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四章 異世界旅行編 3 セテロン国

377 荒野を抜け山間部の抜け道へ

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 獣人二人が引く馬の後ろをカズ達の馬車が付いて行き、一行は街へと入る。
 穴の空いた外壁を見て予想していた通り、街の建物にもヒビが入ったり崩れたりと、かなりのボロボロだ。
 商店もあるにはあるが、品物は少なく値段が高い。
 住人らしき人影は建物の中にちらほらあるも、お互いに干渉しないようにしているように見えた。
 
「二人が言ってたわよね、この街の領主に使える私兵だって言って。あれって」

「アレナリアの考えてる通り嘘だった。前の村で俺達の情報を得て、騙せると思って領主の兵士だって名乗ったんだろ。最初っから街の直前で襲って来る気でいたなら、領主が居ようが居まいが、関係ないと思ったんだろ。街に入れなければ確認出来ないんだから」

「村から徴収したお金と、カズから貰ったので満足すればよかったのに」 

「二人のステータスを見たら『奴隷使いの小悪党』だって」

「小悪党が悪党と組んだ結果が、一人は火傷を負い重症。もう一人は組んだ相手に殺される」

「セテロンではこれが当たり前なのかも知れないな」

「嫌な国ね」

「少なくともセテロンを出るまでは、常に四人一緒の行動を心掛けよう」

 アレナリア、レラ、ビワの三人も、その意見には心から同意した。

 そしてこれから行く奴隷商を見て、ビワに発作のようなことが起きないかカズは心配する。
 一応、奴隷商に行くことは三人に伝えてある。
 本当なら奴隷の獣人二人に任せればよかったが、情報を得る機会でもあったので行くことにした。

 そして荒れた街の道を、獣人二人が引く馬に付いて街の南に移動する。
 通りの外観は変わり、周囲には目付きの悪い男や、建物の前には服を着崩し肩や足を露出する女性がちらほらと。
 娼館のある通りを抜けると、サーカステントのような建物があり、そこが目的の奴隷商だった。

 入口には首に枷をはめた護衛の奴隷二人が、仁王立ちしていた。
 犬の獣人奴隷が入口の護衛をする奴隷に、ビクビクしながらも話をすると、テントの入口を開け中に入るよう顎をしゃくる。
 二頭の馬に続き、カズも馬車を進めテントの中に入る。
 中には様々な大きさの檻が置いてあり、見える場所には戦闘能力に長けた奴隷や、運搬に長けた力のある獣人奴隷が入れられていた。
 周りの檻を見ていると、奥から服装を整えた恰幅かっぷくのよい男が出てきた。

「ようこそ我が奴隷商へ。ん? お前達は以前に売った獣人じゃないか。おんやぁ? 所有者がいないようだが、寝込みにでも殺ったのか?」

「そんなことはしてない」

「まあ、そんなことはどうでもいいが、馬に乗せてる連中はなんだ? あと後ろの馬車は?」

 奴隷商の男が荷物のように馬に乗せられた五人と、カズ達が乗る馬車を見て獣人二人に質問する。
 獣人二人はオドオドしながら、カズとの間で決めたことを奴隷商の男に話した。

「なるほど。値がつくのはそっちの奴隷三人と馬だな。一人は火傷で治療しなければ役に立たない。もう一人は……意識が戻らなければよくわからないね。だが、この短剣は言い値が付きそうだ」

「それで、どれくらいになるんだ?」 

 ウサギの獣人が金額を奴隷商に聞く。

「待てよ。おれ達は奴隷だ。最終の決定権はカズあの人にあるんだ」

「わかってる。聞いただけだ」

「そうでした。ではそちらの方に決めてもらいましょう」

 奴隷商の男が買い取り値を伝えると、それを聞いたカズは金額を獣人の二人に話し、それぞれどうするかを聞く。
 犬獣人は奴隷の枷を外し、自分の里に戻ると言う。
 ウサギの獣人は元盗賊の奴隷を自分の所有として、人の多い街に出て二人を使い稼ぐと、意見が別れた。
 それを聞きカズは奴隷商の男と話をする。
 その結果、獣人二人は所有者が死んでしまった事で、奴隷から解放されることになった。
 通常この場合は、所有者がカズに変更されるのだが、そのカズが奴隷の所有権を放棄したため、獣人二人の枷は外され自由になった。
 セテロンでなくても、こういった事は異例であったため、奴隷商の男はカズを見て驚きの表情をしていた。
 慣れたもので、カズは特になんとも思わなかった。

 最終的に左腕に傷のある男と持っていた赤い水晶が付いた短剣と、火傷を負った男とその奴隷の三人が奴隷商に売られることになった。
 馬はそれぞれ獣人二人がもらい、元盗賊奴隷二人をウサギの獣人が自分の所有にした。
 三人と赤い水晶の付いた短剣を売ったお金は、三対七で犬の獣人が多く貰うことで話がついた。
 これが街に入る前にカズが提案したこと。
 できるだけ人里を通らずにセテロンを抜けて帝国に入る道を教える代わりに、五人と持っていた物と馬を奴隷商で売るなりして、獣人二人のものにして構わないと。
 その結果ウサギの獣人は枷を外し馬と奴隷二人を手入れ、犬の獣人は馬と里へ戻るお金を手に入れた。

 一通りのやり取りを終えると、カズは奴隷商の男と少し話をしてから馬車に乗りテントを出た。
 話中に奴隷商の男に何人か奴隷を進められたが、カズは見ずに全て断った。
 もしそれで憐れだと思ってしまう奴隷を見つけてしまったらと思うと、買って手を出してしまいそうだからだった。 
 奴隷商のテントを出たカズは、二人の獣人と別れ馬車を街の外に向けて走らせた。
 理由は街の中より、外の方が安全だと考えたからだった。

 ちなみに苦労して水路を作り引かれた川は、街のゴミ捨て場にされ汚くなっていた。
 二人の男が領主の兵士だと名乗ったことを考えると、かつて領主が居たことは本当だったのだろう。
 街が荒れ水路の整備がされなくなってから年数が経っていたのを見ると、その領主が街の統治を放棄したか、あるいは今回の連中のような者に襲われ殺されたか。
 後者の場合は国が動き大事になることを考えると、前者の可能性が高いだろう。
 などと推測したところで何が変わるわけでもないので、カズは考えるのをやめた。

 馬車は暗くなる前に街を離れ、前日同様荒野で野宿。
 この日色々とあり疲れた四人は、軽く夕食を済まるせ、早々と横になった。
 深夜街から数人の男達がやって来たが、アラーム圏内に入ったことでカズが起き、狙ってきた全員を背後から気絶させ、縛り上げて放置した。


 ◇◆◇◆◇


 朝になるとカズは先ずホースの状態を確認をする。
 前日移動が少なかったこともあり、疲労はしていなかった。
 向かうは南東にあると言う山あいの道を通り、セテロンの首都から遠ざかり帝国を目指す道。
 深夜に狙ってきた連中はまだ気絶していた。
 起きて騒がしくなる前に、馬車を走らせ街から離れる。
 この日の予定は、今居る所から遠くに見える山までの、中間辺りまで移動できれば良いとカズは考えていた。

 曇天の中をホースの調子を見ながら、馬車はゆっくりと荒野を進む。
 ホースの負担を減らすため、馬車を引かせる際にはカズが常にアンチグラヴィティを掛け、馬車を軽くしていた。
 ただあまりにも軽くし過ぎると、荒野に吹く強い風の影響を受けてしまうため、四人が乗った状態の馬車の重さを、半分程度になるよう調整した。
 予定程の距離は進まず、山あいの道に入るまで三、四日は掛かると思われた。
 ホースの負担になるよりはと、その日の移動距離はホースの調子に合わせた。


 街から移動すること五日、数百メートル程度の低い山の間を縫うように、勾配の小さい道を馬車は進む。
 荒野を移動していたときよりも気温低く、日が当たらない所では凍結し車輪が滑る危険があった。
 道のすぐ脇は数十メートル落ちる斜面になっているため、道選びも慎重になる。

「この道の先ってどうなってるの? 雪も降ってきたし、あちし少し不安なんだけど」

「確かこの山間部を抜けると、低い木ばかりの林だとか言ってたな。林を避ける道があるって聞いてるけど」

「またトレントが生息してたりしないよね」

「そんなことは言ってなかったから、大丈夫だと思うわよ。それにこの寒さじゃ生息したとしても、活発には動けないわよ」

「ならいいけど」

「ただ気掛かりなのは、帝国に入るには一度街に入ってからでないと行けないと言ってたわね」

「まあ、行ってみれば分かる。道も下って来てるし、明日にはここを抜けられるだろう」

 勾配も上りから下りに変わり、進行方向の山が低くなってきてるように見えた。
 山あいに居ると日が陰るのが早く、一日の移動が道の具合もあり、荒野を進んでいるときよりずっと短い。
 さすがに雪が降り地面が凍る場所での野宿は辛く、山間部を移動中は暗くなる前に土魔法で壁と屋根を作り、大きく馬車ごと囲み一夜を過ごした。
 中で焚き火をすればかなり暖かくなり、外に出れるようの穴は作ってあるので換気も十分、これで全員寒さの心配をせずに安心して休める。
 人目がない所での野宿は、こうするのが定番となった。

 その夜カズは胸騒ぎをおぼえた。
 それはビワも同様で、中々寝付けなくていた。
 しかしそれが何かは、ハッキリとは分からなかった。
 翌日には山間部を抜け、林に出るという場所でのことだった。
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