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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

402 羊毛工場の街ウール

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 高級な羊毛を出荷してると言う、羊飼いの住む麓の村を出発して二日後の昼過ぎ、一行はモコモコシープの刈り取った毛が集まるというウールの街に入った。
 街の少し手前から作られた水路を伝い、川の水が街に引き込まれ、水路は分岐を繰り返して街中に広がっている。
 街には工場が多く、水路は建物内へと引かれいた。
 建物には羊毛選別所と書かれた看板があり、白い蒸気が大量に上がっている。
 開いている扉から中を覗くと、茶色や黒く染み付き汚れたモコモコシープの毛が、山積みになっているのが見えた。
 工場内で働く人達は汚れたモコモコシープの毛を、引き込まれた水路の水や沸かしたお湯で洗う作業をしていた。
 お湯は熱く水は冷たい、肌が荒れかなり過酷な作業だ。
 いつまでも覗いていても失礼だと、一行は宿屋を探し部屋で一休みする。
 張った足を揉み疲れを取るアレナリアとビワ。
 カズは一人街の冒険者ギルドに行き、依頼完了の報告に向かう。

 ウールの街は冒険者ギルドよりも、商業ギルドの方が大きいらしく、ランクの高そうな冒険者らしき姿はあまり見かけない。
 それもそのはず、冒険者ギルドに入る依頼の大半は、たまに現れるモンスターから放牧してるモコモコシープを守る依頼か、ウールの街に集められた羊毛を洗い選別した物を、製品にするため他の街への運搬、またはそれを護衛する依頼。
 どちらも現れるのは大抵Dランク以下のモンスターのため、ランクの高い冒険者がわざわざ来て、依頼を受けるようなことはしない。
 だが年間通して依頼が入るので、新米の一人ソロ冒険者や、結成したばかりのパーティーのランク上げと日銭稼ぎには事欠かない。
 ただし依頼は早い者勝ち、運搬依頼を受けられなかった者は宿代を稼ぐため、工場で羊毛の選別仕事をしたりもする。
 安定した収入があるからと、冒険者を休止して工場で一年働く者も希にいたりもする。
 そうなった者の末路は、大抵冒険者を引退して、所帯を持ち街で静かに暮らしてしまう。
 どちらにしても気を付けなればいけないのは、それらを狙った新人狩りの冒険者が姿を現すこともあるということだ。

 冒険者ギルドに着いたカズは依頼完了の報告をするが、やはり依頼を受けた場所が違うため、確認待ちで報酬は翌日になった。
 報告を終えたカズは、掲示板に貼ってある依頼書を見て次の依頼を探しながら、周りの冒険者が話す内容に聞き耳を立てて情報収集をする。
 聞こえてくる話の内容は「ようやく少し良い宿屋に泊まれそうだ」「あそこの村は報酬の半分が現物なのがなあ」「中々レベルが上がらなねえ」など。
 ワイバーンの討伐依頼がキャニオンの各街で出るという噂話もしていたが、ランクの低い冒険者達は、自分には関係のない事だと、すぐに話題を変える。
 小声で新人狩りの話をしていたパーティーもいたが、言葉を濁らせてこちらもすぐに話題を変えていた。
 これといって有益な情報は入らず、カズは冒険者ギルドを出て、街を散策しながら夕食を買うことにする。

 商業ギルドの前を通ると、多くの荷馬車が停まっており、その荷台には洗浄し乾燥させ羊毛が、60センチから80センチほどの布袋に詰められ、それが大量に積んであった。
 全ての荷馬車には、村や街の名前が書かれた木のプレートが取り付けられており、それを確認した冒険者の各パーティーが「これだこれ」「今回は三台か」「うわっ、ボロ馬車かよ」などと口々にする。
 態度の悪い若手の冒険者に商業ギルドの男性職員が「嫌ならやらなくていい。他にも仕事を受けたい者はいるんだ!」と叱責する。
 せっかく受けた仕事依頼を切られ、職員に悪い印象のままではまずいと、パーティーメンバーが頭を下げ謝罪をしていた。
 商人は商品をだけではなく信用を売り買いしているようなもの。
 信用を得るという点では冒険者も同じだが、礼儀に対しては商業ギルドと冒険者ギルドでは大きな差があった。
 それを知らない者が多いと、その街の冒険者ギルドと商業ギルドの仲は悪くなる。
 ウールの街は工場の街なため、冒険者ギルドより商業ギルドの方が力は上になっていた。

 これまで商業ギルドと殆ど関わってこなかったカズからしたら、ちょっと新鮮な光景と共に、商業ギルドの職員はおっかないんだと感じた。
 荷馬車に取り付けられたプレートをいつまでも見て、とばっちりを受けはたまらないと、カズは足早にその場を離れた。

 更に街を散策するも、工場のある場所を離れると住宅が多く建ち並び、商店は以外と少なかった。
 ウール街の物流は全てと言っていいほど商業ギルドが管理しているため、どの商店も売っている値段は同じになっていた。
 価格競争が無いので、買う側としては店を選ばすに済むが、特色のある店もなければ、その様な商品もない。
 年間通して仕事がある工場の街には、それが当たり前なのかも知れない。
 このウールの街は、安定した仕事と給金を求めて人々は来ているから、高価な服や装飾品、それに珍しい食べ物などの店を出しても、そこを利用するお客は少ない。
 商売として成り立たないと分かっているからこそ、商業ギルドもその様な商品を売る店の支援をしようとはしない。
 商人は貴族を相手にすることも少なくはないので、礼儀や言葉遣いにも気を使い、横の繋がりを大事にする。
 なので商業ギルドに属さない、個人商店をよくは思ってない。
 それでもこういった街の隅っこにも、商品を独自に仕入れた個人商店がひっそりとあったりする。

 カズは夕食買いながら、荷馬車に付いていたプレートに書かれた村や街についての情報を集める。
 コロコロ鳥の卵とミルキーウッドの樹液を使った料理や、現物を探しては見たが、残念ながらウールの街では売ってなかった。
 カズは飲食店に入り、定番料理を買って宿屋に戻ることにした。
 モコモコシープのミルクを使ったシチューと、たっぷりのハチミツを付けた塩パン。
 モコモコシープを放牧していた村も同じシチューを食べていたことから、ウールの街だけではなく、この地方定番の料理のらしい。

「お帰りカズ。今日のごはんは? 何か美味しそうなのあった?」  

 またもや第一声がそれかよと思ったが、ツッコミを入れたところで何が変わるわけでもないのでスルー。

「レラはぶれないなぁ」

「ほへ? 何が?」

「いや、なんでもない。夕食はモコモコシープのミルクを使ったシチュー。塩パンもあるけど、レラは食べないだろ」

「シチューは食べる。パンはしょっぱくないのね」
 
「わかってる」

 カズは【アイテムボックス】に入れていたシチューが入った鍋を出し、部屋にある小さいテーブルに置いた。

「少しは働いて疲れれば、しょっぱい物も食べたくなると思うのだけど」

「レラが働いたのっていうと、コロコロ鳥の卵を回収した時と、ミルキーウッドの樹液を採取した時よね。あとはいつもごろごろ…」

 珍しく遠慮もせずに、レラの痛いところを突くビワ。

「た、確かにそうだけど、ビワに言われるなんて……」

 ショックを受けてがっくりとするレラ。

「ほれ、シチューよそったぞ」

 それぞれの器にシチューを入れて、一緒に出したほっとケーキを小さなテーブルに並べた。

「カズカズ、ハチミツは?」

「寝る前に口ゆすげよ」

「それをしたら余韻を味わえないじゃん」

「虫歯になるぞ」

「あちしそんなのならないもん」

 そう言うと、たっぷりとハチミツをかけて満面の笑みで食べるレラ。
 食後カズが商業ギルドで見た、荷馬車に付けられた街の名前が書かれたプレートのことについて話す。

「ここから行ける街は三ヶ所みたい」

「帝都にはまだ着かないのね?」

「ああ。まだ先みたいだ」

「次の街ってどんな所なの? あちしとしては、お菓子の街がいいなぁ」

「レラ好みの街があるのかしら?」

「ないんじゃないかなぁ」

 ビワがぼそっと口を衝いて出た言葉を耳にしたカズは、同じくぼそっとそれに同意をする。

「レラの好みはいいとして、ここから行ける街のこと教えて」

「わかったのは街の特産と名前。ここから南にある裁縫と刺繍の街『バイアステッチ』そこから西に行った所にあるが生産工場の街『サードファクトリー』最後が職人の街『クラフト』場所までは街の聞き込みだけじゃわからなかった」

「サードファクトリーってことは、他にも同じ様な街があるってこと?」

「たぶんそうだと思う」

「そのバイアステッチに行けば、あちしサイズの服も売ってるかも。ビワも行きたいしょ?」

「そうね。その街なら新しい縫い物が覚えられそう」

「ビワ刺繍は出来るの?」

「小さな花とからな出来ますが、手の込んだものは」

「バイアステッチに行けば、ビワには良い経験になるわね」

「でしょ。ビワの腕が上がれば、あちしの服はもっとゴージャスになる。だからそこに行こう!」

「レラはバイアステッチが候補だな。アレナリアとビワもどの街を目指すか考えといて。明日ギルドで帝都に向かう道を聞いてから決めるから」

「わかりました」

「職人の街も気になるわね」

 それぞれ向かう先を考えながら、この日の夜は更けていった。
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