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四章 異世界旅行編 3 セテロン国

396 コロコロ鳥の卵 と ミルキーウッドの樹液採取方法

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 床に座って話していたベアイが腰を上げ動き出す。
 カズ達も休憩をそこそこに、狭い小屋から出る。
 相変わらず出ずらそうに体を捻り、小屋から出るベアイ。
 そのベアイに案内され、森の中へ続く細い道を進む。
 ミルキーウッドが樹林している場所まで三十分程掛かると言うので、簡単に自己紹介して話ながら進んで行く。

 そこでベアイはコロコロ鳥の生態について話してくれた。
 ミルキーウッドの樹液を好むため、コロコロ鳥が居る場所には、必ずミルキーウッドも樹林している。
 巣もその近くにある、と。
 暖かい時期には三日で卵を四十個から六十個産むが、雪が降る寒い時期になると、その数は十個から二十個に減る。
 コロコロ鳥は十数羽から、三十羽前後の群れで行動していると。
 群れの数が十羽以下になると繁殖力が減り、五羽にまで減ると散り散りになり、他の群れを探すようになる。
 大抵は群れを見つけることが出来ず、人に狩られるかモンスターの餌食になるか。

「今この森に生息してるコロコロ鳥の数は?」

「十二羽だ。一年前には三十三羽だったんだが、数羽が冒険者に狩られ、十数羽が少し前にワイバーンに食われて減っちまった。他にも二十羽程の群れが居たんだが、ワイバーンが現れてから他所に移っちまったみたいで見てねえんだ」

「じゃあじゃあ、卵は……?」

「運が良ければ数個くらいは残ってるだろ」

「数個……だけ」

 ベアイの話を聞いて、レラの足取りが重くなる。

「行って駄目なら、一日待って明日の早朝もう一度行くことだ。卵の大半は朝に産むからよ」

「今日はここで野宿だ!」

 暗い森の中で一晩明かすことを決意するレラ。

「泊まるき満々か。おちびちゃんはそう言ってるが、どうするんだ? 明日の朝見に行く気なら、少し離れた所にわいの使ってる小屋があるから貸してやるぞ」

「いいんですか?」

「ギルド職員が交代に来るまで、わいはさっきの小屋に居ないとならんから」

「ではお言葉に甘えて」

「ならコロコロ鳥の巣を見に行ってから、そのまま連れていこう」
 
「ありがとうございます」

 急きょ森で一泊して、翌朝に卵の採取をすることになった。
 ベアイいわく「雪が降ったらヘビーラビットの群れが現れるかも知れない。もし遭遇したら、静かにその場から去ること」だそうだ。
 強暴ウサギが数羽出たとしても、それほど危なくはないだろうと、カズは考えていた。

「見えたぞ。あれだ」

 ベアイの指差す先には、落ち葉が敷き詰められた窪地が十数ヶ所あった。

「コロコロ鳥は留守らしい。卵を探すにはちょうど良い」

「卵は? ……無いよ」

 レラが駆け出して行きコロコロ鳥の巣を見るが、卵らしき物は見当たらなかった。

「落ち葉の中を探ってみるんだ」

 ベアイに言われた通り、レラは落ち葉に手を突っ込んで左右に動かす。
 落ち葉の中はほんのり暖かい。
 コツンと指先に何かが当たり、レラはそれを両手で優しく持ちゆっくり上げて落ち葉から出した。
 それは紛れもなくコロコロ鳥の卵だった。
 レラは喜ぶと静かに卵を落ち葉の上に起くと、他にはないかと続けて探す。
 カズ、アレナリア、ビワも他の巣の落ち葉の中に手を突っ込み探す。
 最終的に十八個の卵を見つけた。

「全部持っていっていい?」

「大丈夫だ。卵の採取が禁止されるのは、雪が溶けて暖かくなってからの一時期だけだ。今の時期に産む卵を、コロコロ鳥が温めることはない」

「そうだわ。ギルドからは産みたての卵を持ってくるように言われてるのよ」

「なんだ。なら始めかは森で一夜過ごすつもりだったのか」

「早朝に産むなんて知ってたら、夜明け前に来たわよ」

「それもそうだ。知っていたらそうするか。まあいい、卵はどうやって持ってく? コロコロ鳥の卵は割れやすいぞ」

「それは大丈夫。カズ」

「ああ」

 見つけたコロコロ鳥の卵を、カズは【アイテムボックス】に入れる。

「ほお、アイテムボックスが使えるのか。ギルドが産みたての卵を回収を頼むはずだ」

「ギルドは孵化させるつもりなんですか?」

 カズはギルドから頼まれた卵の回収を聞いて、疑問に思っていたことをベアイに投げ掛けた。

「なぜそう思う?」

「産みたての温かいままと聞いて、どこかで繁殖飼育するのかと」

「鋭いな。その通りだ。うまく行くかはわからないらしい。決して口外しないでくれ」

「わかってます(繁殖が成功するまでは、おおやけにしたくないのか)」

 五人はコロコロ鳥の巣がある所から移動し、ベアイの所有する小屋へと歩を進める。
 日が傾き始め風が強くなってきた頃、森の中にある一軒の建物に着いた。

「ここがわいの小屋だ」

「これがおっちゃんの、小屋?」

「どこがよ。大きなロッジじゃないの」

「ですね」

「だな(ベアイさんの体格を考えれば小屋なのかも。だったらギルドの臨時小屋は……物置か?)」

 カズ達四人が見た建物は、丸太を使って作られた通常より大きなロッジ。
 出入口の扉は3メートルはあり、明らかに小屋とは言えない大きさだった。

「ちょっくら散らかってるが、好きに使ってくれ。わるいが今ある食べ物は、木の実くらいしか置いてないんだ。それで良かったら好きに食べてくれ」

「ありがとうございます」

「コロコロ鳥は卵を産むと、水場に移動する。その時に卵を回収することだ。ミルキーウッドの樹液は、傷の古い木から採取していってくれ。採取して日の浅い傷の新しい木だと、味も薄く大した樹液は出ないからな。それとここでは、一回で採取していいのは三本までだ。それは守ってくれ」

「わかりました。三本ですね」

「樹液を入れる容器はあるか?」

「あ……鍋とかコップしか(樹液を入れる容器を用意するのすっかり忘れてた)」

「ならわいが買っておいたのを、同じ値で売ってやる。ただじゃなくてすまんが」

「とんでもない。ありがとうございます」

 ベアイに銀貨八枚(8,000GL)を渡し、カズはふた付きのガラス容器を三つと、木に差し込むヘラを譲って貰った。

「樹液を採取し終わったら、ヘラを外してそのまま垂れ流してくれていい。水場から戻ってきたコロコロ鳥の餌になる」

「了解です」

 話を終えたベアイは、暖炉に薪をべ火を入れてると、森の入口にある小さなギルドの臨時小屋に戻っていった。

「散らかってると言ってましたけど、整理してありますね。掃除も最近したようですし」

「見た目と違って、結構キレイ好きなんだ」

「その言い方は失礼だろ」

「本人が居ないからいいじゃん。そんなことより、卵食べようよ」

「駄目よレラ」

「なんで!」

「明日産みたての卵を回収出来るかわからないんだから。それに樹液だってまだ採取してないでしょ。楽しみは後に取っておきなさい」

「……わかった。プリンの為だもん」

「随分と我慢してたんだから、一個くらいは」

「え!」

 カズの言葉に、すぐ反応するレラ。

「良いの?」

「ギルドから頼まれてるのは産みたての卵なんだし、数個しか回収出来なかったわけじゃないんだから。と言っても、ここで作れるのはゆで卵くらいだけどな」

「それで良い」

「もう、甘やかして。せっかく私が我慢させたのに」

「アレナリアはいらないんだ」

「いるわよ! 食べるに決まってるでしょ」

「はいはい、喧嘩しないの。一人一個だからな」

 カズは卵を三つ鍋に入れてゆで始めた。

「三個だけ?」

「俺はいいから、三人が食べるといい」

「なら私も」

「遠慮しないでいいからさ。ビワ(アレナリアとレラに食べさせて、ビワは無しってわけには、な)」

 黄身が半熟状態になるまでゆっくりと熱を通していく。
 パンとスープの質素な夕食だとレラが文句を言いそうだったが、半熟のゆで卵を付けただけで満足してくれたようだった。
 翌日は夜明け前に起きなければならないからと、早々と横になるレラ。
  アレナリアとビワはレラの隣で横になり、三人は暖炉の前で川の字になって就寝する。
 カズは一人椅子に座り、そのまま目を閉じ眠りにつく。

「……ズ…カズ」

「ん? レラか?」

「起きて」

 窓を見るが外はまだ暗く、暖炉の火だけが部屋の中を照らしている。
 夜明けはまだまだずっと先。

「こんな時間になんだ。いつも起きるのは一番遅いのに」

「産みたて卵が手に入ると思うと、楽しみで目が覚めちゃった」

「こんな夜中から起きてたら、肝心な時に眠くなるぞ。もう少し寝てろ。横になってるだけでもいいから(遊びに行く前の子供じゃなんだから)」

「……わかった。寝れるかなぁ」

 レラは毛布に潜ると「プリン…タマゴサンド…ハンジュクキミノタマゴ…」と、呪文のようにぶつぶつと独り言を呟いていた。
 暫くすると静になり、よだれを垂らしたまま再び眠りについた。
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