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四章 異世界旅行編 3 セテロン国

388 魔力操作の訓練

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 一方でアレナリア、ビワ、ノース、ルクリアの四人は、街の小さな喫茶店で昼食を取り、そのまま店内でお喋りをしながら、まったりとした時間を過ごしていた。
 話の内容は他愛のないようなことから、お互いの旅についてなど。
 アレナリアはミルキーウッドの樹液が採取出来る場所のことを、再度聞いて確認したりもしていた。

「アレナリアさん達、オリーブ国から来たんですか!? スッゴい遠いじゃないですか。帝国で冒険者の活動するために、わざわざ来たんですか?」

「そういう訳じゃないわ。一応、私達にも目的はあるのよ」

「目的ってなんです?」

「色々よ」

「えー、教えてくれないんですか?」

「やめなさいノース。何でもかんでも聞こうとしないの。あなたは少し遠慮というのを覚えなさい」

「ぶぅ~」

 ルクリアに注意されると、ノースは口を尖らせて不満そうな顔をする。
  このまま空気が悪くなってはと、ルクリアが話題を変える。

「そ、そういえばお二人共、色違いだけで同じコート着てるんですね」

「フギ国で買ったのよ。私とビワは店で売ってた物だけと、レラのはサイズがなかったから、ビワが作ったの」

「ビワは服を作れるくらい裁縫が得意なの! 頼んだらワタシの服を作ってくれない?」

「レラのは小さいから作れたんです。大きいのは難しいです」

「だったら、今回チャレンジしてみない?」

「図々しいわよノース! ごめんねビワさん」

「いえ」

「ちぇ。あ~あ、早くワイバーンの査定終わらないかなぁ」

「まだ買い取り金受け取ってないの?」

「時間が掛かると言われてたので、渡船での話をするときに受け取れるかと。ワイバーンの討伐した臨時報酬が貰えると聞いたんですが、それもまだなんですよ」

「ワイバーンの相場がどれ程のものか知らないけど、結構な額になるんじゃないの」

「確か以前にギルドで見た討伐報酬は、一体で金貨二十枚だったかと」

「素材の買い取り額と合わせたら、結構な額になるわね」

「くふふ。幾らになるか楽しみだなぁ~」

「報酬と買い取り金を受け取ったら、もっと良い装備を買うの?」

「そうですねえ……」

「ワタシはアレナリアさんが着てるようなコートが欲しいなぁ。杖を構えて裾がひらひら~って、カッコいいから」

 少し考えるルクリアと、既に買おうと決めている物があるノース。

「わたしはもう少しレベルが上がってからですかね。新しい装備にしても、使えるレベルに達していなければ意味がないですし。それとノースは見た目より性能を選びなさい」

「だったらワタシは、属性に合った水晶がはめ込まれた杖かな。それがあれば魔法の威力が上がって、ワイバーンをワタシ一人でも。そしてコートがなびいて……カッコいい」

 ノースの妄想話は聞かなかったものとして、アレナリアは手に余る装備についての注意をする。

「使いこなせなければ、その分必要な魔力も大幅に持ってかれるわよ」

「そうなの?」

「能天気なこと言ってないで、回復魔法の一つでも覚えなさい。どうせ戦闘は回復薬頼りなんでしょ」

「うん。その方が魔力を攻撃に使えるから」

「状況にもよるけど通常の地上戦なら、パーティーの魔法使いは後方からの援護と回復がメイン。回復魔法の初歩ヒーリングを使えるだけでも、後方支援としては十分に役に立つのよ」

「回復薬じゃ駄目なんですか?」

「駄目じゃないけど、回復薬は飲まないと効果が殆ど得られないでしょ。だけど回復魔法なら、離れた所からでも傷を回復させることが出来る」

「でもそれは、かなりの回復魔法の使い手じゃないと、出来ないですよね?」

「そうでもないわよ。私だって特別回復魔法が得意って訳でもないけど、渡船の甲板程度の広さなら、どこに居てもヒーリングを使えたわ。動き回ってる相手には難しいけど」

「……ワタシでも出来ますか?」

「きっと出来るわよ。だから先ずは、属性に合った回復魔法が使えるようになりなさい。それと魔力操作の制度を上げる訓練をすること」

「魔力操作? 今のままじゃ駄目なんですか」

「戦闘を見ててわかったけど、使用した魔力と魔法の威力が合ってないのよ。二割から三割くらい無駄に魔力を使ってるの。だからすぐにバテる。違う?」

「う……その通りです」

 アレナリアは的確にノースの欠点を突く。

「魔力操作の簡単な訓練だと、手に魔力を纏わせてそのまま維持する。ちょっとやってみるから、私の魔力を感じとりなさい」

 アレナリアは目の前で実際にやって見せる。

「纏わせる魔力は必ず一定量にすること。多くなったり少なくなっては駄目」

 試しにと、ノースは右手に集中して魔力を送る。
 しかし纏わせるどころか放出してしまい、留めることができない。

「だはぁ、無理」

「魔力が纏えるようになったら、最初の内は一回五分を目安にやる。慣れてきたら時間を少しずつ伸ばす。最終的に一時間も維持できれば合格ね」

「何かこつは? どうやって留めるかだけでも」

「一回やって駄目だからって、すぐに聞かない。先ずは自分で考えること。ルクリアもやるのよ」

「え、わたしもですか?」

「二人だけじゃないわ。タルヒとシシモラにも言っておきなさい。今より強くなりたければね」

「わ、わかりました」

「あ、そうそう。肝心なこと忘れるとこだったわ。二人は水属性か光属性の適性はないの? 初歩の回復魔法は、ヒーリングかキュアだから」

「ワタシは火属性が得意なので、水属性はちょっと。光属性なら一応あるけど」

「わたしは水と風の属性はありますが、魔法自体苦手で」

「適性があるなら回復魔法は覚えられそうね。ルクリアはこの訓練で細かな魔力操作が出来るようになれば、難なく魔法が使えるようになるわよ」

「やるだけやっみます」

「じゃあ今日はもう宿に戻って、訓練を始めてみたらどう」

「えー、せっかくの休みなのに。もうちょっと一緒にお喋りしましょうよ」

「……! 良いわよ。ただし、その間魔力操作の訓練をすること。はい、始め」

「え! (今からなんて)」

「ほらルクリアも」

「え、あ、はい(ノースのバカ)」

 アレナリア指導のもと、二人は魔力操作訓練に入った。

「あの…私もやった方が?」

 難しい顔をするノースとルクリアを見て、自分も一緒に魔力操作をやった方がいいかとアレナリアに聞くビワ。
 
「ビワは別にやらなくてもいいけど、せっかくだからちょっとやってみる?」

 アレナリアがビワの手を取り、魔力を纏わせる感覚を肌で感じさせる。
 その様子をノースとルクリアがじっと見ていた。

「こんな感じ。ゆっくりでいいから、少しずつやってみて」

「はい」

「あの、アレナリアさん」

「なに?」

「それ、ワタシとルクリアにもやってくれません?」

「魔力を使いなれてる二人にやったら、訓練にならないでしょ。あなた達は自分でやり方を考えて見つけるのよ。それも訓練」

「そんなぁ」

 ちらちらとビワを見るノース。

「ビワに聞いては駄目よ」

「あぅ……」

「そうそう、お喋りがしたいのよね。何を話そうかしら?」

「魔力操作をしながらは無理ぃ~」

辛辣しんらつですよ。アレナリアさん」

 こうして喫茶店での昼下がりのまったりとした時間が、厳しい魔力操作の訓練に変わった。
 ノースは力み過ぎで手が小刻みにプルプル震え、ルクリアは集中し過ぎてちょくちょく息を止めては、アレナリアに声を掛けられて思い出したように「ぷはぁ」と息を吐いては呼吸をしていた。


 そして魔力操作の訓練を始めてから三十分が経過すると、ノースは両手をだら~んとして天井を見上げ、ルクリアは虚ろな目で壁の一点を見つめていた。

「ア…アレナリアさん。無理、ワタシにはこれ無理」

「一定量の魔力を纏わせるのがこんなに大変なんて。わたしこれ本当に出来るの?」

「少しの訓練でそんなに疲弊したってことは、今までそれだけ大雑把に魔力を使ってたってことよ」

 これでも魔法使いの端くれ、一時間もすれば一定量の魔力を纏わせることくらい、と考えていたノースだったが、結果は見ての通り、魔力が残っていても手が痺れ神経が痛くなり、三十分も持たなかった。
 ルクリアは攻撃時に、矢に魔力を込めていたこともあり、もう少しで魔力を纏わせられそうなところまできていた。
 が、ノース同様手は痺れ神経をすり減らし、魔力操作の訓練は三十分しか持たなかった。

「戻ったらシシモラに魔力操作を教えてみなさい。あなた達より早く好い線までいくと思うわよ」

「シシモラが?」

「拳に魔力を込めての戦闘でしょ。一定量じゃなくても、魔力を纏って戦ってるってこと」

「あ!」

「そうか。シシモラは既に魔力操作がわたし達よりも出来てるんですね」

「あとはあなた達で考えてやってみなさい。もし寝る前にでも訓練しようとするなら、それこそ五分くらいにしなさい。今の状態で寝たら、襲われてもすぐに気付けないわよ」

「そうします」

「わかりました」

「じゃあ出ましょうか。いつまでもお店に居たら迷惑になるわ」

 ノースとルクリアの手の痺れが引くのを待ち、四人は小さな喫茶店を出て解散する。
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