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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

401 ほっとなケーキのパン!?

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 ビワが二人の喧嘩を止めようとしたところに、出掛けていたカズが貸家に戻ってきた。

「またやってる。ほら、モコモコシープのミルク買ってきたぞ。昼はあれにするんだろ」

 数日前に麓の村で、モコモコシープのミルクが手に入った時に、カズは手軽なほっとなケーキパンを作っていた。
 コロコロ鳥の卵を使い、濃厚な黄身と小麦粉とモコモコシープのミルクを混ぜ、卵白は泡立ててメレンゲにした物を後から加え、焼き上がりはふんわりとしている。
 そこにハチミツをたっぷりとかけて、見た目にも匂いにも食欲を誘いお腹が鳴る。
 香ばし匂いがするのに固くなく、ふんわりとした柔らかい食感と、ハチミツの甘さが口の中で広がり、余程気に入ったのか一口食べると、アレナリアとレラはバクバクと手を止めずに自分の分を一気に食べきってしまっていた。
 ゆっくり食べていたビワのほっとなケーキのパンを二人はじっと見ていたが、ビワも気に入ったらしく、分けるかどうしようかと迷っていた。
 カズはビワから取らないようにと注意をして、自分の分を二人に分け与えた。

 そんな事もあり、それから昼食はほっとケーキを食べるようになっていた。
 作り方は簡単だが、メレンゲは少し面倒なので、そこはアレナリアとレラも手伝ったりもしていた。
 一度メレンゲを入れずにほっとケーキを作ったら、ふんわりとせずにぺったんこな物が出来てしまったため、この昼食に関してアレナリアとレラは、率先して手伝うようになった。

 昼食を済ませた四人は、放牧をしているモコモコシープを見ながらのんびりとし、翌日には下山しようかと話していた。
 そこに初見の村人二人が頼みがあるとやって来た。
 何かと思ったがカズ達は、一応村人の話を聞くことにした。

「自分達はあちら側の麓にある村の羊飼いなんだが、十六匹のモコモコシープを自分達の村まで護衛してくれないか?  途中に出るホールスネークを対処する方法が今回ないんだ」

「出なければいいんだが、もし多くのホールスネークが出てきたら、一匹のモコモコシープをおとりにしなければならないんだ。これは結構な痛手になる」

 この二人の村人の話では、この山の中腹にある村に放牧されているモコモコシープは、それぞれの麓にある村から連れてこられているのだとカズ達は知った。

 帝都に向かう街道から更に離れてしまうので、カズはこの頼みを聞くか少し考える。
 ただでさえ気晴らしにと、帝都に向かう道から外れ、こんな山の中腹まで来たのに、更に外れてしまうのはどうかと。
 しかも山を下りれば、また寒い中を移動することになるのだから。

「あなた達の村から帝都まで行ける道はありますか?」

「直接はないが、村から歩いて二日の場所に川がある。それをたどって行けば羊毛の街に出る。そこからならあると思うが」

「羊毛の街?」

「この辺りの村で放牧されてるモコモコシープの刈った毛を卸してる街だ」

「今すぐに返事は、仲間と相談して決めます」

「わかった。下山は二日後だから、もし一緒に行ってくれるなら、二日後の朝ここに来てくれ。報酬は現物になってしまうが」

「わかりました」

 借りている空き家に戻ると、二人の村人から頼まれた件について四人で話し合う。

「ギルドを通した正式な依頼じゃないから、報酬は期待できないわよ」

「あちしはどっちでもいいかな。やるんだったら報酬はミルクを貰えば」

「他に頼める方がいないから相談してきたのでしたら、してあげたいですね」

 三人の意見を聞き、どうするかカズは決めかねる。

「一応帝都に向かう道はあると思うんだけど、遠回りにはなるんだよね」

「まあ、いいんじゃないの。急いでる旅でもないんだし、遠回りはいつものことでしょ」

「なら決まりだね」

「下山は二日後の朝と言ってましたね」

「それまでこの陽気を堪能しておきましょう。山を下りればまた寒いから」

「それ考えると下が暖かくなるまで、あちしこの村を出たくないなぁ」

「んじゃレラだけ置いてくか」

「ちょ、なんでそうなるのよ! 少しくらい同意しなさいよ。こんなぽかぽかな所から、冷え冷えした所に行くんだから」

 話し合いの結果村人の頼みを聞いて、二日後一緒に下山することになった。
 それまではこの過ごしやすい陽気を、十分堪能することにした。


 二日後の早朝、約束の場所に向かい、羊飼いの村人二人と、丸々と肥えたモコモコシープ十六匹と共に、登って来た側の反対の山道を下って行く。
 登って来た時と同様、標高1000メートル付近の岩場を通過する際に、十数匹のホールスネークがモコモコシープを狙って出てきた。
 カズは【アイテムボックス】に入れていた最後のイノボア一匹を出し、ホールスネークに向かって投げる。
 ホールスネークがそれにたかってる間に、一行は急いで岩場を通過する。
 標高が下がると共に気温も下がり、吐く息も白くなる。
 遠くまでを見渡せる場所に出た所で小休止し、そこで一緒に下山していた羊飼いの村人が遥か先を指差し、カズ達はその方向を見る。

「あれが話した川で、その下流にうっすらと見えるのが羊毛の街『ウール』だよ」

 そこには弧を描く一筋の川があり、その先はガスってよくは見えないが、うっすら街らしきものが見えた。

「あの街を中心に、モコモコシープを放牧している村が周囲に点在してる。数もこことは違い、数十匹から数百匹まで」

「モコモコが数百も!? (いっぱいのモコモコ気持ちよさそぉ~)」

 その数にレラが驚き声を上げ、良からぬ妄想をする。

「平地の広い場所で放牧してるからそれだけいるんだ。羊毛としては安物だよ。こんな特殊な場所はそうそうないから、そこで育てて刈った羊毛は最高品質なんだよ。向こうとこちらの村だけが、特別に許可を得て使用出来る土地だから、他の羊飼いは来れないんだ」

「そうなんですか」

 どや顔で自慢気に話す羊飼いを、情報収集の為だと相槌を打って聞くカズ。
 川とその下流にある街の場所を確認し、小休止を終え麓の村に向かい下山する。
 風が強くなる中を移動して、日暮れ前には到着した。
 報酬としてミルクと刈り取った羊毛から作った毛糸と、それを使い編まれた帽子を貰った。
 川に向けて出発するには遅く風も強かったので、翌朝出発することにして村で一泊する。
 レラは寝る前に、肩掛け鞄の中でごそごそと一人何かをしていた。


 ◇◆◇◆◇


「それじゃ行こうか。とりあえずうっすらと見えた川の下流にある街ウールに」

「ギルドに行って依頼終了の報告をしないとね。受けた場所が違うから、確認の連絡に一日くらい待たされると思うわ」

「結局歩きなんだよねぇ~」

「どうせ歩かないんだから、おとなしく鞄の中で寝てたら」

「そうするよ~ん。カズは貰った帽子被らないって言うから、それを鞄の底に引いちゃったんだ。これで揺れも振動も減って快適っしょ!」
 
 前日の夜、肩掛け鞄の中でがさごそとしていたのは、次の街まで鞄の中に入って行こうと、その準備をしていたのだった。

「元々そのつもりでいたから、俺の分の帽子をどうのこうのと言ってたのか」

「にっちっち。街に着くまでよろしく!」

 オーバーコートの上から防寒着を着て、手袋と防水の暖かい靴を履き、寒さ対策は十分して四人は村を出発する。
 放牧してある体毛の少ないモコモコシープの合間を抜けて、細い道を南東方向に歩いて行く。

 テクサイス帝国に入ってから、盗賊やモンスターなどに襲われる事はなく、敵はこの寒さと疲労。
 徒歩なでの移動距離は短く、雪が積もれば歩きずらくなり疲労は溜まる。
 新たに馬車を引く馬を探すも、売られているのは老馬ばかり。
 獣かモンスターをテイムして馬車を引かすことを、カズとアレナリアは考えるも、ここまでの道中で出てくる気配はなかった。
 結局ずっと徒歩での移動になってしまっている。
 一日で次の村や街まで着く乗り合い馬車なら何度が乗り移動したが、大して距離は稼げない。
 レラとビワのギルドカードの期限を考え、依頼を受けながらの移動なため尚更だった。
 そんな時に暖かい陽気の場所に行く依頼を見つけて受けたのが、モコモコシープを山の中腹まで護衛する依頼だった。
 報酬は少なく遠回りになり、更には山を登る事にはなったが、良い気晴らしにはなった。
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