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四章 異世界旅行編 3 セテロン国

376 ギリギリの攻撃

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 左腕に傷のある男は、獣人奴隷の所有者の男に胸ぐらを掴まれ何やら揉み合っていた。

「お前どういうつもりかって聞いてんだぞ!」

「ちょっと待てや! オレにも」

「久々の獲物だから声を掛けてやったのによお!」

「だから、わからねぇんだって言ってんだろが!」

「ッが! な…何しやがる……」

 話を聞かない男に腹が立ち、左腕に傷のある男は持っていた短剣で、ぐさりと男の腹部を刺した。

「ったくよォ。テメェら二人がオレより格下だって気付けバカが! もういい、テメェらの奴隷はオレが貰っといてやる」

 刺された腹部を押え中腰になっている男の背中に短剣を突き刺すと、左腕に傷ある男は短剣の赤い水晶に付与された〈ファイヤーボール〉を使用した。
 短剣を引き抜くと刺した部分から火が全身に広がり、刺された男は痛さと熱さでのた打ち回り、暫くすると動かなくなった。
 火傷を負い気絶する一人の男にも、とどめを刺そうと歩き出すと、カズが左腕に傷のある男の所に着いた。

「おいテメェ、さっきは何しやがった? テメェのスキルか? それとも最新のアイテムでも持ってやがるのか!」

「危害を加えてくる相手に、教えることなんてない」

「いい度胸じゃねぇか。さっきはわからなかったが、こうして目の前にいるんだ。スキルなら使う前にぶっ殺す。アイテムならオレ奪ってぶっ殺す」

「元盗賊の奴隷の持ち主だけにのことはあるか。仲間を信用出来ずに、奴隷を使っての盗賊行為か」

「オレの奴隷が元盗賊だとなんで知ってやがる? あいつらが喋りやがったのか」

「そっちの二人は仲間じゃないのか?」

「仲間だぁ? オレは一人だ。奴らはたまにつるむだけの連中だ。こんな国にいるんだ、信用出来る仲間なんて作れるか」

「俺は話さないと言ったのに、そっちは質問に対して、よく話してくれるな」

「別にどおってことねぇ。死ぬ相手に話してるんだ。さて、どんな獲物が手に入るか《スティール》」

 左腕に傷のある男がカズに手を向けて、自身が持つスキルを使用する。

「これでテメェが何を隠し持ってても……何も盗れてねぇ?」

「盗みのスキルか。そういったスキルは、レベルが上の相手には、成功率が低いんじゃないのか?」

「オレのレベルは52だぞ! テメェなんかより高いはずだ」

「俺がさっき使ったのも、同じ様なことだとしたら」

 左腕に傷ある男は考え、今までに起きた事を思い返す。

「だとしたら、テメェはオレよりレベルが高いことになるだろ。オレの奴隷二人を倒したなら、40後半はあると見るが、オレより高いはずがない」

「好きなように考えればいい」

 現実を直視出来ない左腕に傷ある男は、息を大きく吸うと続けて大きく息を吐き、それを数回繰り返した。
 一旦落ち着きを取り戻すと、赤い水晶がはまっている短剣をカズに向けて中腰に構える。
 鋭い目付きをカズに向け、殺意をむき出しにする。

「苦しみたくなければ、すぐに殺されることだ。このスキルは、オレ自身で制御ができねぇからな。余程の事がなければ使わねえスキルだ《バーサーカー》」

 スキルを発動させると、全身が少しずつ赤くなり始める。
 筋肉が膨れ上がると、カズ向かって突進する。
 接近すると短剣を振り回しては殴り蹴ると、動きはむちゃくちゃ。
 更には短剣の赤い水晶に付与されたファイヤーボール魔法を連発。
 馬車を狙った時よりも大きい火の玉は、四方八方への放たれ地面をえぐり、倒れ気絶している奴隷にもお構い無しに飛んで行く。
 命中精度は低いものの、火の玉が大きく威力が上がっているため、倒れていた四人に直撃すれば間違いなく黒焦げになる。

 カズは間合いを取りながら、倒れている奴隷三人と、火傷して倒れている男を一ヶ所に集めた。
 攻撃が当たらないことにイラつく狂暴化した男が、短剣の赤い水晶に魔力を溜めながら、カズに向かって全速力で接近する。
 数メートルの距離まで間合いを詰めた狂暴化した男は、短剣を突き出し溜め込んだ魔力で、今までで一番威力のある〈ファイヤーボール〉を放った。
 一ヶ所に集めた四人を、一度に焼き尽くすほどの火の玉が、カズの目前に迫る。
 避ければカズの後方で倒れている四人が確実に焼け死ぬ。
 カズは片手を迫る大きな火の玉に向けて、ウォータージェットの強化版にあたる〈ウォーターバースト〉で、大きな火の玉もろとも狂暴化した男を、大量の水で飲み込み数百メートル押し流した。
 例えるなら鉄砲水のようなものだ。

「しまった、やり過ぎたか」

 バーサーカースキルの副作用と魔力切れが相まって、狂暴化した男は意識を失う。
 カズは急ぎ押し流した男の確認に向かった。
 押し流され倒れている男が、まったく動かないのを見たカズは不安になり、急ぎ確認する。

「おい、生きてるか?」

「……」

 倒れている男に近づくと、弱いが確かに呼吸はしていた。

「気を失ってるだけか。骨は折れてなさそうだな(ギリギリだったか。もう少し威力を上げてたら……)」

 ほっとするカズは一度馬車に戻る。
 馬車のすぐ側には、食事を分け与えた獣人奴隷の姿があった。
  カズはアレナリア達と獣人奴隷二人に現在の状態と、気を失っている五人をどうするかについて話す。

 獣人奴隷の話によれば、街の奴隷商に連れて行けば、火傷を負った男とカズに倒された男を奴隷に出来るとのことだった。
 その際にその二人が所持していた奴隷も、自分の奴隷に出来ると。

「奴隷を持つ気はない。しかもあんな連中を」

 カズの意見に、女性三人も頷き同意する。

「だったら奴隷商に買い取ってもらえばいい。あの状態を見ると、安く買い叩かれると思うけど」

「襲って来たんだから、国の兵士に渡せてば良いんじゃない?」

「そうそう。あちしもそう思う」

 アレナリアの意見にレラも同意。

「盗賊として突き出しても、せいぜい数日牢に入れられるだけ。金を渡せば一日で出てくる。貴族や国に被害が出なければ別だけど、そういった連中に手を出すことはまずない」

「あれ、そういえばさぁ、二人ってどっちの奴隷なの?」

 レラが獣人の二人に、馬で来た二人の内のどちらが自分達の所有者か聞いた。

「聞かせてもらった内容からすると、殺された方だと思う」

「その場合あんた達はどうなるの? 自由?」

これがあるから、自由にはなれない。なんならあんたがおれ達の所有者に…」

「言ったろ。奴隷を持つ気はないって」

「そう…か。あんたの奴隷なら、まともに扱ってくれると思ったんだが」

 今度は誰の奴隷になるのか不安がる獣人二人に、カズは提案をした。
 話を聞いた獣人二人は、驚きの表情をして、聞き違いじゃないかと何度もカズに聞き返した。
 断る理由がない獣人二人は、カズの提案を喜んで受け入れた。
 話が決まると、男達が乗っていた二頭の馬に、気絶している五人を乗せて、獣人二人にすぐそこの街まで引かせた。
 一頭の馬には元盗賊の二人と、その所有者である左腕に傷のある男。
 もう一頭の馬には、火傷を負った男とその奴隷を乗せた。
 獣人奴隷二人の所有者は、左腕に傷のある男に燃やされてしまっていたので、死体はそのまま放置していくことになった。
 埋めるくらいは出来たが、獣人二人の意向でそうした。
 そうすることで、少なからず仕返しになると思ったのだろう。
 ちなみに火傷を負った男が乗って来た馬も少し火傷をしていたので、それはカズが回復薬を掛けて治した。
 二頭の馬が言うこと聞いたのは、カズが火傷を治して話をしたからだ。

 馬車を移動させ街に行く前に、ビワの状態を確めた。
 馬車の中でアレナリアとレラが一緒に居たこともあり、特に異常は見られなかったが、これから荒れていそうな街に入るので、より一層気を付けるようにと三人に言った。
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