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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

403 商業ギルドに身分登録

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 ◇◆◇◆◇


 カズは朝一で冒険者ギルドに行き、羊飼いとモコモコシープの護衛をした報酬を受け取ると、ここウールから行ける街の場所と、徒歩での日数を聞く。

「一番近くですと裁縫と刺繍の街バイアステッチで七日程掛かります。第三の工場街サードファクトリーは、バイアステッチから西に三日の場所にあります。職人の街クラフトが一番遠く、早くても二十日は掛かるでしょう」

「この街に貸し馬車とかありませんか?」

「無いですね。あるとしたら商業ギルドから来ている依頼を受けて、荷馬車に乗っけてもらうしかないですね。でも難しいと思いますよ。荷台は荷物で山積みでしょうから」

「そう…ですか」

「依頼を受けるようでしたら、掲示板をご覧ください」

「わかりました」

 掲示板に貼ってある依頼書に目を通し、運搬の依頼を探すも、どれも出発まで二、三日先の依頼しかなかった。
 つまり数日置きに運べる量の羊毛が溜まり、それから他の街に向けて運搬してるのだと分かる。
 向かう街を相談すべく、三人の待つ宿屋に戻り、依頼内容と街までの日数を話す。

「私達は別に構わないわよ」

「じゃあ決まりだ。三日後の運搬依頼を受けて、バイアステッチに向かうと。俺はもう一度ギルドに行って、依頼を受けてくる」

「それまであちしは宿で寝てるね~。外は寒いから」

 引き籠り宣言をするレラ。

「三人共のんびりしててくれ。俺はちょっとやることあるから、少し出掛けたりするけど。宿を出るようなら、アレナリアと一緒にな。頼むよアレナリア(新人狩りが居るかも知れないしな)」

「それはわかってるけど、カズの用事って何? 今までの村や街でも、一人でたまに出掛けたりしてたけど」

「ちょっとした確認だよ確認。とりあえずギルドに行って、依頼を受けてくるから。無くなってたら荷馬車に乗れないからさ」 

 再度宿屋を出たカズは、冒険者ギルドの掲示板に貼ってあった依頼書を受付に持っていき、バイアステッチまでの運搬の手伝いと護衛をする依頼を受けた。
 カズが受付を離れようとすると、大事なことを思い出した女性職員が声を掛ける。

「あ、すみませんが、この街での運搬依頼を初めて受ける方は、商業ギルドに行ってもらう事になってます」

「商業ギルドに? 行って何をすれば?」

「パーティーで受けられているので、代表者の方は商業ギルドでパーティーの登録をしてください。各村から集められた大切な品物ですから、運搬に関わるには本人確認が必要なんです」

「そうなんですか! わかりました。今から行ってきます(結構めんど…しっかりしてるんだな)」

 カズは冒険者ギルドを出た足で、商業ギルドに向かった。
 昼少し前に商業ギルドに近くに着くも、前日とは違い荷馬車は無かった。
 商業ギルドの建物に入ると、内装は冒険者ギルドと作りは似ていた。
 訪れている人はまばらで、冒険者ギルドとは違い静か。
 カズは受付の男性職員に、冒険者ギルドから商業ギルドで登録するように言われたことを伝えた。

「パーティー名とパーティーメンバーをこちらの用紙に記入して、冒険者ギルドのギルドカードと一緒に提示するように。ここでは邪魔になるから、あちらで書いて。最低限の注意事項が書かれてるから、ちゃんと読むように」

「あ、はい。わかりました」

 ぶっきら棒な口振りの男性職員から記入用紙を受け取り、壁際にある机で注意事項を読む。


 その1、依頼を受ける際は商業ギルドに登録をし、本人証明書を発行して依頼主に提示すること。
 その2、護衛依頼を受けるのは原則四人以上のパーティーとする。(ただしランクA以上の冒険者が居る場合は別とする)
 その3、運搬物(荷馬車と持ち主も含む)を破損した際は、その金額を弁償すること。(災害による破損等は、それに含まない)
 その4、依頼を受けた冒険者、そのパーティーが弁償金額の支払いを拒否、もしくは払えなかった場合は、冒険者ギルドが全てを肩代わりする。
 その5、スキルやアイテムを使い品物を運搬する場合は、事前に商業ギルドと依頼主または運搬者に報告すること。(アイテムボックスに収納する場合など)


 一通り注意事項を読み、必要事項に記入した用紙を先程の受付に持っていく。

「あの、書けました」

「では確認をします」

 男性職員はカズから記入用紙を受け取り目を通す。

「Bランクが二人とDランクが二人の四人パーティーですか。いいでしょう。運搬するのに、スキルかアイテムを使用しますか?」

「アイテムボックスが使えるので、そちらに入れて行ければ、荷馬車に乗れるかと」

「アイテムボックスですか。足が無いので荷馬車に乗るために依頼を受けたと?」

「駄目でしたか?」

「駄目ではないです。決められた物を無事目的地まで運べるのであれば。荷馬車に乗せてもらえるかは、自ら交渉してください」

「わかりました」

「どこにも専属として仕えてないということは、要領は少ないのでしょう」

「え、ええ(勝手にそう思ってくれるならそれでいいけど)」

「まあ、使用出来るだけでも十分なんですが。とりあえずこれで登録はこれで完了です。あとは依頼当日にギルド(商業)の前に来て、自分達で運搬する荷馬車を探すように。以上」

「わかりました(商業ギルドの職員て、冒険者に対してこんな態度なのか?)」

 商業ギルドを出たカズは一度振り返えり「あの口調で商売を専門とするギルドの職員なのか……」と、ぼそっと呟き宿屋に戻る。
 どちらかと言うと、荒くれ者を相手にしてる冒険者ギルドより、商人を相手にする商業ギルドの方が、外面は良いとカズは思っていた。(ラノベなどの知識から)
 もしかしたらここだけ特有なのかもと、全ての商業ギルド職員を疑わないようにした。
 思いのみで失敗することは、今まででも多々あったことだからと、ちょっと反省する。

 そして宿屋に戻ったカズは、バイアステッチまでの運搬依頼を受けてきたことと、商業ギルドでパーティーの登録したことを三人に話した。


 それから何事もなく日は過ぎ、二日後の朝に一行は宿屋を出て、商業ギルドに向かった。
 カズが三日前に見た光景と同じく、商業ギルド前には多くの荷馬車が停まっていた。
 四人はバイアステッチ行きの荷馬車を探した。
 荷馬車に木のプレートが付いてたので、目的の荷馬車はすぐに見つかった。
 ただしバイアステッチ行きの荷馬車は、全部で二台あった。
 荷馬車の持ち主にらしき年配の男性に話を聞くと、二台とも自分のだと言う。
 カズはアイテムボックスが使えることを話して、荷物を入れて行くから、荷馬車に乗って行きたいと交渉する。

「おれんところはこの街の大事な商品を運んでんだ。冒険者なら自分の足で歩いて行け」

「いーじゃん。ケ…」

「駄目よレラ」

 荷馬車の持ち主の厳しい対応に、レラがケチと言い返そうとしたのを、ビワが手でレラの口を閉ざす。

「なんだって?」

「なんでもないです。俺は歩きでも良いので、こちらの三人を乗せてくれませんか? 大事な荷物は全てアイテムボックスに預からせてもらいますので」

「なに!? 全部……」

 全ての積み荷をカズのアイテムボックスに入れて運ぶと言われ、黙って考え込む荷馬車の持ち主の年配男性。
 一瞬ちらりカズを見て「ギルド(商業)に登録してる冒険者なら……」と、ギリギリ聞こえる程度の声量でぶつぶつ呟く。

「いいだろ乗って行け。ただし報酬の上乗せはないぞ」

「それで構わないです(足が確保出来ただけ良いとしよう)」

「さっそく荷物を入れてみてくれ。本当に全部入るんだろうな?」

 荷馬車二台に積んである荷物は300キロ以上あり、荷馬車の持ち主の年配男性は、まだ半信半疑でいた。
 それほどの容量が入るアイテムボックスを使用出来る者なら、何処かの豪商か運搬業者と契約をして、働いていてもおかしくないからだ。

「人前でアイテムボックスを使ってもいいの?」

 アレナリアはカズの真横に並び、小声で話し掛けた。

「商業ギルドには、使えるって言ってあるから大丈夫。容量は少ないと勝手に思ってたから、何も言わなかったけど。まあ、聞かれたらこれ以上は入らないって言っておけば」

「それならいいけど。少なからず注目を浴びるわよ」

「これで運搬の人達の態度が良くなればいいさ。荒くれた冒険者じゃないんだし、無理強いして自分達の荷物も運搬しろ! とは言ってこないだろ」

「それもそうね。力ずくで来たとしても、私一人でも十分」

「そうはならないでもらいたいものだ」

「なったとしても、レラとビワに危害が及ばないように気を付けてれば問題ないでしょ」

 アレナリアと話し終えたカズは、苦笑いを浮かべながら荷馬車に山積みしてある二台分の荷物を、全て【アイテムボックス】に収納した。
 荷馬車に山積みになっていた羊毛が、何もない空間に消えたのを見て、荷馬車の持ち主の年配男性だけてはなく、周囲の同業者もその光景を目の当たりにして、驚きを隠せなかった。

「実際にアイテムボックスを使える奴を見たのは初めてだ。これなら豪商や運搬業者が抱え込むのが理解出来る」

 荷馬車の持ち主の年配男性は、当たりの冒険者を引いたと笑みを浮かべた。
 羨ましそうに見る他の荷馬車の持ち主の視線を背に受け、カズ達が乗った二台の荷馬車は、ウールの街を出てバイアステッチに向かう。
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