412 / 714
四章 異世界旅行編 3 セテロン国
396 コロコロ鳥の卵 と ミルキーウッドの樹液採取方法
しおりを挟む
床に座って話していたベアイが腰を上げ動き出す。
カズ達も休憩をそこそこに、狭い小屋から出る。
相変わらず出ずらそうに体を捻り、小屋から出るベアイ。
そのベアイに案内され、森の中へ続く細い道を進む。
ミルキーウッドが樹林している場所まで三十分程掛かると言うので、簡単に自己紹介して話ながら進んで行く。
そこでベアイはコロコロ鳥の生態について話してくれた。
ミルキーウッドの樹液を好むため、コロコロ鳥が居る場所には、必ずミルキーウッドも樹林している。
巣もその近くにある、と。
暖かい時期には三日で卵を四十個から六十個産むが、雪が降る寒い時期になると、その数は十個から二十個に減る。
コロコロ鳥は十数羽から、三十羽前後の群れで行動していると。
群れの数が十羽以下になると繁殖力が減り、五羽にまで減ると散り散りになり、他の群れを探すようになる。
大抵は群れを見つけることが出来ず、人に狩られるかモンスターの餌食になるか。
「今この森に生息してるコロコロ鳥の数は?」
「十二羽だ。一年前には三十三羽だったんだが、数羽が冒険者に狩られ、十数羽が少し前にワイバーンに食われて減っちまった。他にも二十羽程の群れが居たんだが、ワイバーンが現れてから他所に移っちまったみたいで見てねえんだ」
「じゃあじゃあ、卵は……?」
「運が良ければ数個くらいは残ってるだろ」
「数個……だけ」
ベアイの話を聞いて、レラの足取りが重くなる。
「行って駄目なら、一日待って明日の早朝もう一度行くことだ。卵の大半は朝に産むからよ」
「今日はここで野宿だ!」
暗い森の中で一晩明かすことを決意するレラ。
「泊まるき満々か。おちびちゃんはそう言ってるが、どうするんだ? 明日の朝見に行く気なら、少し離れた所にわいの使ってる小屋があるから貸してやるぞ」
「いいんですか?」
「ギルド職員が交代に来るまで、わいはさっきの小屋に居ないとならんから」
「ではお言葉に甘えて」
「ならコロコロ鳥の巣を見に行ってから、そのまま連れていこう」
「ありがとうございます」
急きょ森で一泊して、翌朝に卵の採取をすることになった。
ベアイ曰く「雪が降ったらヘビーラビットの群れが現れるかも知れない。もし遭遇したら、静かにその場から去ること」だそうだ。
強暴ウサギが数羽出たとしても、それほど危なくはないだろうと、カズは考えていた。
「見えたぞ。あれだ」
ベアイの指差す先には、落ち葉が敷き詰められた窪地が十数ヶ所あった。
「コロコロ鳥は留守らしい。卵を探すにはちょうど良い」
「卵は? ……無いよ」
レラが駆け出して行きコロコロ鳥の巣を見るが、卵らしき物は見当たらなかった。
「落ち葉の中を探ってみるんだ」
ベアイに言われた通り、レラは落ち葉に手を突っ込んで左右に動かす。
落ち葉の中はほんのり暖かい。
コツンと指先に何かが当たり、レラはそれを両手で優しく持ちゆっくり上げて落ち葉から出した。
それは紛れもなくコロコロ鳥の卵だった。
レラは喜ぶと静かに卵を落ち葉の上に起くと、他にはないかと続けて探す。
カズ、アレナリア、ビワも他の巣の落ち葉の中に手を突っ込み探す。
最終的に十八個の卵を見つけた。
「全部持っていっていい?」
「大丈夫だ。卵の採取が禁止されるのは、雪が溶けて暖かくなってからの一時期だけだ。今の時期に産む卵を、コロコロ鳥が温めることはない」
「そうだわ。ギルドからは産みたての卵を持ってくるように言われてるのよ」
「なんだ。なら始めかは森で一夜過ごすつもりだったのか」
「早朝に産むなんて知ってたら、夜明け前に来たわよ」
「それもそうだ。知っていたらそうするか。まあいい、卵はどうやって持ってく? コロコロ鳥の卵は割れやすいぞ」
「それは大丈夫。カズ」
「ああ」
見つけたコロコロ鳥の卵を、カズは【アイテムボックス】に入れる。
「ほお、アイテムボックスが使えるのか。ギルドが産みたての卵を回収を頼むはずだ」
「ギルドは孵化させるつもりなんですか?」
カズはギルドから頼まれた卵の回収を聞いて、疑問に思っていたことをベアイに投げ掛けた。
「なぜそう思う?」
「産みたての温かいままと聞いて、どこかで繁殖飼育するのかと」
「鋭いな。その通りだ。うまく行くかはわからないらしい。決して口外しないでくれ」
「わかってます(繁殖が成功するまでは、公にしたくないのか)」
五人はコロコロ鳥の巣がある所から移動し、ベアイの所有する小屋へと歩を進める。
日が傾き始め風が強くなってきた頃、森の中にある一軒の建物に着いた。
「ここがわいの小屋だ」
「これがおっちゃんの、小屋?」
「どこがよ。大きなロッジじゃないの」
「ですね」
「だな(ベアイさんの体格を考えれば小屋なのかも。だったらギルドの臨時小屋は……物置か?)」
カズ達四人が見た建物は、丸太を使って作られた通常より大きなロッジ。
出入口の扉は3メートルはあり、明らかに小屋とは言えない大きさだった。
「ちょっくら散らかってるが、好きに使ってくれ。わるいが今ある食べ物は、木の実くらいしか置いてないんだ。それで良かったら好きに食べてくれ」
「ありがとうございます」
「コロコロ鳥は卵を産むと、水場に移動する。その時に卵を回収することだ。ミルキーウッドの樹液は、傷の古い木から採取していってくれ。採取して日の浅い傷の新しい木だと、味も薄く大した樹液は出ないからな。それとここでは、一回で採取していいのは三本までだ。それは守ってくれ」
「わかりました。三本ですね」
「樹液を入れる容器はあるか?」
「あ……鍋とかコップしか(樹液を入れる容器を用意するのすっかり忘れてた)」
「ならわいが買っておいたのを、同じ値で売ってやる。ただじゃなくてすまんが」
「とんでもない。ありがとうございます」
ベアイに銀貨八枚(8,000GL)を渡し、カズはふた付きのガラス容器を三つと、木に差し込むヘラを譲って貰った。
「樹液を採取し終わったら、ヘラを外してそのまま垂れ流してくれていい。水場から戻ってきたコロコロ鳥の餌になる」
「了解です」
話を終えたベアイは、暖炉に薪を焼べ火を入れてると、森の入口にある小さなギルドの臨時小屋に戻っていった。
「散らかってると言ってましたけど、整理してありますね。掃除も最近したようですし」
「見た目と違って、結構キレイ好きなんだ」
「その言い方は失礼だろ」
「本人が居ないからいいじゃん。そんなことより、卵食べようよ」
「駄目よレラ」
「なんで!」
「明日産みたての卵を回収出来るかわからないんだから。それに樹液だってまだ採取してないでしょ。楽しみは後に取っておきなさい」
「……わかった。プリンの為だもん」
「随分と我慢してたんだから、一個くらいは」
「え!」
カズの言葉に、すぐ反応するレラ。
「良いの?」
「ギルドから頼まれてるのは産みたての卵なんだし、数個しか回収出来なかったわけじゃないんだから。と言っても、ここで作れるのはゆで卵くらいだけどな」
「それで良い」
「もう、甘やかして。せっかく私が我慢させたのに」
「アレナリアはいらないんだ」
「いるわよ! 食べるに決まってるでしょ」
「はいはい、喧嘩しないの。一人一個だからな」
カズは卵を三つ鍋に入れてゆで始めた。
「三個だけ?」
「俺はいいから、三人が食べるといい」
「なら私も」
「遠慮しないでいいからさ。ビワ(アレナリアとレラに食べさせて、ビワは無しってわけには、な)」
黄身が半熟状態になるまでゆっくりと熱を通していく。
パンとスープの質素な夕食だとレラが文句を言いそうだったが、半熟のゆで卵を付けただけで満足してくれたようだった。
翌日は夜明け前に起きなければならないからと、早々と横になるレラ。
アレナリアとビワはレラの隣で横になり、三人は暖炉の前で川の字になって就寝する。
カズは一人椅子に座り、そのまま目を閉じ眠りにつく。
「……ズ…カズ」
「ん? レラか?」
「起きて」
窓を見るが外はまだ暗く、暖炉の火だけが部屋の中を照らしている。
夜明けはまだまだずっと先。
「こんな時間になんだ。いつも起きるのは一番遅いのに」
「産みたて卵が手に入ると思うと、楽しみで目が覚めちゃった」
「こんな夜中から起きてたら、肝心な時に眠くなるぞ。もう少し寝てろ。横になってるだけでもいいから(遊びに行く前の子供じゃなんだから)」
「……わかった。寝れるかなぁ」
レラは毛布に潜ると「プリン…タマゴサンド…ハンジュクキミノタマゴ…」と、呪文のようにぶつぶつと独り言を呟いていた。
暫くすると静になり、涎を垂らしたまま再び眠りについた。
カズ達も休憩をそこそこに、狭い小屋から出る。
相変わらず出ずらそうに体を捻り、小屋から出るベアイ。
そのベアイに案内され、森の中へ続く細い道を進む。
ミルキーウッドが樹林している場所まで三十分程掛かると言うので、簡単に自己紹介して話ながら進んで行く。
そこでベアイはコロコロ鳥の生態について話してくれた。
ミルキーウッドの樹液を好むため、コロコロ鳥が居る場所には、必ずミルキーウッドも樹林している。
巣もその近くにある、と。
暖かい時期には三日で卵を四十個から六十個産むが、雪が降る寒い時期になると、その数は十個から二十個に減る。
コロコロ鳥は十数羽から、三十羽前後の群れで行動していると。
群れの数が十羽以下になると繁殖力が減り、五羽にまで減ると散り散りになり、他の群れを探すようになる。
大抵は群れを見つけることが出来ず、人に狩られるかモンスターの餌食になるか。
「今この森に生息してるコロコロ鳥の数は?」
「十二羽だ。一年前には三十三羽だったんだが、数羽が冒険者に狩られ、十数羽が少し前にワイバーンに食われて減っちまった。他にも二十羽程の群れが居たんだが、ワイバーンが現れてから他所に移っちまったみたいで見てねえんだ」
「じゃあじゃあ、卵は……?」
「運が良ければ数個くらいは残ってるだろ」
「数個……だけ」
ベアイの話を聞いて、レラの足取りが重くなる。
「行って駄目なら、一日待って明日の早朝もう一度行くことだ。卵の大半は朝に産むからよ」
「今日はここで野宿だ!」
暗い森の中で一晩明かすことを決意するレラ。
「泊まるき満々か。おちびちゃんはそう言ってるが、どうするんだ? 明日の朝見に行く気なら、少し離れた所にわいの使ってる小屋があるから貸してやるぞ」
「いいんですか?」
「ギルド職員が交代に来るまで、わいはさっきの小屋に居ないとならんから」
「ではお言葉に甘えて」
「ならコロコロ鳥の巣を見に行ってから、そのまま連れていこう」
「ありがとうございます」
急きょ森で一泊して、翌朝に卵の採取をすることになった。
ベアイ曰く「雪が降ったらヘビーラビットの群れが現れるかも知れない。もし遭遇したら、静かにその場から去ること」だそうだ。
強暴ウサギが数羽出たとしても、それほど危なくはないだろうと、カズは考えていた。
「見えたぞ。あれだ」
ベアイの指差す先には、落ち葉が敷き詰められた窪地が十数ヶ所あった。
「コロコロ鳥は留守らしい。卵を探すにはちょうど良い」
「卵は? ……無いよ」
レラが駆け出して行きコロコロ鳥の巣を見るが、卵らしき物は見当たらなかった。
「落ち葉の中を探ってみるんだ」
ベアイに言われた通り、レラは落ち葉に手を突っ込んで左右に動かす。
落ち葉の中はほんのり暖かい。
コツンと指先に何かが当たり、レラはそれを両手で優しく持ちゆっくり上げて落ち葉から出した。
それは紛れもなくコロコロ鳥の卵だった。
レラは喜ぶと静かに卵を落ち葉の上に起くと、他にはないかと続けて探す。
カズ、アレナリア、ビワも他の巣の落ち葉の中に手を突っ込み探す。
最終的に十八個の卵を見つけた。
「全部持っていっていい?」
「大丈夫だ。卵の採取が禁止されるのは、雪が溶けて暖かくなってからの一時期だけだ。今の時期に産む卵を、コロコロ鳥が温めることはない」
「そうだわ。ギルドからは産みたての卵を持ってくるように言われてるのよ」
「なんだ。なら始めかは森で一夜過ごすつもりだったのか」
「早朝に産むなんて知ってたら、夜明け前に来たわよ」
「それもそうだ。知っていたらそうするか。まあいい、卵はどうやって持ってく? コロコロ鳥の卵は割れやすいぞ」
「それは大丈夫。カズ」
「ああ」
見つけたコロコロ鳥の卵を、カズは【アイテムボックス】に入れる。
「ほお、アイテムボックスが使えるのか。ギルドが産みたての卵を回収を頼むはずだ」
「ギルドは孵化させるつもりなんですか?」
カズはギルドから頼まれた卵の回収を聞いて、疑問に思っていたことをベアイに投げ掛けた。
「なぜそう思う?」
「産みたての温かいままと聞いて、どこかで繁殖飼育するのかと」
「鋭いな。その通りだ。うまく行くかはわからないらしい。決して口外しないでくれ」
「わかってます(繁殖が成功するまでは、公にしたくないのか)」
五人はコロコロ鳥の巣がある所から移動し、ベアイの所有する小屋へと歩を進める。
日が傾き始め風が強くなってきた頃、森の中にある一軒の建物に着いた。
「ここがわいの小屋だ」
「これがおっちゃんの、小屋?」
「どこがよ。大きなロッジじゃないの」
「ですね」
「だな(ベアイさんの体格を考えれば小屋なのかも。だったらギルドの臨時小屋は……物置か?)」
カズ達四人が見た建物は、丸太を使って作られた通常より大きなロッジ。
出入口の扉は3メートルはあり、明らかに小屋とは言えない大きさだった。
「ちょっくら散らかってるが、好きに使ってくれ。わるいが今ある食べ物は、木の実くらいしか置いてないんだ。それで良かったら好きに食べてくれ」
「ありがとうございます」
「コロコロ鳥は卵を産むと、水場に移動する。その時に卵を回収することだ。ミルキーウッドの樹液は、傷の古い木から採取していってくれ。採取して日の浅い傷の新しい木だと、味も薄く大した樹液は出ないからな。それとここでは、一回で採取していいのは三本までだ。それは守ってくれ」
「わかりました。三本ですね」
「樹液を入れる容器はあるか?」
「あ……鍋とかコップしか(樹液を入れる容器を用意するのすっかり忘れてた)」
「ならわいが買っておいたのを、同じ値で売ってやる。ただじゃなくてすまんが」
「とんでもない。ありがとうございます」
ベアイに銀貨八枚(8,000GL)を渡し、カズはふた付きのガラス容器を三つと、木に差し込むヘラを譲って貰った。
「樹液を採取し終わったら、ヘラを外してそのまま垂れ流してくれていい。水場から戻ってきたコロコロ鳥の餌になる」
「了解です」
話を終えたベアイは、暖炉に薪を焼べ火を入れてると、森の入口にある小さなギルドの臨時小屋に戻っていった。
「散らかってると言ってましたけど、整理してありますね。掃除も最近したようですし」
「見た目と違って、結構キレイ好きなんだ」
「その言い方は失礼だろ」
「本人が居ないからいいじゃん。そんなことより、卵食べようよ」
「駄目よレラ」
「なんで!」
「明日産みたての卵を回収出来るかわからないんだから。それに樹液だってまだ採取してないでしょ。楽しみは後に取っておきなさい」
「……わかった。プリンの為だもん」
「随分と我慢してたんだから、一個くらいは」
「え!」
カズの言葉に、すぐ反応するレラ。
「良いの?」
「ギルドから頼まれてるのは産みたての卵なんだし、数個しか回収出来なかったわけじゃないんだから。と言っても、ここで作れるのはゆで卵くらいだけどな」
「それで良い」
「もう、甘やかして。せっかく私が我慢させたのに」
「アレナリアはいらないんだ」
「いるわよ! 食べるに決まってるでしょ」
「はいはい、喧嘩しないの。一人一個だからな」
カズは卵を三つ鍋に入れてゆで始めた。
「三個だけ?」
「俺はいいから、三人が食べるといい」
「なら私も」
「遠慮しないでいいからさ。ビワ(アレナリアとレラに食べさせて、ビワは無しってわけには、な)」
黄身が半熟状態になるまでゆっくりと熱を通していく。
パンとスープの質素な夕食だとレラが文句を言いそうだったが、半熟のゆで卵を付けただけで満足してくれたようだった。
翌日は夜明け前に起きなければならないからと、早々と横になるレラ。
アレナリアとビワはレラの隣で横になり、三人は暖炉の前で川の字になって就寝する。
カズは一人椅子に座り、そのまま目を閉じ眠りにつく。
「……ズ…カズ」
「ん? レラか?」
「起きて」
窓を見るが外はまだ暗く、暖炉の火だけが部屋の中を照らしている。
夜明けはまだまだずっと先。
「こんな時間になんだ。いつも起きるのは一番遅いのに」
「産みたて卵が手に入ると思うと、楽しみで目が覚めちゃった」
「こんな夜中から起きてたら、肝心な時に眠くなるぞ。もう少し寝てろ。横になってるだけでもいいから(遊びに行く前の子供じゃなんだから)」
「……わかった。寝れるかなぁ」
レラは毛布に潜ると「プリン…タマゴサンド…ハンジュクキミノタマゴ…」と、呪文のようにぶつぶつと独り言を呟いていた。
暫くすると静になり、涎を垂らしたまま再び眠りについた。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
492
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる