心の中で叫んだ。
それはそうなんだけど、この店だけは勘弁してくれよ、と。
ちらちらと女性下着専門店の前に立つカズに向けられる視線を感じ、どれも痛く恥ずかしい。
カズは下を向いて、早く終わってくれと心底思っていた。
店から出て来たビワの手には、アイテムポケットが付与されている手提げバッグだけがあり、今まで買った品物は全てその中に入れてある。
なので三人が買った下着を、カズが目にすることはなかった。
未使用とはいえ、お互いにそれは恥ずかしい。(アレナリアだけはカズに見せようと買っている可能性が高いので、恥ずかしいかは不明)
一通り店を見て買い物を終えた一行は、喫茶店に入り昼食を取る。
バイアステッチは交通の便が良く、食材も多く入って来ているため、料理の種類もそこそこ多い。
主食のパンに使う小麦や野菜に果物、肉や香辛料も充実している。
唯一少ないのは魚介類。
昼食はパンにお好みで肉や野菜を挟んだものと、モコモコシープのミルクが入った暖かいかぼちゃスープ。
山間部から平地に下りてきたことで、防寒着を着ていなくても寒くはなく、オーバーコートだけでも見た目はおかしくはない。
逆に防寒着を着ていると、ぶくぶく太っているように見え、衣服を作る仕事をするオシャレな街の人々からしたら浮いてしまいそう。
カズが付与した三人のオーバーコートは、雪降る場所でも暖かく問題ないのだが、旅をしているので衣類の数も種類も少ない。
女性からしたらやはり服装に気を使う。
それは冒険者のアレナリアや、常にメイド服を着ていたビワでも同じ。
なのでこの日の午後も多くの店を回り、色々な衣類を買った。
日が暮れると、仕事を終えた女性達が夕食の材料を買いに商店の並ぶ通り集まって来る。
買い物を切り上げて飲食店で夕食を取る一行は、通りを埋め尽くす勢い様々な種族の女性を目の当たりにする。
「カズあそこ見て」
「あそこ?」
アレナリアが目を見開き、一際変わった影が近付いて来るのに気付き、カズにその方向を見るように言う。
その先には人や小人にエルフにドワーフはもちろん、様々な獣人の他に目立つ存在がそこには居た。
上半身が人の姿をし、下半身が蜘蛛そのものの形をしたモンスター『アラクネ』しかもそれが三体も。
周囲を見ていると距離を取り顔がひきつる者も居たが、なごやかに笑顔で話している者の方が多く、共存しているのが見て取れた。
臆してる人はバイアステッチに来てまだ日が浅い、もしくは初めて見たのだと思われる。
「あれってモンスターのアラクネだよな?」
「ええ、そうよ。驚いたわ。知能が高いのは知っていたけど、まさか街に居たなんて。モンスターランクは確かB以上のはず」
「ってことは、レベルは50以上はあるのか?」
「レベルが低くとも知能の高さから危険視されて、ランクが高く付けられることもあるわ」
「あの様子だと、長い間ここに住んでるようだな」
「アラクネの出す糸は貴重で、織物の名手だと本で読んだことあったわ。でも実際見たのは初めて。いったいどうやって街で暮らすようになったのかしら?」
「それはわからないが、モンスターでも一緒に共存生活出来るって事の証明だろ。良いことじゃないか(そう言えばあいつはうまくやってるのか?)」
アラクネを見たカズは、ふとあるモンスターを思い出していた。
人と関わり仕事をしたいと言っていた共通語を喋れる変わった性格の蜘蛛のモンスターを。
二台に別れて乗ることで、馬への負担は減り荷馬車の速度は上がる。
ウールの街を出てから二日目に周囲あった雪が無くなり、乾いた道になった事で一日で進める距離が一気に伸びた。
これにより冒険者ギルドの職員から徒歩で七日掛かると言われた距離を、半分以下の三日で目的地のバイアステッチに到着することが出来た。
四人はそれぞれ身分証を提示し、荷馬車と共に街に入り、荷物を受け渡す倉庫へと移動する。
荷馬車の持ち主の年配男性に言われ、カズは【アイテムボックス】から預かっていた荷物を倉庫の一角に出す。
これにて依頼は完了となった。
「ご苦労ご苦労。あんたのお陰でいつもの半分の日数で来れた」
「依頼ですこら。こちらも助かりました」
「これでギルド(商業)から頼まれた物を、ウールに運んで戻れば、すぐ次の運搬に出られる。いつもは一回置きなんだが、今月は稼ぎが増えそうだ。あんたが良ければ、もう少し手伝ってくれないか? 報酬は弾む」
「ありがたい申し出ですが、こちらも目的がありますので(さすが商売人だな。時は金なりか)」
「そうか、それは残念。もし機会があったら、またうちの運搬を頼む」
「その時はまた、よろしくお願いいたします」
「あんたみたいな冒険者が多ければ、互いのギルドが険悪にならんのだがな。あ、これはウールだけの話だ。他の街がそういう訳じゃないぞ」
「わかりました(やっぱり商業ギルドの人達があんななのは、冒険者の態度が問題か)」
荷馬車の持ち主の年配男性から、依頼完了のサインが入った依頼書を受け取ると、一行はその足で冒険者ギルドに行き、依頼完了の報告をして報酬を受け取る。
街の情報収集と次の依頼は翌日にし、宿屋を探して温かい夕食を取り、早くに就寝する。
裁縫と刺繍の街バイアステッチ、人口が約八千の街ウールよりずっと大きく、人口約三万の八割以上を占めるのが女性という、大きな街としては珍しい。
街には多くの大小様々な裁縫と刺繍の工場があり、街に女性が多い理由はその仕事の関係上。
帝国で流通する衣服など布製品の半分が、バイアステッチで作られた物だと言われている。
手先が器用であれば年齢種族関係なく働くことができ、技量が卓越したベテランにでもなれば、貴族や国の重鎮が使用する物を専門に作るようになり、報酬は工場で働く者の数十から数百倍にもなることも。
己の技量を上げ高額報酬を夢見て、地元を離れ仕事を得る為に、毎日のように女性が自分に合った職場を探して門を叩く。
技量が上がらずに挫折して街を去り、地元に戻って暮らす者も少なくはない。
技術向上の途中でバイアステッチを去る事が、決して失敗という訳ではない。
その時その時のタイミングで、仕事、技量、心が噛み合わなかっただけかも知れない。
バイアステッチで芽が出ずとも、地元では他より頭一つ抜き出た技量で成功し、それなりの暮らしができ、幸せになる者もいたりする。
そういった女性が多く集まるのが、ここ裁縫と刺繍の街バイアステッチ。
◇◆◇◆◇
バイアステッチに着いた翌日、ビワが裁縫と刺繍を見たいと言うので、色々な店を見て回ることにした。
街の大部分が女性を占めるため、ウールの街とは違い、様々な形や色をした衣類を売る店が多くある。
シャツにジャケットにパンツにスカート、華やかなドレスや獣やモンスターの革を使った物もあり、種族に合わせたサイズや形も多種多様。
数は少ないがフェアリーのサイズに合わせた衣類を取り扱ってる店もあった。
やはり女性物が断然多いが、男性の衣類も少なからず売ってはいる。
中には素材として新の生地に刺繍だけを施した商品だけを売る店や、裁縫に使う色々な道具だけを売ってる店もあり、値段もピンからキリまで様々。
他の街から仕入れに訪れる商人や、それ目的で買いに来る者も多くいる。
何軒も回り商品を見ては、その細かい仕上がりにビワは驚いていた。
アレナリアとレラは目の色を変えて、自分好みの衣服を探していた。
女性ばかりの店に入るのは気まずく、カズは毎回一人店の外、少し離れた所で待っていた。
行き交う人々も様々な種族の女性ばかり、見掛ける男性は恋人同士で買い物に来ている人か、仕入れに来た商人くらいしかいなかった。
カズが一番困ったのは、女性下着専門店の前で待たされたこと。
少し離れた場所に移動しようとする「私もじっくり見たいから、今度はちゃんと店の前で待っててよ。二人を気遣うようにはするけど、何かあったら大変でしょ」とアレナリアに言われたことだった。
返事を聞く前にアレナリアは店に入ってしまい、カズは心の中で叫んだ。
それはそうなんだけど、この店だけは勘弁してくれよ、と。
ちらちらと女性下着専門店の前に立つカズに向けられる視線を感じ、どれも痛く恥ずかしい。
カズは下を向いて、早く終わってくれと心底思っていた。
店から出て来たビワの手には、アイテムポケットが付与されている手提げバッグだけがあり、今まで買った品物は全てその中に入れてある。
なので三人が買った下着を、カズが目にすることはなかった。
未使用とはいえ、お互いにそれは恥ずかしい。(アレナリアだけはカズに見せようと買っている可能性が高いので、恥ずかしいかは不明)
一通り店を見て買い物を終えた一行は、喫茶店に入り昼食を取る。
バイアステッチは交通の便が良く、食材も多く入って来ているため、料理の種類もそこそこ多い。
主食のパンに使う小麦や野菜に果物、肉や香辛料も充実している。
唯一少ないのは魚介類。
昼食はパンにお好みで肉や野菜を挟んだものと、モコモコシープのミルクが入った暖かいかぼちゃスープ。
山間部から平地に下りてきたことで、防寒着を着ていなくても寒くはなく、オーバーコートだけでも見た目はおかしくはない。
逆に防寒着を着ていると、ぶくぶく太っているように見え、衣服を作る仕事をするオシャレな街の人々からしたら浮いてしまいそう。
カズが付与した三人のオーバーコートは、雪降る場所でも暖かく問題ないのだが、旅をしているので衣類の数も種類も少ない。
女性からしたらやはり服装に気を使う。
それは冒険者のアレナリアや、常にメイド服を着ていたビワでも同じ。
なのでこの日の午後も多くの店を回り、色々な衣類を買った。
日が暮れると、仕事を終えた女性達が夕食の材料を買いに商店の並ぶ通り集まって来る。
買い物を切り上げて飲食店で夕食を取る一行は、通りを埋め尽くす勢い様々な種族の女性を目の当たりにする。
「カズあそこ見て」
「あそこ?」
アレナリアが目を見開き、一際変わった影が近付いて来るのに気付き、カズにその方向を見るように言う。
その先には人や小人にエルフにドワーフはもちろん、様々な獣人の他に目立つ存在がそこには居た。
上半身が人の姿をし、下半身が蜘蛛そのものの形をしたモンスター『アラクネ』しかもそれが三体も。
周囲を見ていると距離を取り顔がひきつる者も居たが、なごやかに笑顔で話している者の方が多く、共存しているのが見て取れた。
臆してる人はバイアステッチに来てまだ日が浅い、もしくは初めて見たのだと思われる。
「あれってモンスターのアラクネだよな?」
「ええ、そうよ。驚いたわ。知能が高いのは知っていたけど、まさか街に居たなんて。モンスターランクは確かB以上のはず」
「ってことは、レベルは50以上はあるのか?」
「レベルが低くとも知能の高さから危険視されて、ランクが高く付けられることもあるわ」
「あの様子だと、長い間ここに住んでるようだな」
「アラクネの出す糸は貴重で、織物の名手だと本で読んだことあったわ。でも実際見たのは初めて。いったいどうやって街で暮らすようになったのかしら?」
「それはわからないが、モンスターでも一緒に共存生活出来るって事の証明だろ。良いことじゃないか(そう言えばあいつはうまくやってるのか?)」
アラクネを見たカズは、ふとあるモンスターを思い出していた。
人と関わり仕事をしたいと言っていた共通語を喋れる変わった性格の蜘蛛のモンスターを。
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