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四章 異世界旅行編 3 セテロン国

384 大峡谷を越えた街

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「ふぅ……」

「お疲れアレナリア。随分彼らと親しくなったみたいじゃないか。三十分くらい話してたか?」

「質問ばかり。一応情報収集にもなるから話には付き合ってあげたけど」

 アレナリアはカズ達の所へと戻ると〝春風の芽吹き〟から聞いた内容を話した。

「そうか。ワイバーンの存在は知られてたけど、大峡谷のどこに生息してるかまでは明らかになってなかったのか。だから大船スカイクラウドあっちでも、あんなに慌てて対処してたのか」

 アレナリアは大きく背伸びして、肩や腰を回して身体をほぐすと、手に持つ杖をじっと見た。

「……なまってるわ。カズに任せっきりなのがいけないのね」

「その割にはあの四人…〝春風の芽吹き〟だっけ? うまく指示を出してたように見えたけど」

「気を使ってくれてありがとう。でも、全然よ。周りを見てわかるでしょ」

 甲板には幾つもの凹みがあり、帆は所々小さな穴が空いていた。
 全てワイバーンの攻撃でついた傷だ。

「これからは絡んでくる冒険者馬鹿だけじゃなくて、モンスターも相手にしないと駄目ね」

「別にあの四人と一緒に戦わなくても、アレナリア一人ならもっと早く倒せたんじゃないの? って言うかカズドカンと一発ぶち当ててくれれば、あちしはスカッと出来たんだけど」

「アレナリアがやる気になったんだから、任せたまでだ」

「あの四人を見てたら、ポピーやワットやボルタのことを思い出してね。ちょっと指導してあげたくなっちゃったのよ。それよりレラ、元気が出たみたいで良かったじゃない」

「いつまで沈んでても、ホースが戻ってくるわけじゃないしね。やっぱりあちしは元気でいないと!」

「だな」
 
「ってことで今日の夕食は、お腹いっぱいになるまで食べるから。あ、あと久し振りにプリンが食べたい。でっかいのを」

「プリン! それは良いわね。カズ、私も」

「で…では私も」

「レラが元気になったのと、アレナリアがワイバーンを討伐したご褒美に作ってやりたいが」

「が? 作ってくれないの?」

「食材が無い。特に新鮮な生卵が手に入らなければ作れん」

「ええー!」

「ええー!」

「ぇぇ!」

 ビワだけ小声だったが、三人揃ってガーンという表情をした。

「そんな顔しなくても、街に着いたら探してみるから。まあ、生卵だけじゃなくて他の食材も殆ど無いんだけど」

「なら船が着いたら、すぐに探しに行こう!」

「今日の宿屋を探すのが先決」

「なんでプリン優先でしょ! あ~あ。あちしまた元気がなくなってきた……」

「街に着く頃にはもう暗くなってるんだ。とりあえず宿屋を見つけて、買い出しは明日以降でいいだろ。甘いお菓子が売ってたら買ってやるから」

「なら良し。プリンはそれまでのつなぎだから」

 レラのプリン食べたい欲求を、お菓子を買う約束をしたことでなんとか我慢させた。
 レラは明るくはしているが、少しから元気なのはカズ達は気付いていた。
 ただ、今はホースの話題は控え、いつものように接して見守ることにした。


 そしてワイバーンの討伐から五時間後、予定より大幅に遅れ渡船は大峡谷を渡り、目的地の港に着いた。
 乗り場には同じ服装をした二人組が、近づく渡船をじっと見ていた。
 渡船が停泊して〝春風の芽吹き〟が渡船を降りると、同じ服装をした二人組が近づきく。
 タルヒは相手が冒険者ギルドの職員だとすぐに分かり、パーティーを代表して二人のギルド職員と話をする。
 五分程で話を終えたタルヒは、ギルド職員二人と共に、渡船を降りたカズ達の所に。
 ワイバーンと戦闘したアレナリアにも話を聞きたいから、後日冒険者ギルドで〝春風の芽吹き〟と共に話を聞かせて欲しいと、二人のギルド職員が言ってきた。
 一部始終を見てワイバーンと戦ったのだから仕方ないと、アレナリアはギルド職員二人の話を承諾した。
 職員の一人から冒険者ギルドの場所を教えられ、すぐ連絡が取れるようにと、職員からギルド近くの宿屋を紹介された。
 ギルドの計らいで、宿代が安くなるすると言うから断る理由はない。
 宿屋を探す手間も省けると、アレナリアは二つ返事でそれを受けた。
 帝国への入国手続きもギルドで行ってくれると言うから好都合だった。

 ちなみにセテロンへの入国手続きは、湖を渡ったカキ街で寄った冒険者ギルドで、報酬を貰いながら一応はしてあった。
 というかしてくれてあった。
 それをしてくれたのは、受付の女性職員だが、その事をカズ達は知らない。
 女性職員は自分の仕事をしただけて、特に感謝されるようなことはしてない。
 カズがセテロンの入国手続きがされてることに気付いたのは、渡船の乗船券を買う際に、ギルドカードを提示した時だった。
 カズが幸の薄そうな顔に見えたのか、販売員の女性が身分証の提示を求めてきたので、断って揉め事を起こすのも嫌だったので、カズは言う通りにした。

 ワイバーンはギルドが引き取りが来ることになり、渡船の甲板に置いたまま。
 渡船も船体や帆の修理が必要なため、少なくとも十日は運用が出来なくなった。
 離れた所に停泊する大船スカイクラウドにも、ワイバーンの攻撃を受けた傷があり、乗客は既に全員下船して誰もいなかった。
 ただ渡船の船員と甲板で一部始終を見ていた乗客は、ワイバーンを押し付けられたと怒っていた。
 実際にカズ達が同乗していなければ、渡船はワイバーンに沈められていた可能性は非常に大きい。


 ◇◆◇◆◇


 岩の迷路に荒野、さらに雪山を抜け林を迂回すると、そこにはとんでもなく巨大な大峡谷に現れ、そこを空中に浮かぶ船で渡り、更にはワイバーンに狙われる始末。
 セテロンの宿屋では、夜盗に狙われる可能性があると疲れが完全に抜けなかった。
 だが今回は、冒険者ギルド職員の紹介した宿屋ということで、少しは安心して休めた。
 それでもビワはメイドをしてた時の習慣から、朝早くに目を覚ましてしまう。
 食材を買いに行く必要があったため、朝食は街の飲食店で済ませるつもりだったので、ビワが朝食の支度をする必要はなかった。
 カズもビワのすぐ後に起きると、アイテムボックスにある残りの食材を確認する。
 旅の疲れが溜まっているのだろうと、アレナリアとレラが自分から起きるまで待つことにした。

 久し振りの戦闘でなまった身体を動かし疲れが出たのか、アレナリアが目を覚ましたのは一番最後。
 起こされなければ、昼まで寝てようとするレラよりも遅かった。

「あれ、私が最後?」

「アレナリアの寝坊助」

「レラだって五分くらい前に起きたばっかりでしょ」

「あたしは良いの。いつものことだから」

「威張ることかよ」

「今、何時頃なの?」

「もうすぐ昼だよ」

「そんなに寝ちゃったの!」

「昨日の事で疲れてるか、起きるまで寝させといてあげようって、カズさんが」

「そうなの? ありがとう」

「アレナリアも起きたしさぁ、ご飯食べて買い物行こう。プリンの材料探しに」

「覚えてたか」

「覚えてるもん! プリンプリンプリン」

「わかったから騒ぐな」

「ギルドから連絡は?」

「今のところない。来たら宿の人に言伝してくだろ」

「そうね。じゃあ行きましょうか。私もお腹空いたわ」

「行こう行こう!」

 アレナリアはレラに〈イリュージョン〉を掛け、小人の姿に見えるようにして、四人は食事と買い物をするため宿屋を出た。


 大峡谷を越えて最初に入ったの街の名は『セカンド・キャニオン』帝国側の大峡谷沿いに造られた二番目の街。
 ここから北上すれば『サード・キャニオン』という名の街があり、南下すれば『フォース・キャニオン』という名の街がある。
 セカンドキャニオンはセテロン国の主要な街道から来れる街で、他の二つの街と比べると人口も多く街も大きい。

 街の中で簡単な作りの露店での商売は、街の許可を取れば誰でも出来た。
 街の広場や商店の邪魔にならない場所には、数多くの手作り露店や貸し露店が並んでいた。
 露店を作ったり借りたりする余裕がない者は、道端に布を広げて、そこに商品を並べて商売をしていた。

 カズ達は昼食を済ませたあと、街をぶらつきながら食材と甘いお菓子を探していた。
 物価はセテロンに比べれば安いが、場所柄野菜や果物といった青果物の入りが少なく、魚などの魚介類は全くていいほど入らない。
 街の周囲には獣やモンスターが多く生息しているため、肉に関しては困ることなく、売っている食材は小麦から作られるパンやクッキー、他には獣やモンスターの様々な種類の肉。

 目的の新鮮な生卵や牛乳は見つからず、売っていたクッキーは塩味で少ししょっぱく、レラは食べたがらなかった。
 ただ日持ちがして塩分がとれるという理由から、肉体労働の仕事をしている者や冒険者には人気らしい。
 砂糖は売っているが、こんな辺境な街では通常の数倍の値段がした。
 甘味は長期の運搬でも大丈夫な、ハチミツが使われていた。
 クッキーにもハチミツが加えられてるのもあったが、基本は塩味だったので、やはりレラは食べようとしなかった。
 うす塩味のクッキーは意外と良く、カズがむしゃむしゃと食べていると、アレナリアとレラが頬を膨らませていので、小麦とハチミツを購入してクッキーを作るからと言ってなだめた。
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