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四章 異世界旅行編 3 セテロン国

394 道中でのマッサージ

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 次は自分の番だとレラがアレナリアの隣でうつ伏せになる。
 流石に小さな身体のレラ相手に、手のひらや親指でマッサージは出来ない。
 親指だと力を入れすぎてしまうので、人差し指で軽く触れる程度に加減する。

「これ、良いかも。こんなに気持ちいぃのなら、毎日カズにやってもらおうかな」

「レラは大して疲れてないだろ。はい、終わり」

 最後にレラのお尻を、パチンと軽く指で弾く。

「うひゃ! ちょっと優しくしてよ。あちしの臀部でんぶは繊細なんだから」

「そうかそうか。それはすまなかった(臀部でんぶなんて、どこで覚えたんだ?)」

「次ビワの番だよ」

 レラが焚き火の近くに居たビワの手を引っ張ってくる。

「わ…私は、自分で出来るから」

「ふ~ん。カズにしてもらった方が気持ちいぃのに」

「肩から腰にかけてやってもらったら。疲れてるでしょ」

 どうしようかと考えるビワだったが、揺れる馬車で腰にきていたのは確かだった。
 馬車の荷台に上がって防寒着を脱ぎ、アレナリアと場所を代わってうつ伏せになる。

「お…お願いします」

「ゆっくり圧してくから、痛かったら言って」

「はい」

 肩甲骨けんこうこつ辺りから肩と首筋の方を指圧していき、徐々に腰の方へと下がっていく。
 馬車の揺れが腰に負担をかけていたのか、少し凝っているようだったが、尻尾の付け根辺りの方がもっと凝っていた。

「ん…ぁ……」

 ビワは無意識に色っぽい声を出してしまう。

「ね。気持ちいぃでしょ。やってもらってよかったでしょ」

 起き上がって座るビワに、レラがマッサージの良さを聞く。

「……うん」

 恥ずかしそうに頷くビワ。

「手を出してビワ」

「手…ですか?」

 カズがビワの右手をとって揉み始める。

「レラの防寒着を縫った疲れが、まだ取れてないでしょ」

「あ、はい。でもどうして?」

「下向いてずった縫ってたから、首筋と肩が凝ってるんだよ。マッサージしたから少しは楽になったと思うけど、首筋と肩だけじゃなくて手もやっておいた方が良いと思って。はい、次は左」

 カズはビワの右手から左手に持ち変え揉み出す。

「良いわね。次、私にして」

「ならあちしも」

「二人は凝ってないだろ。細かい作業してないんだから」

 片手を二、三分ずつマッサージして、ビワの手の疲れをほぐすと、揉まれた手は血行が良くなり、赤く温かくなっていた。
 カズのマッサージが終わると、アレナリア、レラ、ビワの三人は荷台で身を寄せあって寝た。

「三人共に少し疲れが溜まってきてるみたいだ。特にビワだな。しかし……柔らかかった」

 焚き火の側で手をにぎにぎして、ビワの手の感触を思い出し、カズは顔を火照らせて夜は更けていく。


 冗談話を交えつつ、北に続く道を五日移動すると、高台になった場所に小さく建物があるのを見つけ、その翌日にサードキャニオンの街に入った。
 先ずはそのまま貸し馬車屋に行き、借りた馬と馬車を返す。

 返却された馬車は点検の後、サードキャニオンに向かう人に貸し出される。
 セカンドキャニオンからサードキャニオンへ、またはセカンドキャニオンからフォースキャニオンへと、三ヶ所の街に同じ貸し馬車屋が作られている。
 馬車は三ヶ所の街を行ったり来たりと、人や物を運び移動する。
 借りた馬が大人しかったのは、通り慣れた道を進んでいたから。

 馬車を返却後、一行はサードキャニオンの冒険者ギルドに向かった。
 時刻は午後の三時といったところ。
 時間的にギルドに居る冒険者は少ない。
 セカンドキャニオンのギルドからの紹介状を渡すだけなので、空いているなら好都合だった。
 四人を代表して、アレナリアが受付のギルド職員に紹介状を渡し話をする。

 カズはレラとビワと一緒に、掲示板に貼られている依頼書を見に移動。
 出ている依頼は街の雑用が殆どだったが、サードキャニオンの近くに現れた事で、ワイバーンに関する情報集めの依頼もあった。
 レラはコロコロ鳥とミルキーウッドに関する依頼がないか、貼ってある依頼書を隈無くまなく探した。
 だが残念なことに、コロコロ鳥とミルキーウッドの字はなかった。
 レラが肩を落としていると、アレナリアが話を終えて三人の元に来る。

「どうだったアレナリア? 依頼の方は全然だった」

「話はついたわ。二日後に許可証を用意出来るって。その時に採取場所も教えてくれるそうよ」

「やったー!」

「ただし、ギルドに決まった量を卸してくれとのこと。早い話が採取依頼を受けるのが条件てことね」

「それで手に入るなら全然いいじゃん」

「それはそうだろ。レラは何もしないんだから」

「今回はあちしだって手伝うもん」

 レラは腕を振り上げてやる気を見せる。

「とりあえず暗くなる前に宿を探さないと」

「それなら聞いてきたから大丈夫。ギルドを出て三本目の通りを左に曲がった所に、ギルドが経営してる宿があるんだって」

「なら今日はゆっくり休んで、明日は靴と手袋を買いに回ろう」

 ギルド経営の宿屋に泊まり、ここ数日ガタガタと揺れる馬車で過ごした身体をゆっくりと休める四人。


 ◇◆◇◆◇


 サードキャニオンに冒険者ギルドが経営している宿屋は全部で三ヶ所あり、カズ達が宿泊したのは、金額的に二番目の宿屋。
 四人で一泊して銀貨八枚(8,000GL)と聞いて、高いとは思えなかった。
 部屋には小さいながらも暖炉があり、ベッドも板張りになっているだけではなく、厚目の布団が敷いてあったのを見て、場所柄を考えると安い方ではないかと思った。
 そんな寒い土地で、確りと暖が取れる良い宿屋で、四人はぐっすりと眠っていた。

 何時ものごとく最初に目を覚ましたのはビワ。
 起きるとすぐに消えかけてる火に薪をべ、暖炉の前に座り部屋が暖まるまで待つ。
 続いて長椅子で寝ていたカズが起き、暖炉の前に座るビワの隣に移動し、暖炉の火で水を沸かして朝食の用意をする。
 香ばしく焼けるパンの匂いにで目を覚ますアレナリアとレラ。

「卵と樹液取りは明日でしょ。今日一日何すんの?」

「とりあえず靴と手袋を探しに、街をぶらぶらかな」

「防水されてる靴があれば、少し高くても買った方がいいわね。雪の中を歩くことになったら、濡れて大変だからね」

「そうですね。前に雪山を通った時は、私達馬車から殆ど降りませんでしたから、足下までは気にとめませんでした」

「あの時は降りなくていいって俺が言ったからね。それに俺の場合は耐性があったから、濡れても乾かせばいいと思ってたてし」

「人目の多い所ではやっぱり防寒着を上に着て、コートだけで出歩かないな方がいいわね。寒さをしのげる特殊なコートだって知れたら、盗賊じゃなくても狙われる可能性はあるから」

「そうだな」

「帝都に着けば色々な格好をした人達が居るでしょうから、それまでは周りに合わせた地味な格好をしましょう。コートだけでも寒くないからって、それ一枚で出歩くのは駄目よレラ」

「なんであちし?」

「おやつを内ポケットに入れてなければ、ダサいとか言って防寒着を着なさそうだからよ」

「そんなことないもん。ビワが作ってくれたんだから、ちゃんと着てるもん。コートの上に防寒着ってダサいけど」

「いざとなったら前みたいに、レラは鞄の中に入っててもらうえばいいんじゃないか?」

「そうね。そうしましょう」

「ええー。せっかく好きに行動出来るのに」

「冗談よ」

「そうなのか? 俺はその方が守りやすくて安全だと思ったんたが」

「あちしは今の方がいいの。あ、でも、かわいい鞄になら入ってもいいな。運んでもらえるのも楽だし」

 コロコロ鳥の卵とミルキーウッドの樹液が手に入ったら、レラがコロコロと太るんじゃないかと、カズは太ってた時のレラを思い出していた。 

 帝都にレラみたいなフェアリーが居たら、姿を誤魔化さなくても連れて歩けるようにはず。
 そうすれば今より行動しやすくなるだろうから、太る可能性は減るだろう。
 かわいいとかダサいとか言ってるから、本人ももう太りたくはないだろ。
 あとはレラが食欲に負けるかどうかだ。
 ってか、それはアレナリアも同じか。

 カズが一人考え事をしてると、朝食を済ませたレラが、アレナリアに〈イリュージョン〉を掛けるように頼んでいた。
 買い物が楽しみなのか、早く出掛けたいらしい。
 セカンドキャニオンではあまりでかけられなかったから、息抜きをするのはいいかと、暖炉の火を消し四人は買い物に出掛ける。
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