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四章 異世界旅行編 3 セテロン国

395 森の番をする木こり

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 靴屋を探して街を回り、行き交う人々の履いているものを見る。
 獣やモンスターの毛皮を使ったものや、植物の皮らしきものを使って作られた靴などの種類があった。
 どれも履き口が高く、パッと見ブーツや長靴のようにも見える。
 《鑑定》してみると、共通していたのはどれも防水、もしくは撥水仕様になっていた。

セカンドキャニオン前の街ではあまり見なかった履き物ね」

「雪道…寒い地方仕様になってるんだろ」

「ってことは、やっぱり雪が積もるってこと?」

「たぶんな」

「雪山通った時もそうだったけど、顔が冷たいし乾燥するんだよねぇ。あちしの美肌が」

 両手で頬を撫でるレラ。

「ならまた暫く鞄の中に居るか?」

「それはそれでやだなぁ。カズなんとかして。こう、あちしの周りだけ春の陽気みたいなことできない?」

「俺をなんだと思ってるんだ。机の引き出しから出てきたんじゃないんだぞ」

 アレナリア、レラ、ビワの三人は顔を見合せて、同時に同じことを考えていた『なんで机から出てくるの?』と。
 
「ねえカズ。なんで…」

「その…なんだ、戯言たわごとだから気にしないでくれ。ただそんな都合のいいことなんて、出来ないってことだ」

「本気にしないでよ。ちょっとした冗談なんだから」

「冗談ねぇ。私はレラが本気で言ったと思ったわ」

「私もです」

「俺も」

「あちしってそんなわがまま?」

 カズもアレナリアもビワも、レラの疑問に対して大きく頭を縦に振る。

「ガーン! わかった。これからはちょっと遠慮する」

 謙虚なことを言うレラに、少し感心するカズだったが、それはすぐに否定された。

「あッ、あそこの店に、コロコロ鳥の卵って書いてある! 買って買って」

 言ったそばからすぐこれだと、カズは額を押え呆れる。

「アレナリア頼んだ。レラにひとこと言ってやれ」

 アレナリアに説教してもらおうとするが、その肝心のアレナリアから返事がない。

「アレナリア……?」

 横に居たはずのアレナリアの姿がなくなっていた。

「カズさん。アレナリアさんならあそこに」

 ビワの示した方に目を向けると、レラと共にコロコロ鳥の卵を売っている店に向かうアレナリアの姿があった。

「ハアァー……頼んだ俺がバカだった」

 カズは大きくため息をした。

「大丈夫ですか?」

「卵買って、俺とビワの二人で食べようか。アレナリアとレラの前で。もちろん二人には無しで」

「それはちょっと、かわいそうでは……?」

 卵をねだるレラだったが、売っていたのが全て固茹の卵だとアレナリアが気付くと、二人は今までの熱が嘘のように冷める。
 どうやら生卵だと思っていたらしい。
 おそらくセカンドキャニオンで食べた、半熟のゆで卵を思い出していたのだろう。

 適当な店で昼食を取り、コロコロ鳥のとミルキーウッドの樹液を売っている店を探しつつ、当初の目的である靴屋を見つける。
 靴屋で色々と物色し、各々好きな靴を買う。
 お決まりのことでレラのサイズがなく、採寸して作ってもらうことになった。
 使用する材料はそれほど必要なく、翌日には出来ると言うことなので、ギルドでの用事を済ませた後で、レラの靴を取りに来ると伝えて代金を支払った。
 次に手袋を売ってる店に入り、各自好きなのを選び購入する。
 手袋はレラにあったサイズも売っていた。
 目的の品物を買い終えたので、夕食を買って宿屋に戻り、翌日のことを考えて早めに就寝する。
 寝る前にアレナリアとレラがマッサージを要望してきたが「疲れてるなら寝ろ」とカズは却下した。


 ◇◆◇◆◇


 今朝はカズか最初に目覚ました。
 ふと、暖炉を見ると火が消えていた。
 アレナリア、レラ、ビワの三人はオーバーコートを脱いで寝ているので、カズはすぐ暖炉に薪を焼べ火を入れた。
 火が消えてからそれほど時間は経っていないので、部屋はまだ暖かい状態だった。
 そのため三人が寒さで目を覚ますことはなかった。
 カズはぼんやりと暖炉の火を見つめ、これからのことを考えていた。
 レラの故郷の情報をどう得るか?
 ビワに過去の事を思い出させてもいいものなのか?
 岩場の巣窟あの時以来、ビワの様子は変わる事はないが、あれはなんだったのか……?
 考えても答えは出ない。
 やはり今は当初の目的地である帝国の首都に向かい、そこで情報を集めるしかない、と。
 だが何処から情報を得るか、それも慎重に。
 カズは考えるが、ギルドで情報を得ることしか今は思い付かない。

 カズは考えを先送りにして、前日作ったスープの残りを暖め直し朝食の支度をする。
 毎回お決まりのごとく、食べ物の匂いで目を覚ますアレナリアとレラ。
 先に起きたビワに配膳をしてもらい、朝食を済ませてからギルドに向かう。

 アレナリアが受付でギルドカードを提示し、ミルキーウッドが樹林している場所を知っている森の番人が居る小屋を教えられた。
 それと共にコロコロ鳥の産みたての卵を暖かいままギルドに持ってくることと、密猟する者を見つけたら、捕らえるようにとギルドから依頼を出された。
 卵と樹液の為なら仕方がないと、アレナリアはパーティーとして依頼を了承し、許可証を受け取ってギルドの外で待っていたカズ達の元に戻り話の内容を伝えた。

「追加の依頼といっても、密猟者を見つけた場合の話だろ。探しだして捕まえろとは?」

「言われてないわ」

「あちしは卵と樹液が手に入れば、どっちでも。密猟者が居たって捕まえるのはカズかアレナリアなんだし」

「卵と樹液の集めるのをレラもするんだぞ」

「わかってるって」

 ギルドを後にした一行は昨日の靴屋に寄り、レラの靴を受け取り、履き替えてから森に向かった。
 サードキャニオンから北東に二時間歩くと、森へと続く細い道が見え、その手前に掘っ立て小屋があった。
 そこに近付くと、冒険者ギルド臨時小屋と書かれていた。

「ふへ~疲れた。これで少しは休める」

「どこがよ。殆どカズに乗っかってたでしょ。もう降りなさい」

「わかったよ。降りればいいんでしょ」

 レラがカズから降り、アレナリアは小屋に近付き扉を叩く。
 するとその体格にはあまりにも不釣り合いな扉から、腰をかがめて、それは一苦労といった感じで出てきた。

「わッ! クマが出た!」

 冒険者ギルドの臨時小屋から、茶色のモコモコ毛の大きな生き物が出てきたのを見て、熊だと驚き大きな声を出すレラ。

「熊か。間違ってはいないが、無闇矢鱈に襲ったりはせんぞ」

 低い声で話し掛けてきたのは熊の獣人だった。
 アレナリアも少し驚いてはいたが、話し掛けてきたことで落ち着き、ギルドから受け取ってきた許可証を見せた。

「ギルドからの……ふむ。とりあえず中に入るといい」

 許可証を受け取り、中を確認した熊の獣人は、四人を小屋の中に招き入れる。

「わいは『ベアイ』だ。森の番人をしている。と言っても、そう名乗るのはギルドに頼まれたからなんだが」

「どういうことですか?」

「わいはこの森で木こりをして生活をしていたんだが、ギルドがコロコロ鳥の乱獲を防ぎたいと、森に詳しいわいに番人をしてほしいと言ってきた」

「国の役人や領主じゃなくてギルドから?」

「こんな辺境に、国の役人なんか滅多に来やしない。領主だってそうだ。だから冒険者ギルドが代わって、そういった管理なども請け負ってる。まあ場所柄だからな」

「そういえばワイバーンあの件を調べる時も、ギルド職員が全部調査してわね」

「そういう事だ。わいも最初は森の番人をしぶってた。だが森を荒らす連中が増えたもんで、ギルドからの頼みを受けたんだ。ギルドが管理出来るようになるまでにって条件でな。と言っても、ほんの一ヶ月程前の話なんだが」

「以外と最近だったんですね」

 ベアイが森の番人をして数年は経っているかと思っていたが、そうではなかったことが意外だった。
 木こりならば森を守る為に、進んで番人をするかと思っていたからだ。

「まあ乱獲の方だが、半月もすれば森には多くの雪が降り積もるようになる。そうなれば凍死の危険を冒してまで、密猟したりはしないだろ」

「そんなに積もるんですか?」

「多い時は、わいが埋もれるほど積もるぞ」

「ねぇねぇ、そんなことどうでもいいから、早く卵と樹液取りに行こうよ。雪が降ってきたら大変だよ」

 カズとアレナリア横から後ろを覗き込み、声のした方を見る。

「さっきわいを見て驚いた、おちびちゃんか」

「ちびじゃないもん、レラだもん! そっちこそなんでこんな狭い小屋に居んよの。そんな毛皮の服着てたら熊に見えるでしょ!」

 驚かされまことか、おちびちゃんと言われたことのどちらかが気に障ったのか、ベアイに文句を言うレラ。

「こら、レラ。すいません」

 初対面の相手に失礼な物言いをするレラを、カズは注意する。

「いや、構わんさ。驚かせてわるかった」

 見た目とは違いベアイは物腰柔らかに答えた。

「ミルキーウッドの樹液とコロコロ鳥の卵を回収すると、ギルドからの許可証には書かれているが」

「ええ。許可は貰ってるから、案内してくれる?」

「良いだろ。ただし、コロコロ鳥は雪が降るようになると、卵を極端に産まなくなる。どれだけ回収出来るかわからんぞ」

「なッ! そんな大事なこと知ってるなら、早く言いなさい! ほら、急いで行くよ!」

 コロコロ鳥の卵が入手出来ないかもと聞かされ、慌てて小屋を出ようとするレラ。
 疲れたんじゃなかったのかと、カズは突っ込もうかとするが、先に口を開いたのはベアイだった。

「元気なおちびちゃんだ。そんなにコロコロ鳥の卵が食いたいのか?」

「その為に来たんだもん。早く案内してよ!」

「わあったわあった。なら行くとしよう」
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