上 下
418 / 792
五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

401 ほっとなケーキのパン!?

しおりを挟む
 ビワが二人の喧嘩を止めようとしたところに、出掛けていたカズが貸家に戻ってきた。

「またやってる。ほら、モコモコシープのミルク買ってきたぞ。昼はあれにするんだろ」

 数日前に麓の村で、モコモコシープのミルクが手に入った時に、カズは手軽なほっとなケーキパンを作っていた。
 コロコロ鳥の卵を使い、濃厚な黄身と小麦粉とモコモコシープのミルクを混ぜ、卵白は泡立ててメレンゲにした物を後から加え、焼き上がりはふんわりとしている。
 そこにハチミツをたっぷりとかけて、見た目にも匂いにも食欲を誘いお腹が鳴る。
 香ばし匂いがするのに固くなく、ふんわりとした柔らかい食感と、ハチミツの甘さが口の中で広がり、余程気に入ったのか一口食べると、アレナリアとレラはバクバクと手を止めずに自分の分を一気に食べきってしまっていた。
 ゆっくり食べていたビワのほっとなケーキのパンを二人はじっと見ていたが、ビワも気に入ったらしく、分けるかどうしようかと迷っていた。
 カズはビワから取らないようにと注意をして、自分の分を二人に分け与えた。

 そんな事もあり、それから昼食はほっとケーキを食べるようになっていた。
 作り方は簡単だが、メレンゲは少し面倒なので、そこはアレナリアとレラも手伝ったりもしていた。
 一度メレンゲを入れずにほっとケーキを作ったら、ふんわりとせずにぺったんこな物が出来てしまったため、この昼食に関してアレナリアとレラは、率先して手伝うようになった。

 昼食を済ませた四人は、放牧をしているモコモコシープを見ながらのんびりとし、翌日には下山しようかと話していた。
 そこに初見の村人二人が頼みがあるとやって来た。
 何かと思ったがカズ達は、一応村人の話を聞くことにした。

「自分達はあちら側の麓にある村の羊飼いなんだが、十六匹のモコモコシープを自分達の村まで護衛してくれないか?  途中に出るホールスネークを対処する方法が今回ないんだ」

「出なければいいんだが、もし多くのホールスネークが出てきたら、一匹のモコモコシープをおとりにしなければならないんだ。これは結構な痛手になる」

 この二人の村人の話では、この山の中腹にある村に放牧されているモコモコシープは、それぞれの麓にある村から連れてこられているのだとカズ達は知った。

 帝都に向かう街道から更に離れてしまうので、カズはこの頼みを聞くか少し考える。
 ただでさえ気晴らしにと、帝都に向かう道から外れ、こんな山の中腹まで来たのに、更に外れてしまうのはどうかと。
 しかも山を下りれば、また寒い中を移動することになるのだから。

「あなた達の村から帝都まで行ける道はありますか?」

「直接はないが、村から歩いて二日の場所に川がある。それをたどって行けば羊毛の街に出る。そこからならあると思うが」

「羊毛の街?」

「この辺りの村で放牧されてるモコモコシープの刈った毛を卸してる街だ」

「今すぐに返事は、仲間と相談して決めます」

「わかった。下山は二日後だから、もし一緒に行ってくれるなら、二日後の朝ここに来てくれ。報酬は現物になってしまうが」

「わかりました」

 借りている空き家に戻ると、二人の村人から頼まれた件について四人で話し合う。

「ギルドを通した正式な依頼じゃないから、報酬は期待できないわよ」

「あちしはどっちでもいいかな。やるんだったら報酬はミルクを貰えば」

「他に頼める方がいないから相談してきたのでしたら、してあげたいですね」

 三人の意見を聞き、どうするかカズは決めかねる。

「一応帝都に向かう道はあると思うんだけど、遠回りにはなるんだよね」

「まあ、いいんじゃないの。急いでる旅でもないんだし、遠回りはいつものことでしょ」

「なら決まりだね」

「下山は二日後の朝と言ってましたね」

「それまでこの陽気を堪能しておきましょう。山を下りればまた寒いから」

「それ考えると下が暖かくなるまで、あちしこの村を出たくないなぁ」

「んじゃレラだけ置いてくか」

「ちょ、なんでそうなるのよ! 少しくらい同意しなさいよ。こんなぽかぽかな所から、冷え冷えした所に行くんだから」

 話し合いの結果村人の頼みを聞いて、二日後一緒に下山することになった。
 それまではこの過ごしやすい陽気を、十分堪能することにした。


 二日後の早朝、約束の場所に向かい、羊飼いの村人二人と、丸々と肥えたモコモコシープ十六匹と共に、登って来た側の反対の山道を下って行く。
 登って来た時と同様、標高1000メートル付近の岩場を通過する際に、十数匹のホールスネークがモコモコシープを狙って出てきた。
 カズは【アイテムボックス】に入れていた最後のイノボア一匹を出し、ホールスネークに向かって投げる。
 ホールスネークがそれにたかってる間に、一行は急いで岩場を通過する。
 標高が下がると共に気温も下がり、吐く息も白くなる。
 遠くまでを見渡せる場所に出た所で小休止し、そこで一緒に下山していた羊飼いの村人が遥か先を指差し、カズ達はその方向を見る。

「あれが話した川で、その下流にうっすらと見えるのが羊毛の街『ウール』だよ」

 そこには弧を描く一筋の川があり、その先はガスってよくは見えないが、うっすら街らしきものが見えた。

「あの街を中心に、モコモコシープを放牧している村が周囲に点在してる。数もこことは違い、数十匹から数百匹まで」

「モコモコが数百も!? (いっぱいのモコモコ気持ちよさそぉ~)」

 その数にレラが驚き声を上げ、良からぬ妄想をする。

「平地の広い場所で放牧してるからそれだけいるんだ。羊毛としては安物だよ。こんな特殊な場所はそうそうないから、そこで育てて刈った羊毛は最高品質なんだよ。向こうとこちらの村だけが、特別に許可を得て使用出来る土地だから、他の羊飼いは来れないんだ」

「そうなんですか」

 どや顔で自慢気に話す羊飼いを、情報収集の為だと相槌を打って聞くカズ。
 川とその下流にある街の場所を確認し、小休止を終え麓の村に向かい下山する。
 風が強くなる中を移動して、日暮れ前には到着した。
 報酬としてミルクと刈り取った羊毛から作った毛糸と、それを使い編まれた帽子を貰った。
 川に向けて出発するには遅く風も強かったので、翌朝出発することにして村で一泊する。
 レラは寝る前に、肩掛け鞄の中でごそごそと一人何かをしていた。


 ◇◆◇◆◇


「それじゃ行こうか。とりあえずうっすらと見えた川の下流にある街ウールに」

「ギルドに行って依頼終了の報告をしないとね。受けた場所が違うから、確認の連絡に一日くらい待たされると思うわ」

「結局歩きなんだよねぇ~」

「どうせ歩かないんだから、おとなしく鞄の中で寝てたら」

「そうするよ~ん。カズは貰った帽子被らないって言うから、それを鞄の底に引いちゃったんだ。これで揺れも振動も減って快適っしょ!」
 
 前日の夜、肩掛け鞄の中でがさごそとしていたのは、次の街まで鞄の中に入って行こうと、その準備をしていたのだった。

「元々そのつもりでいたから、俺の分の帽子をどうのこうのと言ってたのか」

「にっちっち。街に着くまでよろしく!」

 オーバーコートの上から防寒着を着て、手袋と防水の暖かい靴を履き、寒さ対策は十分して四人は村を出発する。
 放牧してある体毛の少ないモコモコシープの合間を抜けて、細い道を南東方向に歩いて行く。

 テクサイス帝国に入ってから、盗賊やモンスターなどに襲われる事はなく、敵はこの寒さと疲労。
 徒歩なでの移動距離は短く、雪が積もれば歩きずらくなり疲労は溜まる。
 新たに馬車を引く馬を探すも、売られているのは老馬ばかり。
 獣かモンスターをテイムして馬車を引かすことを、カズとアレナリアは考えるも、ここまでの道中で出てくる気配はなかった。
 結局ずっと徒歩での移動になってしまっている。
 一日で次の村や街まで着く乗り合い馬車なら何度が乗り移動したが、大して距離は稼げない。
 レラとビワのギルドカードの期限を考え、依頼を受けながらの移動なため尚更だった。
 そんな時に暖かい陽気の場所に行く依頼を見つけて受けたのが、モコモコシープを山の中腹まで護衛する依頼だった。
 報酬は少なく遠回りになり、更には山を登る事にはなったが、良い気晴らしにはなった。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...